014-006
「――ッ!?」
機体を襲った衝撃にさすがのアウェルも正気に戻った。フラムリューゲルの初撃をゼフィルカイザーが全力で回避したためだ。アウェルは即座に姿勢制御を行い体勢を立て直す。
「悪いゼフィルカイザー」
『本当に悪いわ! あとで説教な!? それと騎士殿、どういうつもりだ!』
ゼフィルカイザーにも余裕がない。強く当たって後は流れで適当に負けてはい終わり、のつもりだったのだ。本気でやりあうつもりなどない。だが。
『私には全力で戦う理由がある。そんだけのことさ』
かつてない真剣みのある言葉と共にフラムリューゲルが突っ込んできた。
最初に現れた細身の姿からすれば、今のフラムリューゲルの装いは重量級と言っていい。ゼフィルカイザーと比しても一回りは大きいのだ。
だというのにその踏み込みは、
「速い!?」
『今までの相手とは違うぞ、アウェル!』
ゼフィルカイザーも慌ててヴァイタルブレードを抜いて応戦する。盾と片手剣というオーソドックスな構成に対し、両手で構えたヴァイタルブレードでその一閃を受け止める。
いかに本来の威力を欠いていると言っても持ち前の頑丈さは失われていない。間近で鍔競り合うが、フラムフェーダーやラグナロクのような暴力的な熱量は感じない。
八百長とは言え、自分が熱いのは嫌なゼフィルカイザーは念のため装甲を耐熱仕様にしておいたが、機体の表面温度は外気と大差ない。そのはずだったのに、
『――ッ、退くぞ!』
「へ、お、うわっ!?」
フラムリューゲルの眼前からゼフィルカイザーの姿が掻き消えた。直前にリリエラは見た。ゼフィルカイザーの各所にある窪みが光を噴いたのを。
バックブーストによる緊急離脱だ。
「なにすんだよゼフィルカイザー!?」
自身の操縦を無視した挙動に文句を言いながら、アウェルは再度フラムリューゲルへと斬りかかる。
その刃が焔色の機体の肩口へと突き立ったが、ゼフィルカイザーの腕には機体を切り裂いた感触も、鋼に刃を食い止められた反動もない。かつて戦った災霊機ジビルエルの時と同じだ。
『覚えておきな。これが真の精霊機、これが真の霊鎧装だよ。
許容限界を超えない限り物理攻撃は一切通さず、魔力による攻撃しか通じない。
そして魔力の及ぶ限りいくらでも修復が効き、さらに機体の属性に応じた攻撃手段としても用いることができるのさ。こうやってね』
『アウェル、いいから刃を引け!』
「え、あ……ってなんだこれ!?」
ゼフィルカイザーの指示に慌てて引き下がるアウェル。
見れば、今まであれだけ酷使しても破損することのなかったヴァイタルブレードの刀身が赤熱し、融けかかっていた。
エグゼディの斬撃は流石に別だ。あれが正真正銘の空間切断ならばいかなる物質も耐えられないだろう。だが。
「フラムフェーダー相手でも持ちこたえたんだぞ、どうしてここまで差が出る!?」
アウェルの言葉の通りだ。フラムリューゲルの放つ熱量は大したものだが、ラグナロクはおろかフラムフェーダーにも及んでいない。
だがフラムフェーダーと切り結ぶことのできたヴァイタルブレードが融解しかかるというのはどういうことなのか。
推理しようにも状況を整理する余裕もない。フラムリューゲルの全身から火線が伸び、ゼフィルカイザーを狙ってきたのだ。
ゼフィルカイザーは慌ててブースターを噴いてその追尾を逃れていく。
『予備動作なしに炎の矢だと……!?』
今までの魔動機は、機道魔法を使用する際には大なり小なり予備動作があった。恐らく魔力のタメか何かだろう。しかし、フラムリューゲルのそれには予備動作が一切ない。
『霊鎧装ってのはただ魔力を固めただけのもんじゃない。精霊機の操者の魂が一体となって形作られる絶対装甲なのさ。そしてそれは、精霊機が持つ魔力の属性を帯びている』
すぐ背後からの声には、教え諭すような響きがある。
同時に、それまで立っていたフラムリューゲルの姿が揺らいで掻き消えた。
(――陽炎!? 幻惑の魔法か何かか!?)
