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転生機ゼフィルカイザー ~チートロボで異世界転生~  作者: 九垓数
第十五話 黒騎士の家庭の事情
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015-005

 流石海中を飛ぶ鳥というべきか、海に出てからのハッスル丸はハッスルし通しであった。この忍者ペンギンのおかげで航海中のタンパク源にはまるで困っていない。


「いやー、今日はうまいこと魚の群れを見つけられたでござるからな、いやもう大漁大漁。クェックェックェッ!!」


「流石だぜハッスル丸さん!」


「すげえ! これが忍者の力……!」


「よけりゃあうちで働かねえか!?」


 船員たちの喝采を浴び、胸を反るペンギン。だが表情は相変わらず微動だにしない。この怪鳥とも知り合ってそれなりだが、ここまで生き生きとしているのは今まで見たことがない。

 甲板の上では船員たちが魚を拾い集めて用意してあった生簀の中へと放り込んでいる。じきに料理長が持って行って今日の食事に早変わりする予定だ。そんな中、落ちている魚をつんつんと突く薄紅色の三つ編みの姿があった。セルシアだ。


『セルシア、どうしたのだ?』


「ッ!? な、なんでもないわよ。これ食えるのかなーって思っただけだし」


 セルシアが突いていた魚は八角形をしていた。もっと言うならば鱗のついたごんぶとの八角棒にヒレがついた怪魚であった。前世においてハッカクという八角形の魚がいて美味いというのはゼフィルカイザーもちらりと聞いたことがあるが、間違ってもこんな魚ではあるまい。


「シア姉だったら見ただけでわかるんじゃないですか?」


 ゼフィルカイザーから降りたパトラネリゼが尋ねる。流石に下着姿ではなく、ワンピースに日光避けのローブを羽織った姿だ。この幼女、トメルギアを出る際にあれこれ衣服を貰い受けていた。そのため一行の荷物をまたも圧迫させているが当人はどこ吹く風だ。


「うっさいわね。海のもんとか獲ったことないし、いまいち勘が働かないのよ」


「セルシア殿も海は不慣れでござるか。いや、拙者のお株が奪われずよかったでござるよ」


 ひたひたと歩いてきたペンギンが朗らかに言う。皆、いまだかつてここまで上機嫌なハッスル丸を見たことはなかった。


『ハッスル丸、ご苦労だった。じき食事だろうから待っているといい』


「あ、拙者既に海中でたらふく食ってきたでござるからな。陸の食事が悪いわけではないのでござるが、やはり魚介、それも踊り食いに勝る美味はナシでござるよ」


 野生動物らしく、キャッチアンドイートは基本のようだ。まあそのあたりはセルシアも変わらないのだが。


「非常食、こいつ食えるの?」


「ハッケボーという魚でござる。この具合なら脂がのっていて美味でござるよ」


「ふーん……」


 いつものセルシアなら即座にかぶりつきそうなのだが、つんつんと魚をつつくばかりだ。平坦な顔面がつつかれるたびに身悶えするので正直キモい。そこに、同じく作業を中断して降りてきたアウェルが何気なく声をかけた。


「さばかないのか?」


「へ?」


「や、だからいつもみたいにさばかないのか? こうババーッって」


 避けられているというが、アウェルは特に気負うこともなく普段通り話しかけた。

 パトラネリゼもハッスル丸も、アウェルが妙な言動や仕草をしたようには思えない。だというのにセルシアはバネおこしのごとく直立し即座にのけぞった


「得物がないだけだから!! 別になんでもないから!」


「? 剣ならそこにあるじゃん」


「こ、こいつは機嫌損ねてて言うこと聞かないから! あ、非常食あれなに!?」


「いや、あれは漁網を引き揚げておるんでござるよ。拙者が海中で獲った貝やらなんやら突っ込んでおいたので……」


「よっしゃ手伝ってくる!」


 しどろもどろになりながら弁解し、網を引き揚げる船員たちを見つけるや否や脱兎のごとくそちらへと突っ走っていく。またも避けられたアウェルは落胆するかと思いきや、肩をすくめてゼフィルカイザーの機体をよじ登ってくる。その様子を見てにやにやする者が二名いた。


