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【完結】陰陽師のお仕事 〜医術師〜  作者: カズモリ
赤の文書
11/43

11. 前進

 山口鴇は電車の中で、碧から衝撃的なことを聞いたため、開いた口が塞がらなかった。


「what! Did Haru come home (ハル、戻ってきた)?」

「Yes. It was suddenly (うん。突然)」


 碧は意外にもあっけらかんと話すので、鴇は感情が読み取れなかった。


「Is he stronger more than 8years ago (強くなってた)?」

「I don’t know. Because I do not watch. (どうだろう………。見てないから)」

「I see (だよね)」


 碧の回答に納得しつつ、鴇は「Regarding tomorrow is Saturday, will you come with Haru (明日の土曜日は、ハルも来るの)?」と尋ねる。


(確か以前、太常も赤の文書を見るとか言っていたな)


 碧は首を横に振る。


「No. I don’t want to go with him. (そのつもりはないよ)」


 碧の言葉に鴇はドキリとした。


 碧は断言を避ける傾向にある。それでも今回このように言ったのは、ほぼ0%の確率で、ハルを連れてくるつもりがないのだ。

 ハルのことをやはり怒ったいるらしい。


「おはようございます」

 これ以上話を掘り下げるべきか考えていたところで、ミス桜庭が声をかけてきた。


 英語で話している最中に、日本語で声をかけるミス桜庭は強いハートを持っている。


「あ、え、おはよう」


 桜庭は鴇と碧の間を割って入るので、鴇は碧の表情を見るが、何にも変わってなさそうだった。


「私、隣の車両に行くから」


 碧はそう言って隣の車両に移動した。


(なんだろ。この既視感)


 鴇はミス桜庭に「ごめん。好きなこと一緒にいたいから邪魔しないでくれるかな」と言った後、碧を追いかけた。


(俺が追いかけないと、きっと碧は全てを投げ捨てる。昨日少しだけ見せてくれたあの綻びを手繰り寄せないと、きっと碧には辿り着けない)


 人の間をすり抜け、停車した隙にホームに降りて、足速に隣の車両に向かう。


(たとえそれが、1キロくらい離れていたとしても)


 隣の車両の扉に入ると、碧が立っていた。車両に飛び乗る鴇を見て、少しだけ、驚いたような表情を見せる。


「いいの?」


 碧の問いに鴇は頷く。


「いい。俺は碧の方が大事だから」

「ありがとう」


 なんとなく甘い雰囲気を醸し出て、鴇はキュンと胸が熱くなる。

 それと同時に、冷静に俯瞰している自分もいる。


(これでも付き合っていない俺たち。でも、まあ、今は良い)


♢♦︎♢


 鴇が体育のサッカーの授業が終わって、教室に戻ると、教室に碧がいなかった。


 周りの女子に尋ねると、サッカーでドリブルをする際、足を捻挫したらしく、保健室に行ったいると言う。


 鴇は保健室に向かうと、碧がベッドに座って足首に湿布を貼っているころだった。


「足、平気なの?」

 碧は視線を足に落とす。


「まあ、捻挫だから。歩けるよ」


 鴇は碧の足元に膝をつく。


「ちょ、なんですか」

「今誰もいないから、速攻で治す」


 碧が周囲を見渡すと、鴇の言う通り、保健室には誰もいない。

 碧が周囲を確認している隙に鴇はブツブツ小声で「十全健康」と呟き、碧の足首に手を当てる。


 碧の足首が白く光り、熱を帯びていく。


「温かい」

 碧は思わずつぶやいた。


 鴇は「治った」と言って足首を離すと、碧は歩いてみるが足に違和感はなくなっていた。


「痛くない」

「それは、良かった」


 鴇は碧の様子をみて、ニコリと笑った。

 

「本当にすごい術」

 

 鴇は立ち上がりながら「希少術者だからね。身体を治すのはそれだけ大変ってことだ」と、膝についた埃をはらう。


 鴇と碧は、保健室を出ると、他愛ない会話を繰り返しながら、教室へと戻っていく。


 碧と廊下を歩きながら鴇は役得だな、と思った。

 今まで、自分の術は攻撃性に富まない、どちらかと言ったら足手まといとすら思っていたが、好きな子の怪我を治せる自分の術は、案外悪くないかもしれないと思った。


 そんな二人の後ろ姿をミス桜庭がじっと見ていた。


 ミス桜庭の背後に黒髪長髪の塩顔男子が近づき「追いかけないの?」と挑発する。


 桜庭は眼球だけ動かし、声の主を確認する。

「今朝、フラれているからね」


 黒髪の塩顔男子は「へー、そりゃまた、もったいないね」と言って茶化すように笑った。


「思ってないでしょ?」

「まあね」


 ミス桜庭は黒髪の塩顔男子を睨め付ける。

「腹立つから。そういうの」


 ミス桜庭が教室に戻ろうと歩き出した時、黒髪の塩顔男子は、背後から問いかける。

「諦めるの?」


 ミス桜庭は一瞬だけ、眉間に皺を寄せ「わからない」と言って、今度は声の主へ振り返る。

「諦め方が、わからない」


 その言葉を聞いて、黒髪の塩顔男子は薄く笑った。

「それ、良いね」


「国見君って本当によくわからないよね」

 

 国見、と呼ばれた黒髪の塩顔男子は「案外単純だよ」と言って、保健室に入った。


 国見は鼻歌を歌いながら、しゃがんで何かを探しているような様子を見せる。

 だが、何にも見つけられなかったのか、保健室のベッドに身を投げるように横になった。


「簡単には証拠を残さないって。合格だよ、山口鴇」

 国見はベッドの上で額に手のひらを当て、高笑いをした。

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