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転生機ゼフィルカイザー ~チートロボで異世界転生~  作者: 九垓数
第十五話 黒騎士の家庭の事情
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015-001

 玉座の間には玉座に座るその人を含め、数名の人影があった。ガルデリオンから見て玉座の左側には文官の姿が、右側には武官の姿がある。


「よく戻った、我が騎士――では、報告を聞こうか」


 緋色と紫色の双眸を持つ騎士に問う、どこかキザったらしい声。

 玉座に座る声の主は、ガルデリオンより幾分若い少年だった。どこか愛嬌のある、しかし整った顔立ち。

 白磁のごとき肌に柔らかなプラチナブロンドの美少年である。

 しかしながら発せられる濃密な魔力はガルデリオンをして桁が違うと言わざるを得ない。

 彼の者こそがこの城の主、魔王アルカディオスその人だ。玉座の両隣りには、薄衣を纏った女官がそれぞれ控えている。

 玉座を前にひざまずいたガルデリオンはその紫の双眸を見据えた。


「申し上げます。今回の私の任務、炎の大公国トメルギアの有する大魔動機ヴォルガルーパーの回収、ならびに彼の国に長年の潜伏任務を行っていた火の四天王バイドロットの送還についてですが」


「うむ。肝心の大魔動機はいつごろ到着するのだ?

 いかにエグゼディの空間転移能力と言えど限りはある、大魔動機が伝え聞くほどのものであれば共に跳んでくるのは難しいだろうしな」


 アルカディオスは満足そうな笑みをもってガルデリオンに尋ねた。そこには黒騎士に対する全幅の信頼が感じられる。

 その眼差しを目にしたガルデリオンは一瞬言いよどむが、しかし覚悟を決めて口を開いた。


「恐れながら、陛下。此度の任務は失敗しました」


「――なに?」


 驚きに目を見開くアルカディオス。アルカディオスだけではない。その場にいた者で、一切驚きを示さなかったものはいない。ガルデリオンはしかし、言葉を続けた。


「トメルギアの後継問題やバイドロットが裏切るなど様々な要因はありましたが――すべては、それらを見切ることができなかった私の責任。いかなる処罰も覚悟の上です」


 悲壮な決意でもって罰を求めるガルデリオン。そこに意気揚々と黒騎士を責める声が上がった。

 文官の列の先頭に立つ初老の男。この国の宰相、イーヨウゾだ。嫌味の色を隠そうともせず、ガルデリオンに侮蔑の視線を向ける。


「よく言ったな、黒騎士。裏切り者の子にしては殊勝な心がけよ。ささ、陛下。この者にいかなる罰を――」


「いやいや、黒騎士、それに宰相も、そう話を急くな。過程を聞かずして処罰などできようか」


 黒騎士と宰相の二人を魔王は軽い調子で諌め、詳しい説明を求める。歯噛みするイーヨウゾを尻目にガルデリオンはいくらか安堵しつつ、主の問いに答えた。


「バイドロットめは長年の潜伏任務でトメルギアに根を張っていました。その心は既に魔界になかったようで、魔界への帰還を拒み大魔動機を動かして牙を剥いてきました」


「なんと。父が任命した四天王がそのような裏切りを見せるとは。して、バイドロットはいかがした」


「私が討ち果たしました。そして、ラグナロクもこのとおり回収しました」


 ガルデリオンは懐から焔色の篭手を持ち出した。それを見た魔王は女官に顎で指図してガルデリオンの下へと受け取りにこさせる。

 近くまで寄ってきた女官の薄衣は素肌がほのかに透け、衣の下に何もつけていないことが見て取れた。

 ガルデリオンは努めて目を逸らして気にしないようにしながら、篭手を女官に手渡した。


「ふむ。しかし、最強の四天王機、そして全盛の魔法文明の産物たる大魔動機を討ち果たすとは、さすが黒騎士、魔王軍が最強の騎士よ」


 手にした篭手を弄びながらそう賞賛する魔王に、しかしガルデリオンは否定の言葉を唱えた。


「いえ、確かに私はバイドロットを討ち果たしましたが、大魔動機を倒した者は別にいます。

 完全起動したヴォルガルーパーを、その機体は木偶を蹴散らすがごとく破壊したのです」


「なんだと?」


「魔力の気配をまるで感じない、魔動機とも精霊機とも思えぬ異様な機体でした。乗っていたのも魔力に乏しい人間の少年です。

 ――恥ずかしながら、私も一対一にて後れを取りました」


「バイドロットめは、大魔動機を用いながら人間に倒されたというのか。

 それに、我が騎士と魔王軍最強の魔動機が後れを取っただと」


 魔王の驚きの言葉。そして、それをもう何十年も待っていたというように、武官の先頭に立つ男が一歩進み出た。

 巨大な戦斧を携えた巌のごとき偉丈夫だ。この場に身を置くものとしては最も巨大な体躯の持ち主であり、長身のガルデリオンをしても見上げるほどの巨漢。

 実用性を優先したのであろう飾り気のない鎧はところどころに修繕の後が目立つ。そして、その背を覆っている甲殻は鎧ではなく自前のものだ。幾多の傷が刻まれた甲羅、亀の形質だ。

