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第百五話 暴走 6(竹視点)

引き続き竹視点です

「こんな自分、ヤだ! ヤだ!!」

「迷惑かけたくない!」

「傷つけたくないのに! 守りたいのに!!」

「もうヤだ! ヤだ!!」


 霊力が暴走する。渦を巻く。激しく波打つ。

 引きずられるように感情がぐちゃぐちゃになる。爆発する。


「こんな私、死ねばいいんだ!!」


 いつも胸の底にある想いまで爆発に押し出される。


「誰か、殺して!」


 吐き出した、その途端。



「竹さん?」



 ガバッと、抱き上げられた。

 あっと思う間もなくストンとシーツに座らされた、次の瞬間。

 ガッと、ほっぺをはさまれた!


「もう一度、言ってごらん?」


 冷え切った、冷たい目をしたひとが、私を見据えていた。

 こ、こここ、こわい!!

 一瞬でザザザザーッと血の気が引いた!

 爆発していた感情も一気に冷めた!


「なにを、望んだ?」

「そ、その、」

「『殺せ』?」


 こわくてこわくて声が出なくなった。

 だから震えながらもコクリとうなずいた。


 途端!


 ドッ!!


 私の暴走を吹き飛ばす勢いの風が噴き出した!!

 強い覇気に全身がビリビリと震える! 私、結界展開してるのに!!

 こわくてこわくてぷるぷる震えていたら、トモさんは私のほっぺをはさんだまま、表情の抜け落ちたお顔を近付けてきた!


「貴女は俺のものだ」


 ゾクゾクゾクッ!

 強い執着の込められた眼差しに刺し貫かれた!


「誰にも、貴女にも、殺させない。

 傷つけるなど、許さない」


 トモさんの言葉に、眼差しに、なにひとつ反論できなくて、身動きすることすらできなくて、ただぷるぷる震えていた。

 と。


「!!」


 トモさんが唇を重ねてきた!

 がっしり抱き込まれて、後頭部もがっちり押さえつけられてて、逃げることができない!!

「んん! んんんー!!」

 ようやく出た声は言葉にならない!


 トモさんの唇はじっとすることなく、ちゅ、ちゅ、と角度を変えてくる!

 はむりと私の唇を()む!

 押し付けたり、そっと触れるだけになったり、もう、わけがわからない!!


 与えられる感触が気持ちよくて、あたたかくて、抱きしめてもらっているのが頼もしくて、安心して、ぐちゃぐちゃぐるぐるしていたのが鎮まっていく。


 ダメなのに。

 こんなのダメなのに。

 私がそばにいたら不幸になるのに。


 ちゅ、とトモさんの唇が離れたときにはもうぐったりしてトモさんにへにょりともたれるしかできなかった。

 そんな私を一度ぎゅうっと抱きしめて、トモさんは私を離した。

 そうしてまたほっぺをその大きな両手ではさんで、ちゅ、と唇に唇で触れた。


「貴女は俺のものだ」


 私の魂に刻み込むように、トモさんが言葉を落とす。

 まるで『言霊(ことだま)』のよう。


「勝手に死ぬのも、勝手にいなくなるのも、許さない」


 なんだかぼうっとする頭でどうにかうなずいた。

 トモさんはこわいお顔のまま、また唇にちゅっとキスを落とした。

 そうして私をぎゅうっと抱きしめてくれた。

 胡座をかいた足にすっぽりと収まって、長い腕に抱き込まれて、なんだか全身トモさんに包まれているみたい。


「俺の『半身』。俺の唯一」


 いつもはやさしい声が、どこか固い。


「そばにいて。俺を拒絶しないで。

 そばにいさせて。そばにいたいんだ」


 どこか泣きそうな声で、ねだるように、甘えるように懇願される。


 でも。


「――ダメなの」

「なんで」

「私といたら貴方が危険なの」

「そのために修行してきたんだ」

「修行したって、ダメなの」

「なんで」

「私は『災厄を招く娘』だから。魔物だから。

 貴方を不幸にするしか、できないから」

「貴女がいないことに勝る不幸があると?」


 ひとつ言ったら即座に潰される。

 なんでこのひとはこうなんだろう。なんで私の言うこと聞いてくれないんだろう。


「なんで言うこと聞いてくれないの」って聞いたら「貴女も俺の言うこと聞いてくれないじゃないか」って返された。


 そうかな? 私、トモさんの言うこと、聞いてない?


「俺がどれだけ『好き』って言っても信じてくれないし。

『かわいい』って言っても『からかってる』って言うし」

「それは」


 そのとおりだもん。

 私が誰かに好かれるわけがない。

 誰かに『かわいい』なんて言ってもらえるわけがない。


「結局貴女は俺を信じてないんだ」

「!」


「俺を信じてないから、俺の言葉も信じないんだ」

「―――!」


『ちがう』『そんなことない』

 そう反論したいのに、言葉が出ていかない。


 トモさんを信じていないわけじゃない。

 接した時間は短いけれど、このひとは信頼できるひとだって思ってる。

 やさしくて、強くて、誠実なひとだって思ってる。


 でも、それとこれとは別。

 どれだけ『好き』と言われても。

 どれだけ『かわいい』と言われても。

 その言葉が、本当の本当だとは、とても思えない。


 だって私は『名ばかり姫』だから。

『災厄を招く娘』で『魔物』だから。


 誰かに好かれるなんて、あり得ない。

 このひとがとってもとっても良いひとだから。やさしいから。だからそんなふうに言ってくれてるだけ。



 なにも言えなくて、ただ、ふるふると首を振った。

 そんな私をトモさんはぎゅうっと抱きしめた。



「――もういいよ」


「もう、いい」



 ――拒絶、された――?



