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心臓にもない、脳にもない。  作者: 高松綾香
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洋服屋の少女と碧い瞳の人形


 昨日はとんでもない量の服を買っていった客がいた。


 店としてはありがたい限りだが、配達をする身となるとこれほど億劫なことは無い。

 

 レイラは台車に紙袋を山積みにして目的地“小熊亭”へと向かう。そこに新しく歳の近い子が越してきたらしく、姉からは配達ついでに挨拶をしてくるようにと言われている。


 玄関に着くと「三日から三十日ほどお休みします。再開したらぜひ遊びに来てください」と張り紙がしてあった。三日から三十日、ふり幅が大きすぎるだろうと思いながらも自分の仕事を終えるため呼び鈴を鳴らす。


 ほどなくして鍵を開ける音がした。


「こんにちは!兎屋です!」


 レイラがドアが開くのに合わせて元気いっぱいで挨拶をすると、ドアを開けた少女が挨拶を返す。


「こんにちは……アイリスです」


 無表情でそう言ったのは、自分よりも小さく華奢な体つきに薄い金色の長髪で澄んだ碧い瞳と、作り物のような少女だった。レイラはアイリスを見たとたんに幼少の頃ずっと大切にしていた人形を思い出した。


 一瞬の沈黙ののちにレイラは話し出す。


「服のお届けにきました。ダリーさんはいらっしゃいますか?」


 おそらく越してきたというのは目の前のこの少女のことだろうと思いつつも一応名義主の名前を出す。


「はい、少々お待ちください」


 そう言ってアイリスは速足で店の奥へと入っていった。


 レイラは考えていた。姉からあの少女に挨拶をするようにと言われていたのに向こうにだけ名乗らせてしまった。自然な流れで自分の名前を知ってもらうにはどうしたらいいのかと。


 それにしても不思議な雰囲気の少女だった。平坦な口調にあの整った顔立ちに無表情と思い返すほどに、幼少の頃のあの人形が今命を宿して私に会いに来てくれたようだとレイラはそんな風に考えてしまう。そして、ぜひ仲良くなりたいものだと。


 しばらく待っていると、再びアイリスが出てきた。ドアの手前で後ろを振り返っている。


「おはよう……」


 やや離れた位置、ドアの方へゆっくりと歩きながら、眠そうなダリーが挨拶をする。


「こんにちは、ダリーさん。服のおとどけです」


 レイラはさわやかな笑みを浮かべながら言う。

 

 レイラとダリーは何度かあったことがあった。姉がこの店の常連で、半ば仕方なさそうに自分の服屋“兎屋”へ買い物に来ることがったため、そこで話したことがあったためである。


「あれ、レイラちゃんじゃん。ナターシャさんにこき使われてんの?」


 ダリーは半分も開いてない目で見ながらレイラに軽口を言う。


「いえ、私のお店でもあるので。ダリーさんもお店が休みなのにお疲れのようですね」


 レイラもさわやかな笑顔で皮肉を返すと、そうそう、と思い出したようにダリーが斜め後ろに立っていたアイリスを前へと出し頭に手を乗せながら言う。


「この子アイリスって言うんだ。かわいいでしょ。仲よくしてあげて」


ダリーはどうにも性格が悪そうだが、間と羽振りだけはいいのであまりバカにもできないとレイラは思う。何より姉の友人ということが大きい。


 ともあれせっかく恵んでもらったチャンスを見過ごすわけにはいかないと思い、レイラはアイリスへにっと笑いかける。


「はい。レイラです。よろしくね」

 

「よろしくお願いします」


 対するアイリスは相変わらずの無表情だが、レイラはどうにも嬉しそうだ。


「じゃあ仲良しついでに運ぶの手伝ってあげて。俺は出かけるから。アイリス、

キッチンの菓子パン食べていいからね」


 そう言うとダリーは半目のまま何処かへと出かけていく。


 その後レイラはアイリスの部屋へと荷物を運び、キッチンでお茶をして帰ることとなった。驚きなのはテーブルには二人分のティーセットと菓子パンのほかクッキー等が用意されているうえ電気ポットにはお湯まで沸いていたことだ。まるでこうなるように仕向けられたようでレイラは少々悔しさを感じた。

 



 帰り道、時刻はもうすぐ夕暮れだ。昼過ぎに来てすっかりお店をサボる結果となってしまったが、レイラは満足感に満たされていた。年の近い友人が少なかったためかたくさん話ができたうえ、紅茶も茶菓子もとてもおいしかった。


 帰ったら姉に新しい友人のことを自慢しようと意気揚々と歩くレイラは、喋っていたのがほとんど自分の方だと気づくことは無かった。

 

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