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第九十二話 ひなさんの確認

 俺と竹さんのできることできないことを確認し、ひなさんとタカさんはそれぞれに考え込んだ。

 ひなさんはペン先をノートに叩きながら自分のメモをにらみつけている。

 タカさんは腕を組んでソファの背もたれに背中を預け頭ももたれ、天井を仰いで目を閉じている。


 そんなふたりに竹さんはオロオロしている。

『どうしよう』『なにか声をかけたほうがいい?』『声かけたら邪魔になる?』そんな考えが透けて見えるくらい、ひなさんたちに目を向け、俺に目を向け、口を開けては閉めていた。かわいい。


「大丈夫だよ。邪魔しないように、ちょっと待ってようね」

 そうささやくとホッとしてうなずく。かわいい。


 タン、タン、とペン先をノートに刻んでいたひなさんがその手を止めた。

 じっと固まり目を閉じた。

 やがて目を開けたひなさんはさらさらと何かを書き出した。


「いいですかタカさん」

 声かけにタカさんも目を開けて身体を起こす。


「守り役の皆様も。確認です。

 現在の最優先事項は『保志(ほし) 叶多(かなた)氏が「災禍(さいか)」の宿主であるか確認する』ということで間違いないですか?」


 ひなさんの言葉に「そうね」「うん」とあちこちから同意が上がる。


「保志氏が『宿主』かどうかを確認するためには、本人に会うのが一番確実。

 そのために色々しているが現在のところ成果はない」


 確認の言葉にあちこちからうなずきが返る。


「皆様はデジタルプラネットに侵入したのですよね?」


 報告書でも読んだのか、ひなさんは守り役達がデジタルプラネットに侵入した話を知っていた。

「そうよ」と代表して緋炎様が答える。


「私達自身が隠形をとって侵入した。式神を飛ばしたときもあった。

 でも、どんな方法でも五階より上に上がれない。

 ならばと非常口や窓から侵入しようとしたんだけど、やっぱり五階六階は入れないの」

「屋上はどうですか?」

「屋上は行けるわ」

「屋上から降りることはできるんだけど、あと一段というところで弾かれちゃうの」


 緋炎様の説明に白露様が付け足す。


「『弾かれる』というのは、どういうことですか?」

「結界が張ってあるの。その結界のせいで弾かれてそこから先に侵入できないの」


「皆様を弾く結界は他にもありますか?」

「ないことはないわ」

 答える緋炎様に続いて守り役達が答える。

「神域は行けないわよね」

「『(ヌシ)』の格によっては入れないところもあるよ」


 口々に言うのを聞いたひなさんはひとつうなずいた。


「弾かれた感覚で『災禍(さいか)』の関与の有無を特定することはできませんか?」


 この質問に守り役達は一様に口を閉じた。

 お互いに視線をやり、探り合っているようにみえる。

 口を開いたのは黒陽だった。


「断言はできない。ただ――『関与がある』とは感じている」


 他の三人も黙ってうなずいた。


「確証はないと」

「ない」

「でも、なんとなく『そうじゃないか』という気がする?」

「する」

「何故?」


 ひなさんの追求に黒陽が言葉を探す。


「……弾かれたときの弾かれ具合というか……」

 ううん、と目を閉じて天を仰ぐ黒陽。


「なんというか、こう、鉄板にぶち当たる感じではないんだ。もっと『ぐにゃん』というか『ぬよん』というか……。

『いなされる』というのとも違う。ぶよぶよしているというか…。

 あと『吸収される』という感覚もある気がする。

 そういう、なんというか、気持ちの悪い感じが、あの会社の上部に展開している結界に感じる。気が、する」


 言葉を探し探し吐き出す黒陽に「わかる」「そんな感じ」と他の守り役はコクコクうなずく。


「私の知る限り、そんな感覚になる結界はあの『災禍(さいか)』以外にはない。

 だからといって『絶対に他にはない』とは言い切れないと思うんだ」


 黒陽のもっともな意見に緋炎様も「そうね」と続ける。


「仮に『災禍(さいか)』が展開したものだとしても、それこそあの社長に頼まれた『宿主』が展開させた、という可能性だってあるわ」


 それもそうだと納得できた。


「この五千年、かなり痛い目に遭わされてきてるらしいんだよ。

 それで確証が持てない限りは動けなくてね……」


 苦笑まじりのタカさんの説明にひなさんも「なるほど」と納得した。



「皆様が今一番恐れていることはなんですか?」

「『災禍(さいか)』に逃げられることよ」


 緋炎様が即答した。


「姫が四人揃うことなど、この四百年なかったの。

 おまけに『災禍(さいか)』の手がかりもある。晴明の協力もある。

 この機会を逃したら、次はいつ『災禍(さいか)』の尻尾をつかめるかわからない」


 緋炎様の言葉に他の守り役もうなずく。


「竹様が封じて、ウチの姫が斬る。

 これが『災禍(さいか)』を滅する唯一の方法だと思う。

 でも、ウチの姫も竹様も今十五歳。

『呪い』の期限まであとわずか。

 今の段階で『災禍(さいか)』に逃げられて再調査、なんてなったら、もう今生での決着は望めないわ」


 だからこそ守り役達もハルも慎重に慎重を期している。

 無茶して突っ込むことも無謀な手段もとることなく、ジワリジワリと周囲を探ることに徹している。


