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久木陽奈の暗躍 35 パジャマパーティー

「さて。では早速話を聞こうじゃないですか」



 竹さんの部屋に入り、すぐにサイドテーブルにトレイを置く。竹さんにコップを渡して自分も手にする。

 ふたりでベッドの上に座り膝を突き合わせてそう言えば竹さんは「えと、その」と戸惑った。


「いつ『半身』てわかったんです?」

「ひなさん、私とトモさんが『半身』ってご存知なんですか!?」


 驚く彼女に「ええ」と微笑むと、彼女はパカリと口を開けた。


「南の『(かなめ)』のために晃達の霊玉をひとつにするって集まったでしょ?

 あのときにウチの阿呆が気付いたのを聞きました」


「そんな前に!?」

 驚く竹さんに「竹さんはいつ気付いたんですか?」と再度質問すると、ためらいながらも教えてくれた。


「……その、トモさんが、今日晃さん達が向かわれた『白楽の高間原(たかまがはら)』から帰ってこられた日、です……」


「なんで『わかった』んです?」

 このニブいひとがどうやって『半身』がわかったのかと聞いてみたら、竹さんはふてくされたようなすねたような顔でうつむき、そっと視線をそらせた。


「……その、トモさんが抱きしめてくださって……」

「は!?」


 え? 修行から帰るなり『抱きしめる』って。

 あのムッツリスケベ、なに修行してきたの!?


