7話 第三王子
王宮に着き、クラウス殿下の執務室へと向かった。
部屋の前に立っていた護衛に、面会の許可を得ている旨を伝え扉を開けてもらう。
「殿下。ルドヴィック様がお越しです。」
「ああ、入れ。」
学園から帰ってきたばかりなのだろう。
制服身を包んだままの殿下が出迎えてくれた。
そのまま殿下が座っているソファーの向かい側に座り、様子を伺う。
いくらなんでも、此度の婚約のことはすでに殿下の耳にも入っているだろうが…。
どう切り出すか悩んでいると、私の心を読んだかのように殿下が口を開いた。
「ルドヴィック、何か私に報告することがあるんじゃないのかい?」
「やはり、もうお聞きになっているのですね…。ええ、クルムバッハ家のご令嬢と私の婚約が決まりました。これで、中立派が動いてくれるといいのですが…。」
「私の影は大層優秀だからね。いくら陛下が内密に事を運んだって、これぐらいのことは何ともないさ。まあ、私に情報を入手できたということは兄上もすでに知っていると思った方がいいだろうね。この婚約が全く影響しない、とまでは言い切れないけど、そう簡単にはいかないだろうね。」
そう言って、殿下はこちらをじっと見てきた。
「・・・・・。なんでしょうか。」
「いや、あれだけ逃げ回っていた割には、この婚約について不満がありそうな感じがしなかったから。少し意外で。なんだっけ、あの『闇色の瞳の女性』はもういいかい?」
「いくら私でも、此度の婚約が重要なものであるということぐらい分かっていますよ。それに王命ですから断れるものでもないですし‥‥。もちろん、アデリナ嬢のことは大切にするつもりですが、婚約を結んだとしても、私が愛しているのはあの方だけです。」
「ふ~ん。まあ、いいけど。婚約者殿の機嫌を損ねるようなことはしないでくれよ。クルムバッハ家からしたら、この婚約は迷惑な話だろうし、絶対的な味方になったというわけでもないからね。それに、その御令嬢は領地からでない秘蔵っ子だ。何かあれば、辺境伯家、特にカーティス卿が敵に回る。」
「?。カーティス卿が、ですか?」
「ああ。個人的な付き合いはないが、カーティス卿が妹を溺愛しているのは学園では有名な話だ。なんでも、アデリナ嬢に持ち込まれたを縁談を片っ端からつぶしているらしい。"あの"カーティス卿が敵に回れば何をしでかすか分かったものじゃない。」
そう言って殿下は顔をしかめた。
殿下はカーティス卿のことが苦手らしい。
確かに、行動が読めない自由奔放な彼は殿下とは合わないだろうな。
「ところで、殿下もアデリナ嬢にお会いしたことはないのですか?デビュタントがあったはずですが。」
「ああ、3年前のデビュタントは兄上の葬儀と喪で中止になったし、翌年に繰越されたとは言え、事情があって出られない者もいたからな。アデリナ嬢も自領でのお茶会で社交デビューしているから、会ったことはない。」
「そうですか。殿下なら何かご存じかもしれないと思ったのですが。」
殿下も知らないとなると、事前に情報を集めるのは難しいだろうな。
顔合わせも明後日だし。
ハンスが持ってくる情報に期待するか。
「まあ、せいぜいその美貌をもってアデリナ嬢を誑し込んでくれ。そっちの方がこちらもやりやすい。頼んだよ、『月下の貴公子殿』。」
そう言って、殿下は悪そうな顔で微笑んだ。
イーリス国では男女とも14歳が社交デビューです。