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久木陽奈の暗躍 31 西の姫への依頼

 まさかの私に特殊能力が宣告された。

「得難い駒が手に入った」と菊様はお喜びだ。


「晃の『記憶再生』と合わせたらなんでも『視通せ』そうね!」

 のんきな守り役もきゃっきゃと楽しそう。

 やめてくださいよ。なんかオソロシイ予感しかしませんよ。


「あんたが『分析』するならば、なにかいい方法を思いつくかもしれない」

 菊様。期待していただくのはご勝手ですが。重いです。


「もっと磨けば私レベルになるかもしれないわ。がんばんなさい」

 そう言われてもなにをどうすればいいんですか。

 とりあえず「わかりました」と答えておく。



「で? 聞きたいことはそれで終わり?」


 うながされて姿勢を正す。

 そうだ。まだ終わりじゃない。


「ここからは相談に乗っていただきたいのです」


 そうして先日のデジタルプラネット訪問の話をした。

 あと一歩で社長のところに行けたであろうこと。

 竹さんのお守りに強く強く『願い』を籠めたけれど、足りなかったこと。


「どうすれば運気を上げることができるでしょうか」


『ホンのちょっと「運」が足りなかった』

 あのとき、白露様がそんなふうになぐさめてくださった。

 それがあれば保志氏に会えた。

災禍(さいか)』を特定し、晃を守れた。


 足りるようにするにはどうしたらいい?

 なにをすれば『災禍(さいか)』に届く?


 蒼真様から聞いた。

 竹さんの出生に関する話。

 おそらくは『災禍(さいか)』が関わっていたであろうこと。

災禍(さいか)』が己の封印を解くために『願い』を込め、生まれたのが竹さんであろうこと。


 だから竹さんのお守りでは『災禍(さいか)』に届かない?

 それとももっとナニカをしたら竹さんのお守りもパワーアップしたりする?


 タカさんも言っていた。

「こうなったら神頼みしかないんじゃないか」

 私も最近は『もうそれしかないかも』と思いはじめている。

 あの社長のところに行くには、社長が気まぐれにでも許可を出さないと行けない。

 その『気まぐれ』を起こすのが『運』。



 いつだったか、主座様に聞いた。

『神々が願いを叶えてくれる』ということについて。


 それは目に見えてわかりやすいものではない。

 たいていはホンのちょっとの『気付き』。

 普通ならスルーしてしまうことを神様がそっと指さしてくれる。

『これが「鍵」だよ』とヒントをくれる。

 それに気付くか気付かないか、活かせるか活かせないかはそのひと次第。


『鍵』に気付くか気付かないか。

 それが『運』と呼ばれるもの。


 そして。

『なんとなく』『気まぐれ』『たまたま』

 そんなふうに導いてくださるのも、神様の御業。

 それも『運』と呼ばれる。


『運気上昇』の術やお守りは、神様への声が届きやすくするものなのだともおっしゃっていた。

 普通の状態ならば他の声にまぎれてしまうような声を、マイクを持った状態にするのだと。

 そうして『ホンのちょっと』神様に手助けしてもらう。

『ホンのちょっと』の『気まぐれ』を導いてもらう。

『ホンのちょっと』の『気付き』をもらう。


 私は春休みに竹さんから『運気上昇』のお守りをもらった。

 私に自分の気配がつくことで災厄が降りかかるのを心配した竹さんがくれた。


 あの竹さんの高霊力で作られ、あの竹さんが『ひなさん()へ!』と祈りを込めたお守りは、主座様によると高額査定がつくシロモノと成っていた。


「『ひなさん専用』のお守りになっていますから。『ひなさんの願い』を叶えてくれるはずです」


 主座様はそうおっしゃった。

 そうして実際、私の『願い』に応えて、都合がよすぎるくらいの状況を引き寄せてくれた。


 それでも保志氏には届かなかった。

 晃を守るチャンスを得られなかった。


「どうにかして『運気』を上げたいんです。

災禍(さいか)』のチカラを弾き返すくらいの『運気』が欲しいんです!」


 グッと拳を握りしめ、前に乗り出した。


「お願いします! 教えてください!

 どうすればいいですか!? なにをすればいいですか!?」


 私の必死の祈りに、菊様はただ黙って私の視線を受け止めていた。

 その目に『落ち着け』と言われているようで、グッと歯を食いしばった。


「……竹さんのお守りに『願い』を込めました。

 それでも届きませんでした」


 強く『願い』を込めた。強く、強く。

 それでも保志氏をその気にさせられなかった。


『ホンのちょっとの運』があれば保志氏に会えた。

『宿主』と断定できたら姫と守り役様達が攻め込めた。晃は戦いにでなくてもよくなった。

 

 どうしたらいい?

