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閑話 蒼真 13 戻ってきたら

再び蒼真視点です

 『白楽の世界』を出たらまだ日が高かった。

『あっち』でかなりゆっくりしたんだけど、うまく帰ってこれたみたい。よかったよかった。これならおやつに間に合うぞ。


 いそいそと明子のところに帰る。

「ただいまー」

「あら蒼真ちゃんおかえりなさい。おやつにパウンドケーキ焼いたのよ。食べる?」

「食べる食べる!」


 りんごのパウンドケーキは美味しかった。

 冷めた状態そのままのと、トースターで軽く温めなおしたのと、両方出してもらった。どっちもおいしい! 明子は天才!


「そういえば、トモのやつ、『むこう』でパン窯とピザ窯作ってたよ」

 そのままトモの様子を報告する。

 その場にいたのは明子と千明、タカとオミ、そして晴明とヒロ。

 いつもの夜の報告会のメンバー。

 黒陽さんはいない。竹様がお昼寝してるから、そっちについていると教えられる。



 最近、竹様は情緒不安定だ。

 はっきり言うとココロがこわれている。

 まあ仕方ないよね。『半身』に別れを告げたんだから。


 言われたトモはココロぶっ壊れた。けど、ヒロが泣きながら無意識にかけた癒しと、竹様の形代(かたしろ)に成った童地蔵のおかげでココロを取り戻した。

 そうして再度奮起して竹様のそばにいるために強くなろうと『白楽の世界』で修行に励んでいる。

 本人に見つからないようにチラッとのぞいてみたけど、なかなか激しくもまれていた。あれならすぐに強くなるだろう。


 トモの健康管理という名の実験と観測を行っているヤツに話を聞いた。

「こんなの飲ませて」「こんな副反応が」と楽しそうに教えてくれた。

 それによると白楽の言ったとおり、なかなかの霊力量になっているらしい。

 ぼくものぞいたときに注意して観察してみたけど、納得の霊力量になってた。



 そんな話もまじえながら『むこう』の様子を話す。

「ヒロ達のこともちょっと話してきたよ」と言ったら、ヒロが前のめりになった。

「『白楽がいいって言ったら受け入れてもいい』って。

 だから今度、トモを連れて帰ったあとにでも白露さん連れて白楽説得しに行ってくるね」

「よろしくお願いします」

 ヒロが真面目な顔で頭を下げる。


「その『対価』っていうわけじゃないけど」

 ぼくの言葉に晴明がちいさく反応した。


「『むこう』の人間を何人か、晴明のところで受け入れてくれない?」


 そうして『むこう』の事情を説明した。

 白楽が『世界』の『(かなめ)』なんだけど、もう高齢でいつ何があるか分からないこと。

 白楽自身、自分が死んだときのためになにか策を練っているらしいこと。

 トモが「『世界』を捨ててはどうか」と提案したこと。その詳細。



 ぼくの話を全部聞いた晴明は「わかりました」とうなずいた。


「トモに引き続いてヒロ達も引き受けていただくとなれば、こちらも引き受けるのが道理。

 蒼真様。そのお話、安倍家としてお受け致します」


 ペコリと頭を下げる晴明。

 やったね! よかった!


「じゃあヒロ達連れて行ったときにその話もしてもいい?」

「もちろんです。私も同行します。そのほうが信じていただけるでしょう」

「ホント!? ありがと!」

「いつ頃からか、どんな人材が来るかなど、詳細はまた詰めていきましょう」

「そうだね! まずはトモを連れて帰って、ヒロ達を連れて行ってからだもんね!」


 わあい! よかった! 

