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【完結】陰陽師のお仕事 〜医術師〜  作者: カズモリ
赤の文書
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6. 鴇の考え

「In my opinion (僕の考えでは), I recommend it. (オススメかな). Therefore (だって)……」


 鴇が電車のシートに座り、嬉しそうに話している横で、碧は何故か浮かない顔をしている。


 碧の視線が右足元にあることに気がついた。


(なるほど)


 碧は式コウと話す時、必ず自分の右隣に置いていた。


(コウってことは、赤の文書か、キナリ関係か)


碧は鴇が黙って碧の様子を見ていることに気がつき、顔を上げる。


「I am very sorry, but……」

「No. You do not worry. (いや、心配しないで) I guess Kou who was reported something (コウがなにか伝えに来たと思ってるから)」


 鴇は作り笑いを浮かべた。


「Yes. Kinari is appeared at Kyoto (キナリが京都に現れたの). when I confirm the red book, I want to chek Kyoto(赤の文書を確認する時、京都についても見てみたい)」

「Yes, sure. I agree with you (そうだね、碧と同じ意見だよ)」


 コウが報告した詳細な内容までは教えてくれないらしい。


鴇は悲しそうに笑った。


♢♢♢


 鴇が家に帰ると姉の桜が腕組みして待っていた。


「どう言うこと?」

「何が?」


 桜はチッと舌打ちをする。


「青君に変な女押し付けたでしょ?」


 鴇はミス桜庭の顔が浮かんだ。


「鬱陶しかったから」

「あんたねえ、だからって、押し付けないでよ。追っ払うのに苦労したんだから」


 桜はめんどくさそうにため息をつく。


「鴇、あんたがどんなに頑張っても、青くんの気持ちは碧ちゃんから離れないわよ?」


(あんたが諦めてるからだろ)


 桜の言葉に苛立ちながら、鴇はカバンを自室に置く。桜は鴇の動きを廊下で腕組みしながら、見ている。


「かもね」


 鴇は手を洗いながら「少なくとも、碧は青のこと、従兄弟としか思ってないよ」と応える。


 チラッと桜を見ると、少しだけ表情が緩んでいるようだった。

 鴇は「乙女だね」とフッと鼻で笑うと、桜はイラっとして組んでいた手をピクリと動かしたのが良くわかった。



「いいじゃん。諦めるなよ。俺は羨ましいよ」

「え?」


 リビングのソファに腰を下ろし、廊下にいる桜に視線を向ける。


「婚約者ってことは、恋人や友人なんかより深いだろ。普通に。だから、変な女が寄り付いて苛立ったんだろ? めちゃくちゃ好きじゃん。桜は婚約者なんだから、文句言ってもいいし、嫌なことは嫌だって言っていいんだ。だから、諦めんなよ」

 桜は「うん」と首を縦に振る。


 サイドテーブルに置いてあるテレビのリモコンを取ると、テレビの電源ボタンを押す。

 画面には夕方のニュースが流れた。


「あ、俺、コーヒー飲みたい」

「自分で入れなさい」


 桜はそう言うと鴇に背中を向け、自室へと入った。


 テレビからはコストパフォーマンスの良い店を特集したコーナーが放送されており、お洒落なカフェが映っていた。


(あ、今度、碧と行こう)


 帰りの電車の碧の表情が鴇の脳裏にこびりついていた。


 碧はいつもくだらないことを悩んでいると鴇は思う。考えても詮ないことを堂々巡りしていて、勝手に闇堕ちしていく。


 京都と陰陽師なんて当たり前のように深い関係だ。平安時代から、帝のみが陰陽師をすべることができ、帝のみに忠誠を誓う存在。

 それが陰陽師だ。

 

 キナリがいつの時代から生まれ、今の宿が古くなれば、魂を取り出して、新しい宿主へ魂を移動する。

 そうやって生きてきた。


「まるでウィルスだな」


 鴇は山口家当主だが、攻撃的な術を好まない。力をもって制するよりも被害を最小限に食い止めることの方が価値があると考えているからだろう。


 だが、一方、碧の式は交戦的なものばかりだ。碧は力でねじ伏せなければ解決しないと考えているからだ。

 

 猪突猛進。


 碧は幼い頃、この言葉がぴったりな子だった。


 だが、8年前のことがあってから、碧は良くも悪くも慎重になった。

 情報が錯綜すると、その足を止め、座り込んでしまう癖がある。


 碧は悩みだすとキリがない。悩むくらいなら考えなければ良いのにと鴇は思うが、碧はそうもいかない。


「どうせ、太常が伝えにきたんだろ」


 自分で声に出したら、余計にむしゃくしゃしたので、鴇は頭を掻いた。携帯をポケットから出すと、風呂場に行った。

 制服のワイシャツを脱ぎ、パンツを脱衣所のカゴに入れると、頭をガシガシ洗う。


(結局、碧の感情を揺さぶるのは、良くも悪くもいつだって俺じゃない)


 シャンプーを流し、トリートメントを終えた髪の毛をシャワーで洗い流す。


(なら、諦めるのか? 碧を)


 トリートメントをシャワーで洗い流し、顔に水滴を充てるた後、シャワーのノズルを締める。


(答えはNoだ)


 タオルで髪についた水滴を拭き取ると、鴇はポジティブな気持ちになれた。


 考えるべきことはシンプルだ。

 滋岳キナリが、いつ生まれ、彼が何の目的で宿主を替え続けていきながらえているか、碧と青の叔父である英紺と碧の母、燈を殺してまで欲したものが一体なんなのか、それを突き止める必要がある。


 だが、ここで唯一の難点がある。

 場合によっては時を遡ることが必要となるが、鴇には時戻りの術が使えない。

 時戻りは歴史の証人にのみに許された特権である。


(頼めるのは、一人だけって)


 Tシャツをバスルームの棚から取り出して着る。


「青くんに連絡取りますかねぇ」


 鴇は息を吐いた。


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