ちょっとした夢
短編読み切り作品です
五時限目の授業はプールだ。七月上旬にプールに入っても冷たいだけ。けれど今年初と皆は喜んでいた。この高校はプールが二つあり男女に分かれて授業をする。
プールで喜んでいるのは本当に皆かといえばそうでもない。皆は先生が目を離したうちに飛び込み騒いでいる。「水の何がそんなにいいんだよ」と呟きながら男子プールが見渡せる日陰を見つける。そしてそこに見学者用の椅子を置き座る。
「ユイー。お前もプール入れよー」
「いいー。いいよ、僕は。此処でカズたちが楽しんでるのを見とくよ」
親友のカズが誘ってくれたが断る。
お昼ご飯を食べたせいか眠くなってくる。プールで楽しそうにしている風景がどんどんぼやけてくる。そうして僕の目に見える視界が狭くなり、やがて真っ暗になった。
「あ……」
何かを思い出したかのように、ふと目が覚める。けれどこんな場所は知らない。何処の部屋だ。真っ白なその部屋は16畳分の広さがある。
天井も床も、勿論壁全体も真っ白。白すぎて目がおかしくなってしまったのではないかと疑う。本当に見えているのかも怪しくなってくるくらいに、ただただ白い。
自分の体は浮いているように軽く感じ、部屋の空気はヒンヤリとしている。
「あ、白くない」
気づけば僕からして左の壁側に何か置いてある。「え」口から出てくるのはそれだけで後は何も言葉が思いつかない。
そこに置いてあったのはどこかの町のミニチュア。けれど普通のミニチュアなら特に何も思わないのだが、それを見て驚く。そのミニチュアがなんと動いているからだ。ミニチュアの町の住人は歩き喋り車も走る。半畳くらいある大きさのミニチュアだが何だか小人達が住んでいるようにしか見えないのだ。
「になはれあ!」
何処かを指さしている。
ミニチュアの一番高いビルの屋上に、小さな人が僕の方を見ながら何かを言っている。けれどその言葉は日本語なのかそうじゃないのかも分からずただ指さす方を見てみることにした。
指を指していた方角は大体はこの町の端っこ当たりだろう。そう思いそっちを見てみる。
「か、怪物……」
街の端っこにある小さな公園の池からミニチュアのビルぐらいの大きさの怪物が出てきていた。
「え、あ。どうしよう……」
焦る僕はビルの上で慌てる小さな人に言う。
「て、手に乗って!はやく!」
そう言うとその小さな人はビルから僕の手へと渡った。と思った。
現実はそんなに上手くいくものではないらしい。その小さな人が僕の手に触れた瞬間跡形もなくミニチュアさえ全て消えてしまったのだ。そんな時に後ろの方から声がする。「てけすた!」と何か叫ぶ少女の声。 立ち上がり後ろを振り返る。そうすると予想通りだった。向こうの壁側に半畳くらいのおおきさのミニチュアが置いてあるじゃないか。少女のその叫び声で予想は付いていた。さっきと同じことが起きているのではないのかと。
「やっぱりそうだ……」
そのミニチュアの町には小さい人の大きさぐらいの怪物の群れが溢れかえっていた。けれどそれを眺めることしか出来ない。触ってしまうとさっきみたいに消えてしまう。けれど触らなければ怪物に殺される。
「ちくしょう……」
そんな事にムキになり頭を抱えこみ考える。どうすればいい。どうすれば。
けれどそんな事を考えている暇は無かった。僕の耳には人々の泣き叫ぶ声が聞こえてくる。怪物を見て何かを叫んだあの少女はまだ、生きているだろうか。
「てけすた!」
「あ! 生きてる!」
さっきと同じ声で同じ言葉を言った。それを聞き何か安心した。
「生きててよかった。怪物に殺される前にこの、君たちの町を……」
そう言いながら僕はそっとミニチュアに手を触れた。そうするとミニチュアはさっきの様に跡形もなく消えてしまったのだ。
立ち上がり辺りを見渡しても何も無い。あるのは白い白い白い、なにかだけ。天井も床も壁も白くもう何も無い。さっきのような置物もない。あると言えばヒンヤリとした空気だけ。
「ここから出たい……?」
いきなりの事だ。何処からかまた声がする。頭の中か、それともただの空耳なのか。けれどその声は誰かの声に似ている。優しいその声は男なのか女なのか区別ができない声。そんな声がまた聞こえてくる。
「壁に触って……。あなたは罰を受けなければならない。死にゆく人は死ぬしかない。生き延びる人は生き延びる。それがその人の運命なのに……。人の運命に邪魔をした。それがあなたの罪よ。あなたもここで終わり」
「な、何言ってんだよ!? こ、これは別に、あれだ! 夢だ、夢なんだよ!」
気づけば白い部屋ではなくなっていた。悩み、考えていた僕は周りなど見ていなかった。
青い空。下には青い海。真上には優しく光る太陽。そしてどこまでも続く水平線。
白い板の様なものにたっている僕は空が浮いているのだと気付く。
「見えない糸があなたには見える?」
慌てて自分の周りを見るが糸などない。
「ここから落ちて糸が切れなければ…もし糸が切れてしまったら…それも運命ってところかな。」
「な、なんなんだよ! そんな、絶対に糸なんかないじゃないか! お、お前、僕を……僕を殺す気だろ!」
呆気なかった。そういった瞬間にあのヒンヤリした風が僕の背中を押した。そして落ちていく。
「はは。こ、これはあれだな。見えない糸があるならバンジージャンプだな……」
そんなくだらない事をいいなが青い海に落ちていった。
「あ……」
§
目が覚める。何か長い夢を見ていた気がする。忘れた夢なんて大した内容ではない。そう思いながら辺りを見渡す。
「保健……室なのか。」
プールに入りたくないと言って日陰でぼーっとしていたはず。
「あーー! 目が覚めたのね! よかった。死んじゃったかとついつい思ってしまったわ!カズくんが寝ているユイ君に水かけたらびっくりしたせいが倒れちゃって。さっきまでカズくん居たんだけど……どこ行ったのかしら……」
天然な先生なのか馬鹿な先生なのか。呆れるくらいの先生。時計を見るともう六時間目が終わろうとしていた。1時間は寝ていただろうか。それにしても倒れた僕に救急車を呼ばなかった先生はいったい何を考えているのやら。