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久木陽奈の暗躍 15 決意

 龍と白虎と阿呆を横一列に並べて話を聞いた。

 文字通り洗いざらい吐かせた。

 というか、阿呆どもが勝手にベラベラしゃべった。


 異世界高間原(たかまがはら)に関する話は以前黒陽様から聞いた話を裏付けた。

 違う視点からのさらなる話もあった。

 そして、ここ最近ウチの阿呆の様子がおかしかったのはこの話を聞いたからだった。


 お人好しの阿呆は大好きな母さんの背負っているものにココロを寄せていた。

「どうにか手助けしたい」「おれでは大した力にはならないってわかってる。でも、なにかしたい」と、なにができるだろうかと阿呆なりに考えていたらしい。


 守り役達の話はさらに続いた。

災禍(さいか)』の話。

『バーチャルキョート』が関わっているらしいこと。

 運営しているデジタルプラネットの社長が『宿主』の最有力候補なこと。

 安倍家が開祖安倍晴明様の頃から姫達に協力していること。

 現在も調査に協力していること。

 タカさんが取りかかっている『別件』というのが『災禍(さいか)』と『宿主』の調査なこと。

『バーチャルキョート』に出現する鬼が現実にも出現する話。その強さ。

 数日前に現れた鬼にトモさんがひとりで対峙したこと。その結果。

『世界』を取り巻く霊力量の話。

 これから現れるであろう『ボス鬼』の話。

 それに対することができるとすれば晃達霊玉守護者(たまもり)だけ。

 安倍家主座様直属の晃達だけ。


『ボス鬼』が出現するとしたら、そのときには間違いなく姫達も守り役達も『災禍(さいか)』と戦っているであろうこと。

 主座様は全体を統括しないといけないから『ボス鬼』と戦うわけには――最前線に出ることはできない。

 結果、晃達が最前線で戦う。

 そのために守り役様からの修行を受けている。



 全部話し終えたらしい三人が口を閉じて私をうかがい見る。

 聞いた話を頭の中で再生しながら検証。

 ジロリとひとりひとりにらみつけると阿呆共はちいさくなった。


 目を閉じる。

 浮かぶのは、血だまりの中倒れる晃。

 ピクリとも動かない。

 あの恐怖。あの喪失感。

 今回はすぐに治してもらえて事なきを得た。

 でも。


 あれが現実になる?

『ボス鬼』と戦う?


 以前垣間見た竹さんの思念が頭をよぎる。

 ひとが死んだ。バタバタと。

 あの中に、晃が入る――?



 ―――イヤ!!


 晃は死なせない!

 私が守る!

 そのためになにをすればいい? なにを最優先にすべきだ? なにを『柱』とすべきだ?


 考えろ。考えろ考えろ。

 晃を守るために。晃を死なせないために。

 そのために私はなにをすべきだ。私になにができる。


 考えたけれど、うまくまとまらない。情報が足りない。頭の中のパズルのピースが足りないのがわかる。



「――晃」

「ハイ」


 目を開けジロリとにらみつけると、素直なわんこは素直に返事をする。


「あんたが見たこと、聞いたことを『()』せなさい」


 ズイッと手を差し出すと、晃は目をまんまるにした。


「話だけじゃわからない。

 主座様の話。守り役の皆様の話。トモさんの様子。

 あんたが見たまま、聞いたまま、『()』せなさい」


「で、でも」

 オロオロする阿呆。


「その、ひな、心配しちゃうから」

「おれ、ひなに心配させたくない」

「戦うのはおれがすべきことだ。おれは霊玉守護者(たまもり)なんだから。

 きっとおれは、おれ達は、そのために高霊力の属性特化なんだから。

 人々を守るためにおれ達のチカラはあるんだから」


 阿呆が一生懸命に伝えてくる。

 その目に、言葉に、晃の日頃の覚悟がにじんでいる。


「でも、ひなは普通の子だ。

 おれ達がする修行だけでもこわくて泣いちゃう、普通の子だ。

 ひなを戦いに巻き込むわけには、いかない」


「ひなは、安全なところで、無事でいてほしい」


半身()』を守ろうとする晃の気持ちが伝わってくる。

半身()』を大切にしてくれるのも。

半身()』を愛してくれてるのも伝わってくる。


 でも。


「――そんなの私だって同じよ」


 ギッとにらみつける。ポカンとする阿呆にさらに叫ぶ。


「私だってあんたに無事でいてほしいわよ!

