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第百二十四話 アクセサリー作り 1

 翌日。

 朝一番の霊玉作りはなかなか思うようにいかなかった。

 どうしてもいつもの調子で作る大きさになってしまい、竹さんも黒陽も落ち込んだ。


 いつも彼女達が作るのは、霊玉だとピンポン玉サイズ、お守りだとビー玉サイズ。

 他の大きさは「作ったことがない」と言う。

 要は高間原(たかまがはら)で使われていた規格のサイズしか作ったことがないらしい。


 今回作ろうとしている念珠に使われている石は、いつもお守りで作るよりもちいさい。

 いつものビー玉サイズの半分から四分の一、ピンポン玉サイズだと十分の一よりもちいさくなるんじゃないか?

 そのちいさな石を作ろうと朝から取り組んでいるふたりだったが、何度やってもビー玉サイズかピンポン玉サイズになってしまう。


 見本にと、昨日買った念珠を俺が二人の目の前で持った。

 にらみつけるように「この大きさ、この大きさ」とブツブツ言いながら作った結果、念珠サイズの石はできたが、恐ろしく霊力が圧縮されたトンデモナイ代物(しろもの)が出来上がった。


 うまくできなくて落ち込む二人が作ったものをハルに見せると、ハルが頭を抱えた。



「もっと簡単にできると思ってた……」

「ちいさくするのがこれほど大変だとは……」


 朝食にしようと御池に引っぱっていってもまだ落ち込んでいる。

 そんな二人にアキさんが声をかけた。


「お話を聞いていると、二人がやろうしているのは、このごはんをおにぎりにするようなこと?」


 ボウルに入れたごはんを見せられ、ちょっと考えた二人はうなずいた。


「……水の中や大気中にある霊力を集めて固めるわけだから……そう、かも」


 少し上を見上げながらニギニギとおにぎりを握るような手つきをする竹さん。かわいい。


「このごはんを少しだけ用意して作ればいいんじゃない?」

「そう考えてたんですけど」


 へにょりと眉を下げて情けない顔になる竹さん。かわいい。


「ちょっとだけ、ちょっとだけと思っても、つい、いつもの量の霊力を集めてしまって。

 トモさんに見本を持ってもらって『これだけしか集めない!』って思ってやってみても、どうしても作りやすい量を勝手に集めてしまって……」


 で、大きさだけをちいさくするから阿呆みたいに圧縮されまくった小粒の霊玉ができたと。

 ハルとヒロが遠い目をしている。


「なんせ五千年この量とこのやり方で作ってきたからな。

 急に量や大きさを変えるのは、相当練習が必要だ」


 黒陽もため息をつきながらそんなことを言う。

 コツさえつかめれば小粒も作れそうな気がすると。


 ………あくまで『そんな気がする』だけなんだな。

 で、できるまでやってみるんだな。

 つまり、この阿呆みたいな霊玉をまだ増産するつもりなんだな。


 チラリとハルに目をやると『()めろ!』とにらんできた。

『無茶言うな!』とにらみ返すとハルは渋い顔をして頭を抱えた。


 その間も竹さんも黒陽も困ったようにうんうんうなっている。


 そんな周囲にアキさんは苦笑を浮かべた。

 おにぎり作りを再開しようとしたのだろう。アキさんはボウルの中身に目をやり、動きを止めた。

 少し考えたアキさんは「それなら」と竹さんと黒陽に顔を向けた。


「このボウルのごはん全部をひとつにするんじゃなくて、こうやって分けて、ちいさなおにぎりを作ることはできないの?」


 ボウルの中のごはんにしゃもじで放射状の線を描き、そのひとつを取り出してちいさなちいさなおにぎりを作るアキさん。双子の朝食用だ。


 その様子を見ていた二人は、あごが外れたんじゃないかというくらい大きな口を開けて絶句していた。


 ハッとした竹さんは、すぐに表情を引き締めてじっとボウルの中のごはんとできあがっていくちいさなおにぎりを見つめていた。


 ガッと椅子から立ち上がり、バンザイをした。と思ったら、ギュオォッ! と周囲の霊力を集めた!

 ギョッとする俺達をよそに彼女はいつものサイズの霊玉をその両手の間に作り出したあと、じっとそれを見つめた。


「――八等分」

 ポソリとつぶやいたかと思ったら、霊玉がリンゴでも切るかのように串形に分かれた。

 それを団子でも丸めるようにこねこねこねこねしていた竹さんは、やがて動きを止めた。


 自分の手のひらをじっと見つめる。

 そこには八個のちいさな霊玉があった。


「――できた!」


 パアッと笑顔を浮かべた竹さんは、はしゃいで黒陽に手の中の霊玉を見せた。


「どう!? 黒陽。できてない!? 大丈夫じゃない!?」

「――できてます! ひとつひとつの石は元の石の八分の一ほどの霊力しか入っていませんが、これなら充分付与できるでしょう!」


「……イヤ……これでも十分規格外だからね……?」

 ヒロが疲れたようにつぶやいていたが、うっかり主従には聞こえていなかった。


「しかし、そうか! 分割か!

