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第十九話 竹さんとのデート? 1

 土曜日。やっと休みになった。

 先週は色々あった。ありすぎた。


 月曜日。船岡山で竹さんに初めて出会った。

 ポンコツになった火曜水曜。

 水曜の夜にハルから呼び出しがあり、木曜の夜に北山の離れに行った。

 そこで竹さんと再会した。

 そしてやらかした。

 ヒロにボコボコに殴られ、フジとツヅキに話を聞いてもらった。


 そして昨日の金曜日。

 竹さんと黒陽が家に来た。

 黒陽から彼女達の事情を聞いた。

 夜にハルとヒロが来て話をした。

 フジとツヅキとも話をした。


 詰め込みすぎだろう。

 怒涛すぎるだろう。

 考えることが多すぎて、やることも多すぎて正直いっぱいいっぱいだ。


 ハルに言われた。「タカさんと話をしろ」

『半身』である竹さんへの気持ちは、同じ『半身』持ちであるタカさんが一番理解できるだろうと。

 そうして「さっさと納得して霊玉を渡せ」と。


 ハルの言うとおりだと思う。

 俺のココロが納得して、彼女に霊玉を渡すこと。

 それが最善だと、俺も頭では理解している。

 だからタカさんと話をしなければならない。


 そのタカさんからは昨夜メッセージが入っていた。

 今夜また連絡をくれるとのことだった。



 とりあえず、意識を切り替えよう。

 幸い今日は別のバイトが入っている。

 自転車乗りまわして違う仕事したら気分転換になるかもしれない。

 それで、明日は料理作りまくろう。

 そうして頭を整理して、それからタカさんに話聞いてもらおう。


 とにかく頭を整理して、気持ちを整理して、それから彼女に向き合わないといけない。

 でないと俺はずっとポンコツのままだ。

 彼女といられるだけでうれしくて、彼女の一挙手一投足に一喜一憂して、かわいいでいっぱいになって他に何も考えられなくなる。


 彼女に少しでも頼りがいのある男だと思ってもらいたいのに。

 しっかりとした男だと思われたいのに。

 こんなにポンコツでは彼女の役に立てない。

 それは嫌だ!


 好きなひとの前では少しでもカッコつけたい。

 少しでもカッコいいと思われたい。

 馬鹿な男の、馬鹿な見栄だと理解している。

 それでも、カッコつけたい。


 そう考えて、自分で自分がおかしくなった。


 この俺が『好きなひと』に『カッコつけたい』なんて。


 女なんてどうでもよくて、人を好きになるなんて理解できなくて、恋だの愛だの言ってるヤツは頭悪いとしか思えなかったこの俺が。


 やっぱり『静原の呪い』のせいかな。

 そういうことにしておこう。

 俺は『呪われて』いて、彼女に『とらわれて』いて、彼女に『恋』してる。

 だからこんなにポンコツなんだ。うん。そうだ。



 自嘲しながらも家事を済ませ、自転車に機材を積み込む。

 冬休みから続けてやっているバイトとあってもう手慣れたものだ。

 機材チェック。画像もデータも問題なし。

 家からシステム立ち上げると自宅バレするから、指定エリアに入ってから立ち上げることにして一旦電源を落とす。


 天気は上々。絶好のサイクリング日和だ。

 もうソメイヨシノの時期は終わって遅咲きの枝垂れ桜の時期になっている。

 俺の今回の担当エリアでは花見とはならないだろうが、これだけいい天気と気候だ。自転車を走らせるだけで十分気分転換になるだろう。


 さて出発するかと自転車を出そうとした。

 その時。

 玄関に、誰かが来た気配がした。



 突然の気配に「ハルか」と思う。

 あいつはよく転移してくる。

 ウチの玄関は生垣に囲われているためにパッと見では外から見えないようになっている。

 それをいいことにしょっちゅう転移でやってくる。


 今日は午前中用事があると言っておいたのにな。

 そう思いながら自転車を停めなおし玄関に回る。

 すると。


「――竹さん⁉」

 今まさに呼び鈴を押そうとしていた竹さんが、そこにいた。


 え? なんで? なんで竹さんがいるんだ⁉

 戸惑う俺に気付いていないのか、竹さんは俺の声に顔を向けると、にっこりと微笑んだ。


 かわいい!