『心配する』? 当たり前でしょう!? するに決まってるでしょう!!

 私はあんたが大事なの。あんたが好きなの!

 私の大切なあんたが傷つけられると知って、どうして心配しないでいられるのよ!!」


「ひな……!」

 ジィン。じゃないのよ。阿呆が。


「あんたが『他人を守るために戦う男』だってことは十分承知している。

 それがあんただから。

 それでこそあんただから。

 だから『戦うな』とは、私は言えない」


「ひな……!!」ってさらに感動に震える阿呆にさらに続ける。


「だからって、私はなにもせずに帰りを待つだけなんてイヤ。

 私もあんたを守りたい。

 あんたが戦いにおもむくなら、私はそれを助ける。

 情報分析して、後方支援して、あんたが無事に帰れるようにする」


「ひな……」

 晃だけでなく、白露様も蒼真様も驚いたように私を見つめていた。


「私はあんたの『半身』。

 私はあんたのために生まれた」


「私はあんたのために在る」


 私の『宣誓』に、晃も、白露様蒼真様も口を閉じた。


「晃のために。

 晃とともに在るために。

 そのために私は生きる。

 そのためならばどんなことでもする」


「それが『私』の『存在意義』。

『私』のすべて」


 晃はじっと私を見つめていた。

 だから私もじっとその目を見つめた。

 晃の目の奥に在る『火』を。


 晃の『火』はゆるがない。

 さっきまでは私を心配してゆらゆらふらふらしていたのに。

 ぐっと、覚悟を定めた。

 私の『宣誓』を聞いて《自分も同じだ》と感じているのが伝わってくる。


《おれの『半身』。おれの唯一》

《おれの大事なひな》

《おれもひなのためならどんなことでもする》


 晃の思念にうなずくと、晃もうなずいた。


「私は私のやり方であんたを守る。

 戦いに出ることはしない。約束する。

 ていうか、私には戦うことはできない。わかってる」

 うなずく晃にさらに続ける。


「私にできることは、情報分析。

 情報を集めて、なにをすべきか、なにが必要か取捨選択すること。

 戦いにおもむくあんたを導くこと。

 戦いやすくなるよう、生き残れるよう支えること」


 うなずく晃。私もうなずく。


「私はあんたの『光』」


 晃がいつも言ってくれる。

 私は『光』。晃を照らす『太陽』。

 晃の進む道を照らす、迷う晃を導く『光』。


 今、はっきりと自覚した。

 私は『光』。

 晃を照らし導く『光』。


「ならば、私のすべきことはあんたを導くこと。

 戦いにおもむくあんたが生き残れるよう、道筋をつけること」


 うなずく晃。


「そのためには情報が足りない。

 あんたが上手く説明できないことはわかってる。

 だから。あんたが見たまま、聞いたまま、『()』せなさい」


 ぐっと差し出した右手をさらに突きだす。


「私は私のやり方で戦う。あんたを守る」


 決意を込めた私の言葉に、晃は一瞬泣きそうになった。

 でもすぐにぐっと表情を引き締め、うなずいた。



 白露様がなにか言おうと口を開いた。

 それより早く晃が私の手を握った。


 ドドドドド!

『記憶』が流れてくる!

