第二話
「嘘…!今の何!?」春香も驚いていた。
僕も現実離れした出来事に一瞬、呆気に取られた。
「おい、雅也!今、手から出たのってなんだ…?」
「手から出た…?何のことだよ…?」
「何しらばっくれてるんだよ!何って雅也が手から電気を出して、蜘蛛を吹き飛ばしたことよ!!」
僕は雅也に興奮気味に問い詰めた。
「……悪いけどお前が何言ってるのかサッパリ意味わかんねーんだけど、蜘蛛は…勝手に飛んでいったんだろう」
そう言っている雅也自身も蜘蛛が飛んでいったことについて、疑問が生じている様子だった。
僕が何かの幻覚を見たとでも言うのか?
いや、そんな筈はない。確かに雅也の手から電撃が出たのを見た。
それに飛ばされた蜘蛛も焦げたように死んでいる…。
では何故、雅也はあんな態度を取るんだ。
実に不可解な事が多い。
「春香!お前はさっきの蜘蛛の光景、どう見えた?」
「蜘蛛の…?え、あれなんの話だっけ…?」
春香は僕が言っている事の意味すら、わからなくなった様で首をかしげた。
「春香、お前まで…」
どうなっているんだ。
春香まで様子がおかしい。
雅也が電気を出し蜘蛛を倒した。
しかし、その事を雅也は自覚していない。
春香は目撃していたのに、急に記憶が消えた…!
そして僕だけ先ほどの出来事を見ても、説明もできるし、記憶も消えていない。
つまり・・・
「雅也、右手をあそこの木の幹に向けて」
「はぁ?」
「いいから」
納得のいかない雅也だったが、言われる通り
三メートル程、先に立っている木に向けて右手を構えた。
「洋輔、何させるつもりなの?」
「ちょっと実験をね。危ないから春香は少し下がってて」
そういって春香を少し遠ざけ、雅也に言った。
「雅也、あの木に向かって電気を出して」
「はぁ!?なんだよ、それ。出来る訳ねーだろ」
「あの木を電気でぶん殴るイメージでもいい。とにかくできるから!」
「はぁ・・・よくわかんねーけど…」
そう言って雅也は右手に集中した次の瞬間
雅也の右手から雷の様に飛び出したそれは、木の幹を焦がし
煙を上げさせていた。
「すごい!雅也、手から電気で出たよ!!」
春香が驚きで目を丸くしていった。
「なんだこれ!!!」
雅也もなんだか嬉しそうだった。
嬉しそうにしている雅也には悪いが…
「雅也、今どうやって木を焦がした?」
「え、そりゃ・・・あれ?…わからねー…。おかしいな。どうなっているんだ?」
「えぇ!?どうしちゃったの雅也!?記憶喪失!?」
「いや、違うんだ。春香、たぶんこれは僕のせいだ」
「どうなっているの…」
春香はパニック寸前といった具合だった。
「どれだけ考えても答えのかけらも、浮かんでこねーわ」
雅也も頭を抱えていた。
「春香、雅也にどうやって蜘蛛を倒したか
もう一度、聞いてみてくれ」
春香は頷き雅也に問いかけた
「雅也、さっきどうやって蜘蛛を倒したの?」
「そりゃ…おれの電撃で倒したんだよ」
恥ずかしそうにしていたが、今回は忘れていなかった。
「洋輔、どういう事か説明して!」
「まず雅也は電撃を出す事ができる能力を身につけている。」
「そして問題は僕の能力なんだ。まだ確信は持てないんだけど・・・たぶん僕の能力は《質問すると相手が『その答え』を忘れる能力》だと思う」
自分でも信じたくない。
こんな能力。でもたぶん合っている。
さっきのやりとりから、わかった事は『答えを忘れる』のは一人につき、一つだけ。次の質問をすれば、前にした質問の答えを思い出す。それと個別の質問と全員を対象にした質問の使い訳は出来るようだ。
しかし、もし本当にこの仮説通りの能力が身についたとして、自分でそれを発動するタイミングを制御できないのなら、僕は一生、質問しても答えの返ってこない悲しい
人生になってしまう。非常に不便な能力だ。
「まじかよ…どうなってんだよ」
「そっか!それでさっきは雅也が答えられなくなっていたのね」
「たぶんこの仮説であっている筈。もう少しこの能力について、知りたいから色々実験をしたいんだけど…」僕がそう言い切る前に
「キャー――――!!」
少女の叫び声が森の奥の方から聞こえてきた。
僕たち三人はその叫び声のした方へ走り出した。