5話 政略結婚の裏側 ルドヴィックside 1
領地に視察に来ていたところ、父上から至急王都に戻ってくるよう呼び出しがかかった。
連日の社交の疲れを癒すために、わざわざ父上の代わりに視察に来ていたというのに…。
近頃、舞踏会に出席するたびに娘を紹介されて辟易していたのだ。
私も今年で24だし、そろそろ逃げられなくなってきたな。
はあ、結婚も貴族の義務。
まして、アーレンベルク家の跡継ぎが、愛する女性と一緒になるためにその義務を放棄するわけにもいかない。
今回の呼び出しはさしずめお見合いといったところか?
だとしたら、ワグナー侯爵家かシュヴァルツ伯爵家あたりだろうか?どちらにも年頃の娘がいたはずだ。
どちらも遠慮したいものだ。
ワグナー家のところの娘は気が強く、愛する女性がいるなんて許さないだろうし、私の記憶が正しければ化粧も香水もきつかった。
シュヴァルツ家の方はおとなしい印象ではあったが、学がなく、よく無神経な発言をすると有名だ。
それに‥‥青と茶、どちらも私が探している瞳の色と違う。
まあ、他の家の娘であっても憂鬱なことに変わりはないが、せめて信頼できる相手であることを祈るばかりだ。
そもそも、お見合いっと決まったわけではないしな。
そんなことを考えているうちに王都にある邸宅に着き、執事のハンスが出迎えてくれた。
「お帰りなさいませ。お疲れのところ申し訳ありませんが、旦那様がすぐお呼びするよう仰せです。」
「わかった。直ぐに向かう。」
着替えをする間もなく、父上の書斎へと通されるなんてよほどのことだ。
見合いではなかったか・・、私が呼び戻されたということは私に関することで間違いないはずだが。
「父上、ただいま戻りました。」
「ああ、入れ。」
「失礼します。・・・・わざわざ呼び戻す用件とは思えないほど、嬉しそうなお顔をしていらっしゃいますね。」
何か重大なことかと思って身構えていたのに、父上は嬉しそうな顔をしている。
厳格な父上が笑っているなんて気持ち悪いな。
「いや、ここ何年も理由をつけて逃げていた息子がとうとう結婚することになるなんてな、私は嬉しくて涙が出そうだよ。」
父上はわざとらしくそう言うと、笑顔を向けてきた。
私の聞き間違いか?
「・・・。今、何と?」
「結婚だよ。結婚。」
「結婚?お見合いではなく?」
「ああ。と言っても、もちろんまずは婚約であるが、そのご令嬢との結婚は決定事項だ。」
そう言って、私に書簡を渡してきた。
「この紋章王家のものではないですか!」
「ああ、此度の婚約は王命である。いくらお前でも今回ばかりは逃げられないぞ。それに、この話は我が家にとっても益のあるものだ。」
そう言われて、書簡を開いた。
【クルムバッハ辺境伯家、アデリナ嬢との婚約を命ず。】
「クルムバッハ辺境伯家、アデリナ嬢・・。ッ!陛下は王位争いに介入されるおつもりですか?クラウス殿下を支持する意向を表明なさると?」
「いや、此度の王命は一部の者しか知らない。それに、第二王子殿下が水面下で中立派たちを取り込もうと動いている。もうすでに何家か第二王子殿下についた。ここで、中立派筆頭のクルムバッハ家まで取り込まれれば、終わりだ。陛下もなりふり構っていられないのだよ。それに、クルムバッハ家の娘も年頃だ。最近、つながりを持ちたい貴族たちがこぞって縁談を持ち込んでいる。ここで、我が家が縁談を持ち込んでもおかしくはない。実際、この縁談には益があるしな。」
それに、と言って父上はニヤッと笑った。
「王命でもなければ、お前はなんだかんだ理由をつけていつまでたっても婚約の一つもしないからな。」
長くなったので、ここで切ります。