3話 月のおまじない
これからのことを考えなくてはいけないわね。
アーレンベルク家についても調べなくては・・・。
婚約するにあたり必要となる情報を頭の中で整理するが、うまく頭が働かない。
自室に戻り、頬杖を突きながら空を見上げた。
今日は曇っていて月は見えなさそうだ。
こんな日こそおまじないをしたかったのに。
『ねえ、月のおまじないって知ってる?僕も祖母から教わったんだけどね、つらいこととか不安なこと、悲しいことがあったとき、コップの水面に月を浮かべて、それをスプーンで溶かして一緒に飲むといいんだよ。何に溶かすかは自由だけど、紅茶が一番綺麗に月を映せる。〇〇も一緒にやってみない?』
彼はそう言って、私におまじないを教えてくれた。
私が落ち込んでるとき、彼は私が話すまで何も聞かずにただ寄り添って優しさをくれる、そんな人だった。
それから、何かあるたびに私は紅茶に月を浮かべて溶かして飲むようになった。
今日はもう寝よう。
早くあの人に会いたい。
私は、ベルを鳴らしアンナを呼んだ。
「失礼します。お嬢様、お呼びですか?」
「アンナ、今日はもう寝るわ。夕食はいらないと伝えてくれる?」
「承知しました。では、アロマでもお焚きしましょう。お疲れのようです。」
アンナは良く気が回る優秀なメイドだ。
私が幼いころから世話をしてくれているから、私の様子にもすぐに気が付いて気遣ってくれる。
「ありがとう。では、ラベンダーのアロマを焚いてくれるかしら?」
「もちろんです。ちょうど今日商会から頼んでいたものが届きましたのでそちらを。」
アンナに寝る支度を整えてもらいながらベッドに入った。
部屋がラベンダーの優しい香りに包まれていく。
「お嬢様、お休みなさいませ。良い夢を」
今日もあの人に会えるといいな。
そう願いながら、私は夢の世界に落ちていった。