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閑話 蒼真 3 オミ

 明子に抱かれたまま入った部屋は寝室だった。

 大きなベッドが部屋の真ん中にデン! と置いてある。

 その奥のちいさな机に向かってオミがパソコンを叩いていた。


 明子に気付いたオミがパソコンから顔を上げた。


「お疲れ様明子さん」

「オミさんもお疲れ様」


 微笑みあうふたりはお似合いの夫婦だって感じた。

 明子はトテトテとオミのそばに寄り、パソコンをのぞきこんだ。


「まだかかる?」

「ううん。もうやめる」

 オミがカチカチとなにか操作をしたら、パソコンの画面が黒くなった。

 電源落としたんだね。覚えたよ!


 パソコンの電源を落としたオミは、椅子の向きを変えて明子に身体を向けた。

 そして黙って両手を広げて差し出した。


 そんなオミに明子はにっこりと笑い、ぽてっとその膝に座った。

 ぼくを抱いた明子をオミがぎゅうっと抱きしめる。


 え? 甘々夫婦なんだけど!?

 普段と全然違うんだけど!!

 こ、これ、ぼく居たらマズいんじゃない!? 明子ー!!


「あのねオミさん」

「ん?」

「実は、今、蒼真ちゃんがいるの」


 明子ー!!

 この状況でそれを言う!?


 ぼくは声も出せずにアワアワしてるのに、オミはちょっと目を大きくしただけだった。


「どこに?」

「ここ。抱っこしてるの」


 そう言って明子はオミの手を取った。

「ここが頭でー。で、こう、身体があってー。ここが尻尾」

 ぼくの身体に這わせるようにオミの手を誘導する明子。

 オミはされるがままになっている。


「けっこう長いんだね」

「ね」

「それに、思ってたよりちいさい」

「ね」


 明子は楽しそうにクスクス笑ってる。

 ぼくはオミの手が動いても触られてる感がなくて、ただ大人しくしていた。


「明子さん」

 明子がオミの手を離したら、オミはすぐさま明子を抱き込んだ。


「ありがとね」

「うん」


 ……なにが?


「あのー。なにが『ありがと』なの?」

 我慢できなくてツッコんだ。

 そんなぼくに明子は楽しそうに笑う。


「蒼真ちゃんが『なにがありがとうなの?』って」

 通訳(?)してくれる明子にオミも楽しそうに笑う。


「明子さんが蒼真様を抱っこして、その明子さんを僕が抱っこしたら、僕が蒼真様を抱っこしてるのも同じでしょう?

 だから『ありがとう』ですよ」


 ………わからない。


 意味わかんなくてブスッとするぼくに、明子は楽しそうに笑う。


「つまりね」


 明子がまたオミの手を取ってぼくに這わせる。

 頭をなでるように。


「オミさんも蒼真ちゃんを抱っこしたかったってことよ」


「……オミはぼくが視えないんだろう? 声も聞こえないんだろう?

 なのになんで『抱っこしたい』になるの?」


「『なんで視えないし聞こえないのに抱っこしたいのか』って」


「それはね」

 オミは狐みたいな吊り目を細くして、楽しそうに言った。


「明子さんが貴方を『息子だ』って言ったからですよ」


 ……ますます意味わかんない。


「明子さんの『息子』なら僕にとっても『息子』です。

 でも僕はご存知のとおり『霊力なし』で、蒼真様を見ることも触れることもできない。

 だから『さみしいなー』って思ってたんです。

 今明子さんが蒼真様を抱っこしてきてくれて、なでさせてくれて、うれしいです。

 だから『ありがとう』です」


 ……わかったような、わからないような……。


 つまり、なに?

 明子の息子になったら千明の息子になって、千明の息子になったらタカの息子にもなるけど、明子の息子になったらオミの息子にもなるの?