 どうすれば晃は戦いに行かなくて済む?

 どうすれば『ボス鬼』の出現を防げる?


「別のお守りを作ってもらったらいいですか?

 それとも、別の方にお守りを作ってもらうようお願いしたらいいですか」


 思いついたことを口に乗せたけど、菊様は変わらず黙ったままじっと私を見つめるだけだった。


 返答をもらえないことにじれながらもただ待つしかできなくて、その大きな目をじっと見つめた。


 やがて菊様は口を開いた。


「――あんたの持っているソレが『竹のお守り』でしょう」


 私の胸元を指さす菊様にうなずく。


「視たところ、あんた自身にも竹の運気上昇と守護の術がかかっている。

 だからそこまで都合よくたどり着けたんでしょう


 そんなことしてくれてましたかあの方。そういえば春休みに言ってたな。私に竹さんの気配がつかないように結界を張って、さらに守護の術をかけてるって。


 なるほど。前川くんの存在に気付き、都合よくデジタルプラネットに同行でき、あまつさえ三上女史やホワイトナイツのひと達に会えたのは、やはり竹さんのおかげらしい。今夜しっかりとお礼を言っておこう。


「――竹がそれほどのお守りを持たせ、それほどの加護をつけてダメだったとなると、あとは……」

「あとは!?」


 なにか案があるの!?

 机に手を乗せ、前のめりで菊様を見つめる。

 考えるようにおとがいに指を当て目を伏せていた菊様が、その大きな目を私に向けた。


「――神々に直接お願いにあがるしかない」


「『神々』に……」

 漠然と復唱する私に菊様はうなずかれた。


「『竹以上』となると、もうあとは神々しかない」


 やはりとんでもない方でしたかあの方。

 なのになんであんなに自己評価も腰も低いんですかね。困ったひとですね。


 それは置いといて。


 神々ですか。確か主座様がおっしゃっておられたな。

 思い出しながら菊様に問いかける。


「主座様からうかがいました。

『神々への対価となるのは、信仰心と霊力だ』と。

 神々へ霊力を捧げればいいですか。それとも神々を讃えればいいですか。それはどこでやればいいですか」


 まくしたてる私に「まあ落ち着きなさいよ」と菊様が呆れたように息をつかれた。

 コップのお茶を飲み干された菊様に、すぐに白露様がおかわりを注いでいる。

「ひなもどうぞ」と再度勧められ、どうにかコップに手を伸ばす。今度はしっかり持てた。一口含むと口の中が潤った。そのままの勢いでゴクゴクと飲み干してしまった。

 そんな私のコップにも白露様がおかわりを注いでくださる。大きな手なのに器用ですね。あ。風の術でささえているんですか。



 一息つかれた菊様は、えらそうに腕と足を組み、椅子に背中をあずけられた。


「あんたの『願い』を叶えたければ、あんた自身が『対価』を捧げなければならない」


 私自身が。

 コクリとうなずくと、菊様は話を続けられた。


「白露から報告を受けている。あんたの『半身』、伊勢の『火継の子』らしいわね」

「はい」



 今回の件で皆様にお話しをうかがうときに、晃からも話を聞いた。

 あの阿呆は私の知らないところで危ないことをやりまくっていた。

 でも仕方ない。それが晃だから。

 そんな晃の話のなかに中学の修学旅行のときの話があった。


「おれ、あのとき神様に『ひっぱられて』『火』を献上したじゃない?

 あのときに神様がおれのこと『火継の子』ってお呼びになったんだ。

 アキさん、知ってたのかなあ」


 晃に『火継』の言葉を最初に教えたのはアキさん。

 安倍家のお嫁様であるアキさんならば、呪術的な風習や事例に詳しいのかと、伊勢の事情にも詳しいのか、もしくは伊勢以外にも『火継』が伝わっているのかと思い、聞いてみた。


