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この作品には 〔ガールズラブ要素〕が含まれています。

プロポーズは薔薇と(百合。付き合ってない)

作者: 飛鳥井作太
掲載日:2021/05/25


 とある喫茶店にて。

一三かずみちゃん、結婚しよっ」

 カウンターから身を乗り出して、彼女は言った。ポニーテイルが、元気に跳ねた。

「あーそうねぇ。一二三いろはの気があと十年変わらなかったらねぇ」

 バーカウンターの中で、女店主が答えた。セミロングの髪が、さらりと揺れる。

「ちょっと、それ、十年前も言ったじゃん!」

「言ったねぇ。よく憶えてるねぇ。えらいえらい」

「茶化さないで!」

 一二三が、バンバンッとカウンターを叩き、文句を言う。

 一三はグラスを拭き拭き、何処吹く風でそれを流す。

「せっかく十年待って、花束まで買って、プロポーズしに来たってのに、それは無いんじゃない?」

 ばさっと乱暴に置かれた薔薇は、真っ赤な十本の薔薇。

「そうだけどねぇ……」

 あんまりにもお定まりすぎやしないか、と思ったが、一三は黙っていた。

「アンタ、今いくつよ」

「知ってるでしょ、十七よ」

 一二三が答えた。

「十七のガキ相手じゃァねぇ」

 一三は、十近く離れた従妹を見てため息を吐く。

「ガキじゃないし。もう法的には結婚できる歳だし!」

「それでもよ」

 一三の手が伸び、

「あだっ」

 容赦なく、一二三の額にでこピンを見舞った。

「それくらいの歳の人間は、ころころ気持ちが変わるもんよ」

 一三は、ニヤリと口の端を上げる。

「そんな天気雨みたいな恋に、大人は付き合ってらんないの」

「ぐぬぬぬ……」

 一二三はしばらく唸り、一三を睨みつけていたが。

「わかった! また十年待てばいいんでしょ、十年待てば! 次こそは、逃げらんないんだからね!」

 そう啖呵を切ると、乱暴に扉を開け放って店を出て行った。

 午後六時から、この喫茶店はバーへと変わる。その前に帰ることは、一三との約束でもある。

「はいはい。気長に待ってるわ~」

 こういうときでも律儀にその約束を守る彼女が、愛おしい。

「アンタの従妹ちゃん、本当に十年後に来たわねぇ」

 店員その一のジョセフィーヌ(本名:合田毅)が、ぴゅうと口笛を吹いた。

 一三の同級生であり、中学からの腐れ縁でもある彼女は、もちろんのこと一二三のことを知っている。

「それでまた十年待てだなんて、ママもいじわるよねぇ」

 店員その二のカトリーヌ(本名:鹿取慎也)が、頬に手を添えてため息を吐く。

 カトリーヌはジョセフィーヌの従弟で、ジョセフィーヌに紹介されてこの店に来た。

 店員二人にオネエがいるのは、計画したわけではなく、ただの偶然、ただの縁である。

「うるさいわよ」

 あとママって言うな、マスターと呼べ。一三が、カトリーヌを睨む。

「……本気になったら痛い目見るのはこっちなのよ。これくらい、いいでしょ」

 ふん、と鼻を鳴らす一三。

「ママ……」

「十年後、一二三ちゃんが来なくっても、アタシたちはアンタをちゃんと支えてるからね!」

オネェの友情は不滅よ!」

「うるっさい、早くバーの準備なさいよ!」

 一三が吼えると、二人は怖い怖いと笑いながら、バックヤードや看板の電気を点けに行く。

「ったく」

 一三は、そっとカウンターに置き去りにされた花束を手に取った。

 きっと、一二三が一生懸命バイトしたお金で手に入れたのだろう。

「……イイ女になりなさいよ」

 そう言って、密やかに笑った。その笑みはどこか、寂しげで、そして嬉しそうだった。

 END.


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