「おはようございます」

「お、おはようございます」


 今日は返事が返せた。

 にっこりと笑う竹さん。かわいいか!


「朝早くからすみません。あの、今、大丈夫ですか?」

「は、はい! 大丈夫です!」


 出かけようとしていたことなどなかったかのように返事をしてしまう。

 ああ、だからそういうのがポンコツだっていうんだよ!

 セルフツッコミを入れながらも彼女から目が離せない。


 今日もかわいい。

 今日は制服っぽい服ではなく、私服とわかる服。


 白のひざ上までのチュニック。細身のジーンズ。それに若草色のロングカーディガンをはおっている。

 ふんわりとした彼女の雰囲気によく似合っている。

 足元は歩きやすそうなスニーカー。

 長い髪は明るいベージュのキャスケット帽子に入れているらしい。

 ボーイッシュなのもかわいい!

 もう彼女ならなんでもかわいい!

 ああ、駄目だ。またポンコツになってる。でもかわいい。


「あの。昨日はすみませんでした」

 ペコリと頭を下げる竹さん。

 昨日。昨日。なんのことだ?


 恥ずかしそうに困ったように目を伏せる様子に「ああ」と思い当たった。

 話をしに来たのに昼寝してしまったことを言っているらしい。

 別にいいのに。かわいいなぁ。


「黒陽から話を聞きましたから。大丈夫ですよ」

 そう言っても「すみません」と申し訳なさそうな彼女。生真面目だなあ。かわいいなあ。


 そこでハッと気が付いた。

 俺も謝らなくては!


「その、俺の方こそ、一昨日(おとつい)はすみませんでした。術を破綻させてしまって……」


「すみません」と頭を下げる。

「じゃあ」と期待に目を輝かせる彼女がかわいくてうなずきそうになる。


 霊玉を渡す。

 そうすれば――。


 ――やっぱり彼女がひとりで苦しむとしか思えない。

 何でだろう。何でこんなに喉を締め付けられるような気持ちになるんだろう。


 自分でも訳がわからなくて、それでも彼女を苦しめることだけはしたくたなくて、彼女の期待する答えを出せない自分が情けなくて、つい、うなだれた。


「すみません」

 かろうじて、それだけ言った。


 彼女は何も言わなかった。



「姫」

 思わぬところからかかった声にびっくりする。

 今日も守り役は彼女の肩にいた。気が付かなかった。

 こんな目の前にいるのに気が付かないとか、いよいよ終わったな俺。


 自分にがっかりしていると、彼女が「あの」と顔を上げた。


「これ、アキさんから預かってきました。昨日のケーキのお礼だそうです」

「アキさんから? ……ありがとうございます」


 彼女の差し出した紙袋を受け取って中をのぞくとタッパーがいくつも入っていた。

 どうやらおかずらしい。

 一人暮らしの俺を心配してくれているのが伝わって、ありがたいやらくすぐったいやらで笑みがもれる。


 冷蔵庫に入れとかないとな。

 でも、その隙に彼女帰ってしまうんじゃないかな。

 もう少し話がしたいな。今日の予定はどうなっているのかな。迷惑でなかったら一緒にでかけないかな。


 そんなことが頭に浮かぶ。

 そんな自分にあきれる。


 生真面目そうな彼女がいきなり「一緒に出かけよう」なんて誘って乗ってくるわけがないじゃないか。

 きっと今日もアキさんに頼まれたから来てくれただけだ。

 お人好しな彼女が親切で請け負ってくれただけだ。

 用事が済んだら帰ってしまうに決まっている。


 それでも品物を受け取って「ハイさようなら」と別れるのはなんだかさみしい気がした。

 だからダメ元で、思い切って、言ってみることにした。


「ちょっと冷蔵庫に入れてきます。

 よかったらついでに上がっていきませんか?

