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閑話 蒼真 5 アイテムの試作と昔の話

 話し合いも一段落し、緋炎さんは晃を、黒陽さんはヒロを鍛えるという。

 今日は白露さんはナツのところに行くって言ってた。

 じゃあぼくは佑輝のところに行こうかな。

 そう思っていたら。


「そういえば蒼真くん。美味いお菓子もらったんだけど。いる?」

 タカの提案に「いるいるいる!」と飛びついた。


「一乗寺の家に一緒に行ってもらっていい?」と言うからほいほいついていった。

 佑輝は放っといてもいいでしょ。一応連絡だけ入れとこう。




 転移陣を通ってタカの家に行く。転移陣、便利。

 タカが出してくれたのはバウムクーヘンだった。これ美味しいよね!

 一回食べてるから緋炎さんがいなくても大丈夫。

 個包装されてるパッケージをむいて。早速いただきまーす! おーいしーい!


「ところで蒼真くん」

 タカの声に顔を向けると、タカと千明が真面目な顔で並んで座っていた。


「さっきのオミの話、もうちょっと聞かせてもらってもいい?」


 口の中のバウムクーヘンをごっくんと飲み込んで、ふたりに向き直った。

 その話をするためにぼくを連れ出したって、わかったから。



「たとえばさ」

 タカが言う。


「霊力の『つながり』を切っちゃうんじゃなくて、そのときだけ遮断することは、できない?」

「遮断……」


「そう」とタカがうなずく。


「たとえば『メガネをかけてるときだけ』とか『ボタンを押して起動させたときだけ』とか、条件が満たされたときだけ『つながり』を遮断するの。

『つながり』が切れたらオミの霊力はたまっていって、蒼真くんを見ることも話を聞くこともできるんだろう?」


 タカの提案に考えてみる。

 どうかな? できるかな?


「差し当たり、オミに霊力が必要なときがあるとしたら、蒼真くん達と話をするときだけだと思うのよ。

 そのときだけ『霊力なし』でなくしたらいいと思うの。どうかしら?」


 千明の話に『なるほど』と考える。


 オミは別に陰明師でも神職でもない。

 常に『ヒトならざるモノ』が視えている必要はない。

 ぼくらが集まって話をするときに一緒に話ができればいいだけだ。


 そうだ。ぼくもそう思った。

 オミに視てもらいたいなぁって。

 オミと直接やりとりしたいなぁって。

 なでてもらいたいなぁって。


 ぼくと、ううん、ぼく達守り役と話したり酒盛りするときにだけ『霊力なし』を返上する――。

 それならオミが心配する『晴明に万が一のことがあったら』ってこともないかも。他のときは『つながり』が保たれたままなんだから。


 でも。

 うーん。

 どうかなぁ。どうやったらいいかなぁ。


 最初にぼくが考えていたのは、晴明に術式を公開してもらって、それを解呪する方法。

『つながり』を切って、あとは霊力回復薬飲んで『(うつわ)』に霊力ためたらいいって思った。


 でも『一時的に』『つながり』を遮断するっていうのは――。


「……………ううーん……………」


 腕を組んで頭をひねるけど、いい考えが浮かばない。

 目薬はどうかな? 霊力含ませた目薬だったら機能を上げるのに役立つはず。

 でもそれだと視えても聞こえないし触れられない。

 さっきタカが言ったメガネはどうだろう。

 そういうのも聞いたことがある。

 でもあれは確か普段は能力を抑えておいて、メガネをかけることで本来の能力を開放する鍵にするというものだったはず。

 今回のオミの場合には適用されないだろうなぁ。


「……遮断……遮断……」


 一定期間だけ効果のある薬はどうかな?

 でも常用してたらいつの間にか本来の『つながり』が切れちゃってたなんてことにもなりかねないよね。

 そしたら万一のことがあったら、オミはひどくかなしむだろう。


「遮断……」


 あとタカはなんて言ってたっけ?

