洋服屋の少女と呪い
「はぁ……」
洋服屋の中、レジカウンターに設置された椅子に腰かけレイラは退屈そうに天井を眺める。
店の前の通りには活気があるものの客足はバッタリだ。
「誰か来ないかなぁ……」
小さくそう呟いたレイラの頭には明確に1人の人物が浮かんでいる。先日、いけ好かない客の紹介で知り合った少女である。
いつも店に来るのは常連の客か姉目当てに遊びに来る阿呆くらいのもので、同年代の友人もいないレイラは変わり映えしない毎日を送っていた。
刺激と言えば片想いの相手が姉の友人であり、稀に店に顔を出すことくらいだ。ほぼ会話などはなく、ひと言二言挨拶程度のやり取りをして終わりだ。それでもレイラにとってはそれだけで一日を過ごしてゆく十分な活力になる。
シャラランとドアに取り付けた鈴が鳴る。
「いらっしゃいませ。兎屋へようこそ……」
レイラは元気よく客を迎えるが、その言葉はしりすぼみに活気をなくしてゆく。現れたのは赤髪の痩せた男だった。
「レイラか。ナターシャは居るか?」
赤髪の男レイは無表情にそう問いかける。
「レイさん。姉は留守です。お引き取りください」
レイラは冷たくそう告げるとスタスタと入口へと足を運び、ドアを開けて退店を促す。
レイはため息をひとつついてから、促されるまま外へと出ると振り返ることも無くそのまま人混みへと溶けて行く。
「なんなんだろ、もう」
レイラはレイが大嫌いだ。彼が現れた時はだいたい何か悪いことが起こる。先日も店内で殺人事件が起こるところだった。そして小料理屋の男ダリーと仲がいいのも気に食わない。もう、嫌な所だらけである。
「どうせならまたクラッチさんが来てくれればいいのに」
レイラはカウンターに突っ伏し小さくそう呟いた。
「あぁ、俺もどうせならナターシャさんに会いたかったぜ」
「!……ディオさん」
ばっと顔を上げディオを睨みながら問う。
「聞きましたか?」
「バッチリな」
ディオは真顔で告げる。
「もしかして、知ってましたか?」
そう尋ねたレイラは耳まで真っ赤だ。
無言の時間が続く。
ディオはために溜めた後ゆっくりと笑い告げる。
「バッチリな!」
レイラは顔から火が吹き出るかと思うほど体が熱くなるのを感じる。
「厄日だ。レイの呪いだ」
レイラはカウンターに突っ伏し小さく呟いた。