表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
219/572

第百十一話 生理二日目

タイトルどおりのおはなしです。

ご不快な方はとばしてください。

生理を理由にイチャイチャしているだけです。

「竹ちゃん、生理だって?」


 タカさんの無神経な言葉に竹さんがグッと飲み物を詰まらせた。

 けほっ、けほっと咳き込む背中をなでてやりながらタカさんをにらみつける。


 俺ににらまれてもタカさんは平気な顔で笑っている。

「大変だなあ。明日はおとなしく寝ときなよ?」

「い、いえ。そういうわけには…」

「竹ちゃん」

 アキさんのやさしい声に竹さんが顔を向ける。


「確かに生理は病気じゃないけど、人によって重かったり軽かったりがあるわ。 

 もしもつらいようなら、無理をせずにおとなしく横になっておくのよ。

 それだけでもずいぶんちがうから」


 その言葉に大人しく「はい」とうなずく竹さん。

 俺も竹さんの側にいるうえで知っておかなくてはいけないだろう。しっかりと記憶にとどめておく。



 今日は千明さんがケーキをもらってきた。

 双子はデザートとしてケーキを食べ、すでに寝た。

 御池の安倍家。恒例の夜の報告会が終わり、ケーキを出してもらった。

 人数が多いからソファとテーブルに分かれてお茶をしていたときにタカさんがペロリと問題発言をしたのだった。



「痛み止めもあるから。あとで渡すわね」

「はい」

 アキさんにいろいろと教えてもらい、竹さんも落ち着いているようだ。よかった。


「痛み止めもいいけど、トモくんにあっためてもらったらいいわよ」

 突然千明さんがそんなことを言いだした。

 意味がわからなくて竹さんとふたり「は?」と聞き返してしまう。


「結構効き目あるわよ」

 千明さんがそう言ってにっこりと微笑む。


「……ええと。その『あっためる』というのは、どうやるの?」

 一応聞くだけ聞いておこう。なにがどう役に立つかわからないからな。

 すると千明さんは当然のように椅子に座るタカさんの膝に乗った。


「こうやって、このあたりに手を置くの」

 そうしてタカさんの両手を取り、自分の下腹部に当てる。

 タカさんも当然のようになすがままになっている。

 千明さんはさらにタカさんの手の上に自分の手を添えている。


「『手当て』って言うだろ? 痛いところに手を当てるだけでも治ったりすることがあるんだよ」

「生理のときはあっためるといいから。

 男の人は体温高めの人が多いから、手を当ててもらってるだけでじんわりあったかくて楽になるわよ」


 夫婦がいちゃいちゃしているわけではないらしい。

 そうか。『手当て』か。確かによく聞くな。


「まあ、治癒術の一種だな」ハルもそんなふうに言う。


 隣の竹さんをちらりと見ると、生真面目な様子で話にうなずいていた。

 ………これは………『お膝に抱っこ』、……イケるか!?



 半覚醒状態ではしょっちゅうやっているが、覚醒時にはそんなことさせてもらえない。

 お姫様抱っこでの移動もほとんどさせてもらえない。

 遠慮がちで恥ずかしがりやで生真面目なこのひとらしいとは思うけれど、仕方ないとは理解しているけれど、本当は覚醒時ももっとイチャイチャしたい。

 特にあの暴走で一週間ずっとくっついてからは、少し離れただけでも物足りなく感じるようになってしまった。


 真隣でべったりくっついていたい!

 俺の膝に座らせて抱え込んでいたい!

 キスしたい!


 そんな邪念を見せたら彼女が逃げ出すのがわかっているから、大人しく紳士的に振る舞っている。

 でも本音はイチャイチャベタベタしたい。

 まさか俺がこんなこと考えるようになるとは。まさに『呪い』。

 じーさんの実家の静原家に伝わる『静原の呪い』は、孫の俺にもしっかり伝わっているようだ。



 千明さんの講義を生真面目に聞く竹さんに、今度はアキさんから声がかかった。


「私もよくやってもらうわよ。ねー。オミさん」

「そうだねえ」

 そう言ってオミさんもソファの隣に座ったアキさんの下腹部にそっと手を当てる。


「こうやって添えるだけでも違うらしいよ」

「オミさんの手は大きくてあったかいから、楽になるのよ」


 うふふ。と笑うアキさんにデレデレのオミさん。

 ふたりぴったりくっついて寄り添っている。

 はいはい。いちゃいちゃするのは後でしてくれ。

 