「くそっ……!!」
ゼフィルカイザーの驚愕をよそに、アウェルは振り向きざまの裏拳をフラムリューゲルへと叩き込んだ。左拳がフラムリューゲルの顔面を打つが、やはり物を殴った感触はない。
ジビルエルを相手にしたとき、砂のかたまりでも殴るような感触がしたが、これはそれ以上に不可解だ。接触した感触はあるのに物理的な抵抗は皆無。さらに言えば、拳が感じている熱量も大したものではない。
が。そう思った瞬間、ゼフィルカイザーの手の甲が前触れなく赤熱した。
『――ア、ぎ――?!』
声にならない声。見れば拳を覆う装甲が真っ赤に熱されている。耐熱装甲でなければ内部構造が破壊されていたところだ。
同時に、ゼフィルカイザーは先ほどのリリエラの言葉の意味を真に理解した。
『――グ……!! 距離を取れ、アウェル! 絶対に近づくな!』
「あ、ああ。その、悪い」
ブースターを噴いて一気に距離を空けるゼフィルカイザー。その中で、己の推論を口にした。
『魔力の属性を帯びている――察するに、その機体の霊鎧装は炎の霊鎧装といったところか。
そして、予備動作なしに魔法を発動できる媒体となっていると』
『理解が早いねえ。流石フェーダーを倒しただけのことはある』
「今のは、まさかフラムフェーダーの機道魔法の!?」
フラムフェーダーは己の武器や機体を赤熱させる機道魔法を用いていた。それをこちらにかけた。原理はそうなのだろうが、付与する熱量もその上昇速度も常軌を逸している。
『フェーダーにできてリューにできないことはない。さらにはこういうこともできる』
真正面から紅蓮の騎士が突っ込んでくる。左手はまだ使い物にならない中、右手でヴァイタルブレードを構え相手に備え――その機体が残光と共に視界から消え失せた。
「――え?」
『右だ!』
アウェルが反応しきる前に、ゼフィルカイザーを高熱を伴う横殴りの衝撃が襲った。そこには盾を突き出した形のフラムリューゲル。その右半身の霊鎧装がいくらか削れていた。
だが、ゼフィルカイザーは攻撃を当てた覚えはない。となれば。
『見よう見まねでやってみたけど、こりゃあ便利だね』
『ぐ……ブースト移動を霊鎧装でやったというのか!?』
『ブーストっていうのかい、この移動法は。覚えておくとするよ。
ただ刻まれた機道魔法を使うのみしかできない魔動機とは違う、その場で即席の魔法を組み上げることすら可能。これが本物の精霊機の真価さ』
軽口をたたきながらその剣を閃かせるフラムリューゲルに対してゼフィルカイザーは逃げ回るのみだ。左手は修復中、右腕も今のシールドバッシュでやられた。
リリエラがやったこと自体は単純なことだ。こちらの掌が当たる直前に右半身の霊鎧装を爆発させ、その反作用で機体をスライドさせる。そしてそこから側面へと回り込んだ。
言葉にしてみればそれだけのことだ。だが、アウェルはその急加速に反応できなかった。
ゼフィルカイザーが反応できたのは長年の勘だ。ロボットアクションゲームをやり倒してきたゼフィルカイザーが最も神経を削られた、人類の反応速度の限界に挑んでいるとしか思えない高速戦闘が売りのゲーム。その経験からだ。
とは言え実戦とゲームが違うのもまた真理。現に、ブースターで緊急回避すべきところを反応しきれなかった。
(ああもう、内部の調整がもう少しできていれば)
ゼフィルカイザーは己の不備を嘆く。ブースト機能を強制解放したツケがいまだにぬぐえていない。即ち。
(俺自身がOSの仕事をせにゃならんとは……!!)