 ボタンを押したときだけ。

 なんか『鍵』を作って、それに霊力込めて起動させる? 結界陣みたいに。

 でも起動させるだけの霊力がオミにないんだよなぁ。それじゃあ効果ないよなぁ。


「遮断……」


 ううん、ううん、と悩んでいたら、じれた千明が声をかけてきた。


「たとえば、オミの周りに結界を張ることはできないの?」

「結界?」

「そう」


 千明がしどろもどろに説明する。


「私達はよくわかんないけど、結界っていうのは『切り取るモノ』で『遮断するモノ』じゃないの?

 オミの周りにだけ結界張ったら、そのときだけは『つながり』で霊力流れていくのを止められたりしないの?」


「『ガチャカプセルで閉じ込める』みたいな」


 おにぎりでも握るような手つきで千明が『ぱこん』って空間を閉じ込めた。


「そんな『つながり』だけを遮断する結界なんて簡単には――」


 ――あれ? 結界?


 あれ? 待って。

 ぼくにはできないけど、結界の専門家といってもいいひとたちがいるよね?


「――ちょっと、黒陽さんに聞いてみよう」

 そうして黒陽さんを呼び出した。




 ヒロに修行をつけていた黒陽さんは『ナイショの相談がある』と連絡したらすぐに来てくれた。ヒロも一緒。


 ヒロは霊力空っぽになってた。回復薬渡すとグビグビと一気に飲んだ。


「なるほど。話はわかった」

 黒陽さんはぼく達の話を聞いてうなずいた。


「その『ボタンを押して起動』という案は使えそうだな」

「そう?」


「メモはあるか」と黒陽さんに言われ、タカが紙とペンを持ってくる。


「例えばだが」

 器用にペンを手に張り付けて、黒陽さんがヨレヨレの図を描く。

 その手、使いにくそうだよね。ぼく指五本ある手でよかった。


「こう、この本体に陣を描いておいて、こちらのボタンの裏に対になる陣を描いておく。

 で、ふたつが重なったときに起動する、というようにしたら、オミが『霊力なし』でも起動できる」


「なるほど!」

 さすが黒陽さん! 物知り!


「晴明が術式を公開してくれたら『つながり』を遮断する陣を作ることはできると思う。

 ついでに起動したときに霊力を流すようにしたらどうだろうか。

 遮断しただけだと、霊力がたまるまでは我らを見ることもできまい」


「そんなことできるの!?」

「できるだろう」


 あっさりと黒陽さんは言う。


「ひとつの霊玉に陣を刻むのが難しければ、たとえばさっきの話にあったメガネのようなものの、右と左にそれぞれに霊玉をつけて、右を起動したら遮断、左を起動したら霊力補充、とかしたらどうだ?」


「―――いいかも!」


 すごい! すごいすごい!

 それがホントにできるなら、オミと話せる! オミになでてもらえる!


「黒陽さん天才! すごい!!」

「今頃知ったのか」

 フフン。ってえらそうにふんぞり返る黒陽さんにみんなで笑った。




「試しに」ってメガネを持ってきてもらったけど、左右に霊玉入れるには細すぎてダメだった。

「じゃあ」って千明が持ってきたのは四角い板二枚の一辺だけをくっつけたもの。


「クリップなの。これならシャツにこうやってはさんで使えると思うわ。

 ここの部分に石を取り付けられないかしら?」


 黒陽さんが金属製の板に手を当ててなにかした。

「――フム。これなら加工できる。

 陣を刻むことも、霊玉をはめ込む機構を作ることもできるだろう」


 できるの!? すごいね黒陽さん!


青藍(せいらん)でも金属加工はやるだろう?」

「ぼく薬は作るけど、薬を作るための道具は別のひとにお願いしてたから……」


 もにょもにょ言い訳するぼくを気にすることなく「ちょっとやってみよう」と黒陽さんはクリップに手を当てて霊力を流した。

 手を離したときにはくぼみができていた。

 そこに簡単に作った霊玉をはめ込む黒陽さん。

 霊玉を押すと、カチリと押し込まれた。

 もう一度押すとカチリと元に戻った。


「フム。こんなものか?」

「バッチリじゃない!!」

 きゃあ! と千明が喜ぶ。


「これで陣? を刻めばいいの?」

「そうだな。試しに霊力補充を刻んでみるか」


 そうして再びクリップと霊玉に手をあててもにゃもにゃする黒陽さん。

 え? なんでそんなに簡単にできるの? おかしくない?