 ひとつ気になる案件が片付きそうでうれしくなっちゃう。


 そのヒロ達をいつ連れて行くかの話にもなった。

 トモの様子を見に行ったら、『むこう』では一年半経っていたことを報告する。

「だから同じあと五日経ったくらいにまた行ったら、さらに一年半――三年修行したことになると思う」

 ぼくの説明に一同がうなずく。


「それでどれだけ強くなってるかにもよるけど。

 白楽達が『いいよ』って言ったらそれで連れて帰る。

『まだ修行が必要』ってことだったらもう数年置いておく」

 これにも一同がうなずく。


「トモの修行の経過と状況を見て。ヒロ達が何年くらい『むこう』にいたらいいか相談する。

 ヒロ達は学校とか長く休めるの?」

「休めなくはないですが、できれば土日の二日で帰ってこれると助かります。

 ぼくらはともかく、ナツは仕事があるので……」


 ヒロの言葉に「じゃあ二日で帰るように出入り口を調節してから行こう」と晴明と話し合う。

 トモをこのへんで迎えに行って。余裕をもってこのくらい開けて。じゃあヒロ達連れて行くならこのへんかな。


 そうやって六月の最初の土日にヒロ達を『向こう』に連れて行こうと計画を立てた。


 もちろんトモ次第だから変更の可能性はあるけど。

「みんなに報告しとく」と早速ヒロがスマホを取り出した。


「蒼真様のお話、菊様にはどうしますか? 私から報告しますか?」

 晴明がそう言ってくれたけど「ぼくが話しに行くよ」と言った。

『白楽の世界』に関わることなら『白』に関わることだし。

 菊様一応『白』の女王だし。


「ヒロ達のこと話すなら黒陽さんいないところで話したほうがいいだろうから、菊様のところで白露さんと緋炎さんにだけ話をしとく」

 そう説明したら晴明も納得した。

「よろしくお願いします」と頭を下げてきた。



 話が一段落したところでオミとタカと千明は仕事に戻った。大変だね。がんばって。


「菊様のところでお話をするならお茶請けとお土産がいるわね」って明子がおやつを作ってくれた。

 プリン! プリンおいしいよね! うわぁ! 生クリームも乗せちゃうの!? 明子最高!


「蒼真ちゃんのアイテムボックスにこのまんま入れられる?」

「入れられる入れられる! ありがと明子!」

 スプーンもちゃんと人数分つけてくれてる。

 白露さんと緋炎さんは食べにくいだろうからいらないんじゃないかな!

「いらない」って言ったらぼくがもらお!


 お土産にっていちご大福も作ってくれた。

「蒼真ちゃんのは今食べちゃって」

「はーい!」

 あまずっぱーい! おーいしー! 何個でも食べられちゃう!


「ダメよ蒼真ちゃん。夕ご飯が食べられなくなっちゃうわ」

 それは大変。今日の夕ご飯なに?


「今日はシチューよ。もう作ってたの」

 クリームシチュー! ぼく大好き!


「蒼真ちゃんが『トモくんのところに行く』って言ったから。

 帰ってすぐに食べられるように用意してたのよ」


「おやつの時間だったからパウンドケーキになっちゃったけど」って明子が笑う。

 つまりぼくのために作ってくれてたんだね! うれしい!


「明子だーいすき!」

 ぎゅって抱きついてすりすりしたら、明子はすぐに抱き返してくれる。

「うふふ。私も蒼真ちゃん大好きよ」

 うれしいな。『おかあさん』ってこんななんだろうな。

 青藍(せいらん)ではぼく護衛一族に生まれたから、物心つくまえから修行修行で甘えるなんてできなかったんだよね。


 明子に甘えながら夕ご飯の支度を手伝って。

 ちびっこに晴明とヒロがごはんを食べさせるのを眺める。

 ぼく、パウンドケーキといちご大福食べてるからもーちょっとあとにする。うん。オミ達と一緒に食べる。


 あれ? そういえば、竹様は?

 まだ寝てるの?


「蒼真ちゃんが帰ってくるちょっと前からまたお昼寝したから。

 どうかしら? 今夜は夕ご飯無理かしら?」


 明子が心配そうにつぶやく。

「少しでもごはん食べたほうがいいんだけど……」

 その言葉にさっき戻ってきた千明が「様子を見てくる」と転移陣の向こうに行った。



 竹様は相変わらず泣いては寝てを繰り返している。

 こればっかりはつける薬がない。

 ぼくも竹様が疲弊しては死ぬのを何度も見ているから、どうにもできないってあきらめてる。


 これまでもそうだった。

 だんだん眠れなくなって、ほとんど寝なくなる。

 それがある一定期間を過ぎると今度は逆に眠ることが多くなる。ひどいときは眠り続ける。


 そうして、生命を落とす。


 最近よく寝てるのはそれじゃない?

 竹様、もう時間がないんじゃない?


