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第百二十二話 南禅寺デート 2

 南禅寺の三門の真下に行って柱の太さに驚いた。

 並ぶ建物や景色を堪能し、時々写真を撮った。


 本堂に参拝。彼女が結界を展開して神域にお邪魔し仏様にご挨拶をした。

 彼女が笛を奉納した。

 皆様に喜んでいただき、彼女もうれしそうだった。


 保護者達に勧められた水路閣はすぐにわかった。

「琵琶湖からの水を流してるんだよ。上に上がったら水が流れてるのも見れるって。行ってみる?」

 事前に調べた情報を教えると二人共「見たい!」と喜んだ。


 手を繋いだまま水路閣に近寄り眺めていると、またカップルから声をかけられた。

 写真を撮ってやり、こちらも撮ってもらう。

 向こうにも撮ってやった、水路閣を背景に二人並んだ写真と、水路閣の柱の両側から顔をのぞかせる写真を同じように撮ってもらった。


 竹さんがテンション高い。

 スマホを見て大はしゃぎだ。かわいい。

 これ、今夜熱が出ないか? 大丈夫か?


 ふと思いついて、竹さんに水路閣の柱の前に立ってもらった。

 竹さんひとりを写真に収める。

 うん。我ながらよく撮れた。かわいい。


「ほう。良く撮れてるな」黒陽も褒めてくれる。

「見せて見せて」とはしゃいで寄ってきた彼女にも見せる。

 バストショットの写真に彼女は照れくさそうだった。


「かわいいよ」と笑うと頬を赤く染めた。

 めっ……ちゃくちゃかわいい!


「トモさんも撮らせて!」と赤い顔で言うのがかわいくて「ハイハイ」と大人しく言うことを聞く。

 もたもたとスマホを操作していたから取り上げてシャッターボタンを押せばいいようにして返却する。


「どうせなら黒陽、隠形解いたらどうだ?」

「お前とツーショットになるじゃないか」

「いいじゃないか」

「写るか?」

「やってみればいいじゃないか」


 話していたら「撮りますよー」と声がかかった。

 かわいいひとのスマホに顔を向けると、ニコニコとうれしそうに寄ってきた。


「撮れた!」

 初めてスマホ撮影をしたらしい。かわいい。


「見て見て!」とスマホを差し出してくる。

 そこには、でれでれとゆるみまくった顔の男がいた。


 ……我ながらもーちょっとどうにかならないものだろうか……。


 肩の黒陽は写っていなかった。

 隠形解いたのにな。残念。


「そもそも霊獣は写らんだろう」

 あっさりと黒陽が言う。

 それはそうかもだけど、もしかしたらと思ったんだよ。


 霊力込めながらシャッター押したら写らないかな? それとも高霊力の場所なら写るかな?

 そんな話をしながら水路閣の上に上がる。

 どうどうと流れる水に三人で驚いた。


「すごいね!」

「百三十年前にできて未だに現役って、すごいな」

「これはなかなかの技術だぞ!」


 三人でああだこうだと話をし、写真を撮って下に下りた。

 またカップルに写真を頼まれたので撮ってやり、またお返しにとこちらも写真を撮ってもらう。


 あれか? カップル写真を撮ったら撮り返すみたいな暗黙のルールがあるのか?

 同じカップルになら頼みやすいとか、あるのか?


 なんでもいいや。今日一日で竹さんとの写真がたくさんできた。

 うれしくてしあわせででれでれするのが治らない。


 手を繋いでゆっくりと歩く。

 彼女はずっとはしゃいでいる。

 観光地だからテンション高いのかもしれない。

 母親達の言うとおりにしてよかったと感謝を送る。



 土産物屋があったので立ち寄ってみる。

 ベッタベタなクッキーがあったので土産に買う。

 これなら双子も食えるだろう。


 ふと、髪飾りがあるのを見つけた。

 ポニーフック?

 説明イラストによると、ひとつに結んだ髪ゴムに差し込むもののようだ。


 ――これなら竹さんが使えるな。


 俺が選んだ髪飾りをつける竹さん。

 ――イイ! ものすごくイイ!!


 ザッと全商品を確認。

 この花がいくつも固まってるの、かわいいな。

 あ。こっちの七宝焼のもいいな。むむっ。こっちはちりめん細工か。

 ううん。ううん。


 悩みに悩んで、花が並んだものにした。

 薄いピンクで中央が濃いピンクになった花。

 初めて会った船岡山のあの枝垂桜(しだれざくら)のようだった。


 竹さんは竹さんで黒陽となにやら熱心に見ている。

 何か欲しいものがあるなら一緒に会計しようとそばに向かうと、二人が見ているのは念珠だった。


「竹さん。どれか気に入った?」

 声をかけると俺を見上げてほにゃりと微笑む。

 だからかわいいんだよ! なんでそんなうれしそうなの! 俺が声をかけたから? もう、もう、しあわせか!


