12話 靄の向こう
白い光の靄の向こうに、たくましい背中が見える。
この背中は誰だ?
その背中はどんどん、光の向こうへ進んでいく。
『あっ、待ってくれ!』
思わず手を伸ばす。
そのとき、伸ばした手に既視感を覚えた。
この感覚はとても覚えのあるものだ。
それも、ずっと前から‥‥。
あぁ‥‥、そうだ、この眩い後姿は兄上だ。
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『兄さま!』
『おや?リヒモンドかい?どうしたの?』
『兄さまが訓練をすると聞いてきました!そばで見ていてもいいですか?』
『いいよ、でも危ないからジャックの傍から離れないと約束できるかい?』
『うん!』
ジャックの傍で兄上が剣の訓練をしているのを眺める。
『うわ~!ジャック!兄さまはすごいね!ねえ、ジャックと兄さまだったらどっちが強いの?ジャックは兄さまの騎士なんだよね?』
『そうですね。今はまだ、殿下が幼いので私の方が力はあります。ですが、そのうち殿下の右に出る者などいなくなるでしょう。しかし、私はこの剣に懸けて殿下をお守りすると誓いました。私の命尽きるその時まで、殿下に剣を抜かせるなんてことは私がさせません。』
『なら、ジャックはおじいちゃんになっても兄さまのそばにいるの?』
『ええ、私は殿下の近衛騎士です。この身が亡ぶまで、殿下のお傍におります。』
そっか、騎士になれば、ずっと兄さまと一緒にいられるんだ!
『何の話をしているんだい?』
『あっ!兄さま!すごくかっこよかったです!』
『ありがとう。退屈じゃなかったかい?』
『ちっとも!兄さま、兄さま。僕、大きくなったら兄さまの騎士になります!』
兄さまは少し驚いたように言った。
『リヒモンドが僕の騎士に?どうして?』
『だって、兄さまの騎士になったら、ずっと一緒にいられるんでしょ?僕、おじいちゃんになっても兄さまのそばにいるんだ!』
『ははは、そうか、じゃあ、おじいちゃんになっても私の傍にいておくれ。』
そう言って、兄さまは僕の頭を優しく撫でながら、少し困ったように微笑んだ。
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「殿下、殿下」
ジャックの呼びかけで目を覚ます。
「珍しいですね、殿下がうたた寝をするなんて。」
夢…、ああ、そうだ懐かしい夢だ。
「‥…そうだな。」
「殿下、最近根を詰めすぎではないですか?」
「いや、あの情報が確かならば、我々の計画も急がねばなるまい。こんなところで立ち止まっている暇はない。それより、送っていた密偵はどうなった。」
「先ほど、無事あちらと合流したと連絡が参りました。」
「そうか、第3部隊に連絡しろ。”マッチの火を消し忘れるな”と。出番だ。」
「かしこまりました。」