「あれでござるか。これが噂のツン期という奴でござるか」


「なんですかそれ詳しく」


「忍法、というより心法における分類の一つでござって、まあツンと言っても多種多様な解釈がござってな。結局は状況に当てはめて適切な解釈を用いるほかないのでござるが、この場合だと「頼りないと思ってた弟分がたくましくなってきてお姉ちゃんどうしよう、困っちゃう!」という奴ではござらぬか」


「なるほどなるほど……てかハッスル丸さん、そういうのイケる口なんですか」


「なぁに、拙者も昔は浮名を流したもんでござるよ。しかしアウェル殿も成長したもの、ああして泰然と振る舞えるようになるとは」


「いやエル兄のことですし内心相当焦ってるんじゃないですか? 表に出さないようになったのはそりゃ成長したと思いますけど」


『貴様らは一体何の話をしているんだ……』


 色恋沙汰など異次元の彼方なゼフィルカイザーはげっそりする感じに襲われながらコックピット内に入ってきたアウェルのほうへと意識を向ける。と、首を傾げたアウェルがゼフィルカイザーに声をかけてきた。


「ん? どうかしたのかゼフィルカイザー」


『いや、特に用事があるわけではないのだが……というか、私がそちらに意識を向けたことによく気づいたな』


「まあなんとなくな。んで、調子のほうはどうなんだ?」


『騎士殿との戦いでのダメージは既に修復済みだ。だがお前が全力で動かすとなるとまだ不備があるかと思う』


「無理させて悪い。もう少し手加減するよ」


『いや、そんなことではいざ強敵を前にしたときに後れを取るかもしれん。どうにか私の方も合わせるよう努力する』


 とは言ったものの、ゼフィルカイザーもどうすればいいのか方策が掴めないでいる。


(こりゃ、陸に上がったら本格的に修行パートかなあ。航海中なにごともないといいが……なにかあるもんだからなあ、お約束だし)


 ゼフィルカイザーは己の願いが砕け散ることをほぼ確信しつつ、走り去ったセルシアのほうへとカメラを向ける。大の男数人がかりで引き揚げていた漁網を掴んだ蛮族は背負い投げの要領でその漁網を一本釣りしていた。驚きに目を見張る船員たちだが、一行からすれば慣れたものである。


「セルシアもおとなしくなったなあ。ハッスル丸と一緒に海に飛び込まないとか」


『ああ、なにか違和感を感じると思ったらそれか』


 二人の視線の先、袋状になっていた漁網がなかなかほどけず斬ろうとするセルシアと、慌てて止めに入るハッスル丸。開けられた漁網の中には様々な魚介が詰まっていた。

 まずハッスル丸が言ったとおり貝。色とりどりの貝殻はゼフィルカイザーにも見覚えのあるものから古生代チックなもの、ユークリッド幾何学を無視したような形状のものまで様々だが、この世界の生態系からすれば変な貝殻程度は序の口だろう。むしろあの中にベリエルクガン侯爵が混じっていないかと不安になるゼフィルカイザー。

 それに海藻類。ビビットカラーのワカメやコンブのようなものがあるが、あれははたして食えるのだろうか。セルシアも首を傾げながらピンクに黄色の斑点という明らかに不審な海藻を掴みあげる。


「非常食、これなに?」


「キマダラーという海藻でござる。かような外見でござるがなかなかいいダシが取れるのでござるよ」


「へー……あら、意外といける。肉とも魚とも違う味、新感覚だわ」


 生の海藻を即座に口に放り込み、そのうま味に驚くセルシア。考えてみれば内陸育ちでゼフィルカイザーと出会わなければ海を見ることもなかっただろう少女だ。

 未知の味わいに感銘を受けたのか次の標的に手を伸ばした。


「ねえねえ非常食、これは?」


「ああ、それは――」


 ハッスル丸の視線の先。セルシアの手にはオレンジと白のストライプになった糸状の束が握られていた。そして、その下には首が目を回していた。


「ちょ、セルシア殿それ人間でござるよ!?」


「ん? あ、ほんとだ。ほれよっと」


 海藻の束の中から首の本体を引っ張り出す。上半身はぴっちりと張り付いた肌着、体の起伏からして女だ。下半身も同様の肌着に覆われている。

 何より特徴的なのが足で、すらりと伸びた二本の足は鱗に覆われており、髪同様にオレンジと白の鮮やかなストライプを描いている。そして足の先には水かきがついていた。いわゆる魚人の類だ。


