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第七十九話 帰還三日目 話をしよう

 黒陽と蒼真様との話を終えたところで黒陽が結界を解除した。


 するとすぐに転移陣の扉が開いて千明さんが出てきた。

「おまたせー。かわいい子を連れてきたわよー」


 続いて出てきた竹さんに目を奪われた。


 肩を覆うくらいのフリル袖の白いブラウスは襟ぐり広めで鎖骨が見えている。それに合わせるのは朝もはいていた若草色のガウチョパンツ。

 シンプルだがフリル多めだからか女性的でかわいらしい。

 そんなかわいらしい服でおずおずと俺をうかがう彼女に、胸を射抜かれた!


 ――かわいい――ッッッ!!


 なにその俺の反応心配するような顔! 似合うって言うに決まってるだろ!? かわいいって言うに決まってるだろ!!

 俺のこと、少しは意識してくれてるの!? うれしい! うれしい!!

 

「わー。竹様、かわいいよ!」

「うむ。よくお似合いですよ姫」


 見惚れている間に守り役に先を越された!

 にっこりと微笑む彼女。かわいい!


「トモくん。どお?」

 アキさんに視線で『褒めろ』と脅しをかけられる。


「その、か、――かわいい、です」

 赤くなってるのが自分でもわかる。

 それなのに彼女は困ったように微笑んだ。


「ね!? 竹ちゃん。言ったとおりでしょー! トモくんもメロメロよ!」

 千明さんは単純にキャッキャと喜んでいるが、竹さんは困ったように微笑むだけ。

 これは。


 またマイナス思考が働いてるぞ。余計な仕事しおって。


「トモくんと並んでみて!」と千明さんに引っ張られた竹さんが俺の隣に立つ。

 千明さんがドン! と竹さんを突き飛ばす!

 あわてて支えた俺に目を向けた彼女は、恥ずかしそうにその目をそらせた。


 ――か――っ!


 かわいいぃぃぃ!!


 照れてる!? 俺のこと意識してる!?

 俺のこと、好き!? 好きなの!?


「ホラ。お似合いよ!」

「ウンウン。いいじゃない」


 母親達は離れたところからバランスを見ていた。

 蒼真様と黒陽も「ウンウン」なんてうなずいている。


 そうなのか!? 俺達『お似合い』なのか!?

 ぐわぁぁぁぁ! うれしい!! もう、テンション上がりすぎておかしくなる!!


「今日はこのままお出かけしたらいいわよ」と千明さんに言われた竹さんは「はい」と素直にうなずいた。

 簡単な打ち合わせのあと、昨日同様三人であちこちに挨拶に出向いた。




 夕方に離れに帰宅した。

 彼女に椅子に座ってもらい、お茶を出す。

「お疲れ様でした」と声をかけるとにっこり微笑む愛しいひと。


「トモさんもお疲れ様でした」


 ―――かわいすぎる!!

 一日の疲れなんざ一発で吹き飛ぶよ!!


 かわいさに震えていたら「ちょっと晴明に報告してくる」と黒陽が出かけようとした。

「俺も行くよ」と言ったが「込み入った報告でないからいい」「姫を頼む」と言われては従うほかない。

 ハルめがけて転移する黒陽を見送った。



「? 黒陽は?」


 うっかりなかわいいひとは空間のゆらぎに気付いたらしい。


「ハルに報告に行きました」

「え。じゃあ私も――」

 生真面目だなぁ。かわいいなぁ。


「俺も『いい』って言われました。

 ゆっくり待ってましょう」


「でも」と落ち着かない様子の彼女がかわいくて仕方ない。ついデレデレとしてしまう。

 とはいえ落ち着かないのもかわいそうだな……………。

 ……………そうだ。



「それよりも」


 わざと彼女の正面の席に座ってにっこりと微笑んだ。


「話をしませんか?」

「話?」


 キョトンとする彼女に「そう」とうなずく。


「俺達『半身』だけど、お互いのことほとんど知らないでしょ?

 改めて、色々聞きたいなと思うんです」


「どうですか?」とたずねたら、生真面目なひとは生真面目に聞き返してきた。


「たとえばどんなことでしょう」

「そうだなぁ」


「好きな食べ物とか」

 うなずく彼女。かわいい。


「犬派か猫派かとか」

 ふんふんとうなずく彼女。


「得意なこととか」

 ふんふんふんとまたもうなずく彼女。かわいすぎる。

 かわいいひとについ笑みこぼれてしまう。


「じゃあ早速。

 竹さんは食べ物なにが好きですか?」


「え!? えーと、えーと……」

 わたわたと取り乱し、生真面目に考えだした彼女だったが、パッとは出てこないらしい。


「じゃあ、犬派? 猫派?」

 別の質問に変えてみたが、これにも「ええと、ええと」と答えられない。


 ………なるほど。優柔不断。


「犬は好きです?」

 質問を変えるとパッと笑顔になった。

「はい」

「猫は?」

「好きです」

「飼ったことあります?」

「それはなくて……。トモさんは?」

「俺もペット飼ったことないです。金魚すらいなかった」

「私もです」


 おおお! 会話のキャッチボールができてる!! そしてかわいい!


「竹さんは物作りが得意だって黒陽が言ってましたけど、どんなものを作るんですか?」

「そうですねぇ……。お守りが多いかな」

「こんなの?」

 いつも胸に下げている守護石を入れた袋を引っ張り出して見せると、彼女はうれしそうに微笑んだ。


「つけてくれてるんですね」

「当然でしょう」


 にっこり微笑む彼女がかわいい!!

 至近距離で笑顔を見れるなんて! がんばってきてよかった!


