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neet five  作者: 明石くりす
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怪しい人影の正体


「よしっ!!やっと家から出たね。影谷多月くん...」近所の豪邸の窓から、謎の女性が不敵な笑みを浮かべていた。



一方、多月は家から出たはいいが、行く宛てもなくパンパンのリュックを背負って近隣の住宅地の通りをブラブラしていた。何かを思いついた多月は、足を止める。



この住宅地の通りを抜けて、すぐのところに日陰のある公園がある。そこで、涼みながらこれからどうするかを考えることを思いついたのだ。



なんといっても、今日は猛暑日だから無理もない。太陽がギラギラと照りつけるなか、止まった足を再び動かし歩き出す。



少し歩いたところで、後ろからついてくる怪しい人影に気付く。不気味に思う多月。



およそ人影との距離は十五㍍であった。少し小走りになる多月。それに合わせて、怪しい人影が追いかける。恐ろしくなった多月は、住宅地の通りを抜けて、結構な距離の所にある交番に向かうことにした。



いつしか、二人は全力で走っていた。しかし、運動神経が悪い多月は、徐々にと距離を詰められてしまう。十㍍、五㍍と。それに、多月はパンパンのリュックを背負っている。





「(このままじゃ、交番に行く前に追いつかれる。それに、俺の体力はもう限界だ。もう諦めよう。)」走るのを諦めた多月は、ゆっくりと速度を落し再び足を止める。人影との距離は、わずか一㍍だ。



大した距離は走っていない多月だが、息がとても荒く汗もたくさんかいている。そして、一呼吸してゆっくり後ろを振り返る。



そこには予想もしなかった、銀髪三つ編み、色白、大きな紅瞳で、真っピンクのゴスロリ衣装を着た女の姿があった。彼女も少し息を切らしていたが、多月ほどではない。



そして、彼女の左手にはすこし大きめの鋭利そうな刃物があった。「なんでもしますから許してください!殺すのだけは勘弁してください。」刃物を見た途端、必死に命乞いをする多月。



彼女は、それを多月の方へ向けて腹の下あたりを勢いよく突き刺した。そして、彼女は刺さった刃物を腹から抜くと多月の腹からは、勢いよく血が流れだす。



刃物を刺されて大量の血が流れ出ているにも関わらず、あまり痛みを感じないのはなぜだろうと疑問を抱いたが、そのままその場に倒れ込んでしまった。そして、目の前が暗くなり意識を失った。




...目を覚ますと、多月はお姫様が使っているような煌びやかなピンクのベッドの上に、横たわっていた。手足は、頑丈そうな鎖で繋がれている。多月は疑問に思う。



なぜ、自分が生きているのかと。腹を刃物で刺され血が、大量に出血はずなのに。だが、その疑問もすぐに解けることとなる。自由の利く範囲で辺りを見渡す多月。



とても広々とした部屋だ。全ての家具は、真っピンク。というか、部屋の全てが真っピンクといってもよいくらいだ。窓の外は真っ暗だ。そして、先ほどの彼女は部屋の窓際にある可愛らしいピンクの椅子に座って足を組んでいる。



服装は上下ピンクの部屋着だ。恐らく彼女はピンク色が好きなようだ。目覚めを待っていたかのように、彼女が多月に向かって話しかける。



「やっとお目覚め?影谷多月くん。聞きたいことがたくさんあるでしょ?さあ、なんでも聞きなさい!愚民!それと、アナタのニートと書かれた貼り紙が貼ってあるリュックは、私が預かってるわ。」



彼女の声は、とても素敵だった。高くもなく低くもないとても品のある声だ。愚民と言われているのにも関わらず、少し喜んでしまう多月。



「ニートと書かれた貼り紙が貼ってあるリュック?!そんなこと、書いてるはずがないだろ?」



「アナタの母親が、貼ったのよ。」



「確かに、俺の母さんならやりかねない...」

少々、間をあける多月。



「お前は誰だ?なぜ、俺の名前を知っている?なぜ、俺を追いかけたんだ?なぜ、俺は死んでいない?なぜ、ここに俺を?なぜ、俺を鎖で繋いでいる?...ピンク色が好きなのか?」



「最後の質問以外は答えるわ。まず、一つ目の質問ね。私の名前は、佐野心(さのこころ)二十三歳でアナタと同じニートよ。アナタは高校中退だけれど、私は大学中退。」



多月は黙って心の話に耳を傾ける。



「二つ目は、あのおもらし事件を知っているからよ。」冷静に話す心。多月は顔を赤面にしながらも、それを黙って聞く。




「三つ目は、アナタに会ってお願いするためよ。」



「お願い?どういうことなんだ。」 不思議そうな顔で彼女の顔を見つめる。



「それは、後で言うわ。」



「四つ目は、本当の刃物じゃなくてマジックナイフでアナタを刺したからよ。」そう言うと、心はポケットからマジックナイフを取り出し、手の平に刺して実演する。



たしかに、これは伸び縮みするマジックナイフだと理解した多月。

「だけど、大量の血はどうやって出したんだ?それなら、なんで倒れたんだ俺は?」再び不思議そうな顔で心の顔を見つめる。



「アナタって本当に頭が硬いわね。そんなの誰だってわかるじゃない。マジックナイフに血塗りが出るように、細工を施したのよ。倒れたのは、たぶん驚いたからだと思うわ。」

小馬鹿にした顔で多月を見る心。



「...そうだったのか。でも、なぜそのような手の込んだことをわざわざしたんだ?」



「アナタを驚かせようと思って...だけど、本当に倒れちゃうなんて思わなかったのよ!」心は、少し潤んだ瞳で多月を見てそう言った。なぜか、その潤んだ瞳を見ると多月は罪悪感を感じ、心が一方的に悪いはずなのに、多月が悪いと感じさせられる。