「これでどうだろうか? 試しにヒロ。つけてみろ」

 言われてヒロがクリップをシャツの胸元につけた。

「そこを押してみろ」と言われ、そのとおりにするヒロ。


「――すご!」

 途端に声を上げる!


「え!? なにこれ!! めっちゃ霊力補充される!!

 うわぁ! これ、ぼくが欲しい!」


 テンション高くはしゃぐヒロをニコニコ見守る黒陽さん。

 と、その霊玉がパキリと割れた。


「!!」

 青くなるヒロだったけど、黒陽さんはあっさりしたもの。


「フム。注ぐ量を調整せねば際限なく注いでしまうな。

 一定量を注いだら止めるようにするか」


「ご、ゴメンナサイ」

 泣きそうなヒロに黒陽さんはケロッと言う。


「ああ。気にするなヒロ。これはあくまで試作品だ。

 霊力もそこまで注いでいない。

 だからお前の不足分を補ったらそれで霊力が尽きたのだろう」


「問題点がわかってよかった」とまで言われ、ようやくヒロが胸をなでおろした。


「なにか気付いたことや、こうしたらいいというようなことはあるか?」


 黒陽さんに問われ、ヒロは真面目な顔で考えを巡らせる。


「霊力補充だけで言ったら、シャツ越しよりも直接肌に触れてたほうが効果はあるのかなって思いました」

「なるほど。それはそうかもしれんな」


 黒陽さんもその意見には思うところがあったらしい。

「身体に触れる側に霊玉をはめ込むか? だがそれだと誤作動が心配だな」なんてブツブツ言ってる。


「あ。じゃあ、ブレスレットは!?」

 パン! と手を打った千明がまたバタバタとどこかに行き、戻ってきたときには金属製の輪を持っていた。


「これ! どお!?」

 千明が見せてくれたのはシンプルな金色の輪だった。

 一点を千明が押すと『カチッ』と音がして輪が開いた。

 あ。真ん中で広がるんだね。

 再び千明が開いた部分をくっつけて押すと『カチッ』と音がしてまた輪に戻った。


「これなら手首に直接当たるからいいんじゃない!?」

「――フム」


 黒陽さんはブレスレットを手に取って、持ち上げたり内側をのぞきこんだりとなにかを確認していた。

「もう一度開閉してみてくれ」と千明に頼み、カチリカチリと開け閉めする様子を観察していた。

「つけたカンジが見たい」という黒陽さんにヒロが手首につけた。

 その様子も観察し、また何度かつけたりはずしたりさせた。

 そうして黒陽さんは目を閉じて「むーん」と考え始めた。


 ぼくらが固唾をのんで見つめる中、黒陽さんはひとり考えにふけっていた。

 やがて目を開けた黒陽さんが千明に顔を向けた。


「これ、ひとつしかないか?」

「色違いも含めたらあと五つあるわ!」

「フム。ひとつ試作用に使ってもいいか?」

「もちろんよ! 何個でも使って!」


「じゃあ試しに霊力補充を」と黒陽さんはパッと霊玉を作り、ブレスレットに手を当てた。

「――これではマズいか。なら、ここを……」

 なんかブツブツ言いながらブレスレットに霊力を注いでいく。ブレスレットに黒陽さんの霊力が刻まれていくのがわかる。


 そうしてできたのは、内側に模様が刻まれ、外側に霊玉をひとつつけたブレスレットだった。


 だからなんでそんなに簡単にできるの。おかしいでしょ?


