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閑話 蒼真 2 トモを送って

本編第五十八話の頃のお話です。

 明子のそばにくっついていろんなことを勉強している。

 料理。栄養学。薬学。医学。他にもいろいろ。


 今のこの『世界』は情報にあふれていた。

 テレビはぼくが知ってるときにはなかった。

 テレビをつけてるだけでいろんな情報が手に入る。

 もっと詳しく知りたいと思ったらすぐにパソコンやスマホで調べてくれる。

 これらもぼくが知ってるときにはなかった。


「異世界に『落ちた』みたい」

 ポツリとつぶやくと、晴明も黒陽さんも深く深くうなずいた。


 緋炎さんは休眠することなくずっとこの『世界』をウロウロしてるからそこまでびっくりしなかったみたい。

 蘭様はつい三、四十年前を生きてたっていうし。


 そんな緋炎さんも明子の知識には驚いていた。

 料理や栄養なんて、蘭様も緋炎さんも興味なかったもんね。

『食べ物が身体を作る』というのは医学や薬学の分野だもんね。


 身体の構造、消化吸収、血液成分、ほかにも色々。

 戦闘部隊を預かっていた緋炎さんにとっても、薬師のぼくにとっても興味深い話がたくさんあった。


 そんな話をトモやヒロと一緒に聞く。

 トモは白楽のところに行くために修行中だ。

 パンを作ったり明子の講義を受けたり忙しくしている。



 食事は朝昼晩と明子が用意してくれる。

「少しでも蒼真ちゃんに喜んでもらいたいから」と毎回違うものを出してくれる。


 朝はパンが多い。

 食パン。クロワッサン。フランスパン。

 サンドイッチだって毎回パンも具材も変えてある。

 スープも何種類食べたかわからない。

 味も具材も毎回違って、そのたびに霊力吹き出しちゃう。

 明子の料理がおいしすぎるのがいけないんだよ。ぼくが悪いんじゃないよきっと。うん。


 お昼は麺類が多い。

 ミートソースパスタ、カルボナーラ、和風パスタ……。

 パスタって幅が広いんだね! どれもおいしいよ!

 うどんもそばもぼくが知ってるのと全然ちがう!

 カレーうどん考えたヤツは天才!

 それに温玉のっけたやつはもっと天才!!

 緋炎さんは(くちばし)なのに上手に食べるね。

 そのくらい竹様もごはん食べたらいいのにね。


 夜はガッツリメニューが多い。

 揚げ物。焼き物。煮物。

 肉や魚がメインになってる。

 唐揚げ最高! 緋炎さん、共食いじゃないの? ぼくが食べてあげるから。遠慮しないで。

 本気の戦闘訓練が始まるところだった。



 竹様はパンばかり食べていた。

 トモが作ったパン。

 他は食べられなくても、トモの作ったものなら食べられるみたい。

「『半身』だからかな?」

 ヒロの意見に「そうかもね」と答える。



 正直『半身』については研究してないんだよね。

 青藍(せいらん)にいたときも『半身』というひとたちはいたけれど、それがお互いにどう作用するかとかは知られてなかった。

 晴明や黒陽さんの話によると、『半身』はお互いに補い合う関係だという。

 片方が弱っていたら片方はそれを補うように霊力を注いだり守ったりすると。


 青羽と竹様もそうだった。

 弱った青羽は竹様の霊力を注がれて驚異的な回復を見せた。

 そのときに初めて『半身』の影響力を知ったわけだけど、それから『半身』に会う機会がなくて研究のしようがなかった。


 基本『半身』てのは、本人同士にしかわからない。

 その本人達が『半身持ち』だと言いふらさない限りわからない。

 その『半身持ち』は、そんなあちこちにいるもんじゃない。

 だから研究したくてもできなかった。


 なのに今の晴明のまわりには『半身持ち』が多いという。

 千明とタカは『半身』。晃も『半身持ち』だという。

 トモの両親も、祖父母も『半身』だというからびっくりだ。

 それだけいれば研究できるね!


