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第百二十三話 デートのあとで

 北山の安倍家の離れの玄関に転移すると、竹さんは「ふう」と大きく息を吐き出した。


「疲れた?」

「……ちょっと」


 今までなら『大丈夫』と言っただろう。

 正直に『疲れた』と言ってくれるようになったことに喜びを感じる。


 二階に上がり手洗いうがいをする。

 台所に移動し、お茶を冷蔵庫から出す。

 この離れの水は地下水を使っている。霊力がたっぷり含まれた霊水だ。

 それで沸かしたお茶を出してやると、彼女はうれしそうにコクコクと飲んだ。

 散歩しながらも時折飲ませていたが、やはりいつもの椅子に座ると落ち着くのだろう。ホッとしたように息をついた。かわいい。


 黒陽にも茶を出し、自分も注ぐ。


「たくさん歩けたね」

 椅子に腰掛けながらそう言うと「ホント!?」と満面の笑顔になる彼女。かわいい。

 スマホを貸してもらい歩数計を表示してやると、彼女は目をまんまるにして驚いた。


「こんなに歩いたの!?」


「信じられない! 見て! 黒陽!」

「すごいですね姫」

 きゃっきゃと大興奮だ。かわいいな。よかったな。


 その間に俺は保護者達に帰宅連絡を入れる。

 すぐにアキさんから返信がきた。

『お昼ご飯食べた?』のメッセージに『今から』『うどんでも作るから大丈夫だよ』と返信を返す。

 すると『今からオミさんのごはん作るから一緒に作るわ』『こっちにおいで』と返ってきた。

 気を遣ってそう言ってくれてるのかもとも思ったが、お言葉に甘えることにした。


 転移陣をくぐり御池に移動すると「おかえりなさい」とアキさんが迎えてくれた。


「竹ちゃん、お散歩はどうだった?」

「すごく楽しかったです! それに、いっぱい歩けたんですよ!」

 見て見て! とはしゃいでスマホを見せる竹さんに一瞬驚いた様子を見せたアキさんだったが、すぐに笑顔になって竹さんのスマホをのぞいた。


「まあ! こんなに歩いてきたの! すごいわ竹ちゃん!」

 照れくさそうに、それでも得意そうに笑う竹さん。かわいい!


「どれどれ?」とオミさんも寄ってきて彼女のスマホをのぞく。


「おおー。たくさん歩いたね! すごいじゃないか!」

「はい!」


 もう全身キラッキラだよ。得意満面てこのことか。よかったな。かわいいな。


「座って座って」とうながされ、席につく。

 彼女のスマホを貸してもらい、移動ルートを表示してやる。

 移動距離を見た彼女が「こんなに歩いたんだ!」とまた喜んだ。


「こんなに歩いたなんて思わなかった!」

「話しながら写真撮りながらだったからかな?」

 そう話していると、盆を持ったアキさんが「写真撮ったの? 見せて見せて」と言ってきた。


 オミさんも本当にこれから昼食だったらしい。

 黒陽と合わせた四人にうどんが出される。

 出汁のいい香りに食欲が刺激される。


「いただきます」とうどんを食べる。

 その間にアキさんは竹さんのスマホの写真をオミさんと見ていた。

「上手に撮れてるわね」と褒められて竹さんも得意そうだ。


「トモくんも撮ったの?」

「まあ」

「見せて!」


 ………ツーショット写真がほとんどなんだが……どうしよう……。

 チラリと彼女に目をやると『見せたい!』と目をキラキラさせている。

 うう。そんな顔されたらイヤとは言えないよ。


「ハイ」とスマホを渡すと、オミさんと竹さんと三人で楽しそうに見始めた。


「二人の写真たくさん撮ったのね。よかったわね」

 デレッデレだろ俺。わかってるよくそう!

 照れくさくて一気にうどんを食う。

 竹さんはもたもたと食べながら「親切な方が撮ってくださったんです」と報告している。

 写真を見ながら「ああで」「こうで」と話す彼女が本当に楽しそうで、連れて行ってよかったと心の底からうれしくなる。


 黒陽はそんな竹さんをやさしい眼差しで見つめていた。

 なんだか目が潤んでいる気がする。

 また余計なことを考えているに違いない。困った守り役だ。


「いっぱい歩いたんだから、竹ちゃん、おうどん食べたらお昼寝なさいね」

 アキさんの言葉に「でも」と竹さんはためらう。


「試したいことができたんです。それをちょっとやってみようかと…」

「それは体力や精神力が少ない状態でやっても大丈夫なこと?」


 そう指摘されると「そう言われると…」と竹さんが言いよどむ。


「しっかり動いて、しっかり食べて。しっかり休んでから取り組んだほうが、いい仕事ができるんじゃない?」


 いいこと言うな。さすが。

「のんびり本でも読んで休みなさいな」とさらに言われ、竹さんもしぶしぶうなずいていた。


 俺と竹さんのスマホの共有アルバムをアキさんが作ってくれた。

「こうしておけばどっちが撮った写真も見れるでしょ」

 竹さんが大喜びだ。ありがとうアキさん。

「写真印刷してあげようか?」とオミさん。お言葉に甘えてツーショット写真を数枚印刷してもらう。


 改めて紙にプリントされると、自分がでれっでれなのがよくわかる。

 彼女があきれていないかとちらりと様子をうかがうと、写真をみつめてしあわせそうに微笑んでいた。


 ――かわいすぎか!