ブースト機能を筆頭としたエネルギーの管理、各動作に伴う慣性制御。他諸々、すべてがゼフィルカイザーの手に委ねられているのだ。
当初転生したばかりのゼフィルカイザーにできたのは火器管制の真似事程度だった。
だが、現在は機体の統御のほぼすべてを一任されている形になっている。本来ならそれが正しい姿だろうが、ゼフィルカイザーはそうは思っていなかった。
O-エンジンが最大稼働したときに発覚した、コックピットブロックが機体の各システムとは切り離されているという事実。そこからゼフィルカイザーは一つの推論を導き出した。
ゼフィルカイザーの肉体となっているこの機体は、今までゼフィルカイザーの意志とコックピットブロックにあると思しき統御システム、二つの系統から制御されていた。だから様々な機能制限がかかっていたのだ。
だが、ゼフィルカイザーはブースト機能を用いるためにその制限をかけていた統御システムに無理やり介入した。
その結果、統御システムの受け持っていた部分の管理もゼフィルカイザーに受け渡されてしまったのだろう。
『ほらほら、逃げてばっかりじゃ勝負になんないよ!』
『少しは若者に容赦しろ、このオールドミス!』
余裕のないゼフィルカイザーが最終手段、精神攻撃を持ち出した。今までのリリエラならばこれで落ち込んで攻勢が止まるはずだ。
或いは激昂するやもしれないが、それでも隙はできる。そう踏んだのだが、剣閃は衰えも荒ぶりもしない。
『今更気になるこっちゃないね。
忠を尽くすに足る王の騎士として戦いの場に立つ、兄さんの無念をようやく晴らせるんだ。それからすりゃ嫁き遅れようがなんだろうがどうだっていいことさ!』
かつてベルエルグに乗っていたときとは比べ物にならない。機体性能だけではない、乗り手の心境が挙動に現れている。アウェルもゼフィルカイザーも、目の前にいるリリエラが今までと同一人物とは思えなかった。
初対面で戦った時はこちらの不調もあり苦戦させられた。
二度目に会った時は成り行きから共闘した。
三度目、この城に潜入したときはリリエラの私怨のせいで予定を大幅に狂わされた。
諸事情あってごろつきを率いるハメになっている年増の女性。一行にとってのリリエラとはそういう人物だった。
だが、今は違う。交える刃には信念と覚悟がある。それは今までのリリエラからは感じ得なかったものだ。
『だが、なぜここまでする必要が!?』
『あんたは黙ってな。これは私とアウェル君――ナグラス卿の弟子との戦いだよ』
『ッ!? 恨みはないのではなかったのか!?』
その言葉でリリエラが本気の理由を察したゼフィルカイザーはそう尋ねた。正々堂々の戦いだったのだから、恨みはない。かつてリリエラはそう言っていたのだから。
『恨んじゃいないさ。尊敬してた兄さんを打ち倒したナグラス卿には敬意も恩義もある。だからこそ――その弟子が、こうも腑抜けてるのは腹が立つのさ。行くよ、リュー!』
怒気のこもった声と共にフラムリューゲルが空へと舞いあがる。
詰んだ、ゼフィルカイザーはそう判断した。相手に対空攻撃の手段があるとき、遮蔽物のない中空に舞い上がるのは自殺行為でしかない。かつてのフラムフェーダーのように。
だが現在の自分には相手に確実に通じる武器がない状況だ。それで制空権を取られるのは勝負が決まったも同じ。
そう考えたゼフィルカイザーのカメラアイは、しかしさらなる現象を目撃した。
『精霊形態……!!』
リリエラの一言とともにフラムリューゲルが変化していく。
翼を髣髴とさせたアーマーはそのまま翼にとなり、腰から下が180度回転したと思うと脚が曲がり、脛の部分が下に来る。
そして爪のようだと思った装甲が展開してそのまま猛禽の爪となる。
腰に装着された盾と剣は鳥の尾を思わせ、尖った形状の兜に不死鳥の眼光が灯った。
リリエラはこの姿への変化を精霊形態と呼んでいた。だが、ゼフィルカイザーは真実の響きでもってその現象を世界へと叫んだ。
『変形、だと……!?』
「いや、なんで妙に嬉しそうなんだよ?」
変形。合体と並ぶロボット物の究極のロマンの形。
このとき、ゼフィルカイザーは目の前に迫る危機を忘れた。焔色に輝く鋼の鳳の姿にただ見惚れたのだ。
ゼフィルカイザーだけではない。空を悠々と舞う紅蓮の鳳凰の姿に、公都の民も言い争う宮廷雀も、誰もが見惚れた。
『これこそが全身魔力で具現している精霊機の真骨頂さね……!』
フラムリューゲルが舞いながら炎の羽をまき散らす。
それは地面やゼフィルカイザーに当たると同時に爆裂し、火炎の嵐を巻き起こした。
『く、打つ手なし、か』
ゼフィルカイザーの中にはどこか侮りがあった。トメルギアの最終兵器であったはずのヴォルガルーパーを自分たちは退けた。
ならば公王機といえど何とかなるのではないか、と。だが現実はこれだ。
「ゼフィルカイザー、本当に大丈夫なのか!? お前、まだ完全じゃないんだろ!?」
『それを言うならお前もだろうが、いい加減にシャキっとしろ……!』
火に巻かれながら上空を睨むゼフィルカイザー。己の駆り手を一喝しながらも、内心では己の無様に歯噛みしていた。
ブースターで飛び上がることもできるが、現在の出力では長時間滞空するのは不可能だ。できたとしても滞空に出力を取られて回避動作ができない。
そこまでの動作を行うとなると、ゼフィルカイザーの管理能力を超えてしまう。
(ロボットアニメのロボットがどれだけ超技術の塊なのかって話だわな)
ゼフィルカイザーは今更ながらそんなことを思った。
軍用兵器としてのロボットが出てくるロボットアニメだと、OSなど、システム周りに触れる話も極稀にある。どころか、その機体OSこそが話の根幹になっているようなロボット物も存在する。超技術とは動力や素材に限った話ではないのだ。
人間はどこまで行っても二本の手と二本の足、それらに備わった二十指という縛りからは逃れられない。それらから行われる入力を自動的に判別し、リアルタイムに、かつ適切に機体を動作させるマン・マシーン・インターフェース。
ゼフィルカイザーが暮らした二十一世紀の技術でもまだ実現には程遠い代物だったものだ。
(くっそ、OSを瞬時に書き換えて最適にコーディネイトとかできればいいのに……!!)