「魚の人か、初めて見るわね。てか非常食、あんたまさか攫ってきたんじゃないでしょうね?」


「んなわけないでござろう。拙者が船から離れているうちに引っかかったのではないでござらんかな。

 しかしうむ、なかなかに見目麗しい。かどわかしてきたかと思われても仕方ないでござるな」


 なにやらハッスル丸のテンションが若干上がっている気がするのだが、これも海の上だからだろうか。


「んー、しかし妙だな。海図どおりならこの辺の海には島ひとつねえはずなんだが」


 甲板の上でぐったりとした女性に船員たちが目を向ける中、白髪の賢者がそそくさと魚人の女性に近づいていく。首に手を当て、次に口元に手をやり、そして顔をひきつらせながら、


「息が止まってらっしゃいます」


 甲板は騒然となった。




「た、助けていただいてなんとお礼を言えばいいか……」


「いやいや、人として当然のこと、当然のことでござるからな」


 息を吹き返して慌てふためいていた女性が落ち着きを取り戻すのに少々の時間を要した。女性の言葉にハッスル丸は謙遜する。

 しかしながら、息が止まっていると知るや否や即座に行動したのがハッスル丸だった。

 その迅速さも当然だ。なにせ状況だけ見たら下手人はどう考えても漁網を設置していたハッスル丸である。

 即座に点穴を突いて気の流れを整え人工呼吸に及ぶさまは惚れ惚れするほどだった。つくづく謎の生物だ。


(漁網に保護動物が引っかかって大騒動という感じだが、しかし)


 人魚というよりは魚人と言ったほうが通りそうな外見、そのカラーリングは熱帯魚を髣髴とさせる。今までの道中も様々な人種を見てきたが、考えてみればこうした水棲系の特徴を持った人間というのはなかなかいなかった気がする。

 回復魔法をかけるパトラネリゼが女性に何気なく尋ねた。


「お姉さんはなんでこんな海のど真ん中にいたんですか? 遭難したとか?」


「ええ、そうなんですよ」


(突っ込まん、突っ込まんぞ!)


 ベタを通り越して伝統芸能の域の受け答えに内心歯ぎしりしながら、ゼフィルカイザーは会話に耳をすます。

「私はカノといいます。メグメル島に住んでいるんですが、ちょっと遠出をしたら島の位置が分からなくなってしまって。その上、魔物に追い回されるわ食べ物がなくてお腹は空くわで」


「それは大変でしたねえ。今からお昼ですけどよかったら」


「あ、大丈夫です。今はお腹いっぱいなんで」


 その言葉に違和感を覚えたパトラネリゼが視線を向けたのは、甲板でのたうちまわっている一匹の魚。カノと名乗った女性の喉に詰まっていたものだ。


「お姉さん、まさか」


 自分よりも年下の少女のジト目に耐えかねて、赤らめた顔をそらすカノ。つまり、空腹のあまり通りがかった船の漁網に侵入して獲物をかっ食らっていたらのどに詰まったと、そういうことなのだろう。


(保護動物かと思ったら漁場荒らしだったでござるの巻……これだからこの世界は……!!)


 ゼフィルカイザーに限らず、周囲の人々がしょうもない、と呆れた顔をする中、カノに優しげに語りかける者があった。白黒の怪鳥だ。


「カノ殿の助けになったのなら幸いでござるよ」


 相変わらず感情の読めない無表情なのだが、口調はやたらと優しげだ。というかいつもよりも声がやや低い。声をかけられたカノはハッスル丸と目を合わせると途端に顔を紅潮させた。


