2話 政略結婚の裏側
恋愛中心で書こうと思ってたのに...。どうしてこうなった。
そのほかの要素を織り交ぜながらも、二人の恋愛が中心となる予定です。
私はイーリス国の辺境伯、クルムバッハ家の末っ子として生まれた。
両親と2人の兄と姉、そしてかつて英雄と呼ばれた祖父と絶世の美姫と呼ばれた祖母を家族に持つ。
祖母がこの国の姫であったこともあり王家に忠誠を誓ってはいるが、我が家は先々代から政権から遠のき中立を守っている。
だから、此度の婚約には驚いたものだ。
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「アデリナお嬢様、旦那様がお呼びです。書斎まで来るようにと。」
「そうなの?珍しいわね、お父様がわざわざ書斎まで私を呼ぶだなんて。まあいいわ、ありがとうアンナ。直ぐに行くと伝えてもらえるかしら。」
珍しいこともあるものだ。
お父様は領軍を鍛え上げることが趣味みたいな暑苦しい人だから、あまり書斎に呼ばれることなんてないのに。
私は部屋でくつろいでいてしわができたドレスを整え、書斎に向かった。
「お父様、アデリナです。お呼びと聞き参りました。」
「ああ、来たか。入りなさい。」
部屋に入ると、何やら難しい顔をしたお父様が頭を抱えていた。
本当に珍しいこともあるものだ。
能天気なお父様がこんな顔をするなんて。
それに、お母様とアダルお兄様までいらっしゃるなんて。
何やら嫌な予感がする....。
まさか、カーティスお兄様がまた学園を出奔して行方不明とか?
頭の中でいろいろな憶測がうずめくが、とりあえず話を聞かなくては。
「あの、それでどういったご用件でしょうか。お母様たちまでいらっしゃるなんて。」
「それがなあ…。う~~ん。」
「ほら、あなた。いつまでも唸ってないでちゃんと言いなさい。アデリナが一番の当事者なんですからね!」
「いや、やっぱい辞めよう!こんな書簡届かなかったことにすればいいんだ!使者を事故に見せかけて消せば、我が家にはこの書簡が届かなかったことにできるはず!」
「アダルウィンまで馬鹿なことを言うんじゃありません!それに、今回のことはそう簡単に片づけられる問題でもないでしょう?」
お父様と違っていつも冷静なお兄様まで取り乱すなんて。
一体、何なのかしら?
お父様が渋々といった様子で口を開いた。
「アディ―、お前の婚約が決まった。王命だ。」
「えっ、婚約ですか?それに王命の?」
「そうだ。お相手はルドヴィック・フォン・アーレンベルク。侯爵家の嫡男だ。」
これは驚いた。
お姉様は2年前の18歳のときに嫁いだから、そろそろ私も婚約の話の一つや二つ出てもおかしくはないと思ってはいたが、こんな大物が出てくるなんて。
それに....アーレンベルク家と言えば、中立派の我が家と違って派閥に入っていたはずだ。
これは、危険な香りがするわね。
「アーレンベルク家と言えば、名門中の名門ではありませんか。それに、アーレンベルク家は第三王子派であったと記憶しておりますが。もしかして陛下は王位争いに首を突っ込むおつもりなのですか?中立派の我が家に縁談を持ってくるなんて。」
「そうなんだが…。陛下は王位争いに不干渉としているが、内心第二王子が王位に就くことを避けたいようだ。まあ、気持ちはわからんでもないがな。」
「お父様、お言葉ですが我が家は中立派といえど、領軍を持つ身として第二王子寄りであることはご存じでしょう?ここで我が家が第三王子につけば確かに第二王子派の勢いは削がれるかもしれませんが、我が家が睨まれますよ。」
三年前、王太子であった第一王子が病に倒れ、そのまま帰らぬ人となったとき国中に激震が走った。
王太子殿下は、賢君として歴史に名を刻む初代国王の再来とまで言われ、だれもが名君として名を馳せるだろうと疑っていなかった。
それに、陛下から半年後に譲位を賜り即位することが決まっていた。
他の王子たちとも年が離れていたこともあって、皆王太子殿下を支持する意向を示していたのだ。
それがいきなり崩れ去り、王位争いが始まった。
とはいっても、内戦なんてことにはなっていないが、派閥同士の争いは激化している。
第二王子は軍部からの支持が厚く、そのカリスマ性も相まって今一番勢いのある派閥だ。ただ、冷酷すぎ容赦がないことも有名だ。
我が家は中立派ではあるが、軍を持っている以上軍部との関係は切れない。
それを第三王子派と結びつけようとは…。
「それはわかっているんだがな。陛下は先王の時代から築き上げた平和な時代を崩したくないのだ。私も、父上が英雄と呼ばれながらも戦いの果てに多くのものを失ってきたのを見てきた。第二王子が王位に就けば、我が国は大陸で1,2を争う強国とはなるだろう。しかし、必要のない侵略戦争と恐怖政治が始まることが目に見えてる。陛下は我が家を第三王子派に付けることで他の中立派を動かしたいのだよ。」
今、第二王子は主に軍部と一部の商人が、第三王子には外務大臣を筆頭に文官たちがついている。
ここで陛下が第三王子を王太子に指名してしまえば、それこそ内乱になりかねない。
「アデリナ、すまないが。この話受けてくれるね?」
お母様もお兄様も心配そうに私を見ている。
受けるも何も、王命ならば断わるすべはない。
「わかりました。謹んでお受けします。」
「ほんとにすまない。お前も、ぺルレのように好いた男の元に嫁がせてやりたかったが。」
「...ッ!気づいておられたのですか?」
「アディ、あなたは、あれでバレてないと思っていたのですか?父上だけでなく家族はみんな知っていますよ。アディは感情を隠すのはうまいですが、何年も一緒にいればわかります。まあ、相手が誰だかはわかりませんが…。」
お兄様は冷静さを取り戻したようだ。
「アディ、あなたがずっと心に想っている方がいるのは知ってるわ。だけど、ルドヴィック様に寄り添えるよう向き合いなさい。」
「心得ております。それに、もとよりこの想いは叶わないものなのです。ルドヴィック様がどんな方でも、妻として支えられるよう努めますわ。」
私はうまく笑えているだろうか。
まさか、周りに気づかれているとは思わなかった。
誰にも打ち明けたことはないのに。
貴族だもの、政略結婚をする可能性ぐらいわかってたわ。
それに、どれだけ願ってもこの世にいない方と結ばれることなど不可能だもの。
だけど、お前の想いは不毛なんだと突き付けられたようで胸が痛い。
窓の外に目を向ければ、さっきまで晴れていた空が曇っている。
私の心を現しているかのようだ。
今日ぐらい、泣いてもいいよね?