 試しにと、晃に修行をつけに行ったときにギッタギタにのしてみた。

 実験だと説明して『半身』に来てもらい、抱きしめてもらったら、霊力が流れるのがわかった。

 普通、回復をかけるときにだってこんな霊力の流れは生まれない。

 なのに弱った『半身』を抱きしめたひなから晃に向けて霊力が流れ込むのがはっきりとわかった。


 ふたりが抱き合っているだけで霊力が循環している。

 霊力を循環させるだけなら霊力操作に長けたヤツならできるヤツも多いけど、循環させながら癒やすなんて、そんなの、修行を積んだ上級薬師くらいにしかできない。

 それをなんの訓練もしていない人間が簡単に、自然にこなしている。


 これが『半身』か。


 なるほどと納得しながら観察する。データをとる。

 あれもこれもと調べていたら「早く治してやってください!」ってひなに怒られた。


 研究のために今後も晃はぼくが鍛えよう。

 そう言ったら白露さんも緋炎さんも難色を示した。

 白露さんは「自分の養い子だから」と、緋炎さんは「同じ火属性だから」と晃に修行をつけたがった。

 結果、晃だけはほぼ毎日守り役からの直接指導を受けることになった。

 強くなれるからいいじゃん。


「物事には限度というものがあります! わかってますか!?」

 なんでか毎回ひなに怒られる。ひなは怒りっぽい女の子なのかな? こわいこわい。



 ぼくと同じ木属性の佑輝は、わりと戦闘力高めだった。

 でも術とか属性を活かした戦いとかが全く出来ていなかった。

 なんでも佑輝を鍛えてくれたトモの祖父は土属性で、戦い方は教わったけど属性の使い方みたいなのは教わっていないという。


 仕方ないからぼくが教わったことを教えていく。

 雷性特化してる佑輝は木属性の使い方全部を理解することはできなかった。

 あんまりアタマよくないみたい。

 佑輝みたいなヤツのこと、脳筋ていうんだよね! テレビで言ってたよ!

 そう言ったらわかりやすく落ち込んだ。

「そのとおりです」「自覚はあります」なんていじけるから、あわてて励ました。


 なんか放っとけなくてつい面倒をみてしまう。

 そうして佑輝のところに行く機会が増えた。



 ナツの修行をつけてやると、いつも必ずおいしいものをくれる。

「試作で作ったものですけど」とか「もらいものですけど」って、いつもおいしいものを用意してくれている。


 なんでもナツは一時トモとその祖父母と暮らしていた。

 そのときにトモの祖母から「なにかしていただいたら必ず対価をお渡ししなさい」ときつく躾られたという。


「感謝をすることも、お礼を言うのも当然のことです。

 感謝して、お礼を言って、その上で対価をお渡ししなさい。

 感謝を形にしてお渡しするのよ」


 そう言われていたという。


「おれにできるのは料理くらいですから。

 まだまだ未熟で、つけていただく修行の対価にはならないかもしれませんが」


 そう言って笑うけど、ナツの作ったもの、みんなおいしいからね! 明子の料理に匹敵するからね!?

「十分対価になるよ! ありがとう!!」

 そう言って喜んだら、ナツもすごくうれしそうにしてくれる。

 それがぼくもうれしくて、つい、ナツのところも行ってしまう。



 ヒロ? ヒロは黒陽さんが見てるから大丈夫でしょ。

「ヒロちゃんも見てもらえるとうれしいわ」

 明子が言うんなら仕方ないなぁ。覚悟しなよヒロ。




 明子にくっついて勉強したり、霊玉守護者(たまもり)の連中を鍛えたりしているうちに、トモが白楽のところに行くことになった。

 晴明と白露さんと一緒にトモを送った。

「やれやれ」なんて言ってて、ふと、気になっていたことを思い出した。



 明子の夫の、オミのこと。




「……ねぇ明子」


 緋炎さんは晃のところに行った。

 もう夜遅い時間でリビングには誰もいない。

 明子が「明日の下ごしらえだけしておく」とキッチンで料理をするのを眺めながら、ふと、ふたりきりだと気が付いて、思い切って聞いてみた。


「なあに?」

「オミってさ……。その……、ぼくらが、()えてない、よね?」


 明子のところにきて二週間。

 実はこっそりとオミを観察していた。

 近寄ったり、触れたりしてみたこともある。

 その結果わかったこと。


 オミは、極端に霊力が少ない。

 いわゆる『霊力なし』だ。

 だからぼくらが視えてない。


 でも、他の家族はみんなぼくらが視えるわけで。

 むしろ楽しく会話したりしてるわけで。

 目の前でそんな光景をみせられるのは、オミにとって、ひとりだけ仲間はずれにされたみたいなもんじゃないのかな?