 なんなのそれ? おかしな連中。

 そんなの五千年生きてきたけど聞いたことないよ。


 そんなおかしな連中のひとりの明子は楽しそうにクスクス笑っている。

 そんな明子にオミも楽しそう。


 楽しそうなふたりにはさまれてたら、なんかもう『細かいことはいっか』って思えた。

 息をついて明子に甘えてもたれたら、すぐに明子が頭をなでてくれる。気持ちいい。トロンてしちゃう。明子だーいすき!


 明子の手の動きでぼくが『そこに居る』とわかったんだろう。

 オミが明子の手にその手を重ねた。


「僕らの話を聞いてもらえますか?」


 合わない目を明子の胸に向けて、オミが穏やかに微笑む。

 黙ってうなずいたら、明子がちいさくうなずいた。



 オミは静かに話をした。

 ぼくの頭に手を乗せた明子の手にその手を重ねて。

 明子に抱かれたぼくを明子ごと抱きこむようにして。



「蒼真様はご存知かわかりませんが、僕は安倍家の当主の一人息子として生まれたんです。

 僕の父が主座様に『印』を刻まれた子供です。

 父は生まれた僕を見てすぐに気付いたそうですよ。

『この子は霊力なしだ』『主座様の父親になる子だ』って」


「両親は僕を厳しく育てました。

 主座様の父親にふさわしく在るように。

『霊力なし』でも一族からうとまれないように。

 そのために僕以外の子供を持つことを諦めたんですって。

『余計な火種になるから』って」


「ちいさい頃は『きょうだいがいたらなぁ』って思ってました。

『きょうだいがいたらさみしくないんじゃないか』って。

『きょうだいがいたら霊力なしの僕の代わりに安倍家を継いでくれるんじゃないか』って」


「だから、明子さんと結婚するにあたって話し合ったときに、言ったんです。

『子供はたくさんほしい』って」


「僕の子供として主座様がお生まれになることはわかっていました。

 その主座様にきょうだいがいたら、主座様もさみしくないんじゃないかと思ったんです。

『主座様』なんて責務を負う僕らの息子が、少しは楽になるんじゃないかって思ったんです」


「主座様は僕らの第一子としてお生まれになりました。

 偶然、千明さんも同時期に妊娠して、二日遅れでヒロが生まれました」


「千明さんは産後の経過が良くなくて入院することになったんです。

 それで、ヒロもウチに連れて帰って、ハルと一緒に育てました」


「ハルもヒロも兄弟同然に育って。

『やっぱりきょうだいがいるっていいね』って話したんです。

『ハルにきょうだいを作ってあげたいね』って話して、『そろそろどうかな?』って言っていた矢先のことでした」


「ヒロに『先見』が出たんです」


「『十四歳まで生きられない』

 それがヒロに出された『先見』でした」


「意味がわからなかったです。

『なんでウチのヒロが』って聞きました。

 そしたらハルが言ったんです。

『ヒロは霊玉守護者(たまもり)だ』って」


「僕は『霊力なし』です。

 安倍家で育ったけれど、そんな霊的なこととか、アヤシイこととかとは全くの無縁で育ちました。

『霊力なし』だから感知できなくて、だからわからなかったんですよね。

 でも、ハルが明子さんのおなかに入ってから、夢を通じてハルと話をするようになりました。

 それで初めて『そういうコト』が実際に『在る』と理解したんです」


「だから、ハルが挙げる可能性を、荒唐無稽だと笑い飛ばすことができませんでした。

『高霊力に耐えられず死ぬ』『悪しきモノに襲われて死ぬ』『禍の封印が解けて死ぬ』

 どれも『映画かなにかの話かな』と思いながら、『有り()る』と思ってしまったんです」


「でもハルはこうも言ったんです。

『先見は絶対じゃない』『くつかえしてきた人間を何人も見たことがある』」


「それからはもう必死です。

 とにかくヒロを死なせないために。

 ハルに指示されるままに仕事を増やしました。

 やれることを片っ端からやりました。

 僕も、明子さんも、タカも千明さんも毎日必死でした。