 だが、千明さんもアキさんも生理のときには夫に手を当ててもらっていると聞いて、竹さんが俄然乗り気になったのがわかった。


「治癒術かけたらいいだけじゃないかなぁ…」というヒロのつぶやきは耳に入らなかったらしい。

 ヒロ。余計な事言うな。黙っとけ。


 他にもいろいろな話を聞いて離れに戻った。

 話をしている間ずっと千明さんがタカさんの膝の上にいたことは誰一人指摘しなかった。


 あとでヒロにポツリと言ったら「ウチの夫婦、二組共いっつもあんなだよ」とげんなりしたような答えが返ってきた。




 翌日。

 いつもどおりに御池で朝食を済ませ、離れに戻った。

 と、竹さんがちょっと顔をしかめたのがわかった。


「竹さん? お腹痛い?」

 そう声をかけると「……大丈夫です」と弱々しく微笑んだ。


 今、間があったよ。

 痛いんだな?


 仕方のないひとだなぁ。あれだけ言ったのに。

 俺の話を理解していないらしいひとには何度でも言い聞かせないとな。


「竹さん?」


 ちょっとムッとして彼女に迫ると、彼女は目に見えてうろたえた。

「は、はひ」なんて目をそらして言っても許さないよ。


 俺の肩の守り役が「トモ」ととがめてきたが無視だ。

 彼女を追い詰めて壁ドンで囲い込み、逃げられないようにしてからまっすぐに目を見る。


「トモ。抑えろ」

 うるさい黒陽。黙ってろ。


 彼女が視線をそらすから頬を両手ではさんで「ちゃんと俺を見て」と注文すると、おそるおそる目を合わせてきた。


 くそう。かわいいんだよ!

 許しそうになるけど、ここは厳しく!


「いつも言ってるでしょう? 

 俺には本当のこと言って?

 嘘つかれるのも、ごまかされるのも、俺、かなしい」


 ホントは『ムカつく』というのがぴったりな表現だと思うのだが、そんなこと言ったら彼女はビビってしまう。

 それよりも『かなしい』と言って情に訴えたほうが彼女には効果がある。


 予想どおり『かなしい』と言ったらあわあわし始めた。よしよし。


「俺には本当のこと言って?

 嫌なことも、つらいことも、言いにくいことも、ちゃんと伝えて。

 俺は晃みたいに『触れただけで竹さんが何考えてるかわかる』なんて能力ないから、言ってくれないとわからない」


 そこまで言うと「……ごめんなさい……」とシュンとする愛しいひと。


「ちゃんと言ってくれる?」

「……イヤじゃない?」

「ないよ」

「迷惑じゃない?」

「ないよ」


 何度も何度も繰り返したやりとりを繰り返す。

 何度でも何度でも言ってやる。

 わかるまで、理解するまで、納得するまで、何度でも。


 思いを込めてじっと見つめたら、彼女もようやくわかってくれたらしい。

 しぶしぶと、目をそらしてぽそりと言った。


「……ちょっと、一瞬、お腹痛いかなあって、思っただけ……。

 でも! でもホントに一瞬だったの! 今はもう平気なの!」


 あわあわとあわてて言うのかわいい。

 かわいいけど、ここは心を鬼にして!


「本当?」

「ホント!」


 コクコクと首を振るのかわいい。

 一生懸命な様子にほっこりする。

 そうしてふと、思いついた。


「――ちょっとでも痛かったなら、昨日聞いた方法試してみよう」


「え?」ときょとんとする彼女を抱き上げ、椅子に移動する。

 俺が椅子に座り、その俺の膝に彼女を横座りに座らせる。


「と、トモさん!」

「ほらじっとして」


 あわあわと暴れる彼女の下腹部に横から手を当てる。


「このへんかな? どお?」

 彼女も昨日の話を思い出したのだろう。

 生真面目な顔で自分の身体の様子をみている。


「……もうちょっと、下……?」

「このへん?」

「……そう、かも」


 くっそおぉぉぉ! かわいいぃぃぃ!

 俺にすっぽり収まって安心しきってる!

 横抱き状態で膝に乗って、こてん、て頭を預けてくる!

 べったりくっついているだけでもあったかくていいニオイで満たされるのに、そんな甘えてこられたら、かわいくて仕方ないよ!


