俺達は普通の戦い方がしたいんだよォォォォ!!
──街中の若者が混み合うカフェの一角。
ジャックはコーヒーを啜りながら優雅に過ごしていた。
「ふむ…マスター、またコーヒーの腕を上げたかい?」
「おや、ジャック様にそう言って頂けるとは。この爺、光栄の極みでございます」
「おやおや、過ぎた謙遜は毒にもなるって知っているだろう?マスターにそう言われちゃ、ワタシは更に腕を磨かなくてはならない」
「ならば私も付き合うまでですよ。アナタに釣り合うマスターでなくてはね?」
「ヤホホホ!まるで告白だな、ソイツで落ちないのはワタシとママンくらいだな」
ウインクするナイスミドルとカウンターでちちくり合う。至福の時間だ。このためにワタシは『この世界』にいると言ってもいい。
「それで…」
チラリとマスターが私の後方を見やる。
「なんでお前はそう脳筋思考なんだ!おかげで今回も収支はマイナスだぞッ!」
「脳筋じゃないですー!どうせならバーンとやってバーンと勝ちたいじゃないですかッ!」
「うんソレ少なくともヒーラーの思考回路ではないよねしかもバーンとやるのはカノンちゃんじゃなくて僕達ってこと分かってる??」
「お前のせいで今回もライフエリクサーを5本も消費しちまったんだ…!この出費がなければもうワンランク上の装備にできたのに…!!」
「私に言われましても…」
「いやヒーラーのカノンちゃんが原因だからね?普通エリクサー使わせたらプライドが傷つくものなんだよ?」
「ほら、私達はそういう戦い方ですし?」
「「俺達は普通の戦い方がしたいんだよォォォォ!!」」
「…今回も、ですか?」
「ヤホホホ…」
困ったように笑いつつ、我がパーティーのヒーラー殿を見つめる。
この状況は我がパーティーではよくある状況…というか、大規模な狩りのあとは大体こうなっている。
どうにも彼女は“普通のヒーラー”ではない。というか、少々博打に出やすいのだ。
そのおかげで、今回もかなりギリギリの狩りを演出することになってしまった。私としては悪くなかったのだが、二人のお気には召さなかったらしい。
──ちなみにライフエリクサーは1本100万ゴルド。この金額を手に入れるには(イベント期間を除くと)三時間以上全力でモブ狩りしないといけない。
現在の主力とされる装備が500万程度で1部位手に入るので、その重さは推して知るべし。
だからこそ先程からケチなことに定評があるトナカイ──キングが、発狂しているワケだ。
「なあ、ジャックはどう思ってるんだ?」
ぼんやり三人の言い争いを見つめていたら、キングに声をかけられる。
一応パーティーリーダーを任されている身として、ビシッと言って欲しいのだろう。カノンも私から誘われて入った身であるため、“それなりに”言うことを聞いてくれる。心なしかもう1人のボーイ──モミジも期待するような眼差しを向けている。ちなみにカノンはニッコリ笑っている。ちょっと怖い。
──任せたまえ。リーダーとして、ここは威厳を見せるべきだろう!
「ハロウィン打てて楽しかった」
「「こんのアマァァァァ!!」」
「ジャックさん大好き!」
カウンター席へ飛び込んでくるカノンを受け止め、「ヤホホホ!」と大笑いしつつ二人の拳を躱し続ける。
これが私達、ギルド『ホロウナイツ』の面々の、くだらない日常である。おっとマスター、コーヒーをもう一杯、頂けるかな?