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第百十八話 おねだりのその後

 タカさんと話をして「おやすみ」と別れたあと、すぐさま彼女の眠るベッドに潜り込んだ。

 ゴソゴソしても彼女も黒陽も眠ったまま。

 そのことに安心して、彼女を抱きしめた。


 ああ。溶ける。癒やされる。

 ぬくもりが。寝息が。鼓動が。

 彼女が『生きている』と教えてくれる。


 俺の『半身』。俺の唯一。

 ずっとこうして抱きしめていたい。

 ずっとそばにいたい。


 そっと重ねた唇を離すと、彼女がちいさく微笑んだ。気がする。

 かわいくて愛おしくてちゅっとバードキスをして「おやすみ」とささやいた。


 そうしてまた深く深く眠りに落ちた。




 夜が明けた。


『バーチャルキョート』に侵入してタカさんと話し合って、と、昨夜はかなり濃い夜になった。

 いつもより遅くにベッドに入ったのに、目が覚めたらいつもより回復していた。


 蒼真様が言っていた。『半身』は互いを補い合うと。

 彼女にくっついていたことで霊力が循環し、回復したらしい。これならもう一回くらい侵入できそうだ!


 とはいえ、もう毎朝のヒロとの修行の時間になる。

 愛しいひとをぎゅうっと抱きしめて堪能してからそっとベッドを抜け出した。



 ヒロと修行して。

 彼女と黒陽が目覚めるまで『バーチャルキョート』プレイして。

 目が覚めたら『おはよう』のキスをする。


 朝飯食って。

 後ろから抱き込んで一緒に『バーチャルキョート』の検証して。一緒に昼飯作って食べて。彼女を寝させて。


 しあわせだ。しあわせすぎて死にそうだ。


 黒陽にも昨夜のタカさんとの話を説明した。

 どれだけ強くても『バーチャルキョート』のレベルに合わせられる可能性に、黒陽も難しい顔で(うな)った。

 タカさんとデータをいじろうとたくらんでいることをバラすと「よろしく頼む」と頭を下げてきた。



 その黒陽も絶好調だという。

 これまでは竹さんが夜中に目覚めると一緒に目を覚ましていた。

 いつ竹さんが出歩くかと心配し、弱っていく竹さんに心を痛め、深く眠るということがなかったらしい。


 それが『半身』である俺が竹さんにくっついて一緒に眠っていることで、彼女は夜中起き出すことなく深く眠るようになった。

 俺がくっついているから体調も回復に向かっている。生理による不調もあれからはない。


 それで黒陽も安心して眠れるようになった。



 それからは俺達霊玉守護者(たまもり)に修行をつけるのは夕方に時間停止の異界の中でするようにして、竹さんがベッドに入るのに合わせて一緒に寝るようになった。

 以前は竹さんが寝てから『夜の報告会』に顔を出すこともあったと聞くが、今は黒陽も深く深く眠っているので途中で起き出すことがない。

 結果、『夜の報告会』に出ない日数を更新している。


 そうやって深く深く眠るからだろう。黒陽は以前にも増して強くなっている。

 霊力の量は変わらない。が、その使い方の精度が恐ろしく高くなった。

 術の展開。操る式神が繰り出す剣術。そのどれもが『むこう』の師範連中が束になってかからないといけないレベルで、毎回毎回けちょんけちょんにされている。


 そんな己の変化に、黒陽自身が一番驚いていた。

 そして楽しそうに俺達に修行をつけてくれる。

 ……『俺達の修行』だよな?

 自分が楽しいからやってるだけじゃないよな?

