第四話(前編)
「それがこれじゃ」
そう言ってカベルネさんが紙を懐から、そっと差し出した。
手紙は、罫線の入った紙にサインペンで
大きく書かれたものだった。
『今日からこの村を
”私の領土とする”
こちらには10万の軍がいる。
無駄な抵抗はするな。
もし、怪しい動きを見せるようであれば
この娘の命はない。
まず、はじめの命令は
食料を貢ぎ物として用意し、明朝に来る、我が兵に渡せ』
読み終えた瞬間、妙に心臓の鼓動が早くなった。
誘拐という卑劣な行いに対してというより、この
クセのある文字に見覚えがあったからだ。
気のせいであって欲しいが、カルベネの先程の話ぶりから、考えると、この事件に俺の学校の生徒が関与している可能性があるのは事実だ。
「なんだよこれ…ゆるせねぇ屑野郎が!」
雅也が怒りで震えていた。
「人質をとって、食料を要求だなんて…なにが目的なのかな?」
「それは…わからない」
確かに春香の言うとおりだ。
僕らの常識では誘拐だとしたら、金品の要求が普通だ。
それを食料を一番、はじめに持ってくるなんて、おかしなマネを普通はしないだろう。
「それについてはわし達も、同じく意図が不明なんじゃよ」
「まずこの土地はコメラ国の領土であり、その領主は今も健在だということ。そして10万の軍が国境を越えて、入ってきたなどという話は聞いておらぬ。またこの近辺にそんな大軍が常駐している情報も入っていない。それらの点から、わし達はこの申し入れを断る事に決めたのじゃ」
「え、それじゃあ食料を渡さなかったのですね?」
「それって人質大丈夫なのかよ!?」
「いいや、渡したよ。ただし米俵一俵と野菜を少々じゃがな」
「そして、その帰り道を村の狩人に隠密に尾行させてな」
「それでどうなったんですか?」