久木陽奈の暗躍 53 作戦会議 1
いつもより短めです
「いつ行けるんですか?」
「明後日。七月六日」
それならバージョンアップの七月十七日まで十日の余裕がある。
明後日の会社訪問で保志氏が『宿主』と確定できたら、その近くに『災禍』は『いる』と考えられる。
最有力候補はあの社長室兼自宅。
強力な結界に護られたフロアのどこか。
もちろん見当違いという可能性もあるけれど、六階に行くことができればそれもはっきりする。
まずは保志 叶多氏に会うこと。
会って、彼が『災禍』の『宿主』かどうかの判断をすること。
うまくいけば『災禍』の居場所も特定できるかもしれない。
そうすればそこを目がけて攻めればいい。
南の姫を覚醒させ、竹さんとともに攻め入ってもらい、斬ってもらう。
そうすれば、十七日までに『災禍』を滅することができれば、晃が戦いに赴くことはなくなる。『死ぬかも』なんて心配、しなくてよくなる!
「私、行きます」
すぐに名乗り出た。
「私にもリクエストが来てるんですよね。
私が行きます。
それで、今度こそ社長のところに行きます!」
「ひなが行くならおれも行く」
すぐさま続く晃に目を向けると、私の最愛はにっこりと微笑んだ。
「隠形取って行けばいいでしょ?」
《前回もそうしたんだし》
思念でも伝えてくる。
それもそうだと納得して、うなずいた。
そんな私に晃はうれしそうに微笑んだ。
その笑顔に励まされ、キッとタカさんに顔を向けた。
「また前川くんに頼んで、私と晃で行きます。
今度こそ、社長のところに行きます!
そのための『強運』を、私達は持っています!」
息巻く私にすぐさま緋炎様が「私達も行くわ」と申し出てくださる。
「私と晃だけで大丈夫です」
「ふたりだけじゃあ『災禍』はわからないでしょう」
そう言う緋炎様ににっこりと笑顔を見せる。
「私も晃も『災禍』はわかります」
「「「え?」」」
「以前竹さんの記憶に当てられたときに『視』ました」
「そうなの!?」
「さすがは精神系の能力者…」
口々に驚かれる。
それでも守り役様達は同行を申し出てくださった。「何が起こるかわからないから」と。
それもそうかと考えていたら、それまでずっと黙っていたタカさんが口を開いた。
「――いや。まずはオレが行く」
「いえ! 私が――」と続けようとしたけれど目で留められた。
しぶしぶ口を閉じると、タカさんは淡々と説明をはじめた。
「なにが起こるかわからない。どんな事態になるかわからない。
万一に備えて、ひなちゃんは温存しておきたい」
今回の訪問で社長に会えるかどうかわからない。むしろ会えない可能性のほうが高い。
もし会えたとしても『災禍』の居場所を特定することはできないかもしれない。すんなり帰れるかどうかもわからない。
神様達に『願い』をかけた当事者である私が生きて残っていれば、次策を立てることも、その策に『運気上昇』を期待することもできるだろうとタカさんは言う。
「バージョンアップが近いということは、『災禍』もなにか行動を起こそうとしていることも考えられる。
慎重に慎重を期して動いたほうがいい」
その意見に皆様がうなずかれた。私も納得。
「まずはオレが行く。
ダメだったらちーちゃん。
それでもダメだったらひなちゃん。
何度でも挑戦できるようにしておいたほうがいい」
それは確かにそのとおりだ。
それほど『社長に会う』というのは困難なミッションなのだ。
神様達から最大限の『運気上昇』を付与してもらったと聞いているが、それで届くかどうかはやってみないとわからない。
そこでふと気が付いた。
最大限の『運気上昇』を付与してもらったのは私だけじゃない。
―――そうだ。
チラリと隣の最愛を見つめる。
すぐに私の視線に気付いたわんこはにこりと微笑む。
私の最愛。誰よりも信頼できる、私の唯一。
神様に愛された、特殊能力持ち。
――カチリ。
パズルのピースが埋まる。
策が整う。
「――じゃあ、晃を連れて行ってください。
隠形でなく、普通に」
私の意見に「晃を?」とタカさんも主座様も意表を突かれたようにまばたきをされた。
「晃も『災禍』がわかります。それに」
ぐるりと皆様を見回して説明をする。
「晃なら対象に触れることができれば――それこそ握手でもすれば、『浸入』で探ることができます」
私の意見に皆様が息を飲んだ。
わざとニヤリと笑みを浮かべて告げる。
「未だに判明していない、社長がどこで『災禍』に出逢ったかも探れます」
「――確かに」
タカさんも主座様もそれが最善だと判断されたようだ。
皆様それぞれにうなずき、晃に視線が集まる。
「やってくれる? 晃」
「ひなが望むなら」
私の確認に、愛しいわんこはうなずいた。
晃が行くなら間違いない。私もうなずきを返した。
「じゃあ、まずは明後日、オレと晃で行こう」
「待ってタカ。私も行くわ」
「私も! 前みたいに隠形とれば大丈夫でしょ?」
「じゃあぼくも」
守り役様とタカさんが相談するのを聞いていたそのとき、ふと思いついた。
「トモさんも連れて行きましょう」
「トモ?」と皆様がきょとんとされる。
浮かんだ策を皆様に説明する。
「トモさんも『バーチャルキョート』のシステム作りに関わっていたんですよね。
今回タカさんが訪問するのはシステムエンジニアとして、千明様の希望を叶えることができるか検討するということではどうですか?
『勉強させるために育ててるエンジニアふたり連れて来た』と言えば、晃が普通に行ってもおかしくないと思うんですけど、どうでしょう?」
今回はあくまでも千明様の希望を叶えることができるかどうかの話し合い。
責任者のタカさんに若者ふたりが同行。
システム担当者と話をし、その勢いで社長に意見を求める。
皆様それぞれに頭にイメージを思い浮かべられたようだ。
「それはいいかも」と納得された。
「もちろん私達も行くわよ!」
緋炎様がパッと羽を広げて宣言された。
「前みたいに隠形取ってくっついて行くわ!
社長は確認取れてないけど、社員に高霊力保持者がいないことは確認されているし。
タカ達にくっついて行けば『承認』も大丈夫だと思うわ!」
確かに。
「じゃあ明後日はタカさんと晃とトモさんが正面から訪問、それに守り役の皆様が隠形でついていく、という形でいきましょう」
私の確認に皆様うなずかれる。
「明後日社長に会えなかったら、タカさん、次の約束を取り付けてください。
その場合、次は千明様、お願いします」
私の依頼に「まかせて!」と千明様は胸を張られた。