 ザアッ。血の気が引く。目の前が暗くなる。

 拒絶された。トモさんに。

 嫌われた。きらわれた――!


 そう感じた途端、カラダのどこかがゴソリと()げた。

 どこかにポッカリと大きな大きな穴が空いた。

 指先から冷たくなっていく。石になっていく。



「貴女はそういうひとだから」


 固まりかけたココロに声が届いた。


「頑固で生真面目で融通が利かなくて。思い込み激しくて思い込んだらそればっかりになって」


「そんな貴女が好きなんだから」


「だから、もういいよ。

 俺を信じてくれなくても、いい」


「信じてくれるまで何度も、何度でも、伝えるから」



 ――雨が降る。やさしい雨が。


 石になった私に降り注いで、私を溶かす。



「好きだよ」


「大好き」



 降り注ぐ雨が私を溶かす。

 欠けた部分を満たしていく。

 やさしくて、あたたかい、私を包み込んでくれる、(いつく)しんでくれる、雨。



「ずっとそばにいて。離れないで。

 俺を好きになってくれなくてもいいから。

 ただ、そばにいさせて」



 触れるぬくもり。力強く抱きしめてくれる感触。包み込んでくれる霊力。

 なにもかもが私を満たす。


 ――この感情はなんだろう。

 あたたかで、満たされて、しあわせで。

 くすぐったくて、胸のどこかがぎゅうっとなる。


 これは、なんだろう。



「貴女が苦しいとき。困ったとき。一番近くで守らせて」


「ひとりで抱えないで」


「俺にも背負わせて。

 俺達は『半身』なんだから」



 トモさんがぎゅうぎゅうに抱きしめてくれて、霊力流してくれてるだけで暴走が少し弱まる気がする。『半身』だから?

 暴走が少し弱まったら感情も少し落ち着いてきた気がする。


 落ち着いてきたら、またいろんなことがぐるぐるしてきた。


 やさしいトモさん。

『しあわせ』になってほしい。

 私に巻き込んで危険な目に遭わせるなんて、させたくない。


 早く逃げなきゃ。このひとから。

 早く逃げて、このひとを守らなきゃ。

 でないと、このひとはまた怪我をする。死にそうな目に遭う。


 このひとに甘えるなんて、ダメ。

 私は『罪人』なんだから。

 私が『災禍(さいか)』の封印を解いたせいでたくさんの人が死んだ。

 その『罪』を償うのは私の義務。

『半身』だからってこのひとに背負わせるのは、ちがう。



「――ダメなの」


 思い切って吐き出したら「なにが」と問われた。

 だから、答えた。トモさんの首元に顔を埋めたまま。

 肩を、背中を抱いてくれる腕に励まされるように。


「私、『罪人』なの」


 思い切って告白したのに、トモさんはケロッとしてる。


「貴女が『罪人』だと言うならば、俺もその罪を背負う」


「――ダメ!」

「駄目じゃないよ」


 あわてて顔を上げたら、やさしい目が私を受け止めてくれた。


「俺達は『半身』なんだから」


 いつものようにそう言って、そっとほっぺをなでてくれた。


 そのままほっぺを、頭をなでてくれるトモさんの手に、こわばったどこかが(ほぐ)されていく。


「例えば俺が罪を犯したとして。それを償うとしたら。

 貴女はどうする?」


「『一緒に背負う』って言ってくれるでしょ?」


「それなら俺が貴女の罪を一緒に背負ったっていいでしょ?」


 いつかも聞いた説明をまたしてくれる。

 でも。

 でも、ダメ。



「――『しあわせ』に、なって、もらいたいの」


 一生懸命に、トモさんのやさしい目をじっと見つめて、訴えた。


「罪も、責務も、重荷も、なにも背負わないで。

『私』を負わないで。

 お願いだから、『しあわせ』になって」


 私の言葉をじっと聞いてくれていたトモさんはじっと私の目を見てくれていた。


「――わかった」


 よかった。わかってくれた。

 そう思ってホッとした私に、トモさんはにっこりと微笑んだ。


「ずっと貴女のそばにいる」


 ―――は!?


 なんで!? なんでそうなるの!?


「な、なん、そん、な」

 あわあわする私にトモさんは楽しそうに笑う。


「だって俺に『しあわせになってほしい』んでしょ?」 


 うなずくと、それはそれはしあわせそうな顔をしてトモさんが微笑んだ。


「俺は貴女のそばにいられることが『しあわせ』なんだ。

 だから、これからも貴女のそばにいる」


 ポカンとするしかできない私のほっぺをまたはさんで、ちゅ、と唇にキスを落とす!


「抱きしめて、キスして、構い倒す」


 ニヤリと笑うトモさんに「そ、そんな!」としか言葉が出ない!


「それが俺の『しあわせ』なんだから。

 ――俺に『しあわせになってほしい』んでしょ?」


 楽しそうなニコニコ顔のトモさんは私をぎゅうっと抱きしめて、こめかみにキスをした!

「ひにゃっ!?」ってヘンな声が出た!

 そんな私にトモさんはクククッて楽しそうに笑った。

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