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第六十五話 西の姫からの

 鬼ごっこで竹さんと黒陽を捕まえた。

 これで俺は竹さんのお世話係になった。


 はずだったのに。


 当の彼女がこの期に及んで難色を示した。

「危険だ」「巻き込めない」というのをアキさんが次々に論破していく。


 全然意見が通らず泣きそうな彼女に困っていたその時。

 突然一羽の小鳥が飛んできた。


 壁をスルリとすり抜けてきた白い鳥はパタパタと俺達の周りを旋回し、ハルの伸ばした手の先に止まった。


「晴明」

 女の声で小鳥が喋りだした。

「ハッ」とハルが従う様子を見せることから、噂の『西の姫』だろう。


「『先見』が出た」


 その言葉に全員がピリッと表情を固くする中、小鳥は静かに告げた。


「『鍵』が『帰ってきた』――心当たりは?」


 チラリと俺を見たハルは息を飲み込み。


「……ございます」


 息とともに言葉を吐き出した。


「先日ご報告致しました姫宮の『半身』が、修行から戻って参りました」


 小鳥は口を閉じ、じっとしていた。

 俺達も誰一人動けない。


『鍵』がなにかわからない。が。

『帰ってきた』

 そのワードは、間違いなく俺を連想させる。


 俺が帰ってきたことでなにか動くのか?

 それは、いいことなのか? 悪いことなのか?


 誰も何も言えない中、小鳥が再び口を開いた。


「――その男」


 なにを言い出すのかと固唾をのんで見守る。

 ドクン、ドクンと鼓動がやけに響く。

 小鳥がその口を開いた。



「逃がすんじゃないわよ」



「――は?」


 なにを言われたのか一瞬理解できなかった。

『逃がすな』? つまり?

 戸惑う俺達が見えているのかどうか。小鳥は淡々と説明する。


「その男が間違いなく『鍵』だわ。

災禍(さいか)』を封じる――いいえ、滅することのできる、わずかな可能性への『鍵』。

 なんとしても竹のそばに置いておきなさい」


「姫宮のおそばに――ですか?」


 当の竹さんは口をパカリと開けて固まってしまった。

 今の今まで『そばに置くわけにはいかない』とか『危険だ』とか反対してたのに、まさかの方向から、しかも竹さんが逆らえない方向から『俺を置いておけ』と『命令』された。


「『先見』関係なくても『半身』なら竹のそばに置いておけばあの子は回復するでしょう。

 なんとしても、竹が嫌がっても置いておきなさい。これは『命令』よ」


「かし「そんな!」


 ハルの返事にかぶせるように竹さんが叫び立ち上がった。

 その途端、小鳥の目つきがかわった!

 キッ、と、猛禽類のような鋭い目つきで竹さんをにらみつけた!


 ビクリと後ずさる竹さんと小鳥の間に移動し、竹さんを小鳥の威圧から守る。


「……竹」

「は、はひ」


「アンタ……なにヌルいこと言ってるの?」


 静かな声には恐ろしいほどの迫力が込められている。

 上位者だけが持つ圧倒的な威厳。

 ちいさな小鳥から発せられる威厳と威圧に、知らずひれ伏してしまいそうになる。

『竹さんを守る』と思っていなかったら間違いなくひれ伏していた。


 小鳥はハルの手からテーブルの上に移動した。

 竹さんが一歩下がる。


「アンタには理解できないの?『今』がどれだけ得難い機会か」


「そ、それは、その」

 じり。じり。

 小鳥が迫るにつれ、竹さんはじりじりと後ずさる。

 が、すぐに壁に当たりそれ以上下がれなくなった。


 竹さんをかばうために伸ばしていた俺の腕に小鳥が止まった。

 あわてて遠ざけようと腕を動かしたら再び小鳥が飛び上がる。

 サッとヒロがそばに来て手を差し出した。

 小鳥を手に止まらせたヒロはご丁寧に竹さんの目の前に位置するように手をあげた。


「ヒロ」

 竹さんを守ろうと一歩踏み出そうとしたが、動けなかった。

「いいから」「黙って見ておけ」

 ハルに後ろから羽交い締めにされていた。


 俺の目の前で壁に貼りついた竹さんはぷるぷるしている。

 威圧をまとった小鳥がヒロの手に止まって説教を始めた。


 

