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【完結】陰陽師のお仕事 〜医術師〜  作者: カズモリ
赤の文書
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1. はじめまして

 山口(とき)、18歳。男子高校生。イギリス人とのハーフで、瞳がグリーン。身体の線は細い。敢えて筋肉をつけないようにしている。好きな女の子がいるけど、全く振り向かない。


 鴇は電車で吊革を握りながら、(はなぶさ)(みどり)のことを思い出していた。


 碧とは8年前の陰陽師試験で出会った。イギリス人女性と結婚した父は一族の中で爪弾きにあったらしいが、母も父も鴇や姉の桜に愛情深いひとだった。


 姉の桜には才能がなかったのか、術の習得が遅く、一族はこれ見よがしに父と母を非難する。だからこそ、鴇は父の選択が間違っていないことを証明するため、必死で陰陽術を磨いていた。


 才能も相まり、鴇は神童、神童ともてはやされ、6歳の時に陰陽師試験を合格し、そのまま陰陽師となった。

 医術師となったのは、山口家は代々医者の家系で、その道が当たり前だと思っていたからだ。


 7歳で婚約者ができた。同じ陰陽師の一族の弓削白百合だ。白百合は髪がふわふわウェーブがかかっていて、目も大きく、一般的にいう『美少女』だった。白百合は父に手を引かれ「はじめまして」と言って俺の顔を恥ずかしそうに見た。

 白百合を見た時、父の問いかけに「はい」しか応えず、自主性のない子だな、と思った。昭和か大正まではそれが良妻賢母の条件だったのかもしれないが、平成の時代とはそぐわないし、何よりイギリスの血を引く俺にとってはくだらないとすら思えた。



 姉の桜が、新興勢力の(はなぶさ)家の男と婚約していたから、理解はできた。


 最も姉の場合は表向きの医学の分野でも製薬会社を営む英との婚姻は理があるからかもしれないが。姉はどこかで諦めていた。陰陽術で弟には敵わないと分かっているからか、諦めが常に姉を支配していた。


 女とは傀儡(くぐつ)のようなものだな、そう思うようになっていた。白百合との結婚を抗ったところで、別の陰陽師の女をあてがわれ、陰陽師としての血を濃くさせられるだけだ。

 人生を高め合うこともなく、名家の少女というだけで結婚させられる。父や母のような愛を感じることはきっとないだろう。



 鴇は9歳の冬に正式に山口家当主となった。そして、毎年春に行われる陰陽師試験の試験官になるよう勧められた。周囲を見返すには格好の箔だと思ったし、自分より年上ばかりが受ける試験を担当するのは優越感すら感じた。


 そこで出会ったのが碧だ。


 碧の式は人形(ひとがた)で、自分と歳も変わらなそうな女の子が、精巧な造形美を作り出していることに興味が湧いた。人形の式は精神力、忍耐力、想像力が必要だ。


 今まで鴇の周囲には鴇以外で人形を作り出した人物はおらず、それを女の子が創り上げたのだ。鴇は単純に興味が湧いた。声をかけずにはいられなかった。


 式は男で、馴れ馴れしいが、鴇の式を見破っていた。試験会場にいる何人が鴇と式の存在に気づいているかを考えると、鋭い考察力にも惹かれた。


 碧は白百合と戦ったが、白百合の経験不足と弓削玄が水を刺したこともあり、碧が勝った。


 第二試合では、碧には部が悪そうだったが、諦めるという選択肢を持ち得ておらず、戦い方は不恰好だが、試合の中で成長していく碧が輝いて見え、それがやたらと目を引き、気になった。戦いやすいようにショートヘアにして、走り回り砂埃の中傷を作っては立ち向かっていた。


 かつての自分が、がむしゃらになって追い求めた『強くなりたい』という気持ちを碧も持っていたのだ。



 衝撃的だった。


 落雷が落ちるように、碧に惹かれた。恐らく碧はここ数年で成長し、指折りの陰陽師になる。彼女は諦めるという選択肢を持ち得ていないからだ。現状を打破するために争う姿は賞賛に値する。

 不利な状況で逃げないということは裏切らないということであり、困難を共に乗り越えられる。正に『病めるときも、貧しきときも』彼女となら、両親のような愛がある生活ができるかもしれない。


 彼女と結婚したい。


 そう思ってから8年が経った。あの後、晴明や道真が出てきて、碧は殺された。だが、母の愛によって彼女は再び生きながらえているが、かつてのようなキラキラした姿ではなくなってしまった。



 碧は闇落ちしていた。


 自分のせいで親が殺されたんだ。無理もない。

 ある日、彼女の良心と思えた人形式は彼女の前から消え、代わりに強力な彼女の母の式が彼女を取り巻いている。そのおかげなのかは不明だが、碧は前よりも心が前向きになっているようだった。


 あの式のおかげで碧が変わったのかと、嫉妬にも似た気持ちを抱いたが、彼女が前向きになるのは良いことだし、俺も碧を救いたい。碧はキラキラして、果てしないほど明るくなくては。あの衝撃をまた俺に与えて欲しい。


 時々、姉の婚約者の青が碧を尋ねてくるが、青は碧の父の透に嫌われているのか、碧の家には上がり込んでこない。だから、俺はスカートを履いて、この顔を生かして、女の子と思われるよう透の目を誤魔化して、碧に近づく。

 碧、俺はずっと側にいる。


 そのためには俺が碧の術を伸ばすために相手になる。碧の『病めるとき』に手を離しはしない。


 碧は術を研磨していき、指折りの陰陽師になった。かつてのキラキラした彼女を取り戻してきた。

 宿敵 滋岳キナリを撃つ。その一心で、また彼女は復活した。


 電車がプラットホームに滑り込み、駅名をアナウンスした後扉が開いた。


 ロングヘアを後頭部で一本に結んだ背の高い切長の目が特徴的な少女が鴇の隣に立った。

「おはよう」

 その声に鴇の胸は高揚した。

「おはよう、碧」


 碧、大好きだよ。本音を言うと俺は思春期真っ只中の男だから、碧の唇に触れてみたい。

 わかっている。そんなことは俺の自己満だ。

 だから、せめて今は『友達』として、側に居させて欲しい。

 碧がキナリへの復讐を果たすその時、俺はキミの隣にいる。


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