ニートになった理由
影谷多月、どこにでもいる友達のいない設定で、勉強も運動もできない冴えない男のニートだ。
別にニートになりたくてなったわけじゃないんだ。それに、ニートになりたくてなれるもんでもない。なぜなら、皆それぞれに平等といっていいほど、柵が存在しているからだ。
では、私がニートになり果ててしまった原因をお聞き願いたい。それと同時に、皆がニートに対する侮蔑の念を抱かないことを切に願う。
高校二年の夏の金曜日。その日は猛暑だった。
太陽がギラギラ照りつけている中、影谷多月はクーラーの効いた部屋でぐっすりと眠っていたが、母の桜子に多月は起こされる。
だが、多月は二度寝してしまう。この二度寝が後の大事件の原因になったといっても過言ではない。
再び起床するも遅刻寸前の時間帯であった。多月は急いで支度を済ませ、近道である近所の豪邸に躊躇なく不法侵入する。
石畳の道を素早く駆け抜けると学校が見えてくる。この豪邸と学校がやけに近いのは、学校がこの豪邸の私有地だからである。
この豪邸の娘がうちの学校に通っていた時の待遇が良かったという噂をよく耳にすることがある。しかし、待遇が良すぎて窮屈な思いをしていたとも耳にする。
学校に時間内に着いたのだが、息を切らして額からは汗が流れ喉が乾いていた。多月は、汗を拭いながら自販機まで歩き、冷たい缶ジュースを購入すると、下から出てきた缶ジュースを一気に飲み乾し、再び缶ジュースを購入。缶ジュースを片手に教室まで歩く。
廊下を歩く多月。相変わらず古びた廊下である。少し歩くと教室に着く。着いた途端、多月は驚いたと同時に先ほど飲み乾した缶ジュースのせいで尿意を催した。
なぜなら、今日は全校朝会だからだ。多月は自分の机に缶ジュースを置き尿意を抑えながら、廊下を素早く走り全校朝会の会場である体育館に向かう。
遅刻寸前で全校朝会に到着したが、尿意は限界に達していた。そんなこととは知らないクラスの学級委員が、突っ立っている多月に、すでに整列しているクラスのほうへと笑顔で手招きをする。
なんとか、尿意抑えながら整列をすることができた。だが、ここから地獄の始まりだった。校長の長い話、転校生の紹介、各部活動の表彰。
「(....ちょっと待てよ。表彰といえば...俺は春の絵画コンクールに...入賞していませんように....)」
入賞はないだろうと多月は思っていた。なぜなら、多月の絵は飛び抜けて上手いわけでもなく、入賞したことだって僅か一回しかない。
それに、高校になってから美術部に入部した身なのだ。しかし、本当に表彰されたらという危機感から多月は緊張して顔が強ばっていた。
しかし、このような状況でも心のどこかで期待していたのかもしれない。
転校生の紹介も終わり、表彰が始まった。
「それでは、各部活動の表彰式を執り行いたいと思います」多月に再び緊張が走る。
緊張のなか運動部の表彰が終わり、文化部の表彰が始まってしまった。そして、その時がやってきた。「えぇー...美術部二年生、影谷多月」と無気力とも思える声が聞こえてくる。
多月は尿意を必死に抑え、額に汗をにじませながら表彰台まで、ゆっくりと歩き出す。当然、全生徒の視線はこちらへ向いている。
表彰台に辿り着いた多月は背筋を伸ばし一礼をする。たった一礼をするだけでも尿が出そうだった。
「...春の絵画コンクールにおいて...讃え表彰いたします」多月は驚いた。これまでで、一番驚いたかもしれない。
驚いたと同時に、尿が溢れ出しそのまま膝から崩れ落ちた。なぜなら、金賞とまではいかなかったものの、銀賞を見事受賞したのだ。名誉と同時に大切な何かが崩れ落ちていった。
...こうして、俺はニートになったのだ。