そういうことができるロボットアニメの主人公もいたが、ゼフィルカイザーはごく普通の凡夫であった。
己の凡才を嘆くゼフィルカイザーに、上空を舞う炎凰からの通信が届いた。
『これが本物の精霊機。そして、あの晩襲ってきた魔族の精霊機、あれは乗ってたやつがヘボだっただけで、おそらくこの機体より強いわよ』
「それは」
『アウェル君。あなたが戦う目的は、なに?』
「オレは、セルシアに認められたくって。それに、ゼフィルカイザーの力にもなりたくて――」
『嬢ちゃんはこの国じゃあ厄介者扱い。その機体も邪神と戦うって言ってる。
それを踏まえたうえでもう一度聞く。アウェル君。あなたに覚悟はある? それが示せないなら――チャージ!!』
城の周りを周回するフラムリューゲルが次第に爆炎を纏っていく。焔色の鋼の鳥が、文字通りの火の鳥へと変じていく。
その内包する熱量はゼフィルカイザーを焼き尽くして余りある。
『このフラムリューゲルが機道奥義にて燃え尽きなさい……!!』
機道奥義。機道魔法と機体の性能、それに搭乗者の技が一体となって初めて放てるものである。
アウェルはかつてナグラスにそう聞いた。
即ち、機体にもともと備わった能力ではなく編み出すものなのだと。魔動機精霊機を問わず、魔力の多寡も問わず、機道奥義を編み出した者、使いこなした者こそが一流と呼ばれるのだと。
あの黒騎士ガルデリオンのように。
初めて乗った機体で機道奥義を使いこなしているのは一見すれば道理に合わないが、少し考えればわかることだ。
フラムリューゲルのような古くから伝えられてきた機体ならば、機道奥義の術理も共に伝えられてきただろう。そしてリリエラは、それを使いこなすイメージトレーニングをずっと行ってきたのだろう。
それは、この短い間に刃を交えただけでもよくわかる。
フラムリューゲルを駆るリリエラの技の冴えはベルエルグに乗っていた時の比ではない。それは彼女が真に振るうべき力を、そしてその力を振るうに足る理由を得たが故なのだろう。
「それからすれば、オレは」
正直なところ。アウェルはどこか満足してしまっていたのだ。
あの日、セルシアはアウェルに言ってくれた。アウェルは自分よりも強いと。
セルシアに認められるという、アウェル自身の最大の目標は既に達成してしまっていたのだ。
だから次に何をしたらいいのかが分からなくなった。
復興作業に追われているうちはよかったが、暇を持て余すようになると本当に何をやればいいのかが分からなくなった。
認めてくれたとはいうもののセルシアの態度がそれまでと特に変わったということもない。むしろどこかそっけなくなってしまったように感じていた。
以前のようにべったりとしていないのはアウェルにとっては一目置いてくれた証のようで嬉しくもあり、だがどこか寂しくもあった。
だからなのだろうか、降りてきた衝動の赴くままに、あのような石像をこしらえて、
「……盛大に引かれたわけで」
思い返すとまた体の力が抜けてくる。
会心の出来だったという自負もあるが、セルシアはああいうものを喜ぶ性質ではないのはアウェルが一番よく知っていることだ。会心の出来だったけど。
今更ながら、村の中の刺々しい空気を思い出す。
あれを思えばこの一月の忙しい日々は、アウェルの両親が死んでしまって以来の平穏だった。
だけに、アウェルの中でどこか鈍ってしまった部分があったのも事実だった。
「――ゼフィルカイザー。オレは腑抜けてたのか?」
『まあなあ。だが、私とて似たようなものだ』
敵はまだいる。旅はまだ続く。
ここは居心地がよかったが、だが自分たちにとっては安住の地ではない。
