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第百二十七話 会社訪問の朝

トモ視点です

 七月六日。土曜日。

 デジタルプラネット訪問の日が土曜日というのも『運気上昇』のおかげかもしれない。

 おかげで晃は学校をわざわざ休むことなくこの作戦に参加できた。


 一昨日急遽デジタルプラネットへの訪問が決まり、俺と晃の同行が決まった。

『むこう』で三年ちょい修行して成長したせいで、昔着ていたスーツが合わなくなっていた。

 晃とふたり大急ぎで大学生が着るようなスーツを量販店に買いに行った。


 そうして迎えた今日。

 いつもより少し早めの朝食をいただき、支度をする。

 安い紺色のスーツにネクタイ。認識阻害の眼鏡と腕時計。竹さんの念珠は見えないように腕時計の奥へ。

 ザッと髪を撫でつけてリビングに向かうと、彼女はすでに支度を済ませて待っていた。


 今日は黒のボトムス。薄手の黒のハイネックTシャツの上にグレーのロング丈のノースリーブパーカーを合わせている。


「潜入捜査よ!」と面白がった母親達が選んだのが黒のボトムスとハイネックTシャツだった。

 が、それだと彼女の大きな胸が強調されていたので俺が却下した。


 いつもスタイルのわからないようなダブッとした服が多いのに、なんで今回に限ってこんな服用意した!?

「スパイっぽいかと思って」


 阿呆か。

 ナニを参考にしたんだ。


 母親達が用意している服の中から厚手のロングパーカーを見つけ、着せた。

 うむ。これならまだ胸が目立たない。


 それに黒のキャスケット帽。

 長い髪はまとめて帽子の中に入れている。


「おまたせ」と声をかけるとふんわりと微笑む愛しいひと。

 ああもう! かわいいが過ぎる!


 と、彼女の頬が赤くなっていった。

 なにかを言おうとしているのか口を開けては閉める。

 そしてそっと視線をそらせた。


「………竹さん?」

 呼びかけるとビクリとする。

 これはまたなにか余計なことを考えているな。


「なに? どうかした?」

 なるべくやさしく聞こえるように気をつけて声をかけるも、彼女は固まったように動かない。

 ムッとしてそのかわいい頬に手を伸ばそうとしたら、テーブルの上の黒陽から声がかかった。


「お前に見惚れているだけだ。放っておいてくれ」

「!! ――もお! 黒陽!」


 バッと顔を上げた愛しいひとは赤い顔で守り役に噛みついている。

「なんですぐにいっちゃうの!?」

「守り役ですから」

「だからって、そんな! ――もお!!」

 プンプン怒るのかわいい。違う。そうじゃない。


 ――見惚れた? 俺に?

 ホントに!?


「――あの、」

 俺の呼びかけにビクリと跳ねるかわいいひと。

 ソロリと向けた顔はやはり赤い。


「――どう、かな?」

 ネクタイをキュッと締めながら主語のない問いかけをすると、彼女はさらに赤くなった!

 右へ、左へと視線を彷徨(さまよ)わせ、最終的にうつむいてぶすぅっとふてくされたような顔をした。


「……………すごく、カッコいい、です」

「―――!!」


 そんな! 安っすいスーツなのに!

 そんなに『カッコいい』って思ってくれるの!? もう俺毎日スーツ着る!!


「髪型がいつもと違って大人っぽいだろう。

 それに眼鏡もかけているし」

「黒陽!!」


 そうか!! 髪型と眼鏡か!

 確かにいつもと違うからな!!


「こっちのほうがいい?」


 それならずっと眼鏡かけるぞ!

 少しでも彼女に好感を持ってもらいたい!

 眼鏡をちょっと上げて欲望まみれでたずねると、彼女はまたも息を飲み、視線を彷徨わせた。


「あまり刺激しないでやってくれ」

「こ、こ、黒陽ー!!」


「もお! 黙って!!」と涙目で亀を追いかけるのかわいすぎ!!

 そんなに俺のことカッコいいって思ってくれたの!? もう俺ずっと眼鏡かける!


 喜びに震えていると、彼女がはたと止まった。

 うかがうように俺を見上げ、もじもじとする。かわいい。かわいいが過ぎる。抱きしめていいかな?


「……………その、………いつものトモさんも……………カッコいい、です」

「―――!!」


 ―――かわいすぎる! 愛おしすぎる!!

 もう! もう! このひとは!!


「―――ありがと」

 赤くなる顔にどうにか呼吸を整えそう返事をすると、彼女はふてくされたような顔のままちいさくうなずいた。


 かわいすぎる。

 そんなに俺のことカッコいいって思ってくれるの!? そんなに俺のこと好きなの!? 俺も大好きだ!!


