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心臓にもない、脳にもない。  作者: 高松綾香
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小料理屋の少女と布団の悪魔

「ダリーさま。ダリーさま」


 昼間になっても起きてこないダリーの肩をゆすりながらアイリスは辛抱強く呼びかける。


 朝食はダリーが昨晩用意してくれたパンですまし、キッチンで彼が起きてくるのを待っていたがなかなか起きてこないので自分で起こすことにした。


 というのも、今日はレイラと会う約束をしていたためこれから出かける旨を伝えなければならなかったからだ。


「ダリーさま。起きてください、ダリーさま」


「......はぃ......おきました......」


 体を激しくゆすられてなんとか覚醒したダリーは目を閉じたままガサガサの声で言うが、これでそのまま再び眠りについてしまうのが彼である。


 アイリスは体をゆする手を止めずに声をかけ続ける。


「ダリーさま。目を開けてください。大切なお話があるのです」


「ん~......起きてうょ......聞いてるから......」


 どうにも眠たいダリーは意識があるのかないのか、なんとか受け答えをする。


「ダリーさま。目を開けてください。ダリーさま、ほんの少しでいいのです。起きてください」


「......アイリス。おれもおきたいんだ......仕事が嫌なわけじゃないし......でも、だめなんだ......戦争が無くなったいま、現代の社会......こんなところに......あくまがいたんだ......」


 どうしても諦めてくれないアイリスに力を振り絞ってわけのわからない言い訳をするが、なおもアイリスはは無表情に、無慈悲にダリーを起こす。


「わかりました。ダリーさま、そろそろ約束の時間になってしまいます。起きてください」


「やくそく......? なんだっけ......?」


 約束という言葉に反応して眉間にしわを寄せて薄く開けた目をアイリスのほうへ向けながらダリーは問いかける。


「兎屋さんのレイラさんとお茶の約束をしています」


「してないよ......」


 そう言うとダリーはまた目を閉じて枕に顔をうずめる。


「私がです。ダリーさまはこのまま休んでいただいて問題ありません」


「ぅん......なんで起こしたの?」


「これから出かけますので、報告のために起きていただきました」


 アイリスはいつも通りの無表情でダリーの後頭部へ話しかける。


「そっか......わかった、車と悪い人に気を付けてね......」


 ダリーは苦しそうな顔でアイリスの方を振り返ると彼女へと手を伸ばし、力なく頭を撫でながらそう言って力尽きた。


「はい。開店までには戻ります」


 頭から滑り落ちた手を受け止め、布団へと戻しながらそう言って部屋を後にする。


 初めてできた友人と、初めて遊びに行くことにアイリスは腰が浮くような不安に似たような感覚を感じながら家を出た。



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