 今回の疲弊はかなりひどい。

 トモに――『半身』に別れを告げたのがかなりこたえている。


 実は一昨日オミのブレスレットを試作しているときに黒陽さんとこっそり話をした。

「あとどれくらい竹様は生きられるか」って。

 黒陽さんは「もって一年、動けるのは半年」って予測を立てた。


 ぼくも同意見。

 あと半年で『災禍(さいか)』をどうにかできるとは思えないけど、どうにかしないととは思う。


 姫が四人そろうなんてここ数百年なかった。

 おまけに晴明もいる。『災禍(さいか)』の手がかりもある。

 今どうにかできなかったら、もう今後どうにかできるとは思えない。

 そのくらいの奇跡的な状況が、今だった。


 問題は竹様。

 今までも疲弊した状態で戦いに臨んだこともあったけど、当然術が長続きしない。術の効きも悪い。

 どうにかあのひと回復できたらいいんだけど。


 でも精神の病気といえるような状態だから、つける薬も飲ませる薬もないんだよね。

 抗うつ剤とかも昔飲ませたことあるけどそこまで効果なかったし。薬が切れたときの反動がひどくてだめだったし。


 竹様が動けるうちにウチの姫と蘭様覚醒させるかって話も出たけど「『災禍(さいか)』の手がかりだけで確証のない今ムリヤリ覚醒させても『災禍(さいか)』を刺激して逃げられることにならないか」ってなって『自然に覚醒するのを待とう』って待っている。


