第九十七話 ヒロ達の帰還
のんびりしていたらヒロ達が帰ってきた。
おお。パッと見でもわかる。今までよりもかなり霊力量増えてるな!
ヒロは全然外見に変わりないが、晃と佑輝は顔立ちが変わっていた。背も伸びている。
どうすんだこれ。明日から学校行くんだろ? たった二日でこんなに成長するわけないだろう。
「まあなんとかなるんじゃないの?」「成長期だって言い張ればいいんじゃない?」
そんなわけあるか。いい加減な保護者達に呆れてしまった。
出迎えの一同の中にひなさんを見つけるなり晃は駆け寄った。
「ひな、会いたかった」と抱きしめる晃を「はいはい」とあしらうひなさん。
それでも「おかえり」「よくがんばったわね」と愛情を込めた言葉をかけている。
こうやって大型犬がじゃれるのを見たことがある。そうか。晃。お前、大型犬だったのか。
ヒロと佑輝は保護者達に構われている。
「とりあえず夕食にしましょう。中へどうぞ」と勧められ、全員で二階に上がった。
人数が多いから今日の夕食は離れで。
まだ早い時間なので双子も一緒。
保護者達はあとから食事にすると言い、双子と俺達の世話をしてくれた。
晃とひなさんは最初「吉野に帰る」と言っていた。
「白露様に乗せて帰ってもらうから時間がかかるから」と。
その言葉に蒼真様がツッコミを入れた。
「転移すればいいじゃん」
なんで『そうだった!』みたいな顔をしてるんですか白露様。まさか……。
金属性の白露様は走り回って風を感じるのが好きなのだという。その気持ちは同じ金属性の俺もわかる。
だからあちこち行くときに白露様は、よほどの緊急時以外は基本走って移動するという。
俺達が中学二年の頃。
俺達と遊ぶ晃のために吉野と京都のこの離れを行き来することになったときも当然のように白露様は晃を乗せて走って往復した。
晃に道を教える意味もあったからハルもなにも言わなかった。
それでこのおっちょこちょいに『吉野と京都の往復は走って』とインプットされてしまったらしい。
「ごめんなさいねひな。私ったらうっかり……」
「だ、大丈夫です白露様! 白露様に乗せてもらうの、私、嬉しいですから!」
落ち込むおっちょこちょいをひなさんが慰め「転移するなら夕食食べて帰ろう」となった。
『むこう』でどう過ごしていたのか、修行内容は、あれはこれはと話しているとあっという間に食事が終わった。デザートもいただいて、そろそろ帰ろうかと話して席を立った。
「――あれ――」
立ち上がったヒロがふらりとし、しゃがみ込んだ!
「ヒロ!?」
慌てる俺達。すぐさま蒼真様が駆け寄る。
と。
ドッ。
「佑輝!」
声もなく佑輝が倒れた!
駆け寄ると、顔が真っ青になっている。
「回復を――」
「かけちゃダメ!」
蒼真様の強い静止にかわいいひとがビクリと固まる。
「ただの『霊力酔い』だよ。大丈夫」
「これが!?」
驚く俺達をよそに蒼真様はテキパキとふたりになにかをしている。
なにか計測している? ん? なんか蒼真様楽しそうじゃないか?
「これ飲ませて」
蒼真様から渡された回復薬を祐輝に飲ませる。
「回復薬じゃないよ。ただの聖水」
「は?」
ヒロにも同じものを飲ませた蒼真様は再びふたりの何かを計測。
……あれ、霊力値とか血中濃度とか調べるヤツじゃなかったか?
「次。これ飲ませて」
そう渡された瓶を佑輝に飲ませる。
「これは?」
「竹様の出した水」
……やっぱり聖水よりも上だったか……。
聖水と竹さんの水を飲んだふたりは少しだけ楽そうになった。それでもまだ顔色が悪い。
なにやら計測してメモを取った蒼真様。
「トモ。今朝のおにぎり出して」
『今朝のおにぎり』というのは、竹さんの水で炊いたごはんの余りをナツがおにぎりにしてくれたもの。
アイテムボックスに入れていたそれを取り出す。
ヒロには蒼真様が、佑輝には俺が食べさせた。
「しっかりしろ佑輝。これ、一口でも食え」
抱き起こした佑輝の口元におにぎりをちょんと当て、口を開けるよううながす。
ぐったりとしていた佑輝だったが、どうにか口を開けた。
おにぎりを手でちいさくむしり、ほんの少しの米粒を口に押し込んだ。
むぐ。佑輝がどうにか噛み締めた。
と。
カッと目を見開いた!
ガパッと大きく口を開けるからおにぎりを半分にして入れてやる。
ムグムグ咀嚼した佑輝が身体を起こす!
「おかわり!」「お、おう」
残りも口に放り投げてやる。すぐさま咀嚼してまたすぐに「おかわり!」と叫ぶ佑輝。
アイテムボックスからおにぎりを出そうとしたら蒼真様に止められた。
「おかわりはないよー」
蒼真様の言葉に佑輝がショックを受けている。見るとヒロまで同じような顔をしている。
「ハイハイ。ちょっと数値測らせてねー」
テキパキと計測した蒼真様。
「晴明。『霊力補充クリップ』持ってきて」
蒼真様の指示にハルが動く。
ほどなくクリップを持ってきた。
「はいこれつけて。はい起動」
カチリと霊玉を押すと、ふたりは明らかに楽そうになった。
「ほーっ」と大きく息をついている。
「ハイハイ。数値測るよー」
そして蒼真様は楽しそうだ。
「なるほどねー」なんてひとりで納得している。
「ふたりしか治験対象がいないから断定はできないけど」と前置きして蒼真様が説明する。
「竹様の錬成した水も、それで炊いたごはんも、霊力回復に役立つ」
トンデモナイな俺の『半身』。
言われた竹さんがめちゃめちゃ喜んでいる。かわいい。
「これ、たくさん用意してそれぞれのアイテムボックスに入れといたらどうかな」
「なるほど」
「霊力補充クリップも使えることがこれで証明されたね」
「そうですね」
蒼真様とハルの会話に愛しいひとのテンションがどんどん上がっていく!
ムフー! って得意げなのかわいい!
いつも肩身狭そうに自信なさげにしてるひとの初めて見る様子に俺もうれしくなる。
見ると保護者達も微笑ましげに目を細めていた。
「姫宮」
ハルに呼びかけられたかわいいひとはピッと姿勢を正した。
「安倍家主座として正式に依頼します。
姫宮による水の錬成、その水を使った非常食の作成をお願いします」
「承りました!」
「霊力補充クリップも引き続き作成してください」
「はい!」
ペコリと頭を下げる彼女。これまでに見たことがないやる気に満ちた姿に俺までうれしくなる。
黒陽が涙ぐんでいる。困った守り役だ。
他の守り役達からも「お願いしますね」「頼りにしてますよ」なんて声をかけられ、俺の愛しいひとは輝くような笑顔を浮かべた。