手紙
これは雲ひとつないほどの快晴の日のこと
一通の手紙を破るために
早朝からスニーカーの紐を結んでいた
電車に揺られ
どこまで行こうかと考える
目的地を決めない旅も
一度ぐらいなら許されるはず
窓を駆ける新緑の明るい光と
空に点じたカラスの羽ばたき
都会の隅に
枯れた公衆電話ボックスがあるなら
終着駅からさらに先
そこからだけ行ける温かい砂浜があるなら
この世の果てまで行かないと
私は一人になれないのかもしれない
けれどやはりそこが鬱蒼とした林の無人駅では
降りる気もしない
あれは静かな冷たい風が通る日のこと
うら淋しい駅の階段下で
時を持たず私は立っていた
ぽつぽつ点在する街灯
マフラーに唇を当てて
ひとり自分の体温を感じていた
夢心地で降る雪を目で追っていた
寒々しさや足の痺れが
耳の奥で弾けるオルゴールの音と
かつて私の心を揺らした言葉と混ざっていった
瞼の裏では未だ雪が降っていて
音を吸いながら
ちらちら積もっていく
それは形のない一筆箋
慰めと労りで満ちた言葉は
苺ジャムの味がした
あなたは夢にも思わないだろうけど
私はあなたの言葉に救われていた
それを抱えてここまで生きてきた
でもね
私は自分で歩けたんだ
生きたいように生きられなかったというのなら
それはただの呪縛
本当の終点に着いてしまう前に心を決めておこう