 冷たい飲み物でもどうです?」

 

 言った。言ってしまった。

 あああ。図々しい男だと思われたらどうしよう!

 ああ、ドキドキする! 心臓うるさい!

 なんだコレ。『呪い』だ! 納得だ!


 彼女は遠慮がちなひとだとハルが言っていた。断られるかな。迷惑かな。

 でも今日はいい天気だし暑くなってきたし。

 わざわざ来てくれた人に冷たい飲み物出すくらい当然だよな!? 当たり前のもてなしだよな!?


 ドキドキとするココロもぐちゃぐちゃなアタマも全部隠して、なんてことないように彼女を誘う。

 彼女は申し訳なさそうに首をちいさくかしげた。


「そ「そうだな。冷たいものでも出してもらおう」

「黒陽!」


 彼女が返事をする前に守り役がかぶせてきた。グッジョブ!

 守り役の図々しさに救われた!


「ちょっと待っててください。今鍵を開けますから」


 肩の亀にぷりぷり怒るかわいいひとを愛でていたいが、背を向けて鍵を開ける。

「どうぞ」と引き戸を開けて中に招き入れる。


「さ。姫」

「もう」

 ぷう、と怒るのかわいい。


「お邪魔します」

 礼儀正しいのかわいい。


 履いてもらおうとスリッパを出したが、彼女が遠慮した。


「あの、ご迷惑でなかったらここで結構です。

 その、お出かけになるところだったんですよね?」


 玄関の鍵をかけていたことから気付かれたらしい。

 でも玄関先に座ってもらって……なんて、俺がしたくない。


「大丈夫ですよ。どうぞ上がってください」

「いえ、そんな、ご迷惑になります」

「大丈夫ですよ。さあ」

「その、あの」

「姫」


 ためらう彼女に守り役が声をかけた。


「早く冷蔵庫に入れないとまずいのではないですか?」

「あっ」


 どうやらアキさんになにか言われてきたらしい。

「ここでこの男と問答をしていては、せっかくの料理が傷んでしまいます。

 ここは姫が折れてお邪魔しましょう」


 ナイスアシスト!

 黒陽の見事な仕事ぶりに俺もうなずく。


「じゃあ、その、お邪魔します……」

「はいどうぞ」

 しぶしぶというようにスリッパを履く彼女。

 肩の亀がチラリと家の中を見た。


「冷蔵庫があるのはどこだ?」

「こっちです」

「飲み物をもらうのはそこでいい。

 わざわざ客間でなくても十分だ。

 ですね? 姫」


「で、でも」

 プライベートスペースに立ち入ることに遠慮を感じているらしい。そりゃそうだな。

 でも。

 ちょっと考えてみる。

 台所に彼女が座っている――とてもイイじゃないか!


「俺なら平気ですよ。ハルやヒロもしょっちゅう来てます。

 お嫌でなければ、こちらにどうぞ」


『ハルやヒロも来ている』という言葉に敷居が低くなったのだろう。「それなら」とついてきてくれた。


「こっちです」と台所に案内し「どうぞ」と椅子をすすめる。


「ありがとうございます」と大人しく椅子に座った彼女はちらりと辺りを見回した。

 ばーさんに厳しく言われていたから普段から掃除と整理整頓は欠かしていない。

 見られて困ることはない。ありがとうばーさん!


「ちょっと待っててください。これ、冷蔵庫に片付けてしまいます」

 机の上に紙袋を置き、中身を取り出していく。


 中身の確認。こっちはひじき。こっちは大根と鶏肉の煮物。こっちは水菜の炊いたの。ハンバーグに鶏の照り焼き。どれもうまそうだ。ありがたい。


「今夜のおかずができました」

 笑いながら冷蔵庫に納めていく俺に、彼女もふんわりと笑ってくれた。


 台所で家事をしながら会話なんて、なんか、夫婦みたいじゃないか!?

