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久木陽奈の暗躍 51 『まぐわい』の結果

 なんでも私達の『まぐわい』は、期待以上の高霊力を皆様に捧げることとなったらしい。

 とんでもない数の神仏や神使や『(ヌシ)』が集まった、その皆様に行き渡る量の霊力が献上された。

 しかもちょっぴりではなく、それなりの量が行き渡った。


 霊力量もさることながら、その『質』が「素晴らしく良かった」という。


 近年『まぐわい』を奉じることは皆無なのに加え、その霊力の量と質も『滅多にお目にかかれないレベル』のものだった。


「一回しかもらえないのは惜しい」

「もっと欲しい」

 どなたもがそう感じておられた。


 その場には事前に申告しておいた吉野の神仏も伊勢の神仏もおられた。

 どちらの神仏も阿呆のおねだりに許可を出された。



 どうも晃は特殊能力もあってか、神仏のお言葉や感情のようなものを受信してしまうらしい。さすがは『火継の子』。

 それもあってか、テンション高くなる神仏のテンションに晃も『引っ張られた』。

「もっと」「もっと」と望まれる皆様に、晃自身も「もっと」「もっと」となってしまった。


 結果、何度も何度も『まぐわい』を行なうこととなった。


 観客の皆様のテンションは爆上がり。酔っ払い状態の方が多数出た。

 何度も混じる霊力に、その質に、皆様大興奮され、やんややんやと大騒ぎになった。


 そんな何度も求められて、普通の人間の体力と霊力しかない私が()つわけがない。

 早々に「もう無理!」とギブアップを宣言したのに、興奮状態の阿呆は回復をかけてきやがった。


 晃と私では元々の基礎体力が違う。霊力の『(うつわ)』の大きさも違う。

 興奮して暴走状態になった阿呆には私を気遣うことはできず、ひたすらに求められてついには意識を失った。


 目が覚めてからも求められた。

 晃のアイテムボックスに入れていた竹さんの水とおにぎりでどうにか霊力と体力を補充したと思ったらすぐに晃が求めてきた。


 弱ったら回復。

 意識を失って目覚めたら竹さんの水とおにぎり。

 そうして求められる。

 そんなことを何度も何度も繰り返した。


 暴走した阿呆のせいで、私は文字通りしゃぶりつくされてボロボロにされた。



 阿呆の隙をついて主座様に救援要請を出した。


 主座様には晃と付き合い始めた頃に『救援要請用の札』を渡されていた。

「緊急用の札です。危険を感じたら遠慮なくすぐに飛ばしてください」

 そう言われて、ずっとお守りがわりに持ち歩いていた。

 竹さんからお守りをもらってからは、その袋の中に一緒に入れていた。


『まぐわい』にあたって竹さんのお守りは外して手の届くところに置いていた。紐で首が締まるとあぶないからね。

 晃も同じようにお守りを外して、並べて置いておいた。

 それをどうにか取り出し、かろうじて残っていた霊力を必死で込めて札を飛ばした。


 届くかどうかわからなかったけど、うまく届いたらしい。



『神々の世界』ではもう三日は経っていたけれど、私の救援要請が主座様に届いたのは襖を閉めてすぐのことだったという。


「タスケテ」のメッセージに主座様も一緒に聞いたアキさん千明様も色を失った。

 あわてて主座様が菊様と守り役様全員に札を飛ばした。

「ひなさんから救援要請が来ましたけれど、どういう状況ですか!?」


 守り役様達からは『神々の世界』のナカのことは視えない。

 陣をぐるりと回って抱き合った途端に姿を消した私達にホッとしたところで主座様からそんなメッセージが届き、守り役様達もびっくりしたという。


 唯一状況を把握していたのは菊様。


 そう。菊様はちゃんと状況を把握していた。