「試しにヒロ。つけてみろ」

 再び実験体にされるヒロ。

 文句も言わずブレスレットを手に取り、カチッと広げてから手首に当て、カチッと取り付けた。


「――すごい――!」


 今度はぼくも霊力の流れを探るように観察していた。

 ヒロがブレスレットを『カチッ』てしたときから、ブレスレットにとりつけた霊玉からヒロに向けて霊力が流れ込んでいく。

 でも、それはすぐに止まってしまった。


「あれ? え? あれ?」

 戸惑うヒロに「止まったか?」と黒陽さんがたずねる。


「は、はい。あんなに霊力が補充されてきてたのに、急に止まっちゃいました」


 ヒロはオタオタしてるのに黒陽さんは満足そう。

「フム。成功のようだな」なんて言ってる。


「さっきは際限なく注ぎ続けてしまったから、今度は一定量を注いだら自動停止するように陣を描いた。

 うまく行ったようだな」


 ……すごくない?


 え? 陣とか術式開発とかは白蓮(はくれん)の得意分野じゃなかったの?

 黒陽さんもできるの?


「この程度、開発と言うほどのものでもなかろう。

 これまでにあったものを応用しただけにすぎん」


 呆れたように言うけど、ぼく『やれ』って言われてもできないよ!?


「そのぶん蒼真は薬が作れるではないか」


『なにを言っているのか』そう言っているような黒陽さん。

 でもぼくが薬作れるのは八歳から姫にくっついて勉強して修行したからだからね!? 専門職だからだよ!?


「ぼく、薬師だもん。黒陽さん、専門は護衛とか、戦闘職でしょ!?」

「違うぞ?」

「え!?」

「ん? 話したことがなかったか? 私は土木や治水が本業だ」

「は!?」


 さらっと言う黒陽さんが信じられない!


「戦闘職じゃないのにあんなに強いの!?

 黒陽さん、高間原(たかまがはら)全体でも五本の指に入るくらいのひとだったでしょ!?」

「大袈裟だな。誰がそんなことを?」

「誰って……。青の王とか、赤の王とかが言ってたよ。『あれほどの人物が』って」


 そう説明したら「ああ」と納得したように黒陽さんは笑った。

「おおかた我が王が大袈裟な話を聞かせたんだろう。

 まったく、困ったものだ」


『やれやれ』って首を振ってるけど、絶対違うよね?

 ぼく、『落ちる』前も『落ちて』からも修行つけてもらってるけど、黒陽さんに本気出させること、一回もないもん。


 納得できないぼくに黒陽さんは苦笑まじりに話をはじめた。


「私が若い頃の紫黒(しこく)は厳しい土地だったんだ。

 土は痩せて固く、耕作に向かない。

 魔の森からの採集で日々をつなぐような暮らし。

 その魔の森からはしょっちゅう瘴気があふれ、魔物があふれた。

 それをどうにかしようとしているうちに、まあ、色々できるようになった」


『なった』って。そんな簡単に。



 それから黒陽さんは紫黒(しこく)でどんなことをしてきたのか話してくれた。

 魔の森が近いからか、黒のひとは高霊力保持者がほとんどだった。

 その高霊力を武器に土地の改良を進めていった。

 結界の強化。土壌改良。そのための治水事業。

 幸い固い固い土を深く深く掘れば水脈はあった。

 井戸を掘り、水路を巡らせ、痩せた土地でも栽培できる作物から取り組んだ。

 徐々に徐々に土を変え、栽培できる作物を増やしていった。

 餌の目処が立ったところで家畜の飼育も始めた。

 その家畜を育てるための水路も作った。


「水路を作っているときに魔物に襲われるのはしょっちゅうだったから。

 それなりに戦闘経験も積むことになったな」


 黒陽さんが若い頃の紫黒(しこく)は、そんな厳しい土地だったらしい。

 だから逆に『戦闘職』はいなかったという。

 誰もが何らかの仕事をしないと生活が立ち行かなくなるくらい厳しい土地だった。

 そしてしょっちゅう魔物や瘴気にさらされる厳しい土地だから、誰もが魔物に立ち向かえるくらいには強かった。


「道具も資材もロクにない状況で土地の改良を進めなければならなかったからな。

 あるものはなんでも使った。

 工夫すればたいていのものが使えたぞ。

 それこそ『ただの石から鉄を取り出して鉄板を作る』なんてこともしょっちゅうだった」


 そんな錬成までできるの!? すごくない!?


