4話 すべてのことには意味がある
温かい。
木漏れ日を浴びながら、二人寄り添って本を読んでいる。
彼女は、本を読みながらこっそり貴方の横顔を眺めた。
視線に気づいた彼は笑って彼女の方を向いた。
『そんなに見つめてどうしたの?』
『~~~~~。』
彼女の言葉に彼はくしゃっと顔を崩して微笑んだ。
彼は笑うと少し眉が下がって目元にしわが寄る。
私はそんな彼の笑顔が好きだ。
夢の中で私は私の声を聴くことはできない。
それどころか顔もぼやけてよく見えない。
彼の隣にいる彼女が前世の私だとはわかっても、自分の顔も、声も、名前さえ思い出せない。
私の夢は不思議だ。
彼女、私の目線で進むこともあれば、二人の様子をただそばで眺めているだけのときもある。
私は自分の声が彼に届かなことをわかっていながら彼に伝える。
「今日、私の婚約が決まったの。貴方は悲しんでくれるかしら。寂しいって思ってくれる?私は、とても寂しいわ。夢の中で貴方に会えてもあなたが見てるのは私じゃない。でもいつかは貴方に声が届くんじゃないかって期待して、でも届かなくて、それでも貴方に会えるだけで心躍って、貴方との思い出が日々増えていくことが嬉しくて、切なくて…。これから、私は貴方を想いながら他の男性の妻として生きていかなくてはならないの。今日だけでも、今日だけでもいいから〝私″を抱きしめて・・・。」
すると彼がこちらを振り返った。気がした。
彼は隣にいる彼女に向かって言った。
『前に僕に聞いたよね?運命を信じるかって。運命なんてものがあるかはわからないけど、この世界で起こるすべてのことに意味はあると僕は思う。この世界は複雑に歯車がかみ合ってできていて、一つでも歯車が狂えば、その後の展開がすべて変わってしまう。例えばだけど、あの日僕が寝坊してなかったら君に出会うことはなかったし、君と出会ってなかったら僕は今頃、外でのんびりする楽しみなんて知らずに家で仕事でもしていたよ。あの日僕が寝坊したのは君と出会うため、僕たちが出会ったのはこれから起こる何かのため、この世界で起こっているどんな小さな出来事も、物事を動かす歯車になる。偶然に思えることも必然なんだ。これも一つの運命みたいなものだと思わない?』
すべてのことに意味がある。
意味があるのなら、私が貴方の夢を見ることにも意味があるのだろうか。
『ここに咲いてる花も、種がどこからか飛んできて咲いただけかもしれないけど、こうして誰かへの贈り物になる。』
彼はそう言うと咲いていた花を摘んで、小さなブーケを作って彼女に渡した。
『ほらこれあげる。前にフラワーアレンジメント好きだって言ってたからちょっと勉強したんだ。もっとうまくできるようになったら、ちゃんとした花束を作るね。この花〇〇にピッタリだね、良く似合ってる。』
『~~~~。』
彼は耳を赤く染めながら応えた。
『意味は自分で調べて。』
彼が私にくれたのは、スターチスの花だった。