 神仏がテンション爆上がりで大喜びして、酔っ払いの大宴会もかくやの大騒ぎをしているのも。

 晃がそんな神仏のテンションに引きずられて暴走しているのも。

 私がしゃぶりつくされてボロボロになっているのも、ぜーんぶ把握していた。


 把握した上で菊様は喜んでいた。

「これは予想以上だ」と。


「これなら『災禍(さいか)』の『運』を超えられる!」


「まだ死なないから大丈夫! もう少しがんばりなさいひな!」


 そうして私は放置された。



 事態を知った白露様が菊様にきつくきつくお説教をしてくださり、菊様はしぶしぶ神々に終了を宣言された。

 神仏も名残惜しくされていたけれど、守り役様達がそろってお説教してくださり、どうにか解散となった。


『神々の世界』から『こちら』に戻った私を見るなり白露様が悲鳴を上げられた。

 そのときには菊様の『異界』も結界も解除されていたので、襖の外にまで悲鳴が届いた。

 それで主座様が襖を開けられ、同じく私を視界に入れたアキさん千明様も悲鳴を上げられた。


 すぐさま蒼真様が治癒をかけてくれ診察をしてくださった。

「絶対安静」を言い渡された。


 私をこんなことにした阿呆は皆様から寄ってたかって説教された。

「ゴメンナサイ」「ゴメンナサイ」と何度も謝っていたけれどどなたも許すことはなかった。


 唯一菊様だけが「でかした」と晃をお褒めになった。

 その菊様は白露様にきつくきつく叱られておられた。



 主座様のおかげでどうにか救われた私は、結局菊様の『異界』でさらに三日を過ごした。

 蒼真様と白露様が付きっきりで世話をしてくれ、文字通りベットの住人としてひたすらに眠った。


 ようやく回復したところで『異界』を出て、転移で吉野に連れて帰ってもらった。




 約一週間『異界』で過ごした私達。

 吉野に戻ったらまだ出発した夜だった。


「ごめんねひな」


『神仏に引っ張られないように』と三日間守り役様と主座様による再修行をさせられていた晃がうなだれた。

 が、すぐに顔を上げ、決意の込もったまなざしをまっすぐに向けてきた。


「次はもっとがんばるからね!」


 駄目だこいつ反省してない!

 しばき倒して説教しておいた。




 後日。

 あちこちから話を聞いた主座様が教えてくださったところによると。


『神々の世界』での三日三晩にわたる『まぐわい』に大興奮でテンション上がりまくった神仏をはじめとする皆様は、テンション高く宴会を催されていた。肴はもちろん私達。


 私達の霊力で酔った状態になった皆様は、お供えしてあった安倍家からの供物もたいらげた。

「酒屋一軒の一年分は用意していたんですが」

 どこに? はあ。祭壇の両横の供物台に陣が展開してあった。その陣で別棟の倉庫と繋がっていたと。

 高霊力保持者なら勝手にいくらでも取り出せると。

 は? 繋げた倉庫はひとつじゃない? いくつも? それが全部、カラになってた!?


 お酒をはじめとする供物は全てなくなっていたという。



 私達の『まぐわい』によって奉納される霊力。

 安倍家からのお酒や食べ物。

 酔っ払ってテンション上がりまくった神仏は、その勢いで全ての方が私に『願い』どおり『強運』を授けてくださったという。


 よっしゃあぁぁぁ!!

 それが本当なら、死にそうな目に遭った甲斐があるというものです!


「それだけじゃないんですよ」


 なんと主座様が聞き出したところによると、その『強運』を授けられたのは私だけではないという。


 最初の菊様の予測では『災禍(さいか)』を上回るほどの『強運』となると、どんなにレアな奉納でもどれだけたくさんの神仏が集まっても「ひとり分にしかならないだろう」とのことだった。