 ふとそんなことに気付いてしまい、胸の中がエラいことになっている!


 ひとりだったら絶対叫び出してた! もう、転げ回って暴れまくっていた!

 うわあ! 照れくさい! でもうれしい! 恥ずかしい!

 ニヨニヨとゆるみそうになる口元を必死でおさえ、冷蔵庫にタッパーを入れていく。


「トモさんは」

「はい!?」


 ドキーッ!!

 心臓が跳ねた!


 なんだ!? 俺のこと、呼んでくれたのか!?

 うれしい! うれしい! うれしい!!


 彼女のほうに向くと、きょとんとしていた。

 俺があまりに驚いたからびっくりしているのかもしれない。

 が、すぐに話をしょうとしていたことを思い出したらしい。


「一人暮らしをされていると聞きました」

「あ、はい」


 コップを用意しながら話をする。


「家事もご自分でされているのですか?」

 不思議そうに聞くのかわいい!


「はい。

 料理も洗濯も掃除も、なんでもしますよ」


 そう答えると彼女は目をキラキラと輝かせ「すごいです」と感心したように言った。


 褒められた!

 ばーさんありがとう!

 家事を仕込んでくれたおかげで俺、彼女に褒められたよ!


「大したことはないですよ」

 くすぐったい思いを隠してコップに氷を入れる。


「お茶とアイスコーヒー、どっちがいいですか?」


 彼女は遠慮がちに「……お茶でお願いします」と言った。

 守り役もお茶でいいという。

 ペットボトルのお茶を入れ「どうぞ」と出した。


「いただきます」と彼女は一口コクリと飲んだ。

 ホッと息を吐く様子から、やはり暑かったようだ。

 そのままコクコクとお茶を飲む。


 自分も椅子に座って正面から彼女の様子を眺めた。


 かわいいなあ。愛おしいなあ。

 ずっと見ていられる。


 他になにが好きかな。

 甘いものがいいのかな。

 ジュースとか買っておいたほうがいいかな。

 ジュースならなにが好きかな。

 聞いたら教えてくれるかな。


「ふぅ」とちいさく息をつき、彼女がコップから口を離した。

 と、じっと見つめる俺と目が合った。


 ちょっと驚いたようだった彼女は、照れくさそうに微笑んだ。


 笑った! かわいい!


 つられて笑顔になると、またさらに彼女が笑った!

 かわいすぎか! もう、どこまでかわいいんだこのひとは!


「おいしいです」

「よかった」


 内心を微塵も見せることなく微笑んでおく。

 あ。お茶請けもなにか出せばよかったな。なにかあったっけな?


