ホントに怖いのは静かな子
「ふぅ・・・落ち着け・・・落ち着くんだ、ボク・・・よし」
どうも皆さん。リンタロウです。トカゲの試練から2日が経ちました。
あれからレベルは上がっていません。理由は・・・まぁ後で話します。
「お~い!」
ドドドド・・・
お、ガズルさんが来ましたね。後ろには群れになった巨大な鳥が追いかけてきてます。
「3・・・2・・・1・・・今だよ!ディア!」
「分かりましたマスター」
その瞬間、鳥たちの進行方向に飛び出たディアはバリアのようなものを展開し、ガズルさんは直前で横に移動する。
結果、勢いを殺しきれない鳥たちはディアのバリアに殺到し・・・
土煙が晴れた頃には、大量の気絶した鳥たちの山が出来上がった。
弐戦目 ―ホントに怖いのは静かな子―
「ぷはぁ~!今日も大量だったなぁ!」
「気持ち良いくらいでしたね~」
「マスター、ジュースのおかわりをどうぞ」
「ん、ありがとうディア」
深い闇の中、星空の下で焚き火を囲み、今日の戦果を語り合う。ここは塔まで3分の1の地点にある森。その中心だ。
ちなみに、ディアというのはボクの召喚獣、絶対守護神のこと。
ガーディアンからとっただけの安直な名前だけど、ディアは結構気に入ったらしい。
名前を付けたときに、満面の笑みで
『ありがとうございます。マスター』
と言ってくれたのをボクは一生忘れない。今日もディアは天使です。
「にしても、お前の出すこの酒!すっげぇ美味いよな~」
「えへへ・・・ありがとうございます」
じつは、ボクの持つ2つ目のスキル、万物錬金の使い方を研究中に面白いことが分かった。
1、液体系のものや気体系のものも生成できること。
2、動物と実体を見ていないものは生成できないこと。
3、経験値の宝石は、生成するとただの赤い宝石になること。
ガズルさんの飲んでいる酒は1つ目の発見を応用して作ったものだ。
最高級の酒の味がするらしい。(飲んだことは無いらしいけど)
2つ目の発見では、他にも色々なことをした。
例えば、鳥の手羽先や牛肉を生成したり、豚の丸焼きを生成する実験。
しかし、全て腐った状態で発現し、仕方なく実験に付き合わせたガズルさんに全部プレゼントした。
なので、加護(物理)を受けていないガズルさんのために鳥を狩っていたのだ。
生体練成は〇の錬金術師を読んでたから無理だと思っていたけど、肉系もダメなのは正直おかしいと思う。
ちなみに、植物は成長速度を任意に変化させられて、それで作ったのがこのミックスジュースというわけ。
「あ、そうだ。ガズルさん、今さっきの鳥から出て来た宝石いります?」
「おう、あんがとよ・・・ん?あぁ!また騙された!」
「ガズルさんって正直者ですよね~」
そして3つ目。経験値の宝石はどうやっても使えなかった。
遊びで生成するぐらいしか使い道が無いと思っていたが、面白い特性を偶然にも見つけた。
二倍のものを生成して経験値の入っているものに近づけると、その中身を最大200個分まで貯められるのだ。
これにより、ボクは今5倍の大きさ、500個分の宝石をキープしている。
レベルが上がって、ディアの仕事が少なくなるのは可哀想だからね。
「まあいいさ。もっと出してくれたら許してやろう」
「何をです?」
「お前から出る酒」
「・・・今の言葉、事情を知らない人の前で言わないでくださいね?」
こんなの、誤解されるに決まってる。何をとはいわないけど・・・
そんな会話をしていたら、異変に気が付いた。
「・・・あれ?宝石は?」
「・・・なんだって?」
つい先刻まで後ろに置いていた例の500個入り宝石の袋、それが跡形も無く消えていたのだ。
「ど、どこにいった!?そうだ!ディアは何か見てない!?」
「その袋を奪った方なら・・・あちらに」
そういってディアは、少し先の草むらを指差す。
そちらに視線を合わせると、黒のショートカットの中にぴょこんと犬耳が生えた女の子と目が合った。
黒いつぶらな瞳でこちらを見つめ返してくる。
まさに、漫画とかで罰ゲームをさせられている途中の破れたドレスを着た女の子だ。
手を伸ばすと、その子はビクゥッと体を震わせ、ゆっくりと草むらに入っていこうと・・・
「まぁてぇぇえええええええええええええ!」
ボクは全速力で追いかけた。そりゃもう、人生で一番の速さじゃないかってくらいに。
「キャァァァァアアアアアアアア!」
女の子もびっくりしたのか、逃げ始める。
「お、おい坊主!待て!待ってくれ!」
「マスター、落ち着いてください」
2人は荷物を持つのに手間取って、少し遅れて追いかけてくる。
だが今は知ったこっちゃ無い!あれを取り戻さないと!