 だからこそ私が『願い』、私ひとりに『強運』を授けてもらうように願った。

 欲張って「姫達にも!」「霊玉守護者(たまもり)みんなにも!」なんて対象人数を増やしたら、運が分散して結局は『災禍(さいか)』に届かない可能性が高かった。


 私ひとりに『強運』を授けてもらい、その私が作戦立案をする。

『私が考えて計画した作戦』だから、私にかけられた『強運』が仕事をする。


 実際、吉野の奉納舞を行っただけで、私とタカさんが作戦立案していた『バーチャルキョートへの侵入』が成功した。

 それまでなにをしてもどれだけ考えても無理だった事案が、たまたまタカさんとトモさんのふたりで挑戦したら、信じられないくらいあっさりとクリアできたという。


 伊勢の奉納舞のあとには『バーチャルキョート』の不正レベル上げに成功した。

 竹さんと黒陽様から話を聞き出したトモさんが作ったシステムがうまく動いたらしい。


 竹さんも黒陽様もそんなことがあったことをすっかり忘れていたのに「そういえば」と突然思い出したという。

「間違いなく奉納舞の効果でしょう」と主座様はおっしゃった。菊様も同意見だった。


 私ひとりに『強運』を授けてもらう有用性が証明された。

 だから今回の『まぐわい』でもそう『願った』。


 実際お集まりになった神仏や神使、『(ヌシ)』といった方々――もう『神様達』でいいわね。神様達は私ひとりに『強運』を授けてくださった。

 それで『終わり』のはずだった。


 暴走した阿呆により何度も何度も『まぐわい』が行われ、霊力が献上された。

 その量。その質。

 神様達がお喜びになるには十分だった。

 やんややんやと喜び大騒ぎになり、テンション高く私に『強運』を授けられた。

 そりゃあもういっぱいいっぱいに授けてくださった。

「こんなにも強い『強運』持ってる人間、見たことない」と菊様がおっしゃるくらいに付与された。


 私がカンストしたとわかった神様達が次に目をつけたのが晃だった。

「『この男を守りたい』という『願い』のためにこの娘は『強運』を求めた。

 ならばこの男にも『強運』を授けたらいいじゃないか」


「それはいい!」「違いない!」やんややんやと神様達はノリノリで晃にも『強運』を授けられたという。


 それでもまだ『まぐわい』は続く。宴会も続く。

 テンション上がりまくった酔っ払い共はノリノリで私と晃にいろんなものを付与した。

 それでもまだイケると神様達は今度は姫達に目をつけた。


「『この男を守る』ために『災禍(さいか)』をどうにかしたいと『願う』ならば、姫達に助力するのは必定」

 どなたかがそう言い出した。

「そうだ!」「そうだ!」とノリノリになった神様達は競うように姫達や守り役様達にも『強運』を授けられた。


 ………なんかアレですね。

 小学生男子が「おれこれできるぜー」「おれなんかこんなことできるぜー」って感じに阿呆なこと競い合う感じに似てますね……。


「ああ。まさにそんな感じだったらしいですよ」

 マジか。ノリで『強運』付与すんのか。


「それだけ献上されたふたりの霊力が素晴らしかったということのようですよ」


 主座様はそう説明してくださった。


 それだけでなく、竹さんの『運気上昇』のお守りや、吉野と伊勢の奉納舞で授けられた『運』も仕事をしたんだろうと主座様は推察された。


 なるほど。確かに。

 それらの『運気上昇』が仕事をして、運良く私達の霊力が良質に混じり高められ、神様達にウケた。

 運良く神様達のテンションが爆上がりしてウチの阿呆が暴走した。

 そうして運良く私達だけでなく「姫達にも『強運』を」という流れになったらしい。



 神様達が小学生男子のノリで次々に『強運』を授けていく、その一連の流れを菊様は視ていた。

 晃のアイテムボックスに竹さんの作った水とおにぎりが入っていることも、それを晃が目覚めた私に与えていることもちゃんと確認した上で、菊様は私を放置した。


 まあね!? 私が逆の立場だったとしたら同じようにするとは思うけどね!?


 私に続き晃まで幸運値カンストし、神様達は「私はこの姫に」「では儂はこの守り役に」とご縁のある方々に『強運』を授けていったという。

 分散したのは私の『願い』があやふやだったから。


 晃は主座様直属だから、主座様が姫達に協力する以上『災禍(さいか)』との戦いに関わることになる。

 だから晃を長期間戦いにさらさないために、姫達が四人揃っている今代(いま)災禍(さいか)』との戦いに決着をつけたい。

 私はそう『願った』。


 その『願い』では『誰』に『強運』を授けていいかが曖昧(あいまい)だった。

 それで神様達それぞれが『この者』と思った人物に加護を授けられた。

 具体的に『この者』と思いつかなかった方は加護を授ける方に便乗して授けてくださった。


 ものすごい数の神様達が授けてくださった『強運』だけど、やっぱり分散したからか、もうその頃には私がボロボロになって最初ほどの霊力の献上とならなかったからか、姫たちと守り役様達の幸運値はなかなかカンストにはならなかった。


「もうちょっと!」「せめて私だけでも!」と菊様が粘っていたけれど、残念ながら私が主座様に救援要請を出してしまい強制終了となってしまった。


「もーちょっと粘りなさいよ」と私に言った菊様は白露様にお説教をされておられた。



 それでも姫達と守り役様の幸運値は「かなり上がった」らしい。


「期待以上の働きをしてくれました。ありがとうございますひなさん」

 主座様がお褒めくださった。

 一緒に話を聞いていた晃が「おれは?」と首をかしげたが「お前は反省しろ」と怒られていた。

「えー! なんでー!?」じゃない。反省しろ阿呆。



 残念ながら竹さんの幸運値はそこまで上がらなかったらしい。

 あの方『災禍(さいか)』の影響強いらしいからね。

 今回もそんな、言ってみればアンラッキー値が仕事して、なかなか幸運値が上がらなかったんでしょうね。


 それでも竹さんも少しは幸運値が上がったようだと聞いてうれしくなった。

 元々もらえるはずのなかったものだ。

 少しでも授かったのなら彼女の助けになるだろう。



 さあ。ここからは私自身が頑張る番。

 どうにか七月十七日までに再びデジタルプラネットに行って、保志氏に会う。

 検討して検証して、作戦を立案する。

 大丈夫。そのために必要な『強運』は授かった。

 晃のために。晃を守るために。

 どんなことでもやってやる!

ひなの暗躍はまだまだ続きますが、ここで一旦区切ります。

明日の閑話を一話挟んでトモ視点に戻ります

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