 もちろんヒロ本人も、ハルもがんばっていました」


「そうやってがんばってがんばって、ヒロは『先見』をくつかえしたんです」


「十四歳まであと数日という日に『(まが)』を浄化できました。

 ヒロは生きて戻り、余命も伸びました」


「ヒロの余命宣告がくつがえされて、僕らはようやく一息ついたんです。

『よかったね』って。

 そして、一息ついたときに、思い出したんです。

『そういえばハルにきょうだい作ってあげたいって話してたね』って」


「でももうハルも中学二年生になっちゃったし、今から子育ては大変だし、どうしようねぇって話してたら、まさかの千明さんが先に妊娠して。

 しかも双子だっていう。

『それじゃあもうウチはムリだねぇ』ってなって、僕らは子供をあきらめたんです」


「でも、胸の奥にはずっと残ってたんです。

『きょうだいがほしいなぁ』っていう想いが。

『子供がたくさんほしいなぁ』っていう願いが」


「幸い、というかなんというか。

 霊玉守護者(たまもり)のみんなは同い年で、『(まが)』の一件が片付いたあとも集まって遊ぶようになりました。

 その輪のなかに僕らも入れてくれて。

 息子扱いさせてくれるようになりました。

 今ではホントに息子だと思ってます」


「今回、蒼真様も『息子』になってくれて、僕はうれしいんです。

 僕らは子供がたくさん欲しかったので」


「……見えないのに?」

「『見えないのに』って」

「見えなくても」


 オミは穏やかに微笑んだ。


「明子さんは僕の妻です。

 その妻が『ここに子供が居る』というなら、それが僕にとっては全てです。

 僕の妻の子供は、僕の子供です」


 にっこりと、きっぱりと、オミは言い切った。

 迷いは一切なかった。


「ハルは僕らが『もっと子供が欲しかった』と思っていたことを知ってますから。

 だから蒼真様に対して『無礼になる』とか『申し訳ない』とか思っても、何も言わないんですよ」


「やさしい、良い息子でしょ」とオミは笑う。


「明子さんもね」

 チラリと明子と視線をかわし、オミは少し困ったように眉を下げた。


「僕なんかにつかまらなかったら。

 安倍家なんかに嫁にこなかったら。

 もっと普通の家の普通の男に嫁いだなら。

 そしたらたくさんの子供を授かって、もっと『しあわせ』になれたかもしれない」


 その言葉に明子も困ったように微笑んだ。


「でも、それはできないから」


 静かに、でもきっぱりとオミは言った。


「僕は明子さんでないとダメだから」


「だから、諦めてもらうしか、ないんです」


「諦めて、僕に付き合ってもらうしか、ないんです」


 どこかいたずらっぽく笑うオミに、明子はしあわせそうに微笑んだ。

 明子もオミが大好きなんだってわかるような微笑みだった。



 しあわせそうなふたりに、つい、余計なことだと思いつつも、ずっと気になっていたことを口にした。


「……オミは、イヤじゃないの?」

「『オミさんはイヤじゃないか』って」


 明子の通訳に『なにが?』といいたげにキョトンとするオミ。


「みんなが見えてるのに自分だけ視えないの、イヤじゃないの?」


「『みんなが見えてるのに見えないのイヤじゃない?』って」

「イヤですよ」

 あっさりとオミは即答した。


「でも『仕方ない』って思ってます」


 にっこり笑って言うその言葉には、気負いも、卑屈なところも、なにもなかった。


「僕は『霊力なし』だから」


 そのことをそのまんま受け入れていることがわかる態度に、初めて思った。

 もしかしてオミ(こいつ)、すごいヤツなんじゃない?


 オミは明子の手からその手を離し、両手でぎゅうっと明子を抱きしめた。


「僕が『霊力なし』なことでよかったことが何度もあったから。

 だから僕はいいんです。

『みんな蒼真様がみえてうらやましいなぁ』って思うこともあるけど。

『仕方ない』って思ってます」


 ……そんなこと、ある?