 口を開こうとしたら「オイ」と守り役に呼ばれた。


「お前、どこかに行くところだったのか?」


 玄関の鍵を開けたことで出かけることは察していたらしい。

 だから正直に「はい」と答えた。


「といっても、時間に制約のある用事じゃないです。

 自転車で走りまくって画像データやらを集める仕事です。

 だから自分の都合のいいときに都合のいいペースで進めればいいので……」


 だから今日は貴女といても――


 そう口にしようとして――出なかった。


 照れくさかったのもある。が、そんなことを言っても彼女の迷惑になるとわかったからだ。


 彼女に迷惑をかけたくない。

 頼れる男でありたい。

 彼女に出会ってから俺は欲張りだ。

 ああなりたい、こう在りたいと、そればかりだ。

 思い描く理想の自分と現実のポンコツな自分との落差にがっかりしてばかりだというのに。


「『バーチャルキョート』関連だと晴明が言っていたが?」

「ええ、まあ、そうです」


 そういえばハルに口止めするの忘れてた。

 あいつなら下手なところに言いふらすことはないと信用してはいるが、あっさりとこの亀にバラしているのはどうだろうか。


「あまり口外しないでくださいね。まだ開発段階の話なので、俺が関わっていると知れるとマズいことになる場合があります」


「具体的には?」

 不思議そうにたずねる守り役に説明する。


「俺のパソコンに侵入して、そこから『バーチャルキョート』のシステムに攻撃をするとか」


「そんなこともあるのか」と亀も彼女も驚いている。


「あるんです」と重々しくうなずくとまたびっくりしている。


「だから俺達外部SEは基本的に個人情報を出しません。

 名前も本名ではなく、コードネームというか、異名を使って仕事をしています」


「なるほど」と理解を示し、守り役はさらに質問を重ねた。


「防御陣のようなものはないのか?」


「ありますよ。

 もちろん対策もしていますし俺のパソコンはそれなりの迎撃システム搭載していますからまず無いとは思いますが、それでも万が一ということがあります。

 ですから、俺が『バーチャルキョート』に関わっていることはナイショにしていただけると助かります」


 俺の説明に二人とも納得してくれたらしい。

 それぞれに了承してくれた。


「晴明や保護者には言ってもいいか?」

「まあ、あそこならいいですよ」

「あと、姫の仲間の姫にも話しておきたいのだが」

「昨日聞いた『西の姫』ですか?」

「そうだ」


 その言葉にピンときた。

 具体的になにかはわからないが、姫達の責務に関するナニカがあるらしい。

 竹さんの役に立つ情報となるならば、まあ、いいか。


「……俺の名前を出さなければ」

「何と言うのならばいい?」

 たずねられ、ちょっと考える。

「『晴明の直属の者』くらいならまあ、いいんじゃないですかね?」

「わかった」


 うなずく亀に念のため口止めをしておく。

「その『西の姫』にも一応口外しないように言ってもらえると」と頼むと「わかった」と了承してくれた。


 竹さんはじっと俺達の会話を聞いている。

 邪魔しないようにしているのがわかってかわいい。

 ああ。また『かわいい』でいっぱいになっている。


 ゴクゴクと猪口のお茶を飲みほした黒陽が俺を見上げてきた。


「その用事、我らも同行することはできるか?」


 その申し出に、一瞬アタマが真っ白になった。

 同行? 一緒に行く、ということか⁉

 つまり、竹さんと出かけると、そういうことか⁉


 内心うれしさのあまり狂喜乱舞しているが、そんな様子を見せることなく「別に構いませんよ」とさらりと答える。

 が、口元がニヨニヨとしてしまう!

 にやける顔をごまかすように、にっこりと彼女に笑いかけた。


「自転車に二人乗りでよければ、ぜひ一緒に行きましょう」


 その言葉に、彼女が顔をしかめた。


「自転車の二人乗りは交通法違反ですよね?」

 知ってたか。くそう。生真面目だなあ。


「隠形とったらバレないんじゃないですか?」

 俺の言葉に彼女は困ったような顔をして黙ってしまった。


「そうだな。じゃあ、姫と私は隠形をとっておこう。いいですね。姫」

 守り役の言葉に彼女は葛藤していた。

 が、交通法違反に関しては飲み込んだらしい。

 ぎゅっと目を閉じ、コクリとうなずいた。


 が、なにかに気付いたらしくハッとして、開いた目をそっとそらし、ぽそりと言った。


「……私……二人乗りなんて、したことなくて……」


 ――つまり、俺が『初めての相手』ということか!?


 どんなちいさなことでも『彼女の』『初めての相手』というだけでうれしくて胸が締め付けられる!

 ああ! 叫びたい! いや駄目だこらえろ!


 がんばって平静な顔をつくり、どうしたら彼女が俺の後ろに乗ってくれるか考える。


「結界の応用で支えたらどうですかね?」

「フム」

 それなら不安定でないからこわくないと思うんだが。

 長命なこの二人も「やったことがない」という。

「じゃあ、ものは試しにやってみましょう」

 そう誘うと彼女は生真面目にうなずいた。


「よろしくおねがいします」


 ――嘘だろう!?

 一緒に出かけられる!?

 しかも二人乗りで!?


「はい!」

 思ったよりも大きな声がでてしまった。

 彼女はちょっとびっくりしたように目を丸くしたが、ふんわりと花が咲くように笑った。

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