 なんで目を合わせないんだ黒陽。なんか言え。



 絶好調なのは黒陽だけではない。

 竹さんも徐々に調子を戻していった。


 生理が終わった途端に「もう元気です!」と宣言した。

「なにをすればいいですか!? お水つくりますか!?」

 ふんす! とやる気に満ちているのかわいすぎ。

 だから「ちょっと考えたいことがあるんだ」と『バーチャルキョート』のデータ改ざんのためのシステム構築の相談をしてみた。


 生真面目な彼女に『不正なレベル上げをたくらんでいる』なんて言ったら「ダメです!」と怒るに決まっている。

 だからあくまでも『バーチャルキョート』に使われている術式のこととして聞いてみた。


「例えば封印や結界みたいなので、対象の能力を制限することはできるかな?」

「逆に、対象の能力を上げることはできないかな?」


 黒陽はなんのことかわかっているので、さらに具体的なイメージを竹さんに伝えてくれた。

 そうして、ああでもないこうでもないと黒陽と竹さんは頭をひねり術式を検討していった。

 途中ちょいちょいトンデモナイ話が聞こえてきたが、()えてスルーしておいた。


 昔『災禍(さいか)』の宿主を調べているときに侵入した話は『バーチャルキョート』侵入にに活かせそうだった。

 ダミーを用意して。ふむふむ。で、なるほど。そう術を展開したのか。なるほどなるほど。


 話しながら彼女も黒陽も色々なことを思い出しているようだった。

「そういえばあんな術もあった」「こんなものも作った」

 本人達も忘れていたそんな話を議事録にまとめる。

「試してみよう!」と言い出したので実験に付き合う。

 黒陽も竹さんも絶好調らしく、難しい術も再現できたと喜んでいた。



 術の検討をしたり。

 実験で術を使ってみたり。

 俺と黒陽の戦闘訓練に彼女も付き合ってくれたり。

 元気になった彼女と相変わらずずっと一緒に過ごしていた。




 本人は『元気になった』と言っているが、実際そう見えるが、夜は変わらず一緒に寝ている。

 うっかりでお人よしな彼女はうっかり俺にほだされて一緒に寝始め、今ではそれが『当然』になったらしい。


「もう元気になったから一緒に寝る必要はない」なんて突っぱねることもできるのに。うっかりだなぁ。

「童地蔵抱いてひとりで寝ろ」なんて言われても仕方ないのに。お人よしだなあ。

 そのままうっかりで在ってくれ。俺の手玉にとられていてくれ。


 ニコニコと彼女を愛でる俺に、思考を読んだらしい守り役がため息をついていた。



 彼女は俺が風呂から上がるまでベッドで起きて待ってくれている。

『待ち時間』と認識しているからか、本を読んでのんびりしていると黒陽が教えてくれた。

 少し前までは本を読むことはなかった。

 それだけ彼女に余裕ができたんだろう。

 だからわざとのんびり風呂に入り、のんびり歯磨きをしてから彼女の部屋に向かう。


「おまたせ」と声をかけるとにっこりと微笑んでくれるようになった。かわいい。

「じゃあ、寝ようか」と一緒の布団に入って彼女を抱きしめる。

 そうしてしばらく他愛もない話をする。

 ときには昔の話をしてもらう。

 マイナス思考が顔を出したらすぐさま叩き潰す。


 あの暴走のあと、晃に言われた。

『とにかく吐き出させてなぐさめるしかない』

 ひなさんにも言われた。

『なるべく前向きになるように声掛けしてあげろ』『できれば楽しいこと、面白いことを話してあげて、昔の記憶に目を向けないようにしろ』


 だから、ベッドに入って彼女が眠るまでの間を『おしゃべりタイ厶』にしている。

 一緒に晃達の話を聞いた黒陽もそれを理解していて、時々話を向けてくれる。

「そういえばあんなことが」「こんなこともありましたよね」なんて声をかけられて、俺の愛しいひとは生真面目に思い出して教えてくれる。


 時には辛かった話も聞く。

『吐き出させろ』のアドバイスに従い、なるべく全部吐き出させる。

「つらかったね」「がんばったんだね」「話してくれてありがとう」そう言って抱きしめる。頭を、背中をなでる。キスをする。

 そうしてポンポンと背中を叩いているうちに彼女は眠りに落ちていく。

 その表情が穏やかに見える。

 少しでも彼女を癒せたらいいんだが。

 ぎゅうっと抱きしめて「おやすみ」とささやきキスをして俺も眠りに落ちる。


 彼女を抱いて一眠りしたら頭スッキリパワー満タンになる。

 起き出してタカさんのところに行き、ふたりで『バーチャルキョート』の不正レベル上げに取り組む。

 ああでもないこうでもないと話し合い実際攻撃を仕掛ける。

 少しずつ少しずつ、できることから取り組んでいった。




 その日の夜はひなさんと晃の話が出た。