「そ、そう言っていただけると……」


「なに、気にするほどのことではないでござる。美しいお嬢さんの糧となったのなら魚介どもも本望でござろう」


「そんな、美しいだなんて……その、お名前は何とおっしゃるので?」


「ハッスル丸と申す。好きなように呼んでいただければ」


「ハッスル丸、さま……」


 顔を真っ赤にしたカノが、とろけたような視線をハッスル丸に向けている。この間一分足らず。その様を間近で見ていたパトラネリゼなどは人様に見せてはいけない表情をしている。


「あの、カノさん大丈夫ですか? ひょっとしてまだ朦朧としてたりします?」


「大丈夫です。魔法使いさんこそすごい顔してるけど大丈夫?」


「私はいいんですよ私は、それよりその」


「パティ殿。彼女も疲れてござるゆえ、あまりそう問い詰めなさるな。それより船長、できるならば彼女をその故郷へと送っていきたいのでござるが」


 パトラネリゼの突っ込みに強引に割り込み、船長に話を振るハッスル丸。何故だろうか、今のハッスル丸からは妙なやる気が感じられている。


「まあ短い航海じゃねえし、寄港するのはやぶさかじゃねえけどよ。メグメル島っつったか? この辺にんな島あったっけか」


「拙者も名前だけは聞いたことがあるでござる。魔鉱石や魔昌石を産する島で、それ故に場所を秘しておるのだとか。

 カノ殿、誓って狼藉はせぬゆえ、場所を案内していただくことはできまいか」


「いえ、別に秘密にしてるとかそういうわけじゃないし、送っていただけるのはいいんですけど……この船、どこの船なんですか? 見たところ砂の大陸のでも教和国のでもないですよね」


「拙者らはトメルギアから参ったのでござる。ハイラエラを目指しておるところで――むっ?」


 何かに気付いたハッスル丸が即座に頑張を呼び出す。次いでセルシアと船長も何かを警戒するようなそぶりを見せた。

 そして、それに真っ先に気付いたのはマストの上で見張りをしていた船員だった。なにやら大きな影が右舷側から接近してきて、そしてその下を潜り抜けていく。


「船長、デカいです!」


「機関部に伝達、加速用意! テメェら帆をたため、間に合わんなら切り落としてもいい――ッ!?」


 船長が矢継ぎ早に指示を飛ばすが間に合わなかった。船底を潜り抜けた巨影が、左舷側から水柱を上げて姿を現したのだ。その姿は一言で言えば、


『……ゴリラ?』


 サイズはゼフィルカイザーのざっと倍ほど。保護色だろうか、緑の毛皮に覆われた巨大な類人猿の上半身がそこにあった。大きく開いた口からはセイウチもかくやというほどの牙が伸びており、どう見ても温厚な生物には見えない。その巨躯を目にしたパトラネリゼが、即座に声を上げた。


「げ、あれはまさか……ゼフさん!」


『ビームだアウェル!』


「おう!」


 パトラネリゼの声に排除対象と判断したゼフィルカイザーとアウェルの判断は素早かった。

 いかに巨大な船とはいえゼフィルカイザーが取れる動きにも限度がある。故にゼフィルカイザーは左腕を魔物へと向け即座にビームを発射した。

 幸いに粒子は半分近くチャージされている。一発二発は無駄射ちしても問題ない、そう判断してのことだ。

 ビームが当たる直前に起こった水柱が魔物の姿を掻き消すが、フェノメナ粒子のビームの威力は尋常ではない。水壁を蒸発させ、その向こうの魔物を爆砕する、ゼフィルカイザーもアウェルもそう信じて疑わなかったが――水壁の向こうに魔物の姿はなかった。

 潜って避けたのか。そう思ったゼフィルカイザーに、不意に影が差した。何事かと見上げた先に、ゼフィルカイザーは信じられないものを見た。水を跳ねて舞う、巨大な魔物の影を。


「間違いありません――あれは船をも容易く沈める魔物、コングマーメイドです!」


 そこには上半身ゴリラ、下半身クジラの怪物がひねりを加えた背面跳びでマストを跳び超す姿があった。その様にはどこか優雅さすら感じさせる。


(……もうやだこの世界。もうやだこの世界……!)


 かっこいいロボットをもっと見たい。そう志を新たにしたロボットの心は折れかかっていた。

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