 霊玉を切り離す。主座様の説明。真っ赤になったトモさん。巫女姿の竹さん。

 ベッドに横たわるトモさん。顔色悪くその手を握って必死に霊力を送る竹さん。

 主座様の話。守り役の皆様の話。現状の話。これからの話。


 一呼吸の間に、晃の見聞きしたものを『()た』。

 情報量の多さに立ちくらみがしたけど、目を閉じてどうにかこらえる。



「ひな」

 目を開けると、心配そうな白露様がいた。


「ひなの気持ちはわかるし、ありがたいと思うわ。

 でも――」


 ためらい、それでも白露様は口を開いた。


「『晃を守る』ためにこれからひながなにかするとしたら、私達の責務に巻き込むことになる。

 ひなはそこまでしなくていいわ。

 ひなは今までどおり晃を支えてくれたら十分。

 これ以上は、ひなに危険が及ぶ可能性がある」


 心配そうな白露様に、ちいさな頃を思い出した。


 晃や兄についていけなくなった私に、白露様はいつも言ってくれていた。


『ひなにはひなの良さがある』

『晃は特別な子』『同じことができなくていい』


 白露様は晃の母親だったけど、私達兄妹にも晃に接するように愛情を持って接してくれた。

 大切なことをたくさん教えてくれた。

 いつでも『私』を認めてくれた。

 できないことも。弱いことも。認めてくれた上で、なにができるか、どうすればいいか教えてくれた。


 白露様にとっては、私も晃も、今でもあの頃のちいさな子供なんだろう。

 でも。


「白露様」

 私はもう、あの頃のちいさな子供じゃない。

 そもそも私は『転生者』。中身アラフォーのオバサンだ。


「私は『貴女方の責務』に『巻き込まれる』のではありません。

 主座様直属の能力者である私の『半身』の任務のために、後方支援するんです」


 決意を込めた私の目に、聞かないと理解されたのだろう。

 長い付き合いで、私が一度『こう!』と言い出したら絶対に引かないことを白露様はよくご存知だ。


「『災禍(さいか)』による影響でしたら、多分大丈夫です。

 私は表に出ません。

 知られることがなければ、攻撃されることもないと思います」


「でも」とためらう白露様に、ふと思い出した。

 そうだ。アレを見せれば。


「それに、竹さんからお守りをもらっています。

『運気上昇』のお守りだそうです」


『いつも身につけていてください!』と懇願されて、常に首に下げている。

 そのお守りを引っ張り出して、中の石を取り出した。

 手のひらのその石を目にした途端、白露様と蒼真様のこわばりがゆるんだ。


「これなら大丈夫かも」なんて納得されている。

 なんですか。もしかしてコレとんでもないシロモノですか。あの守り役様も竹さんもなんてことないような顔してくれましたけど。


 動揺をどうにか収め、わざとにっこりと微笑む。


「ですから」


 私の気配が変わったとわかったのだろう。

 青い龍と白い虎が息を飲んで固まった。


「おふたりからは、もう少し、詳しく、お話を聞かせていただきます」

「い、いやー。もう話すことはないんじゃないかなぁー」

「うふふ。なにをおっしゃってるんですか蒼真様。

 まだまだ情報が足りないんですよ。

 晃を守るために、協力してくださいよ。

 さっき私を使ってなんか調べたんでしょ?  今度は私に協力してくださいよ」

「そ、そうね。蒼真はまだ話すことがあるかもね!

 じゃあひな。私はこのへんで……」


 ガッ。


「どこに行くつもりですか白露様。まだお話は終わっていませんよ?」

「い、いえ。その。そろそろ私姫のところに帰らないと」

「時間停止かければいいでしょ。さあさあ。聞きたいことは山とあります。洗いざらい吐いてもらいますよ?」



 そうして思いつくままに質問を重ねた。


「そ! それはいくらなんでも言えない!」

「『言えない』じゃない。言え」


「そ、それは関係ないんじゃないかしらひな」

「関係あるかないかは私が判断します。言え」


 白露様蒼真様のそれぞれの能力。できることできないこと。ヒトだったときと獣の姿になってからの変化。この五千年どう過ごしてきたか。

 それぞれの姫のこと。それぞれの国のこと。

 他の姫のこと。他の守り役のこと。他の国のこと。

 その後の高間原(たかまがはら)のこと。『落ちて』からのこと。滅びた国のこと。

災禍(さいか)』のこと。なにをしてきたか。どんなことがあったか。そのためにどうなったか。

 現在取り組んでいること。その経過。問題点。関わっているひと。わかっていること。



 私が納得したとき、三人ともがぐったりとしていた。

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