多月は、そんな心の瞳に愛らしさと一種の恐ろしさを感じた。



「じゃあ、五つ目は?」



「五つ目は、倒れてしまったアナタを誰かに見られたら、まずいと思ったからよ。運ぶのには、手間がかかったわ。執事が車に乗せてこの家まで運んだの。」



「そして、最後の質問はアナタを逃がさないためよ!」声を大にして多月に言う心。



「三つ目の質問の答えと一緒で、俺にお願いとやらが、あるからだろ?」やけに察しのいい多月である。



「察しがいいじゃない。その通り。アナタにお願いがあるの。」不敵な笑みを浮かべた心は、続けて言う。



「アナタに、neet five に入って欲しいの。」きょとんとした多月。そして、段々と怒りがこみあげてくる。



「そんなくだらない戯れ事をお願いするために...ふざけるのもいい加減にしろ!」"カッ"と眼を吊り上げて怒りをあらわにする多月。



「アナタに拒否権なんてないわ。しかも、アナタのおもらしを録画したビデオがあるわ。その気になればネットに流出だって可能よ。」多月は、チェスでチェック・メイトをされた時の気分だった。



「...わかりました。neet fiveに入ります。そして、そこでなんでもします。なので、それだけは勘弁してください。」さっきの強気な態度がすぐに弱気になる多月。



「それじゃあ、neet fiveの入隊を祝して乾杯といきましょう!」心は、執事を呼んでシャンパンを用意するように手配する。



そして、多月を繋いでいる鎖を解く心。鎖を解かれた多月は、ベッドから降りてストレッチをしながら心に質問をする。



「そもそも、neet five ってなんだ?」



「私が大学を中退する代わりに、neet five を継ぐという約束をお父様としたのですわ。neet five はもちろん、ニートしか入れないの。今、neet fiveの隊員はアナタと私の二人だけなの。」



「具体的に、何をするんだ?」続けて質問をする多月。



「とりあえず、隊員を五人集める!それから、命令が下される。主に、人助けをするとお父様はおっしゃっていたわ。」



キラキラと輝いた瞳で多月の顔を見ている心。それに対して、若干引いている多月。心は、椅子の近くにあるピンクの引き出しから大きな封筒を取り出して多月に渡す。



「その、封筒の中に入っている資料に次、仲間にする人の色々な個人情報がぎっしり書いてあるわ。」多月は受け取った封筒を開けて、中身を見る。



そこには、まったくしらない男の情報が全て書いてあった。



「えぇーっと。小津平八郎(おずへいはちろう)、年齢は三十歳、仕事は、元大手企業勤務?!、現在は、リストラされてニート...」



ドアのノックする音が聞きえた。執事がシャンパンを持ってきたのだ。多月は、口を閉じる。心が入室の許可をすると、執事が入室してくる。執事は、シャンパンとグラスをピンクの椅子の近くにあるピンクのテーブルに置いて、一礼をして部屋から退室をする。



執事が部屋から退室して、少し経つと多月は再び口を動かす。



「この、小津平八郎って人を俺がneet five に入隊させるの?」



「そうなるわね。今回はアナタ一人でやってもらうわ。というか、アナタにしかできない仕事よ。それと、アナタのことを多月って呼んでもいいかしら?」心は、頬を赤く染めて照れくさそうに言った。



「いいよ!じゃあ、俺は佐野さんって呼ばせてもらっていいかな?」



「駄目!心って呼んでくれないと嫌!」心は、口を膨らませて怒っている。



「それじゃあ、こ...心さんでいいかな?一応、年上な訳だし。」多月も、頬を赤く染めて照れくさそうに言う。それを聞いた心の胸はときめいていた。



「ま、まあ、許してあげるわ。感謝しなさい多月。それじゃあシャンパンで乾杯するとしましょう!」多月は、気を利かせてシャンパンをグラスからこぼれないように注ぐ。二つのグラスにシャンパンを注ぎ終わり、乾杯の時間だ。



「カンパーイ!!」二人の声とグラス同士を合わせる音が部屋に響き渡る。二人は、シャンパンを飲みながら、小津平八郎をどうやって仲間にするか作戦会議をする。



気が付けば、もう夜が明けていた。



「今更だが、なんで俺だったんだ?」



「絶対服従する多月のような人材が欲しかったのよ。それに、前から多月のことが好きだったの。」



うっかり、口を滑らせてしまった心...

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