久本くん ~6~
「どうして、俺なんですか?」
松本先輩に呼び出された俺が尋ねる。
それは、
「お前らの代のキャプテンは、久本に決定したからと言ってきたからだ!」
俺自身は、俺たちの代でキャプテンをするのは柊君になるものだと思っていた。
いや、俺だけではなく、他のメンバーだってそうだう。
なのに柊君は副キャプテンである。
陸上部短距離男子、8人をまとめるのは、どうあがいても俺には役不足である!
「実は最初は俺と顧問も柊に打診したんだ。」
「なら!?」
「だけど、その柊が久本を推薦してきたんだんよ。」
「・・・え?」
「まあ、柊の言っていることが分かるから、
俺達も久本に依頼しようと思ったんだ。」
「・・・どういうことですか?」
「お前らの代って10名いただろ?」
「はい。」
「だけど、2名は辞めただろう?」
「はい。」
「どうしてだかわかるか?」
「・・・陸上部の練習についていけなくて・・・。」
「本当にそう思うか?2人とも短距離を専門にしていた連中だ。」
「・・・。」
「久本だって分かるだろう?
柊達がいる限り、短距離を専門にしていても
選手として試合に出ることができないってことにさ。」
「・・・。」
松本先輩の言うことは、その通りである。
俺だって、100メートルの試合には、全員が出れる記録会なら出たことがあるが、
公式試合では学校の2名の枠に入ったことがない。
そう、リレーでしか公式試合には参加したことがないのだ・・・
「柊は基本的にはハードルの試合を選ぶから、
短距離に出たがらないけど、宮本に一個下の早い2人がそろそろ化け物化してるからな。
試合に出るための枠がないってことは分かるだろう?
そんな中で練習をする意義が見つけられなかったんだよ。」
「・・・。」
「それに残っている8人中、宮本、柊以外は中学時代からやっていた者も区内大会止まりくらい。
そのほかにも別の部活から来た連中がいる。
そんな連中から見たら、エリートの柊がキャプテンをしているのを快く思わないだろう?」
「・・・。」
そんなことはないと言おうと思ったのだが、
俺だって、陸上部には所属していても当初は、勉強に重きをおこうとしていたのを思い出す・・・
まったくその通りだ・・・
あの二人を見ていると自分がいかに才能がないのかを自覚できる・・・
「だから、久本なんだってよ。
そいつらの考えも分かるし、そして、この間の経験もあるんだから
きっと久本なら出来るって言うのが柊の考えだ。」
「・・・。」
「どうする?柊を説得してみるか?
一応、柊も副キャプテンとして、全体の指導が必要であればするって言ってくれたんだ。」
「・・・やります。」
「そっか・・・。それじゃあ、頼むわ。」
そう言って、松本先輩は立ち去って行くのであった・・・
柊君の言うことは的を得ている。
確かに、あの二人には分からない気持ちが俺達6人にはある・・・
だから、俺が・・・か・・・
拙いキャプテンではあるが、柊君に手伝ってもらいながら何とか回っていた。
その結果としては、新人戦で初めて地方大会にまで出場して、
6位という成績をおさめるまでになったのだ!
この頃になると、うちらの代では宮本君、柊君が10秒台。
俺が11秒2、更には一つ下の1人が11秒フラット、
2人が11秒2をたたきだすようになっていたのである!!
戦力は充実して、いよいよ俺達が最上級生を迎えた時であった・・・
「俺はリレーから外して欲しい。」
そんなことを柊君がいいだしたのであった。
「どうして?」
「膝の靭帯損傷が思った以上に深刻でね。
リレーだとみんなに迷惑をかけてしまう。」
柊君の話は俺にとってなかなかセンセンショナルな内容だった。
冬に膝を負傷した柊君は、手術をせずにリハビリを選択をするのだが、
手術をするとリハビリを含めて、いままと同じようになるのに
1年半かかると医者に言われたらしい・・・。
そうなるともう3年生になったところで、試合に出ることなんて敵わない。
だから、柊君は保存療法を選択したらしい・・・
「走っている最中に膝が抜けてしまうんだ。
自分1人での試合だったらいいけど、リレーでもしそうなったら、
みんなに迷惑をかけてしまう。だから、俺を外してくれ。」
間違いなく、今のエースは柊君であり、
今の俺達なら、地方大会、いや、全国大会も狙えると思っているチームだ。
「・・・補欠に回すのは?」
「いや、それなら、次世代の下の子達にその枠を渡してくれよ。
きっと補欠だったとしてもいい経験になるんだから。」
もう柊君の中では決意が出来ているんだろうな・・・
そして、柊君がインターハイ予選で引退することも明かされた。
だましだまし走るのは出来るけど、そんな状態ではみんなに迷惑を
かけてしまうからだということだった。
ただ、必要であれば指導であればするからとは言ってくれるのだが・・・
結論で言えば、俺は柊君の申し出を受けれいた。
というか、そんな意思を示せる柊君が俺はすごいと尊敬していたのである。
そもそも膝の怪我でもそうだけど、
引退を決断する判断もすごい・・・
俺は元々柊君のことを尊敬していた・・・
一年の時、彼を見て、勉強と陸上どちらも頑張ろうと思ったのは間違いないし、
それに彼からはこんな言葉を貰っていた。
「どっちかに絞るんじゃなくて、どっちもやったら?
俺は欲張りだからどっちも欲しいからやるけどね。」
俺が朝早くから来て、勉強している柊君を見て尋ねた時の言葉である。
俺はその言葉を聞いて以来、頑張るようになっていたのである!!
陸上部を引退して、いよいよ受験勉強を始めた時、
柊君に尋ねた時、
「どこの大学に行くの?」
「阪大学。」
「え!?」
思わず驚いてしまうのだが、確かに柊君の成績だといける大学であることを思い出したのだが、
「久本は?」
「八大学。だけど、判定が微妙なんだよね・・・。」
「今の時点で微妙なら問題ないでしょう。」
「いやいや、問題だろうに!?」
「え?だって、今から何が足りないのかが分かってるんだから、
勉強していけばいいじゃん!」
「そ、そうだけど・・・。」
「貪欲に目指しなよ。全部を自分の望み通りにするくらいのつもりでさ!」
そう言ってくれた。
そうだな・・・俺は柊君の言葉に従って、貪欲目指してみよう・・・・
そう決意させてくれたのであった。
卒業式で、柊君と写真を撮る!
そして・・・
「ボタン頂戴よ!」
「・・・何で、男にやらなきゃならないんだ・・・。」
渋る柊君のボタンをむしり取ったのを今でも覚えている。
今も俺の職場の机の上にケースに入れて、置かれているのであった・・・
これを見るたびに、貪欲にすべて欲する思いになるから・・・
今、医者になった俺には、すべての患者を救いたいと貪欲に思っていられるから・・・
気づいた点は追加・修正していきます。
拙い文章で申し訳ないです。