しかし、女の子の足は異常に速かった。どうやら、スピードも犬並みらしい。
ただ、服が脱げるのを心配してか、走り方が危なっかしい。
そんなことを思っていたら・・・
「!?キャア!」
草むらに隠れていて見えなかった縦穴に落ちそうになっていた。
「危ない!」
急いで腕を掴もうとしたその時、
「お前も落ちろよ」
「・・・はぇ?」
誰かに後ろから押された。その影は見たことがある気がした。
分かる前にボクは、女の子と共に穴の斜面を転がり落ちていった。
「マスター。どこですかー」
そんな抑揚の少ない声で自分の主人を探すディアと共にオレは坊主を追いかけていた。
まったく・・・人の制止を聞かないで走り去ってくんだから、困った野郎だぜ。
そんなとき、
「キャァ!」
「うわぁぁぁ!」
さっきの女の子と坊主の叫び声が聞こえてきた。
「!ディア、急ぐぜ!」
「当然です、ガズル様」
そうして声のした場所に辿り着くと、そこには犬の耳の生えた黒いスーツを纏った男達が立っていた。
「おや?もしかして、今の餓鬼のお仲間ですか?」
「・・・誰だテメェ」
雰囲気からして、今喋った金髪モデル体型がボスだろう。オレの勘だが結構出来る奴だな・・・
ディアもそれを感じ取ったらしい。独特の構えを取る。
「いやぁ、見られてしまいましたか。なら、すみませんねぇ。餓鬼には酷ですが・・・」
「・・・マスターには、とはどういうことですか」
ディアが怒りを抑えながら言う。
「わぁお。そんなに怒るとせっかくの美貌が台無しですよ?まぁ仕方ないですかね。だって・・・」
そういうと、男は心底楽しそうに笑いながらこう言い放った。
「自分の仲間に殺されたんですからねぇ!」
オレの隣から、人外の殺気が放たれた。
柔らかい感触で目が覚めた。
「うぅ~ん・・・・・・ん?」
ま、まさか!?これが俗に言うラッキースケベか!?ならばもっと堪能せねば・・・
「ん・・・す、すぅすぅ」
「二度寝しても、膝枕はもうおしまいですよ」
「あっはいすいません」
くぅ!気付かれてたか!しかも胸じゃ無かったなんて!
「も、もう!なんでそういう風なことばっかり考えてるんですか!」
「ごめんって・・・あれ?」
今心読まれた?神様と同じなのこの子?
「なぜ分かるのかって感じですね。仕方ないですね・・・説明しましょう」
「お願いします」
「はい。ではまず自己紹介から。私はシィアンと申します。生前は獣人の国の皇女でしたが・・・今は関係無いですね」
「こ、皇女!?」
マジかよ!美少女の皇女に膝枕してもらえるなんて超ラッキーじゃないか!
「もう忘れてください!」
「へぶっ!?」
思いっきりビンタされてしまったよ・・・でも、これはこれで・・・
「次は下にグーです」
「すいませんでしたぁ!」
速攻土下座余裕でしたよ。皇女怖ぇ・・・
「はぁ・・・それで、その国があったのはあなたの生きていた世界のパラレルワールドでした。」
「へぇ・・・?」
転生争奪戦には、そんなところの霊もくるのか・・・これから大変そうだなぁ。
「しかし、その国の住人は皆、犬と人間のハイブリッドです。
すぐに世界中の科学者の研究の的になりました」
「まさか・・・」
「はい・・・国民は乱獲され、まるで家畜の様に扱われて国は滅びました。」
「酷い・・・」
だけど、そういうことはボクの世界でも裏で起きてそうだよ・・・
「そんな顔しないでください。それで、あなたの居た世界では犬は人間の良いパートナーでしたよね?」
「う、うん。ボクの家の子も、帰ってきたらドアの前で待っていたり、寂しいときに傍に居てくれたよ」
「まさにそれなんです!犬は相手の感情を感じることが出来るのです。
そして、その犬の能力を手に入れたのが・・・」
「キミ達の国の人間ってこと・・・」
「はい。まぁ、心を読めるとは言っても使えるのは王族だけですし、こんな感情だっていうぐらいしか分かりませんけどね」
なるほど、なら合点がいく。さっきの会話で、正確な内容を掴めていなかったのはこのせいか。
「・・・じゃあ、シィアンさんは追われてたんだね?おおよそ、生前に国の重鎮だった奴らにでしょ。
その力によって自分より先に転生されると困ることがあるんだろうね」
「よく分かりましたね。その通りです。」
やっぱりか。でも、先に転生されると困るってのがまだ分からないんだよな。まぁ、いいか。
「そして強くなって撃退するために宝石を盗んだ、と。」
「はい・・・盗んだことについては申し訳ありません。でもこのままじゃ私・・・」
「分かってる。殺されちゃうんでしょ?じゃあ聞いて。ボクの世界にはこんな言葉がある。
『可愛いは正義』。だから・・・」
ボクは別にラノベの主人公じゃないし、ましてやマンガに出てくるヒーローじゃない。
だけど。知り合った可愛い女の子が殺される?力を持ってしまったがために?そんなの許さないね。
ボクだって、この世界に来てから力を手に入れた。だから少しくらい気持ちは分かる。
なら、今やることはたった1つでしょう。ねぇ?神様?
そして、斜面に階段を、手にミスリルの大剣を生成しながら言う。
「ボクはキミを悪から守り抜くよ」
そして、地上では戦闘が終わりを迎え始めていた。
「がはぁっ!はぁ・・・はぁ・・・ふ、ふはは」
集団のボスであった獣人の男は血を吐きながら笑う。とっくに味方は全滅しているにも拘らず、だ。
「許さない貴方だけは絶対に命が燃え尽きるまでこの手がどれだけ汚れようともどれだけ許しを請おうと も私が満足するまで肉塊になっても貴方をずっと永遠に殺し続けて潰し続けて跡形も無く消して」
男に近付いてくる”怪物”は、もはや口にする言葉さえ男を殺すという意思の塊に成り果てている。
「ふふふ・・・あなた達のおかげで・・・私はやっと転生できそうですよ・・・」
そんな状況でも、男は不敵に笑い続ける。まるで、まだ自分に勝機があるかの様に。
いつのまにかその体は、そこかしこが盛り上がり血管が浮き出ていた。元の姿の面影は、無かった。
そして、闇夜の中で”怪物”と”獣人”がぶつかり合う。
さすがに1日に連続投稿はキツイことを悟りましたw
ただ、前回よりも内容を複雑にしてみたつもりです。
まだまだ御見苦しい点があると思いますが、どうぞよろしくお願いします