 我らは『ちいさくする』のに霊力量を減らそうとしたり圧縮させたりしていたが、確かにそうだな! 分割すればよかったな!

 さすがは明子だ! 天才だな!」


 べた褒めに褒められてアキさんが「うふふ」と微笑む。

「てんしゃい!」「てんしゃい!」と双子がわけもわからず復唱している。


「試しに」と黒陽も霊玉を作った。

 黒陽も八分割の霊玉ができた。


「どのサイズがいいかしら?」

「どこまでちいさくできますかね?」

 十等分、十二等分、とどんどんちいさくしてゆき、最終的にビーズサイズまで作った二人。


 ハルが頭を抱えた。


「なんでビーズサイズでもこんなに霊力込められてんの……」

 ヒロが遠い目をしていた。


「そろそろごはんを食べてもらえるかしら?」

 アキさんに怒られてやめなければ延々とやっていたなこの二人。


 第一目標をクリアしたことでテンション高く朝食を済ませた二人だったが。


「……穴のこと忘れてた……」

 そう言ってガックリと両手両膝をついた。



 落ち込むうっかり主従に家族を送り出したアキさんが相談に乗ってくれる。

 もちろん俺も頭をひねる。

 ああでもない、こうでもないと話をしたり参考になるものはないかとネットを探したりして、最終的にトンボ玉の作り方を取り入れることで成功した。


 分割した石の欠片(かけら)を用意していた棒に巻き付け、くるくると回しながら固めると、穴のあいた霊玉ができた。


「できたできた」と喜ぶ二人。

「穴があいていても霊玉の霊力の流れは問題なさそう」と大はしゃぎだ。


「どこまで細い穴ができるか」「穴の位置を変えることはできるか」「ちいさい石でも穴が作れるか」

 思いつくまま次々に作っていく主従。

 その様子が本当に楽しそうで微笑ましい。


 ああ、この二人は昔からこうやって色々と実験したり検証したりしてきたんだろうなあ。

 そんなふうに感じて好きにさせていたら、大きなボウルいっぱいになるほどの霊玉が出来上がっていた。


「晴明が帰ってきたら検証してもらおう!」


 帰宅したハルがガックリと両手両膝をついてうなだれた。



「何故止めなかった」何故か俺が怒られた。


「いや、楽しそうだったし」

 言い訳にもならないことを口にしたら、ハルは心底疲れたというように深く深くため息を吐き出した。


「あのひと達は常識を知らないんだ。際限も知らないんだ。ひたすらに純真で、お人好しで、うっかり者なんだ」

「……うん。まあ、それは知ってるよ」


 ごにょごにょと答えた俺にハルは座りきった目を真っ直ぐに向けてきた。


「この調子で大量に『試作品』を作って、そのあとこれをどうすると思う?」


「……どうするんだ?」

 おそるおそる聞いてみたら、ハルは「ふふふふふ」と低く(わら)った。

 そして、叫んだ。


「『試作品だから』と!

 対価もなしに! よく知りもしない相手に!

 ポンポン渡すんだよあの二人は!」


 があっと怒るハル。めずらしい。

 相当やらかしてるなあの二人。


「お前、あの二人をしっかり見張っていろよ?

 どんな些細な欠片でも、どんな失敗品でも、簡単に捨てたり人にやったりしないように、よく見張っておけ!」


 威圧をまとわせて俺の顔ギリギリまで顔を近づけてにらみつけてくるハルに引く。


「あのひとの作る霊玉はとにかく精度が高いんだ! 高すぎるくらい高いんだ!

 何の術も付与も込められていない霊玉なんて、どうとでも利用できる!

 浄化でも封印でも治癒でも、呪詛(じゅそ)でもな!」

「―――!」


 そう言われて初めてその可能性に思い当たった。

 こんな高霊力の込められたプレーンな石ならば、どんなモノも入れられる。

 それこそ呪詛でも。


 自分の作った石がそんなことに使われたと知ったら――。

 間違いなく竹さんは落ち込む。

 また罪を背負い込む。

 そんなことさせられない!


「姫宮と黒陽様の作る石は僕が管理する。

 姫宮達が石を作っていることは絶対に外にもらすな。安倍家内部にも極秘だ。いいなヒロ。オミ」

「「ハッ」」


 主座様の声でハルが命じるのにヒロとオミさんが頭を下げる。が。


「……ヒロとオミさんじゃなくて、アキさんと千明さんによくよく言い聞かせておけよ」


 俺の言葉に眉をひそめたハルだが、すぐに察したらしい。狐のような吊り目がみるみる大きく丸くなった。


「……二人はどこだ」

 地の底から響くような、低い恐ろしい声。


「転移陣通って一乗寺の事務所に行った。竹さんと黒陽も一緒」

「―――!!」


 息を飲み固まったハルだったが、やがてうなだれ頭を抱えた。

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