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【完結】陰陽師のお仕事 〜医術師〜  作者: カズモリ
赤の文書
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2. ミス桜庭

「それで、国見さんから返事が来たかな?」

 挨拶後の碧の第一声が、他の男のことで、鴇は地味に落ち込む。


「うん。今度の土曜日の昼に会うことになった。大丈夫?」

 碧の表情が少し和らいだ。

「うん。ありがとう」

「どういたしまして」


(かわいい)


 電車が次の停車駅に止まり、鴇の目の前の席が空いたので碧に座るように勧めるが、碧は「鴇が座った方がいいよ」と応える。


「女の子を立たせて座れるかよ。忘れてるかもしれないが、俺の半分はジェントルマンとレディファーストの国の血なんだからな」

 碧は「それなら」と言って席に座る。


 座った碧を真正面で見ながら、鴇は心の中で、母さんありがとう、と呟いた。


 碧は外のビル群を見ていた。東京はどこも似たようなビルばかりが空高くそびえたっている。


「赤の文書って召喚師だけが持つって言われてるけど、国見さんって召喚師なの?」


 外の景色を見ていた碧が鴇の顔を見た。鴇はドキリとして照れ隠しのために、視線をスマホに向ける。


「うん。探花って聞いてる。召喚師は8年前の事件でだいぶガタついたから、総入れ替えだよ。まあ、歴史の証人も似たようなもんかな、と思ったら持ち堪えてるけど」

「そうだね」

「あのさ、土曜日の前後で行きたいところがあって、英本家なんだけど………」

 碧は察したのか「うん、青くんに頼んでみる」と返答してスマホをタップし始めた。


 英青。

 碧の従兄弟で鴇の姉の桜の婚約者。


 それなのに事あるごとに碧にちょっかいを出してくる。いつも碧の乗る電車の隣の車両で見張っていて、ストーカーかよ。と思うけど、8年前のことがあるから、そうしているんだろう。


 できることなら関わりたくない。だが、英の本家にある書庫に足を踏み入れるには本家の青の頼みなくして入れない。

 奴の権力に屈するのは癪だが、仕方ない。


 暫くすると、碧の携帯が何度かバイブした。

「あ、青くんは隣の車両にいるみたい」


(やっぱり)


 鴇は拳を握り、グッと怒りを押し殺す。その時、肩をトントンと叩かれた。


 振り向くと、鴇と碧の通う桜庭高校の制服を着た少女が3人ほどいた。


「山口先輩、弓道部の県大会頑張って下さいね」


 目が大きくて、巨乳で一年前のミス桜庭高校に選ばれた女の子が鈴を転がすような声でそう言った。


「あ、ありがとう」


 本能的に胸元をチラッと見てしまった。それに気がついたのか、もしくは、気が付いていないけれど妙な気を回したのか、碧は席を立って「私、関係なさそうだから行くね」と歩き出した。


「待って! 碧」

 鴇の声も虚しく、碧は隣の車両に行ってしまった。


(最悪………)

 鴇はズンと心が重くなるのを感じた。


 いや、そりゃ胸を見たのは悪かったよ。でも、それは本能であって意図してではない。不可抗力なんだよ、碧。


 碧は胸がまな板だけど、俺は特に気にしてないし、ってか、俺の背が180ないのと同じことで。

 男が性的シンボルを見てしまうのはパブロフの犬の如く脊髄反射な訳で、だから、本当に仕方ないことなんだよ。


 おかしいのは、他の女の子と話してるのに話しかけて来ている目の前のミス桜庭な訳で、俺は無実なんだ。


 鴇の心の声も虚しく、碧は振り向く事もなかった。

 それが更に追い打ちをかける。


 碧が席を立った瞬間「やったー! ラッキー」と言ってミス桜庭が鴇の目の前の席に座った。鴇の左右の脇にはミス桜庭の取り巻きが、がっちり固めている。

 逃げられそうにない。


「山口先輩のお父様ってお医者さんなんですよね? すごいですよね」


(なにがすごいんだよ、親父がすごいわけで俺はただの高校生だ)


「親父が医者ってだけで………それに、医者の子供なんて珍しくもないよ」


 反射的に笑顔を向ける自分が憎い。


「そんなことないですよ。お金持ちで、頭もよくて、かっこよくて、弓道も上手で、本当、プリンスですよね」

 ミス桜庭の話を聞いていると、鴇の脳裏に何故か英青が出てきた。

 

 あいつ、東大理三で、顔は整ってるし、御曹司だし、背も185センチある。浪人したけど。

 陰陽師試験も状元で英家の当主だし、マジでハイスペでスパダリ要素ありまくりじゃねぇか。浪人してるけど。

 くそ、思い出すと腹立つな。


「そうかな。俺よりすごいやつはたくさんいるし、容姿はたまたまだし、親のことは俺とは違うから、関係ないよ」


 鴇は作り笑いをして、誤魔化す。碧が移動した車両をチラッと見ていると、ミス桜庭は鴇の腕を自身の胸に押し当てるので、鴇の視線は胸元へと移った。その隙に、ミス桜庭が甘い小声で話す。


「私、山口先輩なら、アリですよ」


 鴇は腕を離し「俺は巨乳に興味ないよ」と笑顔で言うと、ミス桜庭は「え」と固まったので、その隙に鴇は碧の元へ向かった。


 くそ、早く対処したら良かった。あの子しつこすぎだろ。絶対に疑われた。


 碧がいる車両に移動したが、碧が見当たらない。左右を見渡し、碧を見つけると、誰かと話しているようだった。

 背が高くて、碧の荷物を持っているその姿はハイスペでスパダリの要素を兼ね備えている青だった。


 青は鴇の顔を目視したのか鼻でフッと笑うと、そのまま視線を碧に向ける。


 鴇の後ろでミス桜庭も車両を移動してきたのがわかったので鴇は急いで碧に声をかける。


「碧!」

 碧は「鴇、知り合いは大丈夫?」と尋ねるので「問題ない」と鴇は返答する。


 碧は困惑したような表情で「え、本当? 後ろについてきているけど」と問いかける。

「そうだよ。鴇くん。女の子を無下にするなんてジェントルマンとレディファーストの国の人のすることじゃないよ」

 青が楽しげに言うので、鴇は「ストーカーは別」と返答した。


 ミス桜庭はニコニコしながら「先輩、まだ話の途中じゃないですかぁ」と上目遣いをするので、鴇は青の持っている碧の鞄を奪って、体制を崩した青をミス桜庭の前に差し出した。

「この人、東大理科三類で、大企業の御曹司。町医者の息子の俺より資産家で彼女なしのスパダリ有望株」

 鴇の言葉にミス桜庭は青をロックオンした。その隙に碧を連れて、鴇は電車を降りた。


 青が「あ!」と言っていたが、電車と共に行ってしまった。


「電車降りちゃって、学校どうするのよ」

 碧の声に鴇は「はは。ごめん。次が来るから」と言って、笑顔を向ける。


「青くんは婚約者がいるよ? 知っているでしょ」

「知ってるけど、彼女じゃないじゃん」

 鴇は笑った。青を出し抜いてやった。姉ちゃん、ごめん。変な女がうろつくかも。


「ねえ、碧、術使って学校まで行くか。チョウ出してよ」

 鴇はそう言って碧の鞄と自身の鞄を自分の式のナツに手渡し、校門まで届けるよう指示を出した。


 校門には鴇が以前つけた移山造海の跡があり、ナツは問題なく着くだろう。

「ええ、仕方ないなあ」

 碧はチョウを出すと、鴇と共にチョウへ跨り、空高く飛行した。

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