8話 動き出す歯車
結果、ハンスが持ってきた情報も大して変わらなかった。
分かったことは、赤毛に緑の瞳であること、領民から慕われていること、クルムバッハ領の名産品はアデリナ嬢のアイディアから生まれた物が多いこと、これくらいだ。
顔合わせのため身支度を整え、クルムバッハ家へ向かう。
殿下には誑し込んでくれと言われたが、さてどうしたものか。
ハンスの言う通りの方であれば、その手は通用しない気がするな。
それにあまりに不誠実だ。
だからと言って、他に愛する人がいると馬鹿正直に告げるのも気が引ける。
どうしたものかと頭を抱えたまま、気づいたらクルムバッハ家に到着してしまった。
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今日は、顔合わせの日。
事前に集めた情報では、ルドヴィック様は悪い方ではないようだ。
「さあ、お嬢様、気合を入れていきますよ!」
朝からメイドたちがあれでもない、これでもないとどのドレスにするかで揉めている。
「アンナ、それにみんなも、夜会に行くわけじゃないんだから、そんなに派手なものじゃなくていいわ。落ち着いた緑のドレスがあったでしょう。あれにしましょう。」
「何をおっしゃいますか!ルドヴィック様と言えば、今を時めく『月下の貴公子』ですよ!お嬢様もそのままでも大変かわいらしいですが、もっと着飾らなくては!」
私よりみんなの方が楽しんでいる。
もともと私が社交界にあまり出ないため、みんな私を着飾りたくてうずうずしているのだ。
しょうがないから、やりすぎない程度で好きにさせてあげよう。
メイドたちに着飾られ、一息ついてたところでルドヴィック様のご到着の知らせが届いた。
婚約の話が決まったときは心が揺らいでいたけど、不思議と今は落ち着いている。
彼の夢を見たからだろうか?
すべてのことに意味があるのなら、この婚約も一つの運命、あるいは歯車の一つなのだろう。
そう思うと、不思議と心が落ち着いた。
アンナを連れて、ルドヴィック様の待つ応接室へ向かう。
少し気を引き締めて私は小さくつぶやいた。
「では、行きましょう」