「こーゆーの、そういえばつけてるひといるなーって思って」

「ああ」


 手首につけてるひと、いるね。

 それで? と先をうながすと、彼女はひとつを手にとって軽く引っ張った。


「ゴムみたいだし、これなら作れないかなぁ……って、話してたの」

「……『作る』?」

 意味がわからなくて問いかけると、彼女は説明してくれた。


 今生の子供の頃、ビーズにゴム紐を通してネックレスを作ったこと。

 それと同じように穴をあけた石にゴムを通して、竹さん特製念珠ができないかと考えたこと。


「守護石は今まで何個も作ってるけど、こんなちいさいのや、穴の開いたのは作ったことがないから、できるかなぁって黒陽と話してたの」


「……作ってどうするの?」

 おそるおそる聞いてみると、彼女はけろりと言った。

「みんなに配ろうかなぁって」


「『みんな』」

 それはどこからどこまでの話だ?


「『災禍(さいか)』は『運を操り』『宿主の願いを引き寄せる』と言っただろう?」

 黒陽の話にうなずく。

「だからこちらもそれに対抗すべく、お守りや運気上昇のアイテムを作ったり持ったりしているんだ。

 この型のは作ったことがないが、これができたら直接肌につけることができるわけだから、効果は高いのではないかと思ってな…」


「しかもいくつも石を並べるでしょう?

 運気上昇だけでなく、いろんな付与をした石をひとまとめにできるんじゃないかなーって。

 それこそ、運気上昇の石ばかりを並べてもいいかもしれないし」


「守護石をいくつも並べるなどやったことがないから、試してみる価値はあると思うんだ」


 問題点も色々あるが、とりあえずやってみようと話していたところらしい。


「じゃあ一個見本に買っていく?」

 そう提案すると「……うーん……」と考える彼女。


「例えば、竹さんがイチから石を作るんじゃなくて、この念珠の石ひとつひとつに付与するのもアリじゃない?」

 ふと思いついてそんな提案をすると「その手があったか!」と二人共目を大きくした。

 その様子がかわいくてついクスリと笑った。


「じゃあ、一個買おう。どれにする?」

「んー……」


 竹さんは念珠ひとつひとつに手をかざし、なにかを探っていた。

 やがて「これ」と決めたのは透明な石が連なった念珠だった。


「これが一番何も入ってない」


 ……お守りとして売ってる念珠が『何も入ってない』って……。

 どうなんだ? と思っていたら、黒陽が説明してくれた。


「時々あるぞ。悪いモノを吸い取るために空っぽにしておくんだ」

 なるほど。そういう使い方か。


「じゃあこれも一緒に会計してくるね。他に欲しいものはない?」


 ヒョイと念珠を取り上げたら「え」と彼女が固まった。

 余計なことを考えているのが丸わかりの顔に「術の研究用だろ? ハルに請求しよう」とわざと明るく言った。


「それなら……?」ともにょもにょ言っていたけれど「他に使えそうなものはない?」と水を向けるとハッと表情が変わった。


 ああでもない、こうでもないと黒陽と二人相談しながら商品を見る彼女。

 生真面目だなあ。単に自分が欲しいものを選べばいいのに。


 ふと手の中の髪飾りに気がついた。

 これにも付与してもらったら、少しは彼女を守れるかな。

 石でないと付与できないのかな。


 ばーさんに教わった術を思い返す。

 うん。別に石でなくても付与できた。

 石のほうが術が『入りやすい』というだけで。

 石の次が金属。

 ――これ、フックの部分が金属になってるから、ここに付与つけたらどうかな。


 ていうか、俺が付与つけて彼女に渡せばいいのか。

 彼女にはとても及ばないだろうが、プレゼントするのに彼女に付与をつけてもらうのはなんか情けない。

 効果は劣るかもしれないが、俺が付与しよう。

 付与するのはもちろん運気上昇。

 少しでも『災禍(さいか)』に対抗できるように。



 結局竹さんと黒陽は、念珠ととんぼ玉のお守り、それに勾玉のお守りを選んだ。

 これらをお手本に自分達で石を作ってみて、最後にはこれらに付与をつけてみるという。


「やってみないとわからないけど、これで少しでも『災禍(さいか)』に対抗できればいいな」


 ふんす! とやる気になっている彼女がかわいい。

 まとめて会計を済ませて店を出た。




 時計を見るともう昼すぎだった。かなり長居をしてしまった。

 彼女がずっと楽しそうだったから俺に問題はない。


 昼飯どうしようかなと考える。

 店に入るのは黒陽が隠形取ったままになるからおもしろくないな。

 やはり北山の離れに帰ろうと決める。


「黒陽。北山の離れに転移ってできるか?」

 試しに聞いてみると「できるぞ」とあっさり答える。


「そろそろ昼だから、帰ってメシ食おう。

 人目のないところで転移してもらってもいいか?」


 竹さんが何か言おうと口を開くよりも早く黒陽が「いいぞ」と答える。


「じゃ、行こ」

 彼女が何か言い出す前にサッと手を繋いで軽く引く。


「隠形取って俺が縮地で帰ってもいいんだけど、明るいから、もし誰かに見られたらマズいからね」

 そう言うと彼女はなにかを想像したのだろう。

 クスクス楽しそうに笑いながら「そうね」と言った。

 気安い言葉とその笑顔に、またしても胸を貫かれた。

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