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第百二十五話 アクセサリー作り 2

 朝食後にヘコんでいた竹さんを心配して、千明さん一家が昼食に戻ってきた。

 千明さんは戻るなり竹さんと黒陽の作った石の山を見つけ、目を輝かせた。


「やーん! こんな綺麗なの、初めて見た!

 ねえねえ竹ちゃん。これでアクセ作らない?」

「ええと、こんな念珠を作るつもりで作ったんですけど……」


 昨日買った念珠やお守りを見せると、千明さんはフムフムとうなずいた。


「これはこれで素敵ね!

 これもいいけど、このちいさいの使って、ええと、ホラ! こーゆーの作ったらどう?」


 スマホの画面には髪飾りやブローチや指輪や、石を使った様々なアクセサリーが表示されていった。

 竹さんの目がキラキラキラーッ! と輝いた!


「こんなのできるんですか!?」

「できるわよー。ねー。アキ」

「ちぃちゃんの会社なら道具も材料もあるからできるわねー」


『作ってみたい!』というのは口に出していなくても丸わかりだった。


「竹ちゃん。作ってみる?」

「はい!」


 元気よく返事をした竹さんに千明さんもアキさんも満足そうだった。



 昼食後、千明さんとアキさんが竹さんをはさんで話を始めた。

 ああ。これもう今日は散歩行けないな。

 タカさんも諦めたらしく、一人でさっさと一乗寺に戻った。千明さんの仕事の調整をするんだろう。

 双子は残って二人で勝手に遊びだした。


「これ、透明しかできないの? 色がつけられたらもっと色々展開できると思うんだけど」


 千明さんに聞かれ、竹さんと黒陽は顔を見合わせた。


「色……」

「考えたこともなかったですねぇ」


 そりゃそうだ。

 実用重視の霊玉にナニ求めてんだこの人は。


 強い属性を込めたら色はつく。火属性は赤く、土属性は黄色く。

 が、それだと、持つ人の属性によっては反発することもあるらしい。

 だから竹さんと黒陽は「なるべく属性に(かたよ)りのない石を作る」と、無色透明の石を作っていた。


「色……どうやったらつくかなぁ……」


 また貴女は簡単に霊玉生成して。


 少し上を見るともなく見ながら両手を出しただけでいつものサイズの霊玉を作り出す竹さん。

 うーん、うーんと考えながら霊玉をびろーんと横に伸ばしたり大きくしたりちいさくしたり、子供が手悪さをするようにこねこねとこねくりまわしている。


 その様子に双子が反応した。

「サチもねんどするー!」

「ゆきもー!」


「……粘土……」


 アキさんが双子の遊び道具箱の中から粘土を出してやると、二人はこねこねと遊びだした。


 色粘土を合わせて新しい色を作る様子に、彼女がハッとした。


「……色のイメージを込めたらどうかしら黒陽」

「染まりますかね?」

「やってみる!」


 そう宣言した竹さんは再び霊玉をこねはじめた。


「ええと……。白い粘土にちょっとだけ色粘土を足すみたいに……」

 双子の粘土をじっと見ながらこねこねする竹さんに「こうやるんだよ!」と双子が得意げに教えている。


 微笑んだ竹さんだったが、うまくいかなかったらしい。

「うーん……じゃあ、水に色を落とす……ちがう。うーん、うーん……」


 うなる竹さんにアキさんがいじっていたスマホを見せた。


「竹ちゃん。『水を染める』んじゃなくて『水に映す』のはどう? こんなふうに」


 そこには紅葉を映し色とりどりに染まる湖の写真があった。


「うつす……とりいれる……うつす……」


「それかこんなのは?」

 次の画像は山奥の深い淵だった。

 ありとあらゆる青を表現したような水面が森の中に浮かんでいた。


「……こっちのほうがイメージしやすい……?」


 うーん、うーんとうなる竹さん。

 黒陽も横で同じように挑戦している。


「色相を変える?」

 千明さんが見せてきたのは美術の授業で見たことのある、色が輪になったものだった。


「今透明なわけでしょ? ここでしょ?

 これを、ぐーっとこっちによせるの」


「……ぐーっと……こっちに……」


 色相環を動く千明さんの指をじっと見つめていた竹さんにつられるように、石に少し色がついた!