「ふむ」とひなさんがひとつうなずいた。


「『隠形をとって侵入した』とおっしゃいましたね」

「ええ」緋炎様がうなずく。


「隠形をとったら姿が見えなくなるんですよね」

「そうよ」顔を向けられた白露様が答える。


「監視カメラにも映らない?」

「映らない」タカさんが答える。


「色々実験してみた。監視カメラには映らない。

 だが、人感センサーは反応した。

 あれは人の熱に反応するものだから」


「気配は消えますよね?」

「気配とか霊力とかは術者が抑えることで感じなくなるのであって、隠形の術自体が消すわけじゃないのよ」


「つまり『隠形の術』というのは『姿を見えなくさせる』だけの『隠す術』だと考えてもいいてすか?」

「そうね」「そう言えると思うわ」


「ふむ」とまたうなずいたひなさん。


「『隠形』に対して『結界』はどういう術だと言えますか?」

 この質問に守り役も竹さんも「ううん」と考えた。


「結界は『空間を切り取る』ものです」

「そうだな。あとは『囲うモノ』。対象を囲って、そこから内側には他のモノを入れないように守るモノだ」


 竹さんに続き黒陽も答えた。


「デジタルプラネットに侵入するのに、侵入側が結界を展開することはありませんか?」


 この質問にも全員が頭をひねった。


「……たとえば『瘴気の中に突っ込む』とかだったら、結界を身体の周囲に展開することはある」


 黒陽の回答に他の守り役も俺もうなずく。


「『結界に侵入するために結界をまとう』ことは……………ないと、思う」


 絞り出すように黒陽が頭をひねりながらかろうじて答えた。

 他の守り役もうなずいた。俺も同意見。


「なるほど」とあっさりと納得をみせたひなさん。

 少し思案しただけですぐに次の質問に移った。


「トモさんの『境界無効』で、デジタルプラネットの結界に浸入することはできませんか?」


「……おそらく、できます」


 先日会社に行ったときにも考えた。

 俺自身が侵入するのならば、多分、できる。


「トモさんと黒陽様は先日デジタルプラネットに行ったとおっしゃっていましたね。

 そのときに『境界無効』を試さなかったのは何故ですか?」

「……………」

「単にトモを使うことを思いつかなっただけでしょ」

「……………」


 蒼真様に図星を差されたうっかり者の守り役はそっと目をそらした。

 それでもボソリと言葉を落とす。


「……ひとつには姫が一緒だったこと」


 ためらいがちな黒陽の言葉にかわいいひとが驚いている。


「姫をひとりにする危険を冒すわけにはいかなかった」


 ああ。またマイナス思考が仕事をしている。

『自分さえいなければ』『自分が責務の邪魔をした』とか考えてるぞ。困ったひとだなぁ。

 慰めようと口を開くより早くひなさんが問いかけた。


「他の理由は?」


「……『最悪』を想定した」


 そう。俺も同じことを考えた。だからあのとき黒陽に提案をしなかった。

 黒陽の言葉を引き継いで俺が説明をする。


「俺が無事侵入できれば問題ないですが、万が一失敗したら。

 殺されるならばまだいいのですが、『災禍(さいか)』に捕らえられた場合、安倍家とつながっていると知られる確率は高いです。

 そうなると、姫達が迫っていると知られ、逃げられることになります」


 その説明にひなさんはひとつうなずいた。


「トモさんが『境界無効』で侵入できる可能性は高いですか?」

「……実際『視た』わけではないので断言はできませんが……。

 高い、と、思います」


 ひなさんはひとつうなずくと、守り役達をぐるりと見回した。


「仮に侵入できたとして、なにを、どのように調べますか? なにを知りたいですか?」


「第一は『災禍(さいか)』が『いる』かどうか」

「それがわからなければ、社長が『宿主』かどうか」


 緋炎様に続いて白露様も答える。


「どちらも調査方法としては『気配を探る』ことしかない。

災禍(さいか)』は姿を変えられる。

 だから『外見の特徴から探り出す』という方法がとれない」


 黒陽の説明に「なるほど」とひなさんがうなずいた。


「『災禍(さいか)』の気配は強烈なの」

 補足するように緋炎様が教えてくれる。


「何百年、何千年経っても忘れることはできない。

 その『宿主』にも強烈な気配がついている。

 だから、チラッとでも『視る』ことができたら、社長が『宿主』か、そこに『災禍(さいか)』がいるか、わかると思うわ」


「その『気配を探り判じる』ことができるのは誰でもできますか?

 たとえば『こんな感じ』と教えておけば、トモさんひとりが侵入しても判じることはできますか?」

「それはさすがにムリね」


 ひなさんの質問にあっさりと緋炎様が答える。


「なんていうか、あの気配は言葉では説明できないわ。

 実際目の前で感じた私達守り役と姫達しか判じることはできないと思う」


 うんうんとうなずく守り役達。


「つまり、デジタルプラネットの五階六階を探るには、『境界無効』の能力者であるトモさんと、守り役のどなたかが侵入する必要があるということですね」


 ひなさんのまとめに守り役達が一様にうなずいた。

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