「あ! あの、あの!『鬼ごっこ』をしたんです!!」


 ……………意味がわからない。



 竹さんがしどろもどろに説明してくれたところによると。


 修行から帰ってきたトモさんは霊力量も増えて明らかに強くなっていた。

 連れて帰った蒼真様が『昔の自分レベル』と保証したことで黒陽様をはじめ皆様が『竹さん付きにしよう』と言い出した。


 でも竹さんは反対だった。

 自分のそばにいたらまたいつあの鬼のときのようなことが起こるかわからない。

 あんな、死にそうな目に遭わせたくない。

 トモさんを守りたい一心で反対してたのに、西の姫から『そばに置いておけ』と『命令』された。


 それでも抵抗していた竹さんにアキさんが提案したのが『鬼ごっこ』だった。


 なんでも安倍家でよくやる実力テストだという。

 審判員が逃げ、それを受験者がつかまえる。

 つかまえられたら合格。つかまえられなくても様子を観察していた別の審判員が合格を出すこともある。


 黒陽様と竹さんが本気で逃げたのに、トモさんはふたりをつかまえた。

 その確保されたときに、抱きしめられたと。


「自分でもよくわからないんですけど、トモさんが抱きしめてくださった途端に『このひとだ』って『わかった』んです。

『このひとが私の半分だ』って」


「わかります」

 しみじみと同意したら「わかってもらえますか!?」と竹さんが前のめりになった。


「理屈じゃないんですよね」

 コクコクコク! 竹さんが激しくうなずく。


「説明もできないけど、なんか『わかる』んですよね。わかります。私と晃も『半身』ですから」

 パアッと笑顔になるかわいいひと。


「で? 抱きしめてもらって、キスしました?」

「き!?」


 真っ赤になって飛び上がる竹さん。

 でもすぐにオタオタアワアワとあちこちに視線をさまよわせる。


《き、キス、は、あのときは、しなかった》


「そのときはしなかった?」


『視えた』思考からそう問いかけるとうなずく竹さん。


「じゃあいつしたんです?」


 言葉の使い方から『キスをしている』と判断してそう問いかけたら、竹さんはわかりやすく赤くなった。


《いつ!? いつだっけ!?》

《あのひとしょっちゅうキスしてくれるから!》


 ………あのムッツリスケベめ。

 竹さんの思念から『視えた』ところによると、トモさんはしょっちゅう竹さんを抱きしめてはキスしているようだ。

 口付けこそしていないものの、隙あらば耳に額に頬にとキスしている。


 別人か。


 ちょっと前まで『女なんか興味ありません』なんてスンッてしてたのに。なにこの豹変っぷり。さすがは『半身』。ウチの阿呆に通づるものがある。


「……ウチの阿呆もしょっちゅうキスしてきますよ」

 そうバラすとピョッと反応する竹さん。

 かわいい様子につい余計なことまでしゃべってしまう。


「しょっちゅうくっついてくるし」

「! トモさんもです!」

「ふたりきりになった途端イチャイチャベタベタしてきて」

「!! トモさんもです!!」

「叱ったら『ひながかわいすぎるのが悪い』とかわけのわからない理屈をこねて」

「! それ、トモさんも言います!!『かわいすぎて、つい』って」


 阿呆か。

 どうやらトモさんも『半身持ち』特有の執着を見せているらしい。


「私なんかが『かわいい』わけないのに、あのひと、すぐに『かわいい』『かわいい』言ってくれて。

『からかわれてる』って思ってたら『からかってない』ってすごく怒られて」


 シュンとする様子から相当怒られたらしい。

 トモさんがいつもの調子で怒ったら、そりゃあ竹さんにはこわかろう。


「なんでかわからないんですけど、あのひと、私の考えてることがわかるみたいなんです。

 精神系の能力者さんなのかと思って聞いたら『ちがう』っておっしゃるんですけど、それにしてはいつも見透かされて、怒られるんです」


 ……そんなにしょっちゅう怒られてるのか。かわいそうに。

 でも『視えた』様子によると、竹さんがマイナス思考を持ち出したときに怒られているようだ。

 それもあってこのひとの弱気やあの闇が薄まっているらしい。

 竹さんはかわいそうだけど、竹さんのためには怒られていたほうがよさそう。


「そんなに怒られてるんです?」

 たずねると真顔でうなずく竹さん。

 その様子がかわいくて、つい笑みがこぼれる。


「『半身』を怒るなんて、いけない男ですね」

 わざと憤慨したようにそう言うと、竹さんはわかりやすく動揺した。

「え、えと、えと」


《いけなくは、ない、と、思う》

《私のことを想って怒ってくれてるんだもん。私がダメな子だからいけないんであって、トモさんは悪く、ない、はず》


 どこまでも『半身』をかばおうとする竹さんがおかしくて、わざと質問をぶつけてみた。

「トモさん、こわいです?」

 竹さんはちょっと驚いたように顔を上げた。

 でもすぐにそっと視線をそらし、つぶやいた。


「……やさしいです」


 ハイハイ。ごちそうさまです。


 竹さん自身は認めていないけど、竹さんもかなりトモさんに惚れている。

 トモさんに抱きしめられキスされ構われることをうれしく思っている。


 これなら大丈夫。

 そう思えて、安心した。


「どんなところが『やさしい』んですか?」


 ニヤニヤと笑みを浮かべて聞いてみたら、竹さんは恥ずかしそうにうつむき、固まってしまった。


 かっっわいい~!!

 もう! こんなかわいいひと、からかい倒すしかないでしょう! 構い倒すしかないでしょう!!