 今ウチの姫は学生生活を満喫している。

 勉強に実習にと毎日忙しくしていて、高間原(たかまがはら)のことも『災禍(さいか)』のこともなにも知らずに楽しく暮らしている。

 姫が毎日元気で楽しくしているから、ぼくは姫に関しては安心している。

 あれでウチの姫は『空気読める』ひとだ。

 いつも『ここぞ!』というときにちゃんと覚醒して責務を果たそうとする。

 だからこそぼくは安心してあちこちの薬草園の世話したり薬作ったり好き勝手できる。


 蘭様も学生生活満喫してるらしい。緋炎さんが言ってた。

 あのひとは緋炎さんが「覚醒しろ!」ってつついたら覚醒するから大丈夫。覚醒の反動もちょっと寝ただけで回復するひとだ。問題ない。


 問題は竹様。

 あのひと昔っから弱っちいんだよね。

 蘭様の爪の垢煎じて飲ませようかって何度話に出たことか。


 いっつもくよくよして、それでごはん食べられなくなって眠れなくなって、で、疲弊して死んじゃう。

 疲弊して死ぬだけのときはわりとすぐ転生するんだけど、魂削るほど術を使って死んだりしたら何十年も、下手したら百年も転生しない。


 今回も『災禍(さいか)』を追い詰めて――ってなったら、絶対魂削っても術を使う。

 そんでまた百年近く転生しないんだ。


 困ったひとだなあ。


 そうため息をついていたら、転移陣を刻んだ扉が開いた。

 おずおずといった感じで、その竹様が顔を出した。


「ホラホラ。竹ちゃん。行くわよ!」

 後ろから千明に押されて竹様がつんのめるように部屋に入ってきた。

 千明が起こしたのかな? 竹様が起きたのかな? どっちにしても夕ご飯は食べられそう。よかったよかった。


「おはよう竹ちゃん。よく寝られた?」

 明子にやさしく声をかけられて「あの……はい」とうなずく竹様。


「ほらほら。座って!」

 千明に椅子に座らされる竹様。すぐに明子がシチューを出す。


「さ。竹ちゃん。どうぞ。一口でもいいから食べてね」

「ごはんとパン、どっちがいい?」

「………じゃあ、パンでおねがいします」


 トモの作ったパンを見せると途端に食べる気になったみたい。すごいな『半身』。


 とはいえそのトモのパンもそろそろ在庫がなくなるらしい。

 明子が「竹ちゃんごはん食べなくなるんじゃないかしら」って心配している。


 席に着いた竹様にちびっこが今日何をしていたか競うように話している。

 竹様はニコニコしながらそれを聞いている。

 黒陽さんがぼくのほうにやってきた。


「蒼真はもう食べたのか?」

「ううん。ぼく、おやついっぱい食べたから。オミと食べる」

「そうか。では私もそうするかな」


 そんな話をしているぼくたちの横で竹様は少しずつだけどパンとシチューを食べた。

 食べ物を口にしたことに黒陽さんがホッとしていた。



 竹様が食事を終える頃。タカが帰ってきた。

「ただいまー。お。いいにおいー」

「おとーさん!」

「おとーさん! おかーりー」


 食事を終えたちびっこがタカに飛びつくのをひょいひょいと抱き上げるタカ。

「サチ。ユキ。ただいま」

 両手に抱き上げたちびっこのほっぺにキスをするタカ。もう見慣れた光景だ。

 ちびっこも「きゃあ!」と喜んでいる。


 でも今日はいつもとちがった。

 ちびっこを抱いたままのタカが竹様のところに近寄った。


「竹ちゃんも。ただいま」

 そして顔を近づけた!


「にゃっ!?」

 おかしな声を上げた竹様が椅子から飛び上がる!


「た、タカさん!?」

「ん?」

「な、なに、を」

「なにって……『ただいま』のちゅーだよ?」

「な」

 竹様もぼくらも唖然とするなかで、タカに抱かれたちびっこがエラそうに言った。


「たけちゃもおとーさんにちゅーしてもらお!」

「は!?」

「ちゅーは、なかよしーってことなんだよ。だいすきーってことなんだよ。

 だからたけちゃもしてもらったらいいよ!」

「な、ななな」


 固まってしまった竹様の前で、片腕ずつ抱かれたちびっこが両側からタカのほっぺに「ちゅー」とキスをする。

 されたタカはデレッデレだ。


「ほら。ヒロも」

「誰がするか」


 もうひとりの実の息子にはバッサリ切り捨てられた。


「じゃあ竹ちゃん」

「しません!」


 竹様は真っ赤になって怒鳴る。このひと、怒鳴るなんてできたんだ。


「えー。じゃあ仕方ないなぁ」

 そう言ったタカはちびっこをヒロに渡すと竹様を抱きしめた!


「にゃっ!? にゃ、にゃに、」

「ただいまー」

 そう言って笑いながらタカが抱きしめた竹様の背中をぽんぽんと叩く。

 でも反応がないからかすぐに離れた。


「『おかえりー』ってぎゅーしてほしいなー」

 ねだるように言われた竹様は生真面目に葛藤していた。


「たけちゃ! こうだよ! ぎゅー!」

「ぎゅー!」

「うはは。うれしいなー」


 ちびっこがヒロの腕から逃れてタカに飛びつく。

 難なく受け止めたタカは両側からふたりに抱きつかれてまたもデレデレしている。


「ぎゅーしてもらったら疲れが吹っ飛ぶよ。サチ。ユキ。ありがと」

 そうしてちびっこのほっぺにまたキスをするタカ。


「……ごめんね竹さん。あの阿呆、留学経験があるから、ちょっとスキンシップがおかしいんだ……」

 申し訳なさそうなヒロに竹様は納得したらしい。


「これまでは一応遠慮してたみたいなんだけど……どしたんだろ? 疲れてんのかな?」


 その言葉に竹様の顔つきが変わった。


「えと、私も、その、ぎゅーしたら、いいですか?」

「え? そんなムリしなくて「してして!」コラー!」


 ヒロの言葉をさえぎってタカが満面の笑顔を竹様に向ける!


「娘にぎゅーされたら、おとーさん元気になっちゃう! してして!」


「……『娘』……『おとーさん』……」


 ………竹様?


「娘も息子も! みんなですればいいでしょ!?」

「ひゃっ!?」


 呆然と立ちすくむ竹様を後ろから千明がドンと突き飛ばす!

 並んでいたヒロも突き飛ばされ、ふたりまとめてタカの腕におさまった。

 ちびっこは素早く肩に移動している。

 さらに後ろから千明が突撃した!


「みんなでぎゅーすればいいのよ!

 タカ、今日もお疲れ様! ぎゅー!」

「苦しい苦しい! つぶれるから!」

「ぎゅー」「ぎゅー」

「わはははは! もう、みんなかわいすぎ!

 おとーさんしあわせ!」


 ぎゅうぎゅうと抱きしめられはさまれ、竹様は目を白黒させながらもどこかうれしそうだった。

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