 アキさんがシンプルなフォトアルバムと写真立てを持ってきた。

「どっちがいい?」と問われ、竹さんは恥ずかしそうに申し訳なさそうに写真立てを選んだ。


「……私のお部屋に置いてもいい?」

 上目遣いでほっぺ赤くして言わないで! 死ぬから!

 かろうじて「もちろん」と答えると、それはそれはうれしそうに彼女は笑った。


 ――だから、これ以上キュンキュンさせないで! 死ぬ!



 転移陣を通って離れに戻り、彼女はアキさんの言いつけ通り自室のベッドで横になった。

 彼女が眠りに落ちるまでそばにいることにし、枕元に座った。


「たくさん歩けてえらかったね」

 そう言って彼女の頭をなでてやると、ちいさな子供のように笑った。


「トモさん」

「なに?」

「連れて行ってくれて、ありがとう」


 ――だから、かわいすぎるんだよ!

 ああもう! 愛しいが爆発しそうだ! かわいい!


「――俺こそ、ありがとう。楽しかった」

 何とかそう答えると、彼女はしあわせそうに微笑んだ。


「明日はどこをお散歩するの?」

「そうだなあ。また夕食のときにアキさん達に相談しよう」

「うん」


 話しながら、よしよし、と頭をなでているうちに彼女の瞼がとろんと下がってきた。


「――いっぱい動いて。いっぱい食べて。いっぱい寝て。そしたらきっと、元気になるよ」


 責務を果たすことも、きっとできるようになるよ。

 きっと『呪い』を跳ね返すことだって、できるようになるよ。


 祈りを込めて、願いを込めて、彼女に言葉をつむぐ。

「うん」とちいさく答える彼女はもう瞼を閉じてしまった。


「――きっと、ずっと、一緒にいられるよ」

 普段は絶対口にしない『願い』を、眠る彼女に贈る。

 ちいさく唇がうごいたけれど、彼女はそのまま眠ってしまった。


「ずっと、一緒に、いられるよ。絶対に」

 彼女をなでる俺に、黒陽は何も言わなかった。




 彼女がしっかりと寝ているのを確認し、俺の部屋に戻る。

 さっき買った髪飾りを黒陽に見せ、付与の相談をしてみる。

 俺の予想どおり金属部分に付与するのがいいだろうとのことだった。

 ばーさんから教わった術式を見せると黒陽が少し修正してくれた。

 ああだこうだと検討し、髪飾りに運気上昇を付与する。

「まあまあじゃないか?」と黒陽も言ってくれたので安心して彼女に渡すことができる。


 その後も黒陽と話をする。

「身体強化なしに姫があんなに歩けるとは思わなかった」と黒陽も驚いていた。どんだけ虚弱だったんだあのひと。


「明日も是非出かけよう」と黒陽も乗り気だ。

 相談の結果、スケジュールを変えることにした。


 朝起きてすぐに例の守護石作りをする。

 朝一番の霊気の濃い状態のほうが効果の高い守護石が作れるんだそうだ。

 そのあと朝食を食べてから、柔軟とラジオ体操。

 時間があったら守護石作りをして、早めに昼食を食べてから出かける。

 それなら店も開いているから竹さんも楽しいだろう。

 夕食までに帰って夕食を食べたら、竹さんと寝る。

 俺はそのあと起きてタカさんと不正レベル上げなんかの仕事をする。


 学校から帰ってきたハルに相談の結果を報告したら「いいんじゃないか」と許可が出た。


「とにかく姫宮の体力をつけさせることが第一だ。

 体力がつけば長く術を展開させることができる。

 いざというときのふんばりもきく。

 しっかり動かして、しっかり食べさせて、しっかり寝させろ」


 俺に異論はない。黒陽も「頼むぞ」と頭を下げてきた。

「言われずとも」



 夕食時に今日の散歩の成果を報告すると、保護者達がせっせと情報を教えてくれた。

 いくつも散歩コースの候補ができた。

 誰も俺のデレデレした顔が写った写真について触れないことが気になったが、話題に出したくなくてあえて黙っていた。

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