「……その、ごはんを分けてくれたり……」

「ふんふん」

「いつも『大丈夫』って言ってくれたり……」

「ほうほう」

「ほっぺや頭をなでてくれたり……」


 そんなことしてますかあのムッツリ。普段からは考えられませんね。


 モゴモゴしていた竹さんだったけど、ハッとなにかを思い出して私に顔を向けた。


「トモさんやさしいんですけど、私の言うこと全然聞いてくれないんです!」

「ほう」


『半身持ち』が『半身』の言うことを聞かないわけないんだけど。

 そう思いながら話を聞いた。


「『あぶないからそばにおけない』って何回言っても聞いてくれないし。

『迷惑になる』っていくら言っても『大丈夫』って聞いてくれないんです」


 ……つまり、『半身』を守ろうとする竹さんに対して、やっぱり『半身』を守ろうとするトモさんが言うことを聞かないわけか。

『半身』を守るためなら聞かないだろうなぁ。


 そうは思ったが、口では「それは困ったひとですね」と言っておいた。


「トモさん竹さん好きすぎなんでしょ」

「はへ!?」


 おかしな反応をする竹さんがかわいくてクスリと笑ったが、竹さんはそれどころではないらしい。


《『好きすぎ』って!!》

《そうなの!? トモさん、私のこと『好き』なの!?》


 ……なんで信じないの。困ったひとねぇ。


《……ちがう。トモさんがいいひとだから私のお世話をしてくれてるだけだ》

《私なんかの『半身』になっちゃったから、仕方なくそばにいてくれるんだ》


 なんでそうなるの。ホント困ったひとねぇ。


「竹さんのことが好きだから、竹さんのためにならないことは聞かないんですよ」


 そう説明しても「……そう、なん、ですかね……」とうつむいてしまう。

 これはトモさんは大変だ。


「竹さんはトモさんのことどう思ってるんです?」

 あえて直球で聞いてみたが、竹さん顔を上げてきょとんとした。

 質問の意味がわからないらしく「『どう』?」と首をかしげたので、もっとわかりやすく聞いた。


「『好き』です?」


 その質問にようやく意味を理解したらしく、はっと息を飲んだ。

 そのまま視線をさまよわせながらぐるぐると考えをめぐらせる。

 そうして、ようやく答えを出した。


「……『好き』、です」


 でしょうね。竹さん、トモさんに惚れてますよね。好意をもってるの、丸わかりですよ。

 そう言いながらもまだ本人は自分のなかに芽生えている『恋愛感情』とか『愛情』とかを自覚していない。精神系能力者の私にはそれが『わかる』。


 竹さんは背負っているものが重すぎて、恋愛に目を向けることができない。

 向けられる感情をそのまま受け取ることができない。

 だからあんな『好き好き光線』の直撃を受けても理解できない。


「『半身』ていうのは、わかります?」

 そうたずねるとコクリとうなずく。


「抱き合っただけでひとつに溶けるような感じ、します?」


 コクコクとうなずく。さっきまでの迷うような表情でなく《なんでわかるの!?》と前のめりになっている。


「ウチも同じです」

 にっこりと微笑むと安心したのか肩がストンと落ちた。


「だからか知らないんですけど、しょっちゅう抱きついてきて。

 抱きつくだけならまだいいんですけど、すぐに胸やら尻やら触ってきて」


「!!」


 驚く竹さんにちょっとからかいたくなった。


「トモさん、しません?」

「しません!」

「えー。こんな豊満な胸を前に我慢してるんですかあのムッツリ」

「ひぎゃあぁぁ!!」


 むにっと竹さんの胸をもんだらバシッとなにかに弾かれた!

「ご! ごめんなさいひなさん! 大丈夫ですか!?」

 胸をもんだ両手がジンジンシてたのに、スッと痛みが引いた。竹さんが回復をかけてくれたらしい。


「大丈夫です。すみません。調子に乗りました」

「あ、あの、その」

「マンガでよくあるでしょ? 女の子同士胸触ったりって。それをしてみたんですけど」


《そういえば、ある》

《そっか。ひなさんに悪いことしちゃった》


 シュンとするかわいいひと。チョロいか。


「それにしてもさすがの触り心地ですね。これはトモさんもイチコロですね」

「な! な、な」


 それから赤くなる竹さんにウチの阿呆が普段ナニをやらかしているか話して聞かせた。


「こ、『恋人』は、そんなことしないといけないんですか」なんて涙目で震えるからかわいくていじめたくなる。

「『ごっこ』ならする必要ないと思いますよ」と言ったらあからさまにホッとしていた。


 壁ドンしてきたりお姫様抱っこしてくる話しかしてないんだけど。

 人前でやたら囲い込んできたり『好き』『好き』言いふらしてる話しかしてないんだけど。

 口にキスは当たり前で首やら胸元やらキスマークつけようとするとかしか話してないんだけど。


 本当の本当にやらかしている話を聞かせたらこの純真なひとはどうなってしまうんだろう。

 ちょっとどうなるか試したくなったけど、流石に罪悪感を覚えてやめておいた。


「そういうわけで、ウチも『半身』ですから。

 竹さんの気持ち、理解できると思います。

 困ったことや不安なことがあったら、いつでも言ってください」


 そうまとめたらかわいいひとはわかりやすくホッとした。


《ひなさんてすごい》

《やさしい。頼もしい》

《ひなさんに相談できるなら安心》


 そう思ってくれているのが伝わってきて気恥ずかしくなった。

 それでもどうにか余裕っぽい顔を作って、クスリと笑った。

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