 そうだ。彼女も褒めなければ。

 ボーイッシュな服装はいつものふんわりとした可愛らしい服装とは違うけれど、これはこれで似合ってる。

 いつもと違うのもかわいいって俺も思ってたんだから。


「竹さんもかわいいよ」

 本心からの言葉だったのに、彼女はますます赤くなり、ついには顔を両手で隠してしまった。


 めちゃめちゃかわいい。

 俺のこと殺す気かな?

 さっきからキュンキュンしっぱなしで心臓が保ちそうにないんだが。


 そんな俺達に黒陽が呆れたようにため息を落とした。


「そろそろ行かないとマズいのではないか?」

 その声にようやく俺の愛しいひとは顔を上げた。

 まだ頬が赤く染まっているが、グッと口を引き結び、コクリとうなずいた。


 決意を秘めたような態度がかわいらしい。

『俺が守らなくては!』と改めて思わされる。


 と、彼女が凛々しい表情のまま俺を見上げた。


「トモさん」

「ん?」

「守護の術、かけていい?」


 いつも黙ってかけてくれてるのに?

 どうした?


 よくわからないが「もちろん」「お願い」と答える。

 いつものように無詠唱でかけるのかと思っていたら。


 ぎゅうっ。


 彼女が!

 抱きついてきた!!

 なんだコレ! しあわせか!?


 思わず抱きしめるとさらにぎゅうぎゅうと抱きつく愛しいひと。

 くっそかわいい! もう、しあわせ!!


 と、ふわりと彼女の霊力が俺を包んだのがわかった。

 なにかの術が展開され、俺に付与されたのも。


「トモさんを、このひとを、護れますように」

「一切の災いから護れますように」


 ぎゅうっと抱きついて言祝(ことほ)ぎを贈ってくれる。

 その様子に、理解した。


 いつもお守りだなんだと作るときに、彼女は必ず最後に術を付与した霊玉を握りしめて額に当て、祈りを込める。

 それをやってくれたらしい。

 握りしめるように抱きついて、俺に祈りを込めてくれたようだ。


 必死に、ぎゅうぎゅうと抱きついて俺の無事を祈ってくれているのがうれしくて愛おしくて、俺も彼女を抱きしめた。


「――ありがと」

「うん」

「大丈夫だよ。俺ひとりで行くわけじゃないんだから。

 守り役みんな同行するし、竹さんも一緒に行くだろ?」

「―――うん」


 それでも心配なんだと、抱きつく腕から伝わってきた。

 それが『俺は弱い』と思ってのことではないことを、今の俺は知っている。

 俺のことが好きで、ただただ心配なんだということを知っている。


 ああ。俺、愛されてる!


 そう実感して、胸がいっぱいになった!

 しあわせで、満たされて。

 今ならなんでもできそう。

 彼女のために、どんなことでもできそう。


 抱き合っているだけでひとつに戻る感覚。

 霊力がふたりの間で循環しているのがわかる。

 彼女の霊力が、想いが、俺のナカに蓄積されていく。

 強くなる。


「好きだよ」

 ポロリと言葉がこぼれた。


「大好き」

 そっとこめかみにキスすると、彼女はちいさく跳ねた。


 ため息をついた守り役が「先に行く」と転移した。気を遣ってくれたらしい。ありがとう。


 そろりと身体を離し俺を見上げる彼女。

 かわいい。愛おしい。大好き。守りたい。

 目を伏せ、そっと顔を近づけると、俺がナニをシようとしているのか理解したらしい彼女もそっと目を伏せ、唇を差し出してくれた。


 吸い込まれるように唇を重ねる。

 そっと触れるだけの口付け。

 それだけでもしあわせで、満たされる。


 彼女の唇のやわらかさ。そのぬくもり。

 (かたく)なな彼女が俺には(ゆだ)ねてくれる(よろこ)び。


 愛おしい。守りたい。

 このひとと共に、ずっといたい。


 愛してる。俺の『半身』。俺の唯一。

 彼女のためならば、どんなことでもやる!


 互いに抱き合い、ただ唇を重ねた。

 ちゅ、とリップ音を立ててそっと離れたら、彼女はとろんとした目をしていた。


 やめて! 邪念が出る!!


 爆発しそうな愛おしさと欲望を、彼女を抱きしめることでどうにか落ち着ける。

 ここでやらかしたら殺される。あの亀はやる。間違いない。


「――好きだよ」

「大好き」


 それでもあふれる想いは言葉になってこぼれ出る。

 彼女は俺にもたれて「うん」と答えてくれた。


「がんばろうね」

 続けてそうささやいたら、俺の腕のなかの愛しいひとはさらに強く抱きついてきた。

 そのまま「うん!」とうなずくその様子がかわいくて愛おしくて、さらにぎゅうぎゅうと抱きしめた。



 愛おしい、俺の『半身』。俺の唯一。

 絶対に守る。絶対に死なせない。

 決意を新たに、強く強く祈りを込めた。

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