「それで黒陽さん、薬の材料も簡単に取り出したりできるの」

「まあそうだな」


 感心するぼくに対して黒陽さんはいつもどおりあっさりとしたもの。

 でも、青藍(せいらん)の常識だと、とんでもないからね!?


「だから私のこれは『必要に迫られて』というヤツだ。そんな、開発とかなんとかいうような、大したことではない」


 そう言ってヒロの手首にある腕輪に目をやる。


「それにこういう道具を作るのは我が姫のほうがうまいぞ?

 姫はちいさな頃から黒枝に術や手芸の手ほどきを受けていたからな」


「……………」



 ………思い出した。



 そういえば昔っから竹様はいろんなもの作ってた。

 お守りが多かったけど、何重も付与つけたものをしょっちゅう作ってた。


 それこそ『落ちた』ばかりで国作りに奔走してた頃なんかは、霊玉だけじゃなくて(かご)とか布とか日用品もせっせと作っていた。


 あるときウチの姫が「病人の寝台用に大きめの敷布があれば」と言ったのを聞いた竹様は、せっせと機織って布を作った。

 けど、どれもこれも高霊力に守護の術まで組み込まれた、とんでもないモノに仕上がった。

 それを渡されたウチの姫に「こんな布、王族の婚礼か特別祭祀くらいしか使いようがないでしょ!!」って叱られてた。



「……………それなんだがな」


 黒陽さんの話によると。


「せっかく織ったけど『こんなの使えない』って梅様が」と竹様は落ち込んだという。

「黒枝の作るものには及ばないって、わかってるけど……上手にできたと、思ったんだけどなぁ……」


 そう言って、それはそれは落ち込んだと。


『品質が悪い』んじゃなくて『品質が高すぎて』「使えるか!!」って怒られたんだけど、黒陽さんもそう説明したらしいけど、そんな理屈、竹様にはわからなかったらしい。


 そして「次はもっといいのを作る!」とがんばってしまい、そのたびに「使えるか!」と怒られ、そうして竹様の自己評価はどんどんと落ちていったという。


 そんなことを毎度毎度、いろんなモノを作ってはやらかしていたと。



 ……………あれ? てことは?

 あのひとの自己評価が低いのって、ウチの姫のせい……?


 いやいや。菊様も怒ってたし。

 他のひと達も「もったいなすぎて使えない」って使ってなかったし。


「『使う価値もないみたい』『使えないけど、私があげたものだから捨てるわけにもいかなくて、仕方なく飾ってるみたい』と言って落ち込んでいたな」


「「「……………」」」


「『そうではない』と何度も説明したのだが、結局わかってもらえなかった」


「「「……………」」」


 ……使ってあげたら喜んでくれたのかな?

 そしたら今みたいな自己評価低すぎなひとにならなかったのかな?

 でもそれって、たとえば農作業をゴッテゴテに飾り立てた礼装でやるようなもんなんだけど。

 寝ているネズミを仕留めるために戦車持ってくるようなもんなんだけど……。



 判断できなくてタカ達に意見を求めたら、三人共顔を引きつらせた。


「……過ぎたことはもう仕方ないですよ。諦めましょ?」

「そうね。大事なのはこれからよ!

 これから竹ちゃんがなにか作ったら、褒めまくればいいのよ!

『ありがとう』『すごいね』『助かるよ』って言えばいいのよ!」


 励ましてくれるタカと千明の影でヒロがボソリとつぶやいた。


「……………つまり、またこのお守りみたいなのを作ってくれる可能性があるんだね……………」



 なんでも竹様はトモと晴明の家族にお守りを作って渡したという。

 それでトモはあの鬼とひとりで戦っても生きていられたのか。さすが竹様のお守り。


 で、そのお守り。

 晴明が現金に換算したらいくらになるか、数字を出していた。

 千明は知らなかったらしい。絶句して、あわてて外そうとして、なにかに気付いて思いとどまった。

 そして渋い渋い顔でうなる。


「……………蒼真くんのお姫様は悪くないわ。

 ウン。悪くない」


 黒陽さんがそんな千明に苦笑していた。

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