 ふたりがなんかやってるらしく、黒陽も補助に呼ばれて留守だった。

「ふたりきりだからといって調子に乗るなよ」と釘を刺してから黒陽は出かけた。

 わかってます。まだ殺されたくはないので。自制します。


「ひなさんがね。晃さんのことを『ウチの阿呆』って呼ぶでしょう。

 あれが、なんか『いいな』って思うんです」


 俺の腕の中でクスクス笑いながらそんなことを言う愛しいひと。かわいい。


「『阿呆』って呼ぶのが?」

「『ウチの』って呼ぶのが」


 俺の確認に困ったように微笑んで、言葉を重ねる。


「ひなさんにとって晃さんは『身内』なんだなぁって、思うんです。

 それって、なんだか『恋人』とか『半身』とかよりも、もっともっと『近い』カンジがして。

 なんだか、『いいなぁ』『素敵だなぁ』って、思うんです」


「ふーん」


 なるほど。そう説明されると、確かにな。

 あのふたり生まれたときから一緒だし、家族同然に育ってるし、確かに距離が近いよな。


『ウチの』


『俺の』とはまた違った(おもむき)があるな。これはこれでイイな!


「じゃあ、貴女も俺のことそう呼んだらいいんじゃない?」


 そう提案してみたら「は?」と目をまるくする彼女。かわいい。


「『ウチの』って」

 ニヤリと笑っておねだりしてみると、彼女は困ったように眉をひそめた。


「『ウチの』、……ナニ?」

「うーん、なんだろ? ナニ?」


 コツンと額を合わせて目をのぞき込む。

 彼女は生真面目に考えはじめた。


「トモさんは『阿呆』って呼ぶのは違うし……。あとひなさんはなんて呼んでらしたっけ……。

 あ。そうだ。『ウチのわんこ』って呼んでらした!

 でも、トモさんは『わんこ』じゃないし……」


 うーん、うーん、とじっと俺を見つめながら悩む彼女がかわいすぎる!


「俺は貴女なら思いつくよ」

「!! なに!?」

「『ウチのかわいいひと』」

「!!」


「『ウチの愛しいひと』でもいいよ?」

「――そ、そそそ、そ」


 赤くなって逃げようとするのかわいすぎ!

 ぎゅうっと抱き寄せ頬ずりする。

 なんでこんなにかわいいんだ俺の『半身』は!

「かわいい」

 かわいくて頬にキスすると「ひにゃっ!?」と跳ねる愛しいひと。ああもう! かわいい!


「――もう! からかってるでしょ!?」

「からかってないってば」

「じゃあなんでそんなにニコニコしてるんですか!?」

「貴女がかわいいからだよ?」

「な、な、なな」


 真っ赤になってぷるぷる震えるのが愛おしすぎて勝手に唇にキスをした。

 そうしてぎゅうっと抱きしめた。


「好きだよ」


「大好き」


 顔を見なくてもわかる。俺の肩でぶすうっとふくれてる。

 恥ずかしくて照れくさくて言葉が出ないらしい。かわいい。


「俺の『半身』。俺の唯一。俺には貴女だけだ」

「甘えさせて。俺、貴女に甘えるの、すっごくしあわせ」


 そう言い聞かせながらもスリスリと頬ずりをし彼女を堪能する。

 そんな俺に彼女はされるがまま。文句も言わず大人しくしてくれているから調子に乗ってさらに抱きしめてしまう。しあわせだ。しあわせが過ぎる。


「……思いつきました」

 ぽそりと彼女の声が聞こえた。

 そっと腕をゆるめると、赤い顔でふてくされたような彼女がじろりとにらんできた。かわいいよ?


「トモさんのこと」

「ん?」

 なんのことかと視線で問えば、彼女はきっぱりと告げた。


「『ウチの甘えんぼさん』です」


 ドヤァ! と言いたげなのかわいすぎ!

 めずらしい表情と態度に胸を射られる。

 かわいさに叫び出しそうになるのをどうにか口元を押さえてこらえる。


 それが俺が考えているように見えたらしい。

「どうですか!?」とどこか自慢げに彼女が聞いてくる。だからかわいいんだって!


「――なるほど」

 どうにか言葉を絞り出すと、彼女はムフー! と得意げに笑った。


 いつも自信なさげな彼女のそんな様子は初めてで、俺に気を許しているのがしっかり伝わって、うれしくて愛しくて胸がキュンキュンと苦しくなった。


 どうにか精神を落ち着けて、改めて彼女の目を見つめた。


「つまり、もっと甘えてもいいってことだね?」

「なんでそうなるの!?」


 ギャフン! てこんな顔か。かわいすぎか!


「ち、ちがうの! そうじゃないの!」

「なんで!? なんでそうなるの!?」


 アワアワと取り乱す彼女がおかしくてかわいくて、声を立てて笑った。

明日からまたしばらくひなの暗躍をお送りします

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