 そう思ったのが伝わったのかどうか。

 オミは肩にもたれてた明子の頭に頬ずりして、ぼくに向かって話を続けた。


「ハルが生まれてくるために『僕が生まれるときに持つはずだった霊力を使った』と聞きました。

 ハルは僕らのかわいい息子です。

 息子のためになったのなら、本望です」


 きっぱりと言い切るオミのその言葉に嘘はないってわかった。


「僕が『霊力なし』だったから、ちいさいとき暴走したヒロを抑えられました。

 タカも千明さんも、ハルですらヒロを抑えられなかった。

 あのとき、僕は思ったんです。

『僕が霊力なしとして生まれたのはこのためだ』って。

『暴走して傷つくヒロを救うためだ』って。

 僕はヒロを救えました。

 あの一件だけでも、『霊力なし』でよかったと思ってるんです」


「双子だって、もっとちいさいとき、暴走したときは僕が抑えたんですよ」と自慢げに言う。


「それにね」


 にっこりと微笑んだオミは、ないしょ話でもするように明子の胸に顔を近づけた。


「明子さんが言ってくれたんです。

『自分が好きになったのは貴方だ』って。

『霊力なしで、ずっと一族からしいたげられてきて、ひとの痛みやかなしみがわかる、やさしい貴方だ』って。

 明子さんが好きになってくれるなら、僕の子供時代の苦しみやかなしみも必要なものだったんだって、思うんです」


 デレデレとだらしない顔で言うオミ。

 ノロケまくりの言葉に聞こえるけど、その言葉がオミにとって『救い』だったんだとわかった。

 明子がオミを救ったんだって、わかった。


「『霊力なし』であることは、僕を形作る重要な要素のひとつなんです。

『霊力なし』だからこそできることもある。

 だから、蒼真様や黒陽様が視えなくても、仕方ないんです」


 元の調子に戻って、あっさりとオミは言う。


「幸い、周囲が理解してくれてますから。

 僕が除け者にならないように話してることを教えてくれたりします。

 僕はそれで十分なんです」


 にっこりと微笑むオミにはひがみもなにもなかった。

 ただそのまんまを受け入れている。


 ――すごいな。


 ぼくは医療従事者だから、いろんな人間をみてきた。

 病気やケガを受け入れられずに苦しむ人間もいた。

 世の中の理不尽に打ちのめされる人間もいた。

 オミだって『なんで自分だけ』って自暴自棄になってもおかしくないと思う。

 それなのにこいつはそのまんまをそのまんま受け入れている。

 受け入れたうえで、自分にできること、できないことをちゃんと理解して行動している。


 なかなかできることじゃない。

 こいつ、すごい。

 

 さすがは明子の夫といったところか。

 そう感心していたら、オミがフッと笑った。


「蒼真様はやさしいですね」


 突然なにを言い出したのか。

「は?」ってもれた声が聞こえてるはずはないのに、オミはくすぐったそうに笑って続けた。


「僕なんかのことを気にかけてくれて、ありがとうございます」


「……オミは明子の夫じゃないか。明子のためだよ。当然だろ?」


 わざとつっけんどんに言ったら明子がクスクス笑った。


「『私の夫だから』って。『当然だろ』って」

「そうですね」


 通訳されてオミもクスクス笑う。


「僕はしあわせです」


 ぎゅうっと明子を抱きしめ、頭にスリスリと頬ずりをして甘えるオミ。


「こんなに素敵な女性が妻になってくれたんですから」


 デロ甘の愛の告白にも明子は「うふふ」と微笑むだけ。

 挟まれたぼくは砂吐きそうだよ。オミ、そんなヤツだったんだね。


「明子さんがそばにいてくれることに比べたら、『霊力なし』なことなんか大したことじゃありません。そうは思いませんか?」


 堂々とのろけるオミに明子はうれしそう。

「私もオミさんが大好きよ」なんて肩に頭をあずけて甘えてる。


 ていうか。

 話してる間、明子ずっとオミの膝の上で抱かれてるんだけど。

 なんなの? ラブラブなの? バカップルなの?