「オミさんのあのブレスレットも竹さんが作ったんですって?」

「はい。でも、ほとんど黒陽が術式作ってましたから。私は付与しただけで、たいしたことしてないんです」


 肩をすくめてそんなこと言うが、トンデモナイ付与だったぞ?

 あれ、一ミリもずらさずに術式付与しないと効果ないやつだろう。

 きっちりかっきり付与が刻んであった。

 おまけにあの霊玉。

 ものすごい量の霊力込められてたぞ?

 あれだけでトンデモナイ値段がつくだろう。


 そう思ったが、敢えて黙って微笑んでおいた。


「綺麗な文様になってましたね」

「ホントですか!?」

「ええ。あれなら普通にオシャレでつけても十分見応えがありますよ」

 そう褒めたら心底うれしそうに「よかったー……」と息をつく彼女。


 ……なるほど。無自覚。


「竹さんはほかにどんなことが得意なんですか?」

「……私、あんまり得意なことってなくって……」


 よく言うよ!!


 あんなトンデモナイ霊玉ポンポン作れる人間が世界にどれだけいると思ってんだよ!

 水の術だって結界術やら封印術やらだって超一流じゃないか!

 それで『得意じゃない』とか、なに言ってんだ!!


 内心のツッコミは一切見せず微笑んで、別のことを聞いた。


「じゃあ、好きなことは?」

「『好きなこと』?」

「そう。料理とか、スポーツとか、旅行とか」


 そう振ってみたが、彼女はまたも悩んでしまった。

 困ったひとだなぁ。

 どうせ責務しか頭になくて他に目を向けられないんだろう。生真面目だなぁ。


「手芸は?」

「手芸?」

「黒陽が言ってましたよ。なんか機織り? とか、縫い物も上手いって」


 そう振ってやるとようやく「ああ」と笑顔になった。

「昔はよくやってました。でも今生ではあんまりやってないから……まだできるかなぁ……」


 しゅんとしてしまった。


「今生はなにして過ごしてたんです?」

 この質問には少し考えて、答えを見つけた。


「本読んでました」

「本?」

「はい。

 毎週土曜日に図書館に行って本を借りて、一週間で読むんです。

 で、次の週に返してまた次の本を借りてました」

「へえ」

 ちょっと驚いた。インドア派と聞いてはいたが、そうか。読書家だったか。


「どんな本読むんです?」

「軽く読めるおはなしばっかりです」と彼女は少し恥ずかしそうに答えた。

「今はヒロさんがラノベ貸してくださるんで、それを読ませてもらってます」


 ああ。術の参考資料にって買ってる、あの山のような蔵書か。


「楽しいです?」

「はい! 楽しいです!」


 ――ぐわぁぁぁぁ!! かわいいぃぃぃ!!

 なんだその輝くような笑顔! キラッキラじゃないか!

 よし! いくらでも読ませてやる! 俺の隣でずっと本読んでたらいい!!


 そこでふと気がついた。

 このひと罪悪感の塊で『しあわせになっちゃいけない』とか言ってるくらいだから、『うれしい』とか『楽しい』も『いけないこと』だと思ってると思ったのにな。


 じっと彼女の様子をうかがう。


 ―――あ。これは気付いてないな。


 うっかりなひとは『本を読むことが楽しい』ことが『いけないこと』だと気付いていないらしい。

 本の世界に没入してる間は責務を忘れてるのかもしれない。いいことだ。黙っとこう。


「今はなに読んでるんです?」

 そう話を振ったら、彼女はちょっと考えて、気まずそうにちいさく微笑んだ。


「……最近は読んでないです……」


 ………あれか。

 本読むどころじゃないくらい体調崩してたからか。


 敢えて気付いていないフリをして「そうなんですね」と返したら、彼女はホッとした。

 そしてハッとなにかに気付いた。


「トモさんは?」

「ん?」

「トモさんは、なにが得意ですか? なにがお好きですか?」


 俺にも話をさせようとしてくれる彼女のやさしさにキュンとなる。

 一生懸命に俺のこと知ろうとしてくれるの、かわいすぎ!! もうなんでもしゃべるぞ!


「俺は……そうだなぁ……。

 得意はパソコン関係かな?」

「パソコン?」

「システム組んだり、データ処理したり」

「――すごいです!」


 ぐはぁっ! そんなキラッキラな目を向けられたら、眩しくて目が潰れるよ!!


「私パソコンとか全然わかりません」

「普段使ったりしないんですか?」

「使わないです」

「家になかった?」

「おうちにはあったんですけど、あれはお仕事用で、さわっちゃダメって言われてました」

「タブレットとか、ゲーム機とかは?」

「弟達は買ってもらってましたけど、私は別にいらなかったから……」


 今どき若い世代でデジタル難民がいるのか!

 よく学生生活送れたな!

 このひとちょっとズレてるから問題なかったのか?


「そっか。――本のほうがいい?」

 そう話を振るとホッとしたようにうなずく彼女。


「デジタルとか、よくわかんないです」

「そっか」


 正直に言ってくれるのうれしい。

 うつむくかわいいひとを愛でていたら、かわいいひとはパッと顔を上げた。


「ええと、トモさんは普段なにをされているんですか?」


 ああ。さっき自分がされた質問を返してるのか。生真面目だなあ。


「基本パソコンか修行か家事ですね」

「家事?」


 キョトンと首をかしげるのかわいい。


「ええ。俺、一人暮らしなんで。

 洗濯も掃除も自分でしないといけないんです」


 俺の言葉に以前手伝ってくれたことを思い出したらしい。

「ああ」と納得した彼女だったが、すぐにシュンとした。


 どうした?

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