否、アウェル達だけならばこの国で仕官して暮らしていくこともできる。だが、この国はセルシアにとっては決して安住の地たりえない。
ならば、アウェルにとってもここは終着点ではないのだ。
「考えてみたら、おっちゃんはあの精霊機に勝ったんだよな。なら、あの技もなんとかしたわけだ。
弟子のオレが負けたら、おっちゃんの顔に泥を塗っちまう」
上空を旋回する炎の鳥は既に元の姿の三倍近い規模になっていた。
それをカメラアイ越しにはっきりととらえるアウェルの目には、確かな戦意が宿っていた。だからだろう、起動可能となったシステムを、ゼフィルカイザーは起動させた。
【O-エンジン セミドライブ】
コックピットのモニターにその一文が表示されると同時、破損部位が修復し、両腕の装甲が展開する。放出される粒子が金色に染まっていく。
『ようやくやる気になったかい。ならばこの一撃、凌いで見せなさい――機道奥義、ブレイズチャージ……!!』
爆炎の鳥が落ちてくる。だが、アウェルは臆していない。そして、ゼフィルカイザーも。
フラムリューゲルの変形シークエンスは、ゼフィルカイザーがこの旅の中で忘れかかっていたものを思い出させてくれた。
そう――ロボットはかっこいいのだ。
(地に足着けるのもそりゃ大事だがな)
そんなことでは、なんのためにロボットのいる世界に転生したのかわからないではないか。この世界にはまだ見ぬロボットが沢山いるのだ。それを拝むまでは足を止めてなどいられない。
『フェノメナ粒子収束、ブレード形成……!!』
「うおおおおおおおッ!!」
合わせた両手から発せられた金色の粒子が刃を形作り、フラムリューゲルを迎撃した。
その身にまとう熱量がバリアを貫き、装甲の耐熱限界を凌駕していく。だが火の鳥も金色の刃にその身を削られていく。そして、
「ブチ抜けエエエエエエエッ!!!!」
気合一閃。黄金の剣閃が炎の鳥を両断した。
金色のフェノメナ粒子はよほど魔力に相性がいいのか、火の鳥はその破壊力をまき散らすことすらなく、金色の光に飲まれ消滅した。
それを、焔の機体とその駆り手は確かに見届けた。かつてこの機体を打ち破った者の弟子の力を。
『認めましょう、その力を』
上空から聞こえた声に、ゼフィルカイザーが慌てて振り向く。
そこには真紅の騎士甲冑姿。霊鎧装を解いたフラムリューゲルの姿があった。その手にした剣は、刃に煌炎を纏わせていた。
「え――?」
驚愕の声を上げるアウェル。一方のゼフィルカイザーはその姿を確認した時点でからくりの正体に気付いていた。あの技はおそらく励起させた霊鎧装を攻撃力としてぶつける技なのだ。
あの火の鳥の中にフラムリューゲルの本体はいなかったということになる。
既に刃を振りかぶり落ちてくるフラムリューゲル。間に合うかどうか、ゼフィルカイザーは回避動作を取ろうとして、
『――――』
通信機からリリエラの声が聞こえた。それがなんだったのかは当人たちしかわからないが――
ゼフィルカイザーを炎の剣が薙ぎ、その機体を炎の渦が包み込んだ。
やがて炎の晴れた後にはトリコロールカラーの華々しさもどこへやら、真っ黒焦げになった残骸が残っていた。
後の講談に曰く。
獅子王イルランドの即位に紛糾する場に参上したハルマハットが遺児、リリエラ・ハルマハットは己の怨恨を捨て、誰よりも先に忠義を誓ったという。
そして、その場を襲撃した偽王女とその配下のナグラス・ブレイゾートの弟子を返り討ちにしたという。
余談だが、偽王女は実はトメルギアの国宝となっている姫勇者の像のモデルとなった人物その人であったという。
王女を騙ったのもこの一件を丸く治めるために悪役を買って出たのだというがこの講談の定番のオチなのだが――あくまでこれは余談である。




