ピエロが仮面を外すまで
韮崎リカコ。18歳。
自分で言うのもなんだけど、私はとても美しい。頭脳明晰で、運動能力も高く、心優しく人望もある。
商品棚にたくさんの"ヒト"が並んでいるとしたら、全てを持っている完璧な私は誰よりもいい商品である。
どう考えたって、誰と比べたって、私が一番。誰だって一番いいモノが欲しいでしょう?そうでしょう?
常陸那珂学園高等部。
学園に到着すると、生徒会の生徒が校門の前に整列して私を出迎えてくれる。言っておくが私がそうしろと命じたわけではない。すべては、この学園に素晴らしい改革をもたらし続けている生徒会長である私に対する敬意の表れである。
そんなみんなに、私も軽く挨拶を返す。その後私はその生徒会の仲間たちを引き連れ学園を歩きだすのだが、すると決まって学園の他の生徒たちは足を止め、私を振り返るのだ。私の美貌に目を奪われ、口をぽかんと開けたまま立ち尽くす生徒たち。
まあ、この美しさをもってして、当然ではある。私は毎朝五時に起き、自宅近くの公園の周りの約10キロを走っているし、食事は野菜中心にバランスよく食べ、間食はしない。すべては美しい体作りの為。この艶やかてなめらかな長い黒髪は、毎朝30分かけてセットされているし、この白い肌の維持のためには晴れの日も雨の日も2時間おきに日焼け止めを塗り直しているのだ。もって生まれた顔の造形の美しさもさることながら、この体はまさに私の努力の結晶といえよう。
「ねえねえ。君、1年生だよね?名前なんていうの?」
「えー。」
学園内を進んでいくと、同じ学年の真白良治が今年の4月に入学したばかりの新入生に声を掛けていた。相手の名前は、確か稲野辺美佐。新入生の中で一番可愛いと噂になっていた子だ。
真白良治はこの学園一の女ったらしで、女の子を取っ替え引っ替えにする為にこうやってチャラチャラと学園内でナンパを始める。風紀を乱す迷惑な男である。
「真白良治。」
「あ、リカコ様。おはようございます。」
名前を呼ぶと、真白良治はおどけたような態度で私を見る。なんとも軽くて調子の良い返事である。
「きゃっ・・・韮崎先輩・・・。」
新入生の稲野辺実佐は、この学園の女神である韮崎リカコの登場に驚き、たじろいでいる。
それに比べ真白良治はヘラヘラしていて、私に向かって続けた。
「リカコ様、今日もお綺麗です。」
「言われなくても分かってるわよ。」
「わあ、さすが。」
薄っぺらい会話だ。それにヘラヘラしたこの表情。なんて不誠実。口だけは達者で、それに騙されてきた女の子を数多く見てきた。
「何してるの?また新しい女の子を口説いてた?」
「そんな、そんな。僕、リカコ様以外興味ないですから。」
かくいう私も、初めて出会った時からこの男に口説かれ続けている。この男に「もしかしたら落とせるかも」と思われていること自体、不愉快である。
しかし、私は不愉快な顔はしない。負の感情を露わにするなんて、完璧な人間のすることではない。私はいつだってスマートで大人な対応を心がけている。私は美しい笑顔を作ると、こう答えた。
「あなたは可愛くて新しいものが好きなのよね?」
そう言い放つと、稲野辺美佐はひきつった顔になり、そそくさとその場を立ち去っていった。
こうして私は彼女を真白良治の魔の手から救ったのである。