 普段のふたりは適度な距離を保ってる。

 普通の夫婦だと思ってた。

 でも、なにこれ。ベッタリじゃん。甘々じゃん!

 あれなの?『子供の前では控えてる』ってやつなの?


「……ふたり、ラブラブだね」

 そう言ってやると明子は笑った。


「まあ。蒼真ちゃん。そんな言葉いつ覚えたの?」

「なに?」

「『ラブラブだね』って」


 言われたオミはだらしなく顔をゆるめた。

「そうかな? ラブラブかな?」

「うふふ。ラブラブでしょ?」

「そっか。うれしいな」


「あはは」「うふふ」と笑い合うふたりに砂吐きそう。


「はいはい。もう、あとはふたりでごゆっくり」

 スルリと明子の腕から抜け出して扉に向かう僕に明子が気楽に問いかける。


「あら蒼真ちゃん。一緒に寝ない?」

「寝ないよ! ラブラブ夫婦の邪魔はしません!」

「『ラブラブ夫婦の邪魔はしない』んだって」

「遠慮しなくてもいいのに」

「するよ!」


 奥さん膝にのせてがっちり抱き込んでる男にそんなこと言われても説得力ないからね!


「蒼真様」

 扉を開けたところでオミが声をかけてきた。


「僕達の『家族』になってくださって、ありがとうございます」


 穏やかに微笑むオミには気負いもなにもない。

 自然体で『ぼく』のことを受け入れている。


「『霊力なし』で貴方方を視ることもできない僕ですが、今後ともよろしくお願いいたします」


 ニコニコ笑うオミの言葉に嘘はないってわかる。

 だから余計にぶすっとしちゃう。


「……それなら『蒼真様』っての、やめなよ」

「『蒼真様って呼ばないで』って」

 明子の通訳にオミはきょとんとした。


「タカとおんなじ『蒼真くん』でいいよ。

 明子とおんなじ『蒼真ちゃん』は気持ち悪いからやめてほしいけど」


 そう言うと明子は楽しそうにクスクス笑った。

「『蒼真くんでいいよ』って」

「……ほんと?」


 オミは信じられないと言いたげな、うれしそうな顔で、つぶやいた。


「僕、一応安倍家の人間だから、遠慮してたんだ」


 あ。そうだったんだ。

 安倍家にはずっと『姫と守り役に協力すべし』『姫と守り役に敬意を払うべし』みたいなことが伝わってるらしい。

 だから他の家族がぼくに馴れ馴れしくしてても、安倍家の人間であるオミは自制してたと。


 なーんだ。ぼくにヤキモチやいたり嫌な感情持ったりしてたんじゃないんだ。

 そうわかったらなんだか力が抜けた。

 自分で思ってたよりぼくもオミのことを気にしてたみたい。


「本人がそう『呼べ』っていうんなら、仕方ないわよね」

「そうだよね」

 クスクス笑いながら話してるけど、なんでだろう。悪だくみしてるみたいに感じるよ?


「じゃあ、お言葉に甘えて――『蒼真くん』」

「!」


 なんでかビョッてなった。

 明子に『蒼真ちゃん』て初めて呼ばれたときみたい。

 なんかうれしくて、ビリビリってなって、ピンってなる。


「今日は話を聞いてくれてありがとう」

「……別に大したことじゃないよ」

「『大したことじゃない』って」

 通訳されてふたりがクスクス笑う。

 なんだろう。気恥ずかしくて、いたたまれない。


「もう寝るから! おやすみ!」

「おやすみなさい蒼真ちゃん」

「おやすみ。蒼真くん。明日からもよろしくね」


 チラリと振り返ったら、ふたりはニコニコしていた。

 ぼくのこと『大好き』って思ってくれてるのが伝わって、ポカポカして、照れくさくて、うれしくなった。


「おやすみ」ってもう一度言って部屋を出た。

 扉を閉めるそのときもまだ明子はオミの膝の上だった。

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