「私達姫が四人そろうことも(まれ)

 晴明もいる。晴明の駒もいる。

災禍(さいか)』の手がかりもある。

 こんな、なにもかも揃った状況になるなんて、おそらくもう二度とない。

 五千年かけてやっとここまで揃ったのよ。

 なにがなんでも『今』!

『今』『災禍(さいか)』を滅するしかないのよ!」


「それは、わかって、」

「わかってるんなら!」


 間髪入れない小鳥の叫びに「ひっ」とちいさな悲鳴をあげる竹さん。


「グズグズ言わず『鍵』を置いときなさい!

 なんならさっさと籠絡して骨抜きにしなさい!

 そのデカい乳はなんのためについてるの!?」

「そんな!」


 ひでぇ。


 あられもない表現に俺ですら『非道い』と思う。

 どうやら西の姫という人物は容赦ない人のようだ。


「とにかく、『命令』よ!

 身体でもなんでも使って、その男堕としなさい!

 それで、そばに置きなさい! いいわね!

 晴明!」

「ハッ」

「わかったわね!? その男、逃がすんじゃないわよ!

 竹が何言っても置いときなさい!」


「承知致しました」


 ハルの返答を受け、小鳥はバッサリと消えた。

 残されたのはなんとも言えない顔をした俺達と、ぷるぷる震えてふくれている竹さん。


 顔、真っ赤だよ?

 目も潤んで、怒ってるのか泣きそうなのか判断がつかない。


 ハルが開放してくれたので、竹さんのそばに歩み寄る。


「………えーと……」

 とりあえずなんか声をかけよう。なんか。なんて? えーと、えーと。


「……しますか? 籠絡……?」

「しません!」


 真っ赤になってかみつく竹さん。めずらしい。

 そんな顔もできるんだな。うん。新たな発見だな。


「そうですね」

 かわいいひとについ、へらりと笑みがこぼれる。


「俺はもう貴女に堕ちてるから。

 いまさら籠絡する必要なんてありませんね」


 正直な感想を述べただけなのに、竹さんは目も口もまんまるにして固まってしまった。

 ハルも黒陽もどこかうんざりしているのに対してアキさんとヒロはなんかキラッキラなまなざしを向けてくる。

 蒼真様はなんだか呆れてるみたいだ。なんだ?



 やがて竹さんはぱくんと口を閉じた。

 真っ赤になったまま、そっと視線を逸らすその顔が怒っているようにみえる。


「竹さん?」

 呼びかけてもそっぽを向いたまま。


「怒ってます?」

 そう聞いても答えてくれない。困ったな。

 回り込んで顔をのぞこうとしたらぷいっと反対に顔をそらされる。

 それならとそちらに回り込めばまたぷいっとそらされる。


 ……ちょっとおもしろくなってきた。


「竹さん?」

 ぷいっ。


「怒ってます?」

 ぷいっ。


「竹さん?」

 ぷいっ。


 ……めちゃめちゃかわいいんだが。

 なんだこのかわいい生きもの。

 真っ赤になってぷるぷるして、必死で俺と顔を合わせまいとして。


 くそう。どうしてくれよう。ぎゅうぎゅうに抱きしめてやろうか。それともお姫様抱っこしてやろうか。


「……そのあたりでやめておけ。嫌われるぞ」

 ハルのアドバイスにヒュッと冷静になる。


「とにかく、ちょっとふたりで話し合え。

 僕らは席をはずすから」


 そう言うとハルは立ち上がり、むんずと黒陽をつかんで自分の肩に乗せた。

 そのままヒロと、蒼真様を肩に乗せたアキさんをうながして部屋から出て行った。

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