「ついた!?」

「すごい!」


 それでなんとなく感覚をつかんだらしい竹さんがさらに練習を重ね、淡い色ながら様々な色の石ができた。

 黒陽は青系しか色をつけられなかった。悔しそうだ。


 作った色石を同じように分割して棒に巻きつけて穴を作る。

 大小様々な色ビーズができた。

 それを持って女性陣と黒陽は転移陣を通って一乗寺に行ってしまった。

 俺は双子の子守で置いていかれた。




「おかげで今日は散歩できなかったよ」

 ぼやく俺に「問題はそこじゃない」と冷静にツッコむハル。


「ちーとアキにあのうっかり主従を加えてみろ。とんでもないことをやらかすぞ」


 確かにやらかしそうな雰囲気しかない。

 どうしようと青くなっていると、噂の面々が帰ってきた。


「あらハル。ヒロ。おかえりー!」

 テンション高めの千明さんに続き、竹さんもテンション高めで戻ってきた。


「トモさん! 見て見て!」と飛んでくるのかわいすぎ。


「かわいいのできたの! こんなにできたの!」

「すごいね。かわいいよ」と褒めると「えへへー」と笑う竹さん。かわいい。


 褒めながら、ふと気付いた。

「これ、竹さんの石じゃないね?」


 アクセサリーに使われているものはどれも竹さんのチカラを感じない。黒陽のものも。

 どういうことかと説明を求めると、竹さんはあっさりと言った。


「さっき作ったのは練習用だから。

 このおうちの霊力で簡単に作っただけのものだし、色も定着するか確認しないといけないし。

 だからアクセサリー作りは千明さんの会社にあった材料を使わせてもらったの」


「ていってもどれも百均のものだから。大したことないわよー」



 千明さんの家が所有している山を管理することから始まった千明さんの会社『目黒』だけど、仕事が軌道に乗るたびに人が増え、人が増えるたびに業績が上がり、そしてまた人が増えるということを繰り返しているという。

 

 その中に、手芸が得意なチームがある。

 山の素材を活かしたオブジェ作りを担当する部署のスタッフだけでなく、事務関係や外回りなどのスタッフの中から手芸が得意な人が集まり、好き勝手にモノ作りをしている、いわば学校における部活動のようなもの。

 その名もそのまんま『手芸部』。


 仕事は休みなのに手芸作品を作るために出社してくるスタッフもいるという。

 いいのかそれ?

 あ、場所だけ提供するって形ね。

 材料費は? 会社がまとめて買っておいて保管して、必要な分をそれぞれ個人がそのときに金払うと。

 で? 完成品を買い取るわけか。

 だから『目黒』の勤務ではないと。あくまで趣味の品だと。


「そのほうがのびのびといいモノ作れるのよ」


 評判よくなって売れ筋になったら商品として大量生産すると。

 そのときは業務時間内に作ってもらうと。

 いろいろ考えてんなぁ。


 今日もそんな『手芸部』の人が何人もいたらしい。

 その人達に教わりながら、竹さんはそれはそれは楽しい時間を過ごしてきたという。



「サイズごとの霊力の量を検証して。まとめたときにどうなるか検証して。色をつけたのとつけてないのとで違いが出るか検証して。

 調べないといけないこと、たくさんあるの!

 調べて大丈夫そうだったら、どこか霊力の高い水場で改めて霊玉作って、付与つけて、それからアクセサリー作るの!」


 むん! とはりきる竹さんはやる気に満ちている。かわいい。

 が、テンション高すぎないか? 熱出すんじゃないか?


「とりあえず晴明。これ、検証してみてくれ!」

 雑にボウルに入れられた新たな霊玉の山に、ハルが頭を抱えた。




 夕食の時間までせっせと霊玉を仕分けした。

 大きさ。質。込められている霊力量。

 大きさを仕分けするのは俺やオミさんタカさんもできた。

 事態を把握したタカさんがすぐに厚紙に穴を開けたサイズ見本を数種類作り、それを使って大きさを振り分けていった。

 皿を何枚も並べ、ハルとヒロがひたすら品質チェックをして振り分けた。

 ハルが救援依頼を出して途中から白露様も合流してきた。

 夕食が済んでからも仕分けは終わらず、双子と竹さんを寝かしつけてようやく全部の仕分けが終わったのはいつもの夜の報告会の時間だった。


 結果。

 どれも高品質。


 阿呆か。


 なんで適当に霊力集めて作った石が高品質なんだよ。

 しかもそれをちいさくちいさく分割したビーズ一粒になんて霊力込めてんだ。ホントに分割したのか!?


「姫宮と黒陽様の作る石としては確かに数段ランクが落ちるよ」とハルは言うが、これ、十分術の媒介になるだろう。


 自然石を用いて術を行使することは多々ある。

 そんな術に使えるレベルの石ばかりだった。


 数と品質を細かくリストアップしていたヒロが、まとめた書類を持ってきた。

 安倍家での買取価格が書いてある。


 ………阿呆か!?

 なんでボウル二杯の石が新築一戸建てより高いんだ。


「妥当な金額だ」

 ぺろりとハルが言う。


「なにも入っていないが数が多いからな」

 いつも「安倍家への支払い」とくれる石は更に封印や浄化が込められていると。

 そうなると値段も爆上がりだと。


 ……………。


「あの世間知らずでお人好しなうっかり主従に任せておくととんでもないことになるとわかったか」

「わかりました」


 真顔でうなずくしかできない。


「『アクセサリー作る』と張り切ってるんだが、どうしたらいい?」

 ハルは少し考えて結論を出した。


「それは好きにさせておけ。おそらくとんでもないモノを作ってくるだろうが『災禍(さいか)』に対抗しようとしたらそのくらいでないと太刀打ちできんだろう――ただし」


 ギッと全員を見回して、ハルは主座様の顔で言った。


「あの二人が気安く他人(ひと)にやろうとしたら止めろ。

『誰かにやりたい』と言い出したら必ず僕の許可をとれ。

 製品管理はお前達がやれ。いいな!?」


「「「ハイ」」」


 あまりのハルの剣幕に、さしもの千明さんも大人しく返事をしていた。

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