 疎外感があるんじゃないのかな?


 オミ、つらいんじゃないのかな?


 そう心配して聞いたんだけど。

 明子はあっさりと「そうなのよ」と答えた。


「オミさん、『霊力なし』なのよ。

 だから蒼真ちゃん達のことみえないの。

 言ってなかったかしら? ゴメンね」


 手を止めることなく、ケロッという明子。


「それ、オミ、嫌じゃないのかな?」

「どうかしらね?」


 刻んだ玉ねぎをフライパンに入れる。

 ジュワッと蒸気が立ち上った。


「みんなで一緒にいるときなんかはタカさんとかが蒼真ちゃん達の言葉をオミさんに伝えてるから会話には入ってるし。

 私とふたりきりのときにもとくに不平不満は言ってなかったし。

 気にしなくてもいいんじゃないかしら?」


 ジャッ、ジャッと玉ねぎを炒めながら明子はケロッと言う。


「なんかね。ハルちゃんの『転生の秘術』の影響なんですって」


 明子の話してくれたところによると、晴明は転生するために自分の血族の子供に術をかけるという。

 その術をかけられた子供の子供か孫が、晴明の父親になる。

 子供として生まれる晴明に霊力を渡すために、父親は『霊力なし』になるらしい。


 そこまでして晴明が転生を繰り返しているのは、竹様のため。

 昔、まだ子供の頃に竹様に救われた晴明は、その恩返しにと転生を繰り返してぼくらを助けてくれている。


 当の本人である竹様は「大したことしてないのに」「こんなにしてくれなくていい」っていっつも晴明を叱ってるけど、正直この千年は晴明が支援してくれるおかげで色々助かってる。


 姫も守り役も集まりやすくなったし。

 霊玉やら薬やら買い取ってくれるから現金手配しやすいし。


 てことは、オミが『霊力なし』で生まれたのも、ぼくらのせいってことにならない?

 晴明がぼくらを支援するために転生する、そのためにオミは『霊力なし』として生まれた。


 それって、どうなんだろ?

 オミはどう思ってるんだろ?

 晴明は、明子はどう思ってるんだろ?


 ひとりだけぼくらが視えなくて、この二週間オミはどんな気持ちだったんだろ?

 奥さんぼくに取られてイヤだった?

 ぼくが『守り役』だから文句言えずにイヤな思いしてた?


 なんだかひとりで収めておけなくて、明子にこぼした。

 明子は洗い物をしながら黙って聞いてくれた。

 お皿も拭いて、流しも拭いて。

 そうしてぼくに手を伸ばした。


『おいで』って言ってくれてるのがわかって、その腕に飛び込んだ。

 明子はぎゅうっと抱きしめてくれた。


「蒼真ちゃんはやさしいのね。

 オミさんのことを気遣ってくれてありがとう」

 そう言ってぼくの身体をなでてくれる。


 明子がこうやって抱きしめてくれたりなでてくれたりすると、なんだかちいさな子供に戻ったみたい。

 ぼく、物心ついたらもう修行修行の毎日だったから、あんまり親に甘えた記憶ってないんだよね。

 だから明子に甘えて子供扱いしてもらうのが、なんだか子供時代のやり直しみたいで、あったかくてうれしい。


 スリスリしていっぱい甘えちゃう。

 こんなところ黒陽さんに見られたらまた「蒼真!」って怒られちゃうな。

 でも今はふたりきりだから大丈夫。


 明子もぼくをなでながらぼくの頭に頬ずりしてくる。


「蒼真ちゃん」

「なあに?」


 明子はぼくに甘えるように、言った。


「一緒に、オミさんと、話をしてもらえる?」

100話いってしまいました……

長くなるとは思っていましたが、この時点で100話とは……


長いお話にお付き合いいただきありがとうございます!

まだまだ長くなりますが、よろしくおねがいします。

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