 さらに本人の禿頭に刻まれた傷も相まって、その姿は歴戦の風格を醸し出している。

 四天王筆頭、C・U・ド・ガンテツ、は見た目の通りの低く渋い声でこう言った。


「バイドロットめがやられたか……」


 それに続くかのように、偉丈夫から一人置いたところに立つ女が進み出た。

 露出度の高い、いわゆるボンテージスーツのごとき衣装を身にまとう女だ。露出した褐色の素肌は衣装に収まりきらず、むっちりとした肉が瑞々しい張りを放っている。

 腰まで届くきらびやかな銀の髪はガルデリオンの鋼を思わせる銀髪とは趣を異にしていた。だが、この場においてこの女が異彩を放っているのはそこではない。

 一つはその目だ。その双眸は魔族特有の紫の瞳ではなく、髪同様の銀色の輝きを湛えている。

 そしてなにより耳だ。長く伸びて先のとがった耳を目にすれば、知るものならば誰もがこう言うだろう。「まるでエルフのようだ」と。

 土の四天王、マートル・グレガリウス。褐色のエルフのごとき女は、妖艶さを感じさせる声で偉丈夫の言葉を引き継いだ。


「バイドロットなどは所詮、四天王の中でも一番の小物」


 そして、二人の間にいた小柄な少女が進み出た。体躯そのものは標準的だが、偉丈夫と褐色の女が共に長身のため小さく見えてしまう。

 セーラーカラーのついた服の上にベージュ色の上着。下半身はニーソックスとチェックのミニスカートという風貌は、この場にはえらく場違いだ。

 亜麻色のショートカットに丸縁の眼鏡をかけた姿は、両横に立つ二人のインパクトも相まって一見地味に映る。

 ルルニィ・ド・ガンテツ。ガンテツの養女であり、風の四天王。こう見えてもガルデリオンより年上だ。

 ルルニィはやはり魔族特有の紫色のジト目でため息を交えながら棒読みで締めくくった。


「人間如きに倒されるとは魔族の面汚しよー」


 玉座の間が沈黙に包まれる。と、しばらくして押し殺したうめき声が聞こえてくる。ガンテツが、涙を流しながら天を仰いでいた。


「四天王結成より幾星霜、よもや、この台詞を言うことができる日が来るたあのう……!!」


「せやせや。あっしらの晴れ姿、姉さまに見てほしかったべ」


 妙になまったカッペ口調で頷いたのは褐色のエルフ風の美女、マートルだ。こちらも目じりに涙を浮かべている。

 ルルニィも表情こそ崩さないものの、楽しげな調子だ。


「アイビっちゃんがいないのが残念だねー」


「三人とも、今公務の場だからな!? あ、いや失礼! 陛下の御前で申し訳ございません!」


 居並ぶ三人、魔王軍四天王へと釘を刺しつつ魔王へ頭を下げるが、見れば当の魔王アルカディオスからして感涙にむせび泣いていた。


「よい。師よ、見ておられますか。四天王の晴れ姿を……!」


 一人裏切って粛清されて晴れ姿も何もないだろう。ガルデリオンは沈痛な面持ちの裏で毒づいていた。

 が、次の瞬間には切り替えて、ガルデリオンの言葉の確認をしてきた。なお、四天王の二人はいまだに滂沱している。


「して黒騎士よ。ヴォルガルーパーは倒されたのか?」


「……は。倒されたというか、破壊……いえ、実質消滅しました。その得体のしれぬ機体の手によって。

 かの大魔動機こそが我らが神の封印の要であるという伝承の確認は、これで不可能に――」


「よい。貴殿はその役目を果たした。見よ」


 魔王が指さしたのは玉座の間の天井だ。ならって上を見上げたガルデリオンの背を冷たい汗が流れた。

 天井一面に描かれた膨大、かつ精緻な魔法陣。無機的な幾何学文様が迷路のごとく走ったかと思えば、魔道において重要視されるシンボルが有機的に描かれている。

 その中心近いところに灯る光が二つあった。だが、ガルデリオンが知る限り、そこには赤、青、黄の三色の輝きが灯っていたはずだ。

 さらに言えばそれら光が灯る場所は本来四か所あり、正方形を成していた。だが今は青と黄の二色が灯るのみ。


「見ての通り、我らが邪神の封印を成す一角がつい昨晩、欠け落ちた。

 恐らくはヴォルガルーパーの破壊が原因だろう。師の推測は正しかった。四大属性を司る大公家が持つ四体の大魔動機こそが、我らが神の封印の要に違いない。

 そして卿の報告からして、解除のためには大魔動機を確保する必要はない。ただ破壊すればいいようだ」


 アルカディオスの満足そうな笑みとは裏腹、ガルデリオンは動揺を表に出さないよう必死で務めていた。

 こうなることは予想通りではある。だが、タイミングが完全に予定外だ。そんなガルデリオンの心中などお構いなしに、魔王は両手を掲げた。