 アキさんは晃が伊勢の神々から『火継の子』と呼ばれていることも、伊勢にそういう存在があることも知らなかった。

 アキさんがその言葉を知ったのは主座様から。

 出雲の神議(かむはかり)について愚痴られていたときに「こういうのがあるんだ」と聞いたとのことだった。


 晃が伊勢の神々に『火継の子』と呼ばれたことに、言葉を教えたアキさんも、保護者の皆様も、主座様も驚いておられた。


 そして主座様がおっしゃった。

「もしかしたら、それは伊勢では意味のある言葉かもしれない。確認したほうがいい」


 すぐに伊勢の神職である亮さんに連絡をとった。

 晃の実の母親の再婚相手。一度も会ったことのなかった晃のことを『息子』だと想ってくれていたひと。


「晃があのとき伊勢の神々に『火継の子』と呼ばれた件なんですけど」「なんか意味がありますか」

 メールにすぐさま電話がかかってきた。


 それによると。


 伊勢において『火継の子』とは、京都で言う『神の(いと)()』と同じ意味を持つという。


 伊勢の主神は『太陽神』。『日』の神。

『日』は『火』に通じる。

 伊勢の神職の(おこ)りも、神から分け与えられた『火』を守り、闇を照らし暖を取り煮炊きに使ったことからきているという。


 伊勢の神職の中には、その神から分け与えられた『火』を宿して生まれる子供がたまに生まれると。

 その子は『神の子』として神々に『火』を捧げてきたと。

 晃の母親もそのひとりだと。


 その中でも特に強い霊力と『火』を持った子は、神々と直接言葉を交わすことができた。

 その子は神々に『火継の子』と呼ばれ、愛された。

 そうして神職のなかでも一番えらい職について神々と人々との間を取り持ち、ひたすらに神々に祈りと『火』を捧げ世の中の平穏を祈り守るという。


 え? つまり?


「晃くんが『火継の子』と呼ばれたことが他の神職にバレると、問答無用で伊勢の神職のてっぺんに据えられる」


 は!?


「晃くんが『そうしたい』って言ってくれるなら、伊勢はいつでも受け入れる」

「でも晃くんは自分のことを『吉野の修験者だ』って言うでしょ?」

「晃くんには、晃くんが生きたい道を進んでもらいたい。

 自分の生きたい場所で生きてもらいたい。

 だから、伊勢には、たまに『火』を献上に来てもらえたらそれでいいよ

 きっと神々もお許しくださると思う」


「ぼくらは晃くんと一緒に仕事できたらうれしいけどね」

 どこか諦めたように、さみしそうに亮さんは笑った。



 ウチの阿呆は、まさかの重要人物だった。阿呆なのに。


 まあね。あの純粋さと魂の清らかさはなかなか無いとは思うけどね。

 そんな晃が献上する『火』はかなりのモノで、前回も前々回も伊勢の神々にとても喜ばれたらしい。神使の長尾(ながお)様が絶賛しておられた。


 その晃の『半身』の私はというと。

 霊力量は大したことない。もちろん属性特化なんてものもない。

 ちょっと他人よりも『視える』だけの、大したことのない人間。


 そんな私が晃のようなことができるわけがない。

 それともあれか?『半身』だったら肩代わりできるとか?


「それだと『あんた自身の対価』にならない」

 駄目ですか。


「晃が『願う』としたら、ひなのことになると思うわ。『半身』だから」

 それもそうですね。


「晃が『私の願いが叶いますように』ってお願いするのは駄目ですか?」

「それだと『弱い』」

 きっぱりと菊様がおっしゃる。


「他の『願い』ならそれで十分でしょう。

 でも、相手が『災禍(さいか)』となると、あんた自身が『祈り』を捧げ、『願い』を強く訴えないと、負けると思う」


 そうして菊様は美しい唇をへの字にし、さらに眉を寄せられた。

 そんなしかめ面でも美しいのだから美人はおそろしい。


「竹の『運気上昇』よりも強い加護を得ようとしたら……一柱では、おそらく足りない。

 複数の、なるべく多くの神々に『祈りと霊力』を捧げて、『災禍(さいか)』に対抗できるだけの、ううん、『災禍(さいか)』を上回る『運気』をもらわないと、届かないでしょうね……」


「それはどうすればいいですか!?」


 その言い方から、このひとがその策を持っていると判断した私はさらに前のめりになる!


「……あんたに、できるかしら……」

「やります! どんなことでも!

 晃を守るためなら、なんでもやります!」


 うかがうようなその表情に意気込んで答えた。

 その途端。


 ニヤリ。


「―――言ったわね?」


 美しいお顔に悪の女王のような笑顔を乗せた菊様に、反射的に『しまった』と思った。

 いつも後輩達に言っていたのに。

『決して「なんでも」なんて言ってはいけない』

『言質をとられたらどんな無理難題をふっかけられるかわからない』


 でも。


 覚悟の上だ。

 晃を守るために。

 決めたんだ。『どんなことでもする』と。『私の全部で晃を守る』と。

 そうしてこのひとに『私自身』を『対価』として差し出した。


 ならば。


 何を迷うことがある? 何をおそれることがある?

 晃を守るためならば、どんなことでも受けてやる!


 だから、胸を張って言い切った。


「言いました。どんなことでも致します!

 なにをすればいいですか!?」


 覚悟を込めた私の視線を受けた菊様は、大きな目を細められた。

 瞳が黄金色になっておられた。

このおはなしは創作フィクションです。

神様がどうとかいうのはすべて作者の創作です。

どこかに失礼があったらごめんなさい。


晃が『火』を献上した話は『根幹の火継』をお読みくださいませ。

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