 俺の葛藤など一向に気が付かない彼女は目を閉じて俺にもたれかかり「ほぅ」とちいさく息をついた。

「……あったかくて……気持ちいい……」


「―――」


 立ち上がりそうになった邪念を必死で押し殺す。

 頭の中に素数を並べていく。うん。大丈夫。落ち着いた。

 肩の守り役がため息をついている。


 改めて腕の中の彼女を見つめる。気持ちよさそうだ。よかった。


「竹さん。今日は『おやすみ』にしない?」

「『おやすみ』?」


 俺の提案に彼女は驚いたように目を開けた。

 うん。とうなずき、にっこりと微笑む。


「今日は一緒にのんびりごろごろしよ」

「で、でも」


 具合悪くてもなにかしていないと落ち着かないらしい。生真面目だなぁ。仕方のないひとだなぁ。かわいいなぁ。


「『おやすみ』したくない?」

 そう問いかけるとコクリとうなずく。上目遣いかわいい。


「おなか痛いんじゃないの?」

「それは、……平気!」

「………本当に?」

「ホント!」


 必死で言いつのるのかわいい。


「……じゃあベッドで『バーチャルキョート』の動画見よう。

 リビング(ここ)で座って見るよりは楽だと思うから」

 そう提案すると「はい」とうなずく彼女。かわいい。


「それでいいか? 黒陽」

 一応守り役に確認を取ると「いいぞ」と答えが返ってくる。


「よし。決まり!」

 さっと彼女を抱いたまま立ち上がる。


「と、トモさん!」

「なに?」

「あ、歩きます! 下ろして!」

「平気だよ?」

「いいから! 下ろして!」


 しぶしぶ彼女を下ろすと明らかにホッとされた。

 抱いたまま移動したかったのに。くそう。惜しい。


 俺の部屋と彼女の部屋とどっちにしようかと話をして、俺の部屋に移動する。

「私の部屋だと寝ちゃいそう」なんて困った顔をする彼女がかわいかった。


 ノートパソコンを出してベッドの上に置く。

 ベッドの上で足を伸ばして座り、壁に背を預け「はい」と彼女に両手を差し出す。


「……え?」ときょとんとする彼女に説明する。


「昨日千明さん達が言ってたでしょう?

『腹に手を当ててもらっとけ』って。

 だから、はい。ここ、どうぞ?」


 てしてしと俺の伸ばした足の上を叩くと、彼女は目に見えて赤くなった。


「そ、そそそ、そんな」

「別に普通だよ。な。黒陽」


 しれっと肩の黒陽に同意を求めると、黒陽は一瞬ジロリとにらんできた。

 が、昨日の話し合いで竹さんの身体とココロの安定のために俺が甘やかすことが必要だと理解しているからだろう。

 しぶしぶながらも「……そうだな」と同意を示した。


 黒陽が認めたことで竹さんのハードルが下がったらしい。

 ちょっと表情から固さが取れた。

 もう一息。


「ほら、このほうが楽だから」

 そこまで言うとようやく「……それなら……」とベッドに上がってきた。


 どう座ればいいのか迷う様子に、さっさと腕を取り引っ張る。

「ひゃ」と短く悲鳴をあげるが構わず俺の足の上に座らせ、後ろから抱きすくめた。


 いいなこれ。抱きやすい。


 俺が竹さんを堪能していると、肩の黒陽がボソリとささやいた。


「あまり調子に乗るなよ」

「ハイハイ」と返事をし、彼女を開放する。

 目の前の耳が真っ赤になっている。かわいい。食べてもいいかな?


「……オイ?」

「ナンデモアリマセン」


 いかんいかん。しあわせすぎて邪念がダダ漏れてしまう。


 コホンとひとつ咳払いをして気持ちを入れ替え、少し足を広げる。

 彼女を俺の足と足の間に座らせるようにして、彼女のふとももの上にノートパソコンをセットする。


「見える?」

 モニタの角度を調節して見やすくして、動画を再生。


「竹さん、ノーパソ持っててね」

「はい」


 そして俺の両手は竹さんの下腹部へ。

 後ろからゆるく抱きしめる形だ。


「ここでいい?」

「はい」

「背中、俺にもたれてね?」

「……重くない?」

「ちっとも」


 そうしてやっと彼女は力を抜いて俺に身体を預けた。

 ああ。しあわせだ!

 なんだコレ。こんなバカップルみたいなことできるなんて思ってもみなかった!

 ありがとう千明さん! ありがとうアキさん!


 肩の黒陽が俺を見て呆れ果てているのがわかる。

 わかってるよ! ニヤけてる自覚はあるよ! でも治んないんだよ! 仕方ないだろ!? 好きなひと抱いてるんだから!



 しばらくそのまま三人で動画を見た。

 ああでもない、こうでもないと黒陽と話していたら、不意に彼女の手がノーパソから落ちた。

 どうしたのかと顔をのぞいてみると、気持ちよさそうに眠っていた。


「――このままでいいか?」

「お前は平気か?」

「全然平気」

 むしろどんと来い。



 そうして眠る竹さんを抱いたまま、黒陽と考察を重ねていった。

 目が覚めた竹さんがあわあわするのがかわいかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