「我らが神の復活、そして我ら魔族による世界征服の日は近い……!」


「「我ら魔族の悲願のために……!!」


 魔王の言葉に合わせ、玉座の間に集う者たちが声をあげた。

 封印された魔族の神たる邪神を牢獄から解き放ち、世界を征服する。それこそが魔王軍が掲げる大願だ。

 だが、ガルデリオンはその合唱に応じることはなかった。


「恐れながら、そう容易くはいかぬかと」


「――なに?」


「我が機体エグゼディの兜を破壊した得体のしれぬ機体。かの機体は、エグゼディの素顔と極めて似た顔をしておりました――即ち、かつて人が崇めし古き神と似た顔を」


「なん、だと……!?」


 ガルデリオンの言葉に玉座の間は騒然となった。

 魔族に伝わる伝説によれば、かつて、世界は魔族の崇める神とその眷属の楽園であったという。人間は邪神の眷属に怯える下等生物に過ぎなかった。

 だが、そこに邪神とは異なる神が現れた。

 その神は、人に知恵と力、なによりも邪神に抗う意志を与えた。人は力を磨き、魔法を手に入れ、国を築き上げた。

 そしてその国は、己らの崇める神の似姿を作り上げたのだ。鋼の骨格と魔鉱石マナニウムの肉、魔晶石マナタイトの心臓を備えた、神の助けとなるべく生み出された、魔力で動く機械人形。その実動初号機。

 それが始まりの魔動機、エグゼディだ。


「くく……そうか。古き神そのものかその御使いかは知らぬが、一筋縄ではいかぬようだな。

 だが、古き神よ。その現身として作られた機体は、魔界最強の英雄の手によって、我ら魔族の力となったのだ。人間如きの神がなにするものぞ……!」


 そう。仰々しく述べはしたが、所詮はただの骨董魔動機に過ぎない。だが、いかなる理由でか魔界に打ち捨てられていたエグゼディに手を加え、己が力としたものがいた。

 邪神を封じられ荒れ果てた魔界を統一した偉大なる王、先代魔王ザンドラスト――その覇業を支えた、人間の娘がいた。

 どこから現れたとも知れぬその娘は、人間でありながら、魔族の誰もが敵わぬ魔力と武芸、この世の物とは思えない知識と美貌、そして、それ以上に皆を惹きつけてやまない何かを備えていた。

 漆黒の魔動機を駆った、魔界最強の英雄。


「――母さん」


 先代黒騎士、レフティナ・トライセル。ガルデリオンの母だ。

 だが、魔王の賛美に横やりを入れる者があった。イーヨウゾだ。


「お待ちを、陛下。あの女は陛下のお父上の仇であらせますぞ。それを讃えるのは――」


 疎ましげにガルデリオンを睨みながら、魔王に忠言するイーヨウゾ。それに、魔王も頷きを返した。


「我が師、レフティナ様が父ザンドラストを殺めたのは、確かに事実だ」


「そうでしょうとも! その子であるこの小僧めも、所詮はその薄汚れた――」


 イーヨウゾの言葉が急に止まった。どころか、その場でもがき苦しみだした。魔王は指の一本すら動かしていない。動かす必要がないのだ。


「おい、しわがれた爺。あの魔界の太陽を、その血を引く余の騎士を愚弄するか?」


「あがっ、ぎ、ひっ、も、もうし、わけ」


「――我らは瘴気の薄い場所では生きてゆけない。であるのに、黒騎士の諫言を意に介さず、人界への侵攻を強行しようとしたのは父だぞ。

 レフティナ様が一番辛かったのだ。それを、忘れるな」


 魔族はいずれも強大な魔力を持つが、しかしそれにも格の差がある。魔王が苛立ちのままに差し向けた魔力は、彼としては睨み付けた程度のものでしかない。

 たったそれだけで、イーヨウゾは呼吸も鼓動もわしづかみにされていた。もしこれが人間だったのならば、それだけで絶命しかねない。

 謁見の間の誰もが、改めてその力に畏怖した。レフティナが唯一恐れた魔族の神童の、その力の片鱗に。

 気が済んだのか、魔王の圧力から解放されたイーヨウゾはその場に崩れ落ちた。見れば白目を剥いて気絶していた。魔王はそれを意に介さず、話を戻す。


「ともあれ、かつての文明も滅び、力衰えた人間はさほどの脅威ではない。だが、我が騎士の言った機体は別だ。何らかの対処をせねばなるまい――我が騎士よ」


「委細承知。水と風の大魔動機が見つからぬ今、あの機体は最優先で対処すべきものと判断します。すべて私にお任せを」


「うむ。卿には苦労をかける。ところで我が騎士よ。先ほどから気になっていたのだがな?」


「はっ」


「卿の後ろにある、その土下座はなんなのだ?」


 ガルデリオンの